第32話 戦勝に沸く領都(まち)

 それから、数日が経過した紫陽月しようづき(6月)11日。

 

 西のボン戦線からの吉報を心待ちにしていた領都カラムンドに朗報が飛び込んできた。

 アナスターシャ・グイーンを筆頭とするテンプル騎士団とカラミーア軍が、ボン平原の戦いでガラマーン軍の大軍を打ち破り、国境都市ボンを奪還したのだ。(※第29話参照)


 この報せは、伯爵の居城だけでなく、領都まち中に瞬く間に広まり、戦勝を知らせる鐘が高らかに領都まち中に鳴り響き、市民を大いに沸かせた。

「アマルフィ王国万歳!カラミーア伯爵万歳!」

「アマルフィの戦乙女ヴァルキュリアアナスターシャ様に乾杯!」

「何を!カラミーアに襲来したドラゴンを討伐した剣聖スフィーティア様を忘れるな!」

「アナスターシャ様だ!」

「嫌、スフィーティア様の方がすごいぞ!」

「どちらでもよい。両者で祝盃じゃ!」

 カラムンドの街の賑わいは、どんどん加熱していく。



 しかし、その翌日、残念な報せが、カラムンドの城に届いた。

「グイーン卿は、領都に立ち寄らず、王都サントリーニに直行するとのことです」

 モニカが、早馬の伝文を見てカラミーア伯に告げた。

「何と!勝利の立役者であるアナスターシャ殿がカラムンドに来ないのか?戦勝会の報せを送ったはずだが」

「何でも、王都のエリザベス王女殿下を剣聖からお救いするため、一刻も早く王都に戻ると、書いてありますね」

「不埒な剣聖とな?はて?それは、誰じゃ?」

「王都には、確かアレクセイ・スミナロフ殿という剣聖が滞在していいます。アマルフィでドラゴン討伐の指揮を取られているとか。この方でしょうか?」

「うーむ、エリザベス王女は、まだ若く浮名も訊かんがな」

「アレクセイ殿は、かなりの美男子で非常に王都の女性からの人気が高いと訊きますから、やはりこの方なのでしょう」

「何と!それは羨ましい。領都ここ女子おなごは、つれないからのう」

「伯爵!」

 モニカの眉が吊り上がった。伯爵の頭の中は、色んな女の事でいっぱいなようだ。表情がだらしなく緩んでいる。



「もう、カポーテ様ときたら、他の女のことばかり」

「どうしました?」

 城の回廊をモニカがぼやきながら歩いていると、後ろから凛とした声がした。

「スフィーティア。あ、いえ、丁度あなたの所へ向かう予定でした。これを」

 モニカは、長い紫色のローブの袖から手紙を差し出した。

「これは?」

「訊き及んでいると思いますが、ガラマーン軍を撃ち破り国境都市ボン奪還が成りました。これで、カラミーアから蛮族の脅威を取り除くことに成功しました。また、スフィーティア。あなたの活躍により領内のドラゴンの脅威も沈静化しています」

 城の外から人々の賑わいの声が響いて来る。

「あの通り領庫からの補助もあり街中が祝勝ムードです。城内でも戦勝祝賀会が夕刻より行われます。残念ながら、主役のアナスターシャは、王都への帰還を急ぐため、不参加ですが、もう一人の主役であるあなたには、ご出席をお願いします」

「折角のお誘いですが、私はパーティーみたいなものが苦手なので、辞・・」

「お願いします!」

 モニカが全部を言わせず、スフィーティアに迫る。

「あ、いや、でも・・」

「あなたがいないと、私が伯爵に叱られてしまいますので、是非!」

「あ、と。わかりました」

 スフィーティアは、モニカの気に圧され、渋々了承した。

「では、戦勝会の準備が整いましたら、迎えに来ますから。それまで、部屋で休んでいてください」

「ああ・・」

「では、また後ほど」

 モニカは、微笑を残し去って行った。一方のスフィーティアは、憂鬱な表情でモニカを見送っていた。



 夕刻になり、自室としてあてがわれた部屋の扉を開け、スフィーティアが部屋に入ると、部屋には灯りが付いておらず、暗かった。スフィーティアは、窓辺で外を見ているエリーシアを見つけた。


