第4話 ラッチとリリカの友情 (後編)

「ただいまー・・・。」

ラッチはよろよろとドアを開けた。

「あら。お帰りなさいませ!ラッチ様!」

複数のメイドが出迎えてくれたがラッチは気にせず、赤色のカーペットを歩く。

メイドの一人がラッチに気まずく「ラッチ様、気分を害しておりますか?」と声をかける。

「そうよ。」ラッチは答えた。頭を抱えると、床に座り込み、下をじっと見つめていた。

「今日ね、とても嫌なことが起きたの。心のすれ違いがあってリリカちゃんとケンカしちゃった。あっちがね、裏切ったとか言って 違うって言っても全然認めてくれなかった。もう最悪だよ・・・!」

ラッチは吐き出すように言うと、うーん うーんとうなりだす。まるで、小さな狼が道に迷っているように見える。

メイド長はため息をつき、ラッチを広いリビングへ連れて行った。パーティー会場も大きく開ける豪華なリビングのメインテーブルにラッチを座らせた。

「あ、あのぅこれは・・・?」

「強制的で申し訳ないのですが、ゆっくりハーブティーを飲んでいただき、今日あったことを話してもらえないでしょうか?ラッチ様は苦しくなられると思いますけど・・・。」メイド長はそう言いながら、ハーブティーをテーブルに置く。長年注いで来たハーブティーはとても美味しく仕上がっている。

小さく波打つハーブティーの色に自分を映した。

「分かった。」ラッチはハーブティーを見つめると、顔を上げた。

(このままじゃダメなの。悩んでいる時間は無いわ!)

「この事はシャムに内緒ね。実は私、

馬君っていう人と付き合っているの!放課後のトイレ掃除がキッカケだったんだけど・・・。」


「なるほど、事故のような展開から恋が始まったわけですね。それにしても、学年一のイケメンさんをラッチ様が手に入れるのは驚きました。」

メイド長の感心した感想にラッチは頷いた。

「でしょう?私もびっくりしたの。初恋がこんなに早く実るなんて思いもしなかったなぁ。」ラッチは笑って答えた。

(白奈ちゃんも狙ってたし、あのリリカちゃんも狙ってたからやっぱり、馬君は人気者なんだな。こうやって話してるとやっぱり、馬君がどれだけスゴイ人なのかが分かってくる・・・。)

「それでラッチ様の友人のリリカさんが聞いて、嫉妬しちゃったんですね。」

「リリカちゃんだけじゃないわ。私のクラスのほとんどの女子だって馬君が好きだったし隣のクラスの女子達だって・・・!」


(なんだか、リリカちゃん達を置いて行っちゃっているみたいに感じる。)


「私って悪い事してるのかなあ。リリカちゃんから言われた通り、裏切ってたんだな。」

「・・・私は詳しく知りませんが、誰のせいでもないと思います。お二人で話し合えば、お互いの気持ちが分かりますよ。」

「そうだね!二人でゆっくり話して、仲良しを取り戻そう!」


全然、眠れなかった。

緊張しすぎてラッチはどうにか睡眠をとろうと思い、枕に顔を突っ込んだり、コロンの匂いを嗅いでみたり、色々試してみたものぐっすり眠れることはなかった。朝になっても、気持ちよく起きる事は無い。

見開いた大きな目を擦り、ベッドから起きたら日差しを浴びようとしても、ただ眩しいだけである。


(こうゆう今日だからこそ、嫌な事が起こるかもしれない・・・。)


校門を抜けると、リリカの背中が半分、見えた。

ラッチが後ろから声を掛けようとすると、リリカの隣に女子の友達が笑顔で話しかけていた。


「あ・・・。」


いつもなら。

登校している時にリリカに背中を叩かれ、

「おっはよー!」と。


「ラッチ!」


と名前を呼ばれ、一緒に行っていた。


だけど今はー・・・。

私は一人で歩いている。


(私は・・・。)


(リリカちゃんがいないと、こうして一人なの・・・?)


「ラッチ‼」

後ろから誰かが

ラッチに声を掛けた。

「馬くん‼・・・おはよう!」

キラキラな笑顔を見せる馬にラッチはため息をつく。

(馬君に相談しずらいんだよね・・・。リリカちゃんの気持ちとか、馬君に言いずらいしなぁ。)

「どうしたの?今日は元気が無いね。」

ギクッとラッチの体が揺れる。

「・・・・。」

「・・・ラッチ?」

「・・・っあのぅ・・・!」


(・・・・・。)


「ラッチ。保健室行く?」

「ううん。大丈夫。」

ラッチは苦笑いして首を振る。ー馬君には心配させたくない。私達の問題だからー。

(でもこのままじゃ馬君と距離をあけることになるかもしれない!)


