第2話

 喪に服している間。母は上機嫌だった。生命保険をあてにしているらしい。

 でも俺は知っている、親父が生命保険に入ったのは3ヶ月前だ。自殺なら出ないだろう。給食費もままならなかったのに……この先どうする。

 とりあえずバイトをすることにした。

 母は今も酒を飲みながらスルメをかじっている。

 明日から登校だ。気が滅入る。

 友達もいない俺は誰にも相談出来ずに布団にくるまった。

 初めて明日が来るのが怖くなった。




 登校してさっそく教育指導の大山に捕まった。

「おい塩崎、大変だったな」

 何が大変なものか。

 焼香一つ上げずによく言えたものだ。

 俺はおざなりの返答をして下駄箱へ急いだ。

 すると手紙が入っていた。

 差出人は不明だが電話番号とメールアドレス。

 それと母親のことが書いてあった。

 心配してる内容ではない。例の給食費はいらないと書いてあった。

 気味が悪くなってすぐに捨てたが、番号だけは頭に入ってしまった。

 授業を一通り消化した俺は日の当たらないウサギ小屋に来ていた。

 スラックスのポケットからタバコを出し、傷だらけのジッポで火を点ける。

 深く吸った。

 これが今できる俺の平安だ。

 二口ほど吸っていた時、足音がした。

 とっさにタバコを踏み消し、ウサギ小屋の影に身を添わせる。

「探したよ塩崎氏」

 胡散臭い野宿部という珍妙極まりないクラブの部長だった。

「君は不良だったのかい」

 いえ、ただの愛煙家です。

 俺はチクられるのを覚悟してそう言った。

「愛煙家か、そいつはいいな」

 またシニカルに笑っている。

「さっそく野宿をしようか」

 いきなりの提案だった。

 その前に聞きたいことがあった。

「なぜ俺なんですか? 他にもいるはずです、その野宿部ってヘンテコな活動に適任な人が」

「君は問題を抱えている。そうだろう?」

「どういう」

「給食費にすら困る有り様というのは噂で知っていた。アナウンスでもあったしね。それに父上の自殺……」

「だからそれと野宿部の入部とどういう」

「野宿で果たして人は幸福になるか、自由になるか、それが僕の親友の夢だった。滑稽だろう、さぞや。でも僕はその夢を受け継いだのさ」

 幸福という概念を俺は考えたことがなかった。

 幸福とはつまり不幸の反対だろう。

 不幸には不自由していない自分にとっての自由か。

 俺にとっての自由とはなんだろう。

 とにかくもう学校には行きたくない。

 かと言って家には居辛い。

 いつからだろう。

 家が居場所として機能しなくなったのは。

 父か母か……それとも遅い反抗期かもしれない。

 俺はうつむきながらタバコを吸うと部長は近づいてきて握手を求めてきた。

 俺は半ば流されるようにヤニ臭い手を差し出す。

 部長は華奢なわりに指がゴツかった。

「ようこそ野宿部へ。さっそく装備を揃えようか」

「でも金なんて無いですよ」

「まだ初夏だよ、必要な補給はハンバーガーショップにある」

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野宿部 ヒロロ✑ @yoshihana_myouzen

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