第31話 聖魔騎士シン・セイ・ラムザ

 ここは、聖魔道教国(団)ワルキューレの首都キョウにある教皇王の宮殿ラヴァン・オー・シュタットだ。その玉座の間で一人の若い聖魔騎士が教皇王クリサリス・ホープ・ワルキュリアの前に跪いていた。


猊下げいか。シン・セイ・ラムザ、思し召しにより参上しました」


 背が高く細身で黒髪ショートヘアの端正な顔立ちの若者だ。聖魔騎士の白と金刺繍の正装の上に白いマントで身を包む。このマントの背には、聖魔道教団が崇拝する聖神オーディンが描かれている。

「よくぞ参った。神の手ゴッドハンドの使い手シン・セイ・ラムザ。貴公に重要な任務を与える」

 そう言うとクリサリス教皇王は、横に侍していた白生地に金の刺繍が施された聖魔騎士の正装に身を包んだ長身の男の顔を玉座から見上げた。金髪ロン毛オールバックで色白の男は、見た目と同様に固そうな声音で一字一句淀みなく読み上げた。


「シン・セイ・ラムザに命じる。至急アマルフィ王国領カラミーアに向かい、マリー・ノエル皇女殿下のを保護し、皇都までお連れすること」

「御意」

「騎士団の調査によると、ご息女は、カラミーア領都カラムンドにほど近いリザブ村におられることが判明した。先ずは、この村付近の調査を行い、行方を確認せよ。なお、極秘任務のため、アマルフィ王国側に察知されないよう行動すること。また、アマルフィ王国では、ドラゴンの動きが活発化している。剣聖団も行動しているとのことだ。こちらの動きも注視せよ」


 この男は、聖魔道教国ワルキューレが誇る聖魔騎士団の団長イーリアス・ラッティージョ・カラマタだ。金髪オールバックのロン毛に聖魔騎士の正装が似合うのはこの男位だろう。


「シンよ。お主の力は、もう師であるアトス・ラ・フェール(※)に匹敵しよう。アトス亡き今朕はお主にすがるしかないのじゃ。頼んだぞ。マリー・ノエルの行方が分からぬ今、孫だけが朕の希望じゃ。どうか孫の顔を拝ませてくれよ」

 クリサリス教皇王が、訴えるようにお言葉を述べる。最後の方の声はか細い。

「猊下の勿体なき御言葉。シン・セイ・ラムザ、教皇王様の心中に報いるため、全力を注ぎましょう」



(※)アトス・ラ・フェールについては、筆者の『剣聖の物語 剣聖スフィーティア・エリス・クライ 』に主要キャラとして登場しています。こちらをご確認ください。同じくカクヨムで公開しています。



 イーリアスとシンは、宮殿を後にし、聖魔騎士団本部の騎士団長室にいた。

「これが、ご息女の今のお姿だ。8歳になられていよう。御名をエリーシア・アシュレイ様と名乗られているらしい」

 シンは、騎士団長のデスクに置かれた紙片を取り、描かれた少女の姿を確認した。

 これは、写真のように念写されたもので、魔法を介して紙片に見たイメージを写すものだ。

『アーツ・アンカイト』という魔法で聖魔騎士や聖魔道士は大抵習得している。


 少し遠くからの画像で分かりづらい。銀髪の髪の長い少女であることは確認できるが、顔立ちまではわからない。

「この画像では、お顔まではわからないが、マリー・ノエル様に似ておられるように思う。それに、マリー・ノエル様の魔力を記憶したお前であれば、エリーシア様の存在に気づけるだろう」

「はい、お任せを」

「それと、ドラゴンだ。エリーシア様が狙われている可能性がある。カラミーアでは剣聖も動いている。ドラゴンへの対処は彼らに任せれば良いが、エリーシア様が襲われることがあれば、盾となり、お救いしなければならない。が使えるお前が選ばれた理由を忘れるな」

「肝に銘じております」 

「暗黒魔道教団が、また絡んでくるかもしれん。奴らは我々の妨害しかせんからな。竜を崇拝し、暗黒竜を復活させようと暗躍する連中だ。絡んできたら容赦する必要はない。後悔させてやれ」

 シンは、右腕を胸に当てる聖魔騎士流の敬礼をする。

「シン・セイ・ラムザ、聖神オーディンの加護の元、エリーシア様を必ずお連れいたしましょう」

「では、行け!貴公に聖神オーディンの加護あらん」

 

 シンは、颯爽と騎士団長室を後にした。その涼やかな表情に決意の色がにじみ出ていた。


 シン・セイ・ラムザ。

 聖魔道教国ワルキューレが誇る聖魔騎士団において中核となる嚆矢こうし騎士が1騎の男だ。年齢はまだ20歳と若年ながら、騎士団の中でも近年2名しか輩出されなかったプリンシパルの一人だ。

 プリンシパルとは、神聖魔法神の手ゴッドハンドの使い手で実力もトップである聖魔騎士の称号だ。もう一人は、シンの師匠パドローネであったアトス・ラ・フェールであるが、故人となっている。


 この若者も、この『剣聖の物語』を鮮やかに彩って行く人物の一人となろう。

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