第33話 アスランへ

 紫陽月しようづき(6月)7日。時刻は、午時ごじの頃(11時~13時)


 アマルフィ王国王都サントリーニの白亜の王宮内にある王が住む宮殿とは別棟の一棟内にある剣聖団の宿所。所々に大理石が使用されている豪華な広い部屋だ。広い窓からは明るい陽光が射しこむ。

 

 そこに、剣聖アレクセイ・スミナロフの弟子シュヴェスタのエドワード・ヘイレンがドアを乱暴に開け、駆け込んできた。

「マスター、大変っす!」

「アスランのリール・イングレースが消息を絶ちました」

「なんだと、場所はどこだ!」

「ここっすね」

 エドワードが剣聖団特性のペンで空中をノックすると、アレクセイの目の前の空間に地図が浮かび上がった。王都から北方に位置するアスランのもののようだ。

「なんだと」

 アレクセイが、渋い表情を浮かべた。


 剣聖リール・イングレースが消息を絶った場所は、アスラン公都アークロイヤルを指していたのだ。


 アスランに派遣されていたリール・イングレースは、ベテランの剣聖で実力者だった。アスランは、ルーマー帝国に接する要衝に位置するため、リールであれば、と考えアレクセイが軍師レオナルドにこいねがい、彼をわざわざ配置したのだ。リールは、そんじょそこらのドラゴンに殺られるような剣聖ではないのだ。


が、アスランで起きている、ということか」

 そう、アレクセイは、推量かんがえるしかなかった。そして、『エリザベス王女誘拐事件』(第25、26話参照)との関連も・・。

「リールのおっさんは、られるとは思えないっす」

 エドワードも唇を噛む。

「そうだな。アスランに行き、確かめる必要がある」

「そうっすね」

 アレクセイは、自分が直接行くしかないと考えていたが、その間の王都の留守をどうするか思案する。まだ弟子シュヴェスタのエドワードを一人王都に残し、諸事を任せるには不安があった。


 暫らく、沈黙が続いた。

 

 そんな重い空気が漂う中、急に入り口のドアが開いた。


 そして、白いロングコートに身を包んだ長い亜麻色の髪をツインテールに結んだ女性剣聖が、カツカツとヒールブーツの音を高らかに鳴らして入って来た。剣聖としては、身長168cmと小柄だが、コートの下の黒いブラウスがピッチリするほどボリュームとはりのある一際に、男であれば眼が行ってしまいそうだ。

 そして、その女剣聖は、アレクセイのデスクの前にいたエドワード・ヘイレンには目もくれず口を開いた。


「マスター・アレクセイ。システィーナ・ゴールド、サスールのドラゴン討伐完了の報告に参上いたしました。竜滅を!」

 システィーナ・ゴールドは、キリッとした表情で心臓の上辺りに右手を持って行き掌をあてる剣聖団式敬礼をアレクセイにする。

 横でそのシスティーナを見るや、エドワードが、露骨に嫌そうな顔をしていた。

「竜滅を!システィーナ。よく来てくれたね。サスールのドラゴンの方は取り敢えず片が付いたのかな?」

「はい。マスター・スフィーティアの助力の元、サファイア・ドラゴンとクリムゾン・ドラゴンを討伐いたしました」

「それは、吉報だ。よくやってくれたね。そうか。スフィーティアは、行ってくれたか」

「はい。マスター・スフィーティアの助成は、マスター・アレクセイの要請によるものだったのですか?」

「ああ。サスールのドラゴンの脅威は増していたからね。君から報告を受けて、君一人では危ないと思ったんだ。僕が駆けつけたかったけど、丁度こちらでもを抱えていたからね。だから、スフィーティアに僕から依頼したんだよ。余計だったかな?」

「いえ、マスター・スフィーティアがいなければ、正直私はどうなっていたかわかりませんでした。今回の件は、自分に足りないモノが何か知る機会となりました。マスター・スフィーティアの闘いを目の当たりにして、色々勉強になりました」