「うーまーくううううううううん!!」


「わあっ。」

「し、白奈ちゃんっ!?」

ラッチが目を見開いて驚くと馬にくっついている白奈が げっ と眉をひそめる。

「嫌なところに出くわしたわね・・・ラッチちゃん・・・。」

「嫌・・・ではないよ。てゆぅーかぁ!馬君にあまりくっつかないでよーっ!!」

ラッチは馬にデレデレする白奈に叫ぶ。

すると馬はラッチの唇に指を当て、

「ラッチ、もう少し小さい声で言おうか。」

と呟く。


(・・・・・はっ!!気付かれた!?)


ラッチは急いで辺りを見回すと、ほっと胸を撫でおろす。

どうやらそこまでラッチの声は聞こえてなかったよう。

「っち・・・。」

「ええっ!?ちょっと白奈ちゃん!?」

「もう少しでバレるかと思ったのに。タイミング悪すぎでしょ・・・・。」

「ーっ・・・。」

(馬君をそこまで狙ってる理由は何なんだろ・・・・。)


五時間目の体育の授業はミニバレーボールだった。

ラッチのクラスは相当チームワークが悪く、サーブの受け取りが成功するまで何時間もかかるほど、苦戦している。

ラッチのチームも同じく、女子と男子との意見のぶつかり合いが激しい。流石の先生も手を出せない状態で失敗ばかりの結果に皆は酷く落ち込むのだ。


(今日の試合も上手くはいかなさそう。いつも思うけど本当に大丈夫かなあ・・・・。)ラッチは硬いボールをてのひらに転がせながら、そっとため息をつく。

もう分かっている。

大丈夫ではないと。


「ラッチちゃん!おねがぁーい‼」

背後からペアの人の声が聞こえ、振り返る。

「うんっ!」

大丈夫だ、きっと。

今日は勝てるよ!


「一班、15点!二班、14点!勝者は一班!」

ラッチ達は礼の一言を掛け合い、握手した。

勝った、勝った・・・・勝った!

初めて勝利を取った。

「嬉しいなあ!ね!皆・・・・。」

ラッチは興奮して喜ぶが。

「優名、あのサーブは下手すぎ。打つ時だって体勢が崩れてたわよ。」

「お前あの時、なんで守らなかった?判断力が低下してるぞ。」

「行動力が無いアンタに言われたくないんだけど。」


(な、な、何故責めあいが始まるのぉぉ!?)


結局のところ。

あまりチームワークはまとまらない。

(悲しい・・・・。)


ー放課後ー

(今日はショックだった。もう何か嬉しくない・・・・。)

そう思い、ランドセルを背中に負う。

教室を出たとたん、はっと気が付く。

「そうだ!リリカちゃんと仲直りしなくちゃ!」

(リリカちゃんは何処に行ったかな。早く探さなきゃ。)


「あ、リリカちゃん!!」

廊下に立ち止まっていたリリカの背中を見つけ、声を掛ける。リリカは驚いて振り返った。

「ラッチ・・・・・。」

リリカの顔は困惑している。

「リリカちゃん!此処で話していいかな?」

「いいけど・・・・。」

すぅと息を吸って、考えている事をラッチは口に出した。

「隠してごめんね。リリカちゃんに言いそびれちゃって。本当に忘れてたの。後で伝えようとしたのに。結局言い忘れちゃったんだ。だから裏切った訳じゃないの!悪気もないし、わざとでもない!だけどあの時、何も知らないリリカちゃんにカッとしちゃって・・・・。本当にごめんね!」

心の底から声が出た。

一方リリカはそんなラッチに目を見開いていた。

ラッチは悪くない。

ただ勝手に自分が怒ってしまっただけだ。

責任は自分が負おうはずなのに。


何故 ラッチが謝っているのだろうか。


「ラッチ。」

「え?」

「私からも言わせて・・・・。」



「ごめんっ!」



今度はラッチが目を見開いた。

「えっ。」

「本当は私がラッチの事を応援するはずなの。だけど私はそれを気に食わなかった。」

「そんな・・・・・!」

「だから今、言いたいんだ。」


「ラッチ、おめでとう。これからもラッチの恋を応援するから・・・するから・・・・。ずっと親友でいてね・・・・!」

リリカは泣きながらラッチの事を抱きしめた。

「・・・・当たり前だよ!だって親友でしょう?」

そう言いながらもラッチの涙腺るいせんが緩む。


何があっても・・・・

私達はずーっと

親友だ


夕焼けの赤色に染まる二人は手を繋ぎ合いながら喜びの笑みを浮かべていった。












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