 エリーシアは、泣いていたのだろうか。顔を袖で拭ってから、スフィーティアの側にやってきた。エリーシアは、かわいらしい上品な薄青いドレスに着替えていた。戦勝会用に着替えを用意してくれたようだ。

「お帰りなさい」

「ああ。ただいま。着替えたのか」

「モニカさんが、用意してくれたの」

「そうか、似合っているよ」

「えへへへ」

 スフィーティアは、エリーシアの頭を撫でた。


 エリーシアは、窓辺に戻る。

「外はスゴイ賑やかで楽しそうなのよ」

 街のほうから喧騒が聞こえてくるが、城の壁で街の様子は見えない。

「そうだな」

「本当に楽しそう・・」

 スフィーティアは、エリーシアの行きたそうな様子を見て、決めた。

「少し街の様子を見に行ってみるか」

「え?でもお城のパーティーがあるんでしょ?」

「すぐに戻って来るさ。さあ、行くぞ。掴まれ」

「え、キャーッ!」


 スフィーティアは、エリーシアを抱えると、バルコニーに出てジャンプすると一気に城壁の上まで達した。

「すごい人だな。賑やかなわけだ」

 エリーシアは、スフィーティアに抱えられながら、城壁の上から眼下に見える街の通りに人々がごった返している様子を見て灰色の目を輝かせた。

「うわー!みんな楽しそう。広場にお店がいっぱい出てるよ」

「市場だろう」

「わたし、こんなにいっぱいの人を見るの初めて!」

「そうか。よし、降りるぞ」

 スフィーティアは、エリーシアを抱えたまま城壁から飛びたった。

「え、うそー!キャーッ!」

 スフィーティアは、一気に城壁の周りの堀や街路を超え、街の中の近くの家の屋根に降り立った。二人は、家々の屋根を歩き、人通りが無い所を確認して街路に降りた。


「ちょっと待ってくれ」

 スフィーティアは、フード付きの白いマントに頭から身を包んだ。背には青地で竜の紋様が刻まれていた。

「わたしだとばれると面倒だからな。さあ、行こう」

「うん」

 スフィーティアは、エリーシアの手を取って、広場の方に歩き出した。



 スフィーティアとエリーシアが街中に繰り出してから30分ほど経過後、モニカがスフィーティアの部屋にやってきた。モニカはドアをノックするが、応答がない。

「スフィーティア、エリーシアちゃん。パーティーの用意が整いましたので行きましょう」

 モニカがドアを開けると、部屋は真っ暗で誰もいない。丸いテーブルに書置きがしてあった。


『親愛なるモニカへ、少し街の様子を見てきます。すぐに戻りますので、御心配なく。 スフィーティア』


「まあ、あの人ったら。街が騒ぎになるわね。こうしてはいられないわ」

 モニカは、部屋を急ぎ出て行った。



 スフィーティアとエリーシアは、市場が出ている広場まで来た。人でいっぱいだ。

「ボン戦役の勝利万歳!戦乙女アナスターシャ様に万歳!」

「ドラゴン討伐万歳!剣聖スフィーティア様万歳!」

「おおー!」

「我らの勝利の女神に感謝の杯を!」

「おおー!」

 

 領都まちは、戦の勝利の報で沸き立っていた。人々は、さながらお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。城からも飲み物や食べ物が振る舞われたようで、交換所に行けば、無料で飲食にもありつけた。

「すごい人!みんな楽しそう!」

「そうだな」

「そこの可愛いお嬢ちゃん。こっちにおいでよ」

「え?」

 エリーシアは、後ろを振り向いた。出店のおばさんが声をかけてきたのだ。

 煮詰めた赤いリンゴの周りに水飴を纏わせた甘酸っぱいお菓子を売っているお店のようだ。

「はいよ」

 おばさんは、笑顔でリンゴ飴を差し出している。エリーシアが、近寄った。

「うわー、おいしそう!」

「どうぞ、お食べよ」

 エリーシアは、スフィーティアの方を振り向いた。

「いただきなさい。おばさん、おいくらかな」

 エリーシアは、目を輝かせてリンゴ飴を受け取った。

「お金なんかいらないよ。今日は、この通り戦勝のお祝いだからね。伯爵様に申し出れば代金は頂けるんだよ。おまけにリザブ村のドラゴンを討伐してくださった剣聖様が領都にいるんだ。もうお祭りだよ」

