第20話

『――総当り戦を楽しんだ皆様方! まだお帰りにならないでください! 本日は特別ゲストが招かれていますので! これから英雄達によるセレモニーが行われます!』


 という、やたらテンションが高めな実況者の声が拡散されている。


『なんと先日、ゴブリンキングを倒して英雄になったばかりの『聖霊の聖域』弓師ハルト様と『輝剣の担い手』剣聖センラ様が対決します! 英雄の力を十分に発揮して模擬戦をするため、賢者様と聖女様が結界を張って行います! では、英雄の方々に登場して頂きましょう!』


 実況者がそこまで言うと、待機していた運営の方に招かれて進む。


 ついでに渡されたのは腕輪型の魔導具だ。致命傷を食らうと強制転移されるもので腕に巻き付ける