DAY 39-4

「驚くのは良いですけど、彼女の事は良いんですか?」

 カロンの指の差す場所にアンジェはいました。

 気づくや否やハッとなり、ベレスは急いで駆け寄ろうとしましたが、アンジェの側には既に母親と思われる女性が寄り添っていました。

 そして、遠くから眺めていた町の住民はカロンに向けて一言言い放っていました。

「何してる、もう一人残ってるだろ」

 そうだそうだ、あいつも殺せ、住民はそう主張して止みませんでした。

 カロンは落ち込むベレスを一瞥してから住民に対して口を開きました。

「この魔族に関しては調べる事がありますので、このワタシが責任を持って連れて帰ります。どうか町の方々は安心して下さい」

「いいや! ここで殺すべきだ! そんな奴が生きてたなんて知らせが世界中に知れ渡ったら生きた心地がしない!」

「そうだよ! そのまま生かしておいたら、またいつかわたし達の目の前に姿を表して、皆殺しにするに決まってる!」


 住民の怒りが膨れ上がる一方で、母親に抱えられたアンジェがベレスの方へ手を伸ばしながら必死に囁いていました。

「ベレスは⋯⋯そんな、こと⋯⋯しないよ⋯⋯」

「アンジェッ!」

「止めて! 近付かないで!」

「この野郎! まだアンちゃんを殺す気なんだ! おい! なんでも良いから投げろ! コイツらまとめて追い払うんだよ!」

「ちがうよ⋯⋯ベレスは⋯⋯」

 弱々しいアンジェの声をかき消して、不安と恐怖、怒りに駆られた住民たちは一斉に石や物を投げ始め、カロンごと町に追い出そうとしました。

「魔族が滅びるなら、近くのレグメンティア人も殺したって構わねえよ!」

「平穏無事に暮らす為の必要な犠牲じゃ! そのまま逝ってくれ! 動けないなら括り付けて焼いてしまうんじゃ!」


 あらゆる物が飛び交って、ベレスを拒絶する中、カロンは囁きます。

「ここはもう立ち去るしかないみたいですねぇ⋯⋯アンジェという方はあのまま治療を受ける事でしょう、貴方との関係性は知りませんが、とにかくここから離れますよ、ベレスさん」

 無言のまま顔を伏せて、ベレスはカロンの言う通り町を離れました。


 カロンはベレスの手を掴み、平原をひたすら駆け抜けます。

 魔族と戦った際に使った薬の効果は既に切れていたようでした。


 ベレスは町を離れながら、何も出来ない自分を呪いました。

 結局、こうなってしまう。

 結果、離れて分かれてしまう。


 生きる理由以前に、自分はこの世界の何処にもいちゃいけなかったんだ、と。

 

 メアトを食べた事で成長した自分なら、辿り着ける場所があると思い込んでいた。

 違う、違うんだ。


 そもそもこの世界に私は要らないんだ。

 アンジェだって、私が不幸にしてしまったんだから。

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