「そうですか、ありがとう」

 スフィーティアは、ばれないようにと顔を隠した。

 エリーシアは、リンゴ飴にかぶりついた。

「スフィーティア、これ、美味しいよ!」

「スフィーティア?はてどこかで聞いたような名前だね?」

「ああ、いや。おばさん、ありがとう。さあ、お礼を言いなさい」

「ありがとう」

 スフィーティアは、エリーシアの手を取って、人気の少ない所に移動した。

「こら、人前で私の名前を呼んだらダメだろう。ばれたらどうするんだ」

「えへへへ」

「まあ、いい。もう少し見てみるか。お腹も空いただろう。どこかで何か食べよう」

「うん」

 エリーシアは、満面の笑顔で答えた。

 二人は、また人混みの中に入って行った。



 その頃城では、戦勝会の準備も整い、主賓であるスフィーティアを待っていた。カラミーア伯も席についていた。スフィーティアの席はその横に設けられていた。所どころで小声の話し声が漏れていたが、カラミーア伯がムスッと黙っているので、張り詰めた空気が漂っていた。


 そこにモニカが、静かに入ってきた。

 モニカは、その場にいた出席者からの視線を感じつつも、気にした風もなくカラミーア伯の傍まで歩み寄った。すると、カラミーア伯が口を開いた。

「軍師、スフィーティア殿を迎えに行ったのではなかったのか?スフィーティア殿はどうしたのだ?」

「はい」

 モニカは身をかがめ、カラミーア伯に小声で耳打ちした。

「それが、体調が悪いようで、パーティーは、体調が戻り次第参加するとのことでした」

 モニカは、スフィーティアをかばうため、その場を取り繕おうとした。

「そうか。先ほど廊下で見かけた時は、元気そうであったがな」

「いえ、急に熱が出てきたようでして・・・」

「何!それは、いかんな。すぐに医者を使わそう」

「あ、いえ、そこまでは、必要ないかと。寝れば治るんじゃないかなあ、と」

「ふむ、そうか」

 カラミーア伯はしばし考える風であったが、立ち上がり口を開いた。

「皆の者よ。残念ながら我らが英雄スフィーティア殿は、体調が悪いらしい。部屋で休んでおるようだ。体調が良くなれば、参加していただけよう。主役抜きにはなってしまうが、大いにこの戦勝を祝おうではないか!」


 その場にいた列席者が一斉に立ち上がった。

「おー!」

「では、皆の者よ。さかずきを持てー!」

 出席者皆がグラスを持った。

「ボン奪還の立役者グイーン卿とドラゴンの討伐者剣聖スフィーティア殿。カラミーアを救った二人の英雄に。かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「さあ、大いに飲み楽しんでくれ。わっはっはっはー!」