「うん。スフィーティアにつけば、君のスキルの向上にもつながると思ったよ」

「ふん、スフィーティアの姉御の技をそう簡単に盗めるかよ」

 イライラしていたエドワードが吐き捨てるように口を開いた。


「あ~ら、これはこれは、弟子ミノーレのどこかのおぼっちゃまじゃなーい。正直過ぎて目に入らなかったわ。お~ほっほっほっ」 

「あー!何だと、このおっぱいピチピチチビ!」

「な、な、何ですって!」

 システィーナは、顔を真っ赤にして怒り始めた。

「お前なんか、スフィーティアの姉御に、勝ってるのはそのくそでけえだろうが!」

「むかーッ、ムカつくー!人が気にしてることをよくも言ったわね!あんたなんか、まだ半人前の弟子ミノーレ(※)じゃない。悔しかったら、早くになってみなさいよ!」

「うるせい。俺だって実力があらあ。ただ、マスターが俺を一人前と認めようとしないだけだ」

「もう、ほんとあんたは、おバカさんねえ。それがということじゃない。これじゃ、マスター・アレクセイに認めてもらえないのも当然ね!」

「何だと!」

「何よ!」

 システィーナとエドワードが、お互い眉間に皺を寄せて睨み合う。


※剣聖の弟子のことをシュヴェスタ又はミノーレと言うが、ミノーレの方がやや侮蔑的に使われるようだ。



「エリザベス様、何も直々に行かなくても私に命じていただければ」

「よいのです。アレクセイには、先日の件のお礼も申し上げたいし」

 そんな会話をしながら、エリザベス王女と侍女のサラ・スチュアートがアレクセイの宿所兼事務所を訪ねようとしていた。


ドガシャシャーンッ!


 エリザベス女王と侍女が、アレクセイの宿所のドアに近づくと、突然、入り口のドアががぶち壊され、エドワードが目の前に飛んできて、壁に激突した。


「ウグっ!」

 エドワードが落下する。

「エ、エドワード?」


「このおっぱいチビ!女だからと思って手加減してれば、つけあがりやがって!」

 そう言うとエドワードは、反撃のため部屋に駆けこむ。

「おっぱいチビ・・」

 エリザベス王女は、日頃聞きなれない品の無い言葉を口ずさみ、恥ずかしくなる。


 ドッカーン!


 しかし、今度は、もっと勢いよくエドワードが吹き飛ばされて来て、壁に激突してめり込んだ。そして、ズリズリと落ちた。エドワードは、意識を失ったようだ。



「こっちも本気なんて出してないわよ。馬鹿ばっかじゃないの!」

 中から少女のような可愛い女の声が聞こえて来た。

「エ、エドワード、大丈夫ですか?」

 エリザベス王女が、慌ててエドワードを助け起こすが白目を剝いていた。

「エドワード、しっかりして!」


「マスター・アレクセイ~。御褒美にシスティーナにをしてください~」

 少女が甘えるような声で言うのが聞こえてきた。

「ふう、またかい?」

「だあって~。マスター・アレクセイにして欲しいんです~。マスター・アレクセイのが、その・・、気持ちいいんですもの~」

「いいよ。近くに来てごらん」

 アレクセイが優しい声で言うのが聞こえて来た。

「ハ~イ!」


(え?何?って?、気持ちいい?いけません、そんなこと!アレクセイ!)

 エリザベス王女の心の声だ。


 ゴンッ!

「痛て!」 


 エリザベス王女が、急に立ち上がったため、エドワードは床に頭を強打し、目を覚ました。

 エリザベス王女が慌てて部屋に入ると、ハッとして、手を口に当てた。


 アレクセイが、システィーナの頭を撫でていたのだ。それも、優しい視線を少女に向け、少女も頬を朱に染めトロンとした表情をしていた。


 アレクセイが、エリザベス王女に気づき、システィーナを押した。

「システィーナ、控えろ。アマルフィ王国のエリザベス王女殿下が参られた」

 システィーナは、機敏に動き、エリザベス王女の前に跪いた。先程までの浮ついた表情は無く、平静に戻っている。

「お初にお目にかかります。エリザベス王女殿下。私は、剣聖システィーナ・ゴールドと申します。お近づきなれまして光栄です」

 システィーナが、顔を上げた。

(何と可愛らしい方でしょう。でも、さっきのは?アレクセイは、このような方がお好きなのでしょうか?そして、まあ、なんてなのかしら)

