第5話 地震、雷、(火事)、桃?


 ポッドを転がす算段を考えていたら、空はますます暗くなり、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。雨水を念のためアナライザーで分析したところ中性のただの水だった。これなら大丈夫。


 ポッドを転がすのは後にして、先にポッドの中に入ってしまおうと思い、腰をいったん落として飛び上がり、ハッチのレバーに手をかけてよじ登る。すぐにハッチを開けて中に滑り込みハッチを締め、下のシートの上に跳び降りた。ハッチを締めたので外の雨音も聞こえなくなった。モニターを点けて当たりの様子を見ていたら5分ほどで雨は本降りとなった。


 シャワーにはちょうど良さそうな降り具合だ。さっそくシャワーを浴びるためポッドの中で素早く裸になって、着ていた下着はディスポーザーに投げ入れた。シートから手を伸ばしてハッチのレバーに手をかけハッチを開けると、土砂降りの雨がポッド内にも入ってきたがすぐにハッチから抜け出てハッチを閉め、砂地に跳び下りた。


 今のところ・・・・・体をこするためのスポンジも石鹸も作っていないので手で体中からだじゅうをこすっていく。雨の温度はやや低いのだがかえって気持ちいい。スポンジも石鹸もUS(ユニバーサルシンセサイザー)にセットちゅうもんしておけばこの環境下なら10分もせずに合成されるのだろうが、いまは無くても十分だ。


 そうやって、しばらくシャワーを楽しんでいたら、稲光が空を走り、東の空からゴロゴロと雷の音が鳴り始めた。そろそろポッドに戻った方が良さそうだ。


 また、ポッドに飛び乗ってハッチを開けようとしたところで、グラグラとポッドが揺れた。今のは『地震』? 初めての経験だ。父は何度も経験したことがあるし怖い思いもしたことがあると言っていたが、アギラカナでは地震は起こらないので話を聞いた時は想像するだけだった。今みたいにいきなり足元がぐらぐらと動くと確かに地球にほん人なら恐怖を感じるかも知れない。東には火山もあるので何か地面の下で大きな変化が起こっている可能性も否定できない。まさかとは思うが、火山が爆発するってことはないよな?


 先ほどの揺れで、少しポッドが転がり、ハッチの位置が真上から斜めになってくれた。もう少し転がってくれればよかったがそう都合よく転がるはずもないか。これだけでも幸運だったと思おう。逆にハッチが真下になってしまうと困るので、これ以上転がらないように先ほど切った木を下に突っ込んでおいた方がいいだろう。軽く飛び上がるだけでハッチのレバーに手が届いたので、すぐにハッチを開いてポッドの中に滑り込んだ。


 4人掛けのシートは常に重力方向に対して上向きになるよう調整されているので、ハッチを抜けたらシートがすぐ下にあった。体がびしょ濡れなのでシートもかなり濡れてしまった。


 タオルと新しい下着を備品入れから取り出して、タオルで体をよく拭いたあと、ディスポーザーに投げ入れておいた。こういったものは分解されて不足分の消耗品に生まれ変わる。


 先ほど取り出した新しい下着を着てその上から戦闘服を着、ヘルメットをかぶる。


 モニターでは外の雨は一向に止む気配がないように見える。体もさっぱりしたことだし、先にポッドが転がらないよう木をポッドの下に突っ込んでおこうとハッチを開いて外に出た。今回はかなり楽に外に出ることができた。バックパックと小銃はシートの上に置いて、武器はナイフだけ持っていくことにした。


 ヘルメットをかぶっているせいで、直接視認モードだと雨ががかかると視界が遮られてしまうため、ヘルメットの内側に周囲の映像を写すようにした。これで、雨の影響もなく周囲を見ることができる。


 ジャングルを切り開いた場所まで行けば、ナイフで伐採した木があるのでそれを取りに行こうと歩いていたら、バリバリバリとすごい音がして、30メートルほど先の高木にいきなり雷が落ちた。かなりビックリした。今着ている戦闘服で今の雷を防ぐことができたかどうかは微妙だったかもしれない。


 この落雷でその木は発火したがこの雨の中、すぐに鎮火して煙が出ている。


 気を取り直して先に進み、伐採した10メートルほどの木を一本持ち上げ、枝をナイフで払っていく。長さを3メートルほどにして2本丸太を作った。その2本をポッドの近くまで引きずっていき、1本を力いっぱいポッドの砂に接している部分に突っ込んでやった。


 父が言っていたが、一般的な地球にほん人の身体能力をバイオノイドのそれと比べると圧倒的に劣っているらしい。父は地球にほん人だが、特殊な器官が発達してバイオノイドに近い身体能力を持っていると言っていた。しかも母は父と結ばれるために特別に設計されたバイオノイドだと聞いた。そのおかげで地球にほん人とバイオノイドの混血である私の身体能力は仮想空間での加速上限と言った特殊な場合を除いてバイオノイドと遜色はない。ただ、陸戦隊の連中や攻撃機パイロットたちと比べれば身体能力も反射能力も劣る。こればかりは仕方がない。



 残った1本は裏側に周ってそこからポッドが砂に接している部分に突っ込んでやった。


 完全ではないが、これで先ほどくらいの地震ではポッドは転がらないだろう。


 時計を確認するとすでに現地時間で18時を回っていた。雨雲の関係だけではなく陽も傾いて暗くなってきている。少し空腹も感じ始めたので、ポッドに戻り、バックパックの中に入れていた丸い果物を食べることにした。


 シミュレーションを含めてこれまで野生の食物を口にしたことは無いのだが、バックパックの中から取り出した果物は全く傷んでおらずヘルメットをとって臭いを嗅ぐと、甘酸っぱい、いい匂いがする。期待できそうだ。


 さっそくナイフで切ろうと思ったのだが、何か下に敷いておかないとポッド内が汚れてしまうので、消耗品入れからバスタオルを取り出してシートの上に敷き、その上で父がスイカでやっていたようにナイフで8等分してみた。切った端からピンク色の果汁が下のバスタオルに流れてしみこんでいく。果皮は薄い。


 8分の1でもかなり大きな一切れを両手で持ってかぶりつく。口の両側から果汁が戦闘服にぼたぼたとこぼれてしまった。


 その果物にはスイカとは違い中に黒い種は無かったが、へたの付いた部分の実が硬くなっていてそこがどうも種代わりになるような感じだ。


 果肉は甘酸っぱくてそれなりに歯ごたえもある。父の好きな梨の歯ざわりだが、味は桃に近いような気もする。というか目を瞑って切り取った果肉を食べさせられたらたいていの地球にほん人は桃と答えそうだ。シミュレーション上でここまで味を再現しているということはこの果物の遺伝子情報はアギラカナにあると考えていいだろう。いずれ市販されるに違いない。妙なところで楽しみが増えてしまった。


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