 カラミーア伯は杯を一気に飲み干すと、列席者に向かって言った。


「悪いが、ちと用事を思い出したので、席を外すが、皆は大いに楽しんでくれ。では」

 そう言い残すと、カラミーア伯は席を立ち、列席者が立ち上がり敬礼する中、部屋を出て行った。その後をモニカが続いた。

「モニカよ、スフィーティア殿が体調不良とは嘘であろう?」

 モニカは、ギクっとした。

「お主は、嘘が下手だからな。すぐわかるわ。で、実際のところどうなのだ?」

「はい、実はどうも街に出たようでして。書置きがありました。すぐ戻るとはありましたが・・」

「街でばれたら、大変であろう。すぐに迎えをやったらどうだ?」

「すでに、部下を捜索に向かわせました」

「手際がいいな」


 二人は、カラミーア伯の執務室に入った。そこには、一人の男が席に座り、黙々と書類に目を通していた。

 カラミーア伯は、自分の席に座り、横の席で書類に目を通している男に声をかけた。

「グレン大臣、宴会に顔を出さぬのか?」

「ああいう場は、好きになれませぬ」

 声をかけられたグレン・ハザフォードは気のない返事をした。

「そうか。ちょうどいい。民衆への振舞いをせねばならん。城の食物や酒を街の住民たちに振る舞ってくれ」

「すでに手配してあります。こちらの戦勝祝賀会に合わせて、民衆にも酒や料理を振る舞っております」

「ふん、二人とも、手際が良すぎるわい」

 カラミーア伯は、顔をしかめたが、内心では頼りになる部下に安堵しているようだ。

「ところで、二人に相談なのだが・・」



 スフィーティアとエリーシアは、街の広場にほど近いレストラン『ウナメラ・ロッサ』にいた。リーゾナブルな値段でカラミーアの郷土料理をなんでも振る舞ってくれる有名店のようだ。

 この日は、お祭り騒ぎで、屋外のテラス席は、いっぱいになり、盛り上がっていたが、中は席が空いていた。二人は店内の奥の席に腰かけた。すぐに店の女将と思われる中年女性が注文を取りに来た。このお店の女将ソノさんは、街ではお節介焼きで有名な人だ。