「剣聖システィーナ様。よく王都にお越しいただきました。どうかアマルフィにお力添をお願いします」

「ハッ!」 



「王女、どうされましたか?殿下自らわざわざこのような場所にお越しになられるとは。お召し頂ければ参りましたのに。それと、お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした」

 アレクセイが立ち上がり、頭を下げた。

「いえ、アレクセイ。王よりあなたに是非依頼したいことがあるとのことです。それを伝えに参りました」

「国王陛下が私に?何でしょうか?」

「王より直接お言葉がありましょう。私と一緒に来ていただけますか?」

「分かりました。参りましょう」

 そう言うと、アレクセイとエリザベス王女が部屋を出る。システィーナは、会釈してそれを見送る。

「エドワード、いつまで通路で寝ているつもりだ。邪魔であろう。それと、壊した扉は直しておけよ」

 アレクセイが、エドワードの前で立ち止まり言う。

「痛ててて・・。何だよ!壊したのは、あの暴力女システィーナじゃねえか!」

「お前が、未熟だからだ」

「エドワード、大丈夫ですか?」

 エリザベス王女が、屈んで優しく言う。

「ううっ。王女はお優しいなあ。どっかの暴力女とは、偉い違いだ」

 エドワードが、立ち上がるとシスティーナの方を向いて言った。

「もう一度、吹き飛ばされたいのかしら?」

「ふん、何度もやられると思うなよ!」

「お前達、これ以上王宮ここを荒らすような真似は、許さんぞ。やるなら、王都の外に行ってやれ」

 アレクセイにそう言われると、二人は、黙るしかなかった。

「ふん!」

 システィーナとエドワードお互いそっぽを向いた。



「うふふ、賑やかですのね?」

 回廊を歩きながら、エリザベス王女が話し始めた。

「困ったものです。あの二人は昔から馬が合わないというか、犬猿の仲なんです。お互い歳が近いからライバル心が強いんですよ」

「そうなんですか?二人にして、大丈夫なのですか?」

「二人ともまだ未熟ですが、自分たちのことをわきまえていいます。ご心配はいりません。多分・・・」



 二人は、王宮最上階のアントニウス王の私室に入った。ティルピッツ左大臣とザイドリッツ右大臣もそこにはいた。

「国王陛下。アレクセイ・スミナロフ。思し召しにより参上いたしました」

「アレクセイ、かしこまらなくても良い。今日は、どうしても貴公に依頼したいことがあってエリザベスを使った。訊いてくれるか?」

「はい、何なりと」

「グリッツよ、頼む」

「はい。では、私の方から説明を」

 宰相の一人であるグリッツ・フォン・ザイドリッツ右大臣が王に会釈をして、話し始めた。

「スミナロフ殿、先般の王女誘拐事件にアスラン公が関係していたことは、貴殿も承知していると思う。アスラン公は王の兄君であり王に継ぐ実権をお持ちの方だ。ドラゴンが各地に出現し、ルーマー帝国が国境での動きを活発化させている今、国内において内紛を起すわけにはいかない。アスラン公であるウイリアム様の真意を探る必要があると我々は結論を出した。そこで貴殿への陛下からの依頼だ。エリザベス王女殿下と私は、秘かにアスランへ向かい、アスラン公ウイリアム様にお会いし真意を伺うことにした。貴殿には、それに護衛として同行してもらいたい。これは、極秘のため、出発は明朝夜明け前となろう」

「今、アスランに向かうことは危険であると考えます。まして、エリザベス王女殿下自ら乗り込むなど、敵の渦中に飛び込むようなもの。何があるかわかりません。お止めになられた方がよろしいかと思料いたします」

