DAY 39-3

「ウソだ⋯⋯ウソだ⋯⋯」

 魔族たちから次々と明かされる事実に、ベレスは身体を竦ませる事しか出来ませんでした。

「べ、ベレスッ⋯⋯」

 地に伏したまま身動きが取れないアンジェも、血に塗れた顔でベレスを見る事しか出来ません。

 手を伸ばしベレスの姿を必死に掴もうとしますが、正体を明かした魔族たちの一人に踏みつけられてしまいました。

 そして更に痛みに悶えるアンジェを笑い、蔑み始めます。

「さっきからベレスベレスって⋯⋯お前コイツの知り合いか。お前も不幸な奴だなあ、あのゴミと関わらなければ今頃向こうのレグメンティア人と同じように怯えてるだけで済んだのによ。無為に命を散らすのは勿体ねえなあ〜」

 アンジェは苦しみながらも嘲笑う魔族の方へ睨みかかり、向けられた言葉を打ち消すように反抗してみせました。

「おうおう、そりゃ百年前に散々見た顔だ⋯⋯早く殺されたくて仕方ない時にする、レグメンティア人の愚かな行動の一つだ」

「⋯⋯っ!」

「安心しろ、お望み通り一番最初に殺してやるのはお前だ。お前を殺せば、あのゴミの心もポッキリ折れてくれそうだしな」

「アンジェ⋯⋯」

 魔族は迷いなくアンジェの首を掴んでそのまま宙に浮かせると、もう片方の拳に震わせるほど力を込め始めました。


「じゃあさよならだな。せめて血肉ぶち撒けながら逝けや」

「やめろ⋯⋯やめてくれ⋯⋯」

 ベレスは力の無い声で懇願しましたが、それでは魔族の手は止まりません。

 拳はアンジェの腹に向けて放たれました。

 ですが、次の瞬間にはその拳は空を裂くだけで、不発に終わったのです。

 気付けばアンジェの姿も魔族の手から離れていました。

「な、なんだ⋯⋯なにが起こったんだ」

 ベレスを含めて全員が動揺しているとすぐ側からアンジェを抱えた女性の姿と共に、声が聞こえてきました。


「パソンレイズンが滅んでいたので目的もなくウロウロしていたのですが⋯⋯ワタシの行動は結果的に正解だったようですねぇ。ね、考古学者さん?」

 ベレスのいる方へ歩きながらカロンは姿を表しました。アンジェを抱えたまま不敵に笑うカロンは、以前出会った時と違い、姿を布で覆ってはおらず、紫色の髪を風に揺らしながら佇んでいました。

「誰だテメェは!?」

「あらあ〜、歴史の通り野蛮なんですねぇ。ですが君たちは所詮下っ端の枝、今頃姿を表してもワタシには興味ありません。ですので──」

 カロンは魔族の言葉に怯む事なくアンジェをその場に優しく置くと、服の内に隠していた薬瓶を勢いよく展開しながら、さっきまでの掴めないような態度を一変させて、今度は冷徹な表情を浮かべながら魔族に一言囁きました。

「ここで死になさい、邪魔だ」


 カロンの一連の行動は見事に魔族の琴線に触れました。ベレスを抑えていた一人が怒りを爆発させて、カロンに襲いかかりました。

「さっきから部外者が何ほざいてんだ!? ああ!? そんなんでオレらを殺れる訳ねえだろッッ!!」

「馬鹿が。これは──」

 向かってくる魔族を前に悠々と薬瓶の中身を一気に飲み干し「ワタシ専用のアイテムだ」と言い放ちました。

「は!?」

 言い放ったとほぼ同時、カロンの姿は既にそこには無く、主を無くした空の薬瓶が落下を始めました。そしてその薬瓶が落ちる頃には、カロンに襲いかかった魔族は真逆の方向へと吹き飛んでいたのです。

 カロンは魔族が吹き飛ばされた先に待機しており、また違う中身の薬瓶を飲み干すと再び姿を消しました。

 吹き飛ばされた魔族はもう一度反対方向へ吹き飛ばされようとしましたがその反動に耐えられず身体は爆散してしまい、周囲に血と肉を撒き散らして終わりました。

 紫色の雷を全身に纏ったカロンはその散らばった屍の上で姿を表すと、冷徹な表情をしてもう一体の魔族を見つめていました。

 

「やはり所詮は、枝ですね」

 ベレスを抑えつけていたもう一体の魔族も、急接近するカロンの姿を捉える事も出来ず、漏れ出た声と同時に身体は宙を舞って、すぐにまた爆散しました。

 ベレスの目の前で二回風が左右に揺れただけ。そう思える程に一瞬の時間で、二体の魔族はカロンによって排除されました。

 そんな閃光が走ったような光景に、アンジェを掴んでいた魔族は呆然と立ち尽くすしかありません。

 カロンはベレスを守るように目の前へ移動して、向かいにいる魔族に身体を向けていました。


「良い顔するようになりましたねぇ。なあに単なる薬瓶による脚力と腕力の超強化ですよ。そこに魔法元素を組み込ませる事で、あのように閃光の如く俊敏さが実現出来たという事です」

「な、何モンなんだ、お前は⋯⋯」

 魔族は今までの態度とは打って変わって、気弱になってしまっていました。

 カロンはそんな魔族に歩み寄りながら言いました。

「現代を生きるただの魔法使いですよ、ただしワタシは一番の例外ですが⋯⋯。ところで貴方──」

「えっ──」

「それが遺言でよろしいですか?」

 

 魔族の言葉は待たず、カロンは目の前の魔族の顔を地面へ叩きつけました。

 衝撃で土煙が大きく舞い上がり、カロンと顔の無い死体を包み込みます。

「終わりましたよ⋯⋯考古学者さん」

 カロンは一息つくと付けていたゴーグルを外してベレスの方へと振り返り、また笑顔を見せました。


 立て続けに起こった出来事にベレスは言葉を失ったまま、ただただ起こった光景に、息を呑むしか出来ませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る