「何にしますかね?」

「女将さん、ここのお勧め料理をくれないか」

「あいよ。お客さんは、カラミーアは初めてかね?」

「そうですね」

「そうかい。では、とっておきのを出すよ」

 ソノさんは調理場の窓口まで行き、料理を伝えた。しばらくするとそのソノさんが料理を運んできた。

「はい、どうぞ。この店自慢の『羊肉と郷土野菜の甘辛スープ』だよ。ちょっと辛いからね。気を付けな。今日はお祭りだからね。サービスしといたよ。」

「ありがとう。美味しそうだな、これは。さあ、食べよう」

「・・・」

 エリーシアが、その赤い煮込み料理をジーッと見ていたが、その眼から次第に涙が零れ落ちてきた。

「エリーシア?」

「このお料理ね、お母さんの得意料理だったのよ。とっても美味しかったの」

 エリーシア声は、涙でむせんでいた。

 ドラゴンの襲撃により死亡した養母エレノア・アシュレイを思い出したのだろう。

 それにソノさんが気づいた。

「おや、お嬢ちゃん。口に合わないかい。ごめんよ。ちょっと辛いかねえ。何か他の料理を出そうかね」

「あ、ごめんなさい、おばさん。これ、お母さんの得意料理だったの。私この料理好きだから」

 エリーシアは、食べ始めた。

「うん、美味しい。おばさん、すごく美味しいよ」

 エリーシアは、涙を流しながらも、懸命にスプーンとフォークを口に運ぶ。

「おやおや、何があったかわからないけど、可愛い顔が台無しだよ。それに、料理は、笑顔で食べた方が美味しいのさ」

 女将さんが、エリーシアの涙をハンカチで拭いてあげた。それを見ていたスフィーティアも料理に箸をつけた。

「どれどれ、私もいただくかな。うん、これは、美味しいな。甘辛いスープが絶妙だ」

 その時、白いマントのフードが後ろに下がってしまい、スフィーティアの顔と豪奢な金髪が露わになった。女将さんがスフィーティアの顔を見て口を開いた。

「あれ、あんたどこかで会ったような・・。あ!あんたは、剣聖スフィー・・」

 スフィーティアが、立ち上がり、女将さんの口を塞いだ。

「お前、どうした?」

 奥から主人のゲンさんが出てきた。

「あ、あんたは、剣聖のスフィーティアさんじゃないかね」

「何?何だって?」

 外からその声を聞きつけたお客が入ってきた。


「ご主人、お代はここに置いておくから。御馳走さま。エリーシア行くぞ」

 スフィーティアはエリーシアの手を取り、立ち去ろうとしたが、遅かった。店の出口を聞きつけた客に塞がれた。

「わー、本当に剣聖のスフィーティア様だぞ!スッゲ美人だ!」

「何々?本当かよ」

 店の中に外の人たちが一斉に入って来た。スフィーティアとエリーシアは、店の奥に逃げた。

「こらー、誰が店に入っていいって言ったか!客じゃない奴らは出て行きな!」

「なんだよ、親父。ここにスフィーティア様がいるんだろ!独り占めする気かよ!」

「そんなお偉いさんはおらんよ。城にいるに決まっておろう」

 店のゲンさんが立ちはだかった。ゲンさんはソノさんに目配せすると、ソノさんは頷いた。

 ソノさんは店の奥に逃げたスフィーティア等を裏口に案内した。

「済まないね。せっかく食べに来てくれたのにね、騒ぎにしちゃって」

「いえ、こちらこそ、騒ぎに巻き込んでしまって申し訳ない」

「おばさん、料理美味しかったよ」

「そうかい、また来ておくれよ。待ってるからね」

「うん」

 エリーシアは、元気に答えた。

「スフィーティアさん、ドラゴンをやっつけて、カラミーアを守っておくれね」

「はい」

 スフィーティアは、キッパリと答えた。

「さあ、早くお行きなさい。いつまでも外の連中を止めておけないからね」

「ありがとう。では!」

 スフィーティアは、会釈をしてエリーシアの手を取り、裏口から外に出た。

 店の入口では、店主のゲンさんが外の人々を止めていたが、ついに突破された。店に人々が流れ込んで来た。

「なんだい、あんたたちは」

「おソノさんよ、ここに剣聖スフィーティア様がいたんだろ。どこだよ」

「そんなお偉いさんがこんなところに来るわけないだろう。気のせいだよ。さあさあ、さっさと来た方向に帰りな」

「隠すのか。どけ」

 何人かが、裏口から外に出て確認したが、そこには誰もいなかった。

「あれ?」

「・・・」

「だから言っただろう。誰もいやしないよ。客じゃないなら、とっとと出て行きな。衛兵を呼ぶよ!」

「まあまあ、ソノさんよ、今日は無礼講ということで」

「うるさい!さっさと出て行きな!」

「うわー!」

 おソノさんの剣幕に、慌てて男たちは店から出て行った。

 そして、裏口の扉が閉じられた。

 

 スフィーティアとエリーシアは、店の屋根の上にいた。

「ふー、危なかったな」

「うん。ソノさんのおかげで助かったね。ふふふ」

「エリーシア、お前は楽しそうだな」

「うん」

「そうか、良かった。危険を冒した甲斐があったな。でも、そろそろ戻ろう。もう 城のパーティーは、終わっていそうだな。モニカにおこ・・」

「私が、なんですか?」

「げ!モニカ!」

「どうして、ここに!」

「探してたんですよ。部屋の書置きを見て。騒ぎを訊きつけて、もしやと思いましたが、やはり、いましたね」

「よく屋根の上だとわかったな?」

「まあ、領都城下の建物は密集していますからね。屋根伝いに行けば大体何処にでも行けます。見つからずに行くのなら屋根か下水道ですので、あなたなら、屋根かと思いました。スフィーティア」

「さすが、カラミーアの軍師殿だ」

「エヘン・・。ではなくて!勝手に城を出ては困りますよ。あなたは、賓客であり、カラミーアを救った英雄なのですから」

「わかった、わかったから」

「でも、エリーシアちゃんは楽しめたのかな?」

「うん」

 スフィーティアの横のエリーシアが元気よく答えた。


「うん?なんか屋根から何か聞こえてこないか?」

「そうだな・・」

 スフィーティア等がいた建物の近くの人たちが気づいたようだ。スフィーティア達は身を屈めた。小声でモニカが言った。

「早くこの場を離れて城に戻りますよ」

「わかった」

 3人は、静かに屋根を伝って城壁の方に移動していった。



 エリーシア・アシュレイは、この日久しぶりにぐっすりと安らかに眠れた。自分が背負った運命が変わることは無いが、過酷な現実を前にして張り詰めていた心の緊張の糸をほんの一瞬だけ緩めることが出来たのだろう。


 そして、領都の戦勝を祝う住民等によるお祭り騒ぎは、夜通し続いたのだった。


 しかし、それはの平和でしかなかったということを、すぐに知ることになるのだ。

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