「おお!貴殿もそう思うか!」

 ザイドリッツ右大臣は、気が進まなかったのだろう。嬉々として同調した。

「それは、承知しておる。余もエリザベスを危険な目に合わせるのは本意ではない。それでも、今国内で争いを起している時ではないのじゃ。兄であるアスラン公の真意を探ることが先決なのだ。余は、兄の意向であれば、兄に王位を譲ることも辞さないと考えている。また、兄はエリザベスを買っておる。エリザベスこれにであれば、兄も真意を伝えようぞ」

 アントニウス王は、エリザベスに慈愛の視線を向けていた。

「陛下の御覚悟の程、このアレクセイ・スミナロフ重々承知いたしました。陛下、今回のアスラン行きに関して条件を付してもよろしいでしょうか?」

 ザイドリッツ右大臣は、「え、やはり受けちゃうの」と残念そうに下を向いた。余程行きたくないのだろう。


「貴公が、受けてくれるのであれば、どのような条件でも飲もう。どのようなことであろうか?」

「アナスターシャ・グイーン卿は現在西の戦線に赴いております。そう遠からず、よい結果をお持ちになり、急ぎ帰還されましょう。グイーン卿は、エリザベス王女が王都にいないとわかれば、王女を追いアスランに向かわれようとされるはず」

「そうもあろうな」

「これを許可しないで頂きたいのです」

「・・・・」

「エリザベス王女殿下とザイドリッツ閣下は、必ず私が無事に王都までお戻しします。正直申し上げますと、エリザベス様のアスラン行きには反対です。私は、アスランでは、良からぬことが起きていると考えています。エリザベス様がそれに巻き込まれることを危惧しております。私のこの懸念が徒労に終われば良いのですが・・。グイーン卿には、是非アスランへ備え、守りを固めて頂くのがよろしいかと」

 

