第二章 その十一 初めまして

美玲が目を覚ますと、そこは狭いが小綺麗な一室のベッドだった。一体何が起きたのか、体を起こすと背後から声がかかる。


「うお、早ぇな起きるの。」


驚いて振り返ると身長の低い筋肉質の男が手にフライドチキンを持って立っている。


「誰?」


一気に今日起きた出来事を思い出す。そうだ、自分は男達に、


「流石天才空手美女だなおい、まだ一時間くらいしか経って無いぞ。大丈夫か?」


フライドチキンを嚙りながら背の低い男が訊いてくる。大丈夫なわけ、無い。何となく憶えている。確かこの男はサッカー選手の事を殴っていた男だ。菜月の知り合いだろうか、私を犯す輩の一員だろうか。

でも今は意識もハッキリしている、一対一でこの状況なら勝てる。


(まあ、今更1人くらい倒しても、しょうがないけどね。)


全て手遅れ。しかし殺されなかっただけ良かったのかもしれない。いや、むしろあのまま殺されてた方が幸せだったのか。と、そこで気付いて思わず声に出た。


「あ、・・・アタシ生きてんだ。」


どこでそう気付いたのか既に死んだと諦めていた自分が生きていると理解る。フライドチキンの軟骨の部分も嚙り取りながら背の低い男が驚く。


「当たり前だろ!俺が行って死なせるわけあるかバカ!」


男は口から鶏肉をこぼしながら豪快に笑った。


「大変な目に遭ったな。心配すんな、アンタ『ヤられてねえ』よ。もうちょい遅かったらヤられてたかもしんねぇな、悪い、ギリギリだった。ひゃっはっはっ!!!」


口の周りを脂でテカテカと光らせ笑う男。何者なのだろう。「あ!」とそこで美玲は我に返り自分の姿を見ると、ブカブカのサイズのTシャツと短パン姿だった。


「ああ、それ俺の。ノーパンノーブラなのはごめんな、俺持って無ぇし。あのクソ女のパクって着せても良かったんだけど、嫌だろ?あんなヤツのパンツ履くの。ひゃーはっはっは!!!」


良く笑う男だ。と言う事はこの服はこの男に着させられたのか。しかし美玲はそこに恥ずかしさを感じなかった、それ以上の事をされた後なのだから。


「助けてくれたの?」


美玲がそう訊くと「まあ飲め」とホットココアを手渡しながら男は話し始める。


「熱いぞ、俺が飲もうとして今入れたばっかだからな。・・・助けた、っつうか、助ける、んー、まぁ、助けたんだろうなぁ。」


「・・・どう言う事?」


本当に熱いココアを冷ましながら美玲は聞き返す。そもそもこの男は何者なのだろうか。


「とりあえず、ありがと。ってか、どちら様、なの?」


「とりあえずってなんだよ」と言いながらマグカップにココアを入れる男。


「アンタ気ぃ失ってたから聞いて無かっただろうけどさ、あのクソ女アンタを殺すつもりだったらしいんだわ。そんでその死体の処理・・・ごめんな本人目の前にして死体とかよ。その死体処理を頼まれたクズギャングが俺の嫌いな先輩で。結果ビビったそいつが俺にチクったのさ。ギリギリだよギリギリ。間に合って良かったわ。でも大丈夫!アンタレイプされてねぇよ、確認したし。」


「!!!確認!?か、確認て・・・。」


美玲の言葉に男はマグカップを床に落とした。


「あっぶ!違う違う!アンタの方を確認したんじゃなくてアイツらの方を確認したの!アイツらもう悪い事出来んようにちゃんと『切り取っておいた』から!」


と、冗談めいた事を言い、男はマグカップを拾いながらまた笑っている。本当に良く笑う男だ。『笑う』。


「・・・あ、ひょっとしてあなた、『ドワーフ』、さん?」


10代の頃、空手道場の先輩から噂で聞いた事がある。「喧嘩で言ったらこの街最強なのは『スマイリングドワーフ』だよ」と。身長は160cm足らず、筋肉質で短い手足、そしていつも『笑っている』。


「ひどい通り名だよな、自分でもしょうがねぇとは思うけどよ。でもドワーフって呼ばれるのはハズいから名前で呼んでよ。どうも初めまして、『新屋敷』と申します。」


そう言うと噂のドワーフは笑いながら3杯目のココアを入れ始めた。

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