 アレクセイは、剣聖リール・イングレースが行方不明になっていることは話さなかった。

「貴公は、アスランとの戦闘は避けられないと申すか?」

「可能性は排除できませんので、備えは肝心かと。王都を守るための備えは、グイーン卿程の適任者はおられますまい」

「陛下、ここは、スミナロフ殿の助言に従うべきかと思います」

 ティルピッツ左大臣がここで初めて口を開いた。

「うむ。わかった。アナスターシャが戻ったら、アスランにいつでも進攻できるよう備えさせるとしよう」

「よろしくお願いいたします。それと、私の部下二名を王都に残して行きます。何かあれば、こちらから伝えさせましょう」


 これで、会議は終了、ザイドリッツ右大臣がアレクセイの所にやって来た。

「スミナロフ殿。よろしく頼む」

「はい、お任せください」

「もし貴殿の言う通り、不測の事態になった際は、何よりも王女殿下を王都まで無事に送り届けて欲しい。私も覚悟はできておる。殿下のために、命を賭す覚悟がな」

 ザイドリッツ右大臣から先ほどまでの憂鬱な表情は消え、男の覚悟をした眼をしていた。

「嫌です!そのような事を言わないでください。グリッツ卿、私はあなただけ置いて逃げるような真似はしませんわ」

「殿下、何と言うありがたいお言葉を。このザイドリッツ、命を賭して殿下の盾となりましょう」

「ですから、死んではダメです。許しませんよ!」

「殿下・・」

 ザイドリッツ右大臣の眼が潤み始める。

「お二人とも、ご安心ください。私がお二人を必ず、王都までお連れしますので。私は、こう見えてものですから」

 そう言うと、アレクセイは、エリザベス王女にウインクして合図を送った。

「はい」

 エリザベス王女も頷いた。



 アレクセイとエリザベス王女は、王の私室を出ると、暫く沈黙のまま歩いていた。そして、王宮本館の出口の所までやって来ると、エリザベス王女が口を開いた。

「アレクセイ、またあなたを頼ることになってしまい、申し訳ありません」

 エリザベス王女は、心底からそう思っていた。

「エリザベス。お気になさらずに。私との約束を覚えていますか?」

「はい。あなたが私の騎士ナイトとなると・・・」

 エリザベス王女は、ほんのり頬が赤くなる。

「はい。あなたの騎士ナイトはどこにいてもあなたをお守りしますよ」

 そう言うと、アレクセイは、跪き、エリザベス王女の右手を取り、甲にキスをした。

 そして、その手にを握らせた。

「今回のアスラン行は、厳しいものになるかもしれません。それは、肌身離さずお持ちください」



「ウギャーッ!」

 エドワードが、物凄い勢いでこっちに走って来るのが見えた。

「待ちなさい!絶対に許さないんだからー!」

 そして、システィーナが、その後を追ってきた。エドワードがアレクセイの後ろに隠れた。

「お前達、何をやってるんだ?ここは、王宮の中だぞ」

 ため息交じりにアレクセイが言う。

「こいつが、私のんです!」

 システィーナが叫ぶように言った。


「え?エドワード、お前。ついに・・」

 アレクセイが呆れた顔でエドワードを見る。

「違ーーーう!あれは、不可抗力だっつうの!マスターに言われて、壊れたドアを取りつけて直すために脚立に乗ってたら、バランスを崩して、落ちた弾みじゃねえか。誰がそんなに興味を持つかよ!」

「ムキ~ッ!人の胸を触っておきながら、その言いぐさ。絶対許せない!」

 システィーナは、真っ赤な顔で怒り心頭だ。

「エドワード。お前が悪い。システィーナに謝れ。」

「マスターまで、こいつの肩を持つのかよ!」

「うふっ、うふふふふ」

 ここで、エリザベス王女が急に笑い出した。

 3人がエリザベス王女を見る。

「あ、すいません。あまりにおかしいんですもの。でも、女性の胸を触るのは、どんな理由があっても、いけませんから、エドワードが謝るべきですね」

「エリザベス王女まで・・・。ううう、クソっ。わかったっすよ!謝ればいいんすね。謝れば!」

 そう言うと、エドワードが、システィーナの前に進み出た。

「その、俺が悪かった。一応謝ってやるよ」

 エドワードは、頭も下げずに、頭に手をやり顔を背けながら言った。

「何よ、それ!謝罪する態度じゃないじゃない!ちゃんと頭を下げなさいよね!」

 システィーナが、蔑みの眼をエドワードに向け、両手を腰に当て胸を張って言う。

「く、この・・。くぬぬ・・。悪かった・・・」

 エドワードは、歯を食いしばりながら、少し頭を下げた。

「何よそれ。全然、頭が下がってないじゃない。誠意が感じられないわ」

「あ、もう!俺が悪かった。ごめんなさ、うぐっ!」


 ムギュッ・・・

 

 エドワードは、やけくそになったのか、思いっきり腰の辺りから角度をつけて頭を下げると、システィーナのに顔を埋めてしまっていた。


「う、苦しい」

「な、な、な、な・・・。何なのよ!あんたは!」

 システィーナが、顔を真っ赤にして絶叫する。


「馬鹿野郎、お前が謝れって言うから・・」

「殺す、絶対殺してやるわ!」

 システィーナが腰のレイピアを抜いた。

「うわ、よせっ!」

 エドワードが慌てて逃げ出した。それをシスティーナが剣を振りながら追いかける。

「待てーーーーーーーーっ!」

「うわーーーーーーーーっ!」


「はあ。あの2人を残して行くのが不安になりました」

 アレクセイが、頭が痛いというように手を額に当てる。

「うふふふ、でも、賑やかで楽しいのではありませんか?」

 エリザベス王女は、楽しそうに笑っている。



 翌朝夜明け前。まだ人通りもない時間。

 王宮の門を黒い馬車が静かに出て行った。

 エリザベス王女とザイドリッツ右大臣、それに剣聖アレクセイ・スミナロフが乗った馬車だ。馬も黒毛で御者も黒ずくめの燕尾服で夜陰に紛れ、静かに走っていく。途中の衛兵などにも、止められることもなく、王都サントリーニを後にした。

 

 そして、街道を暫く走って行くと、途中でその馬車は視界から消えた。


                                (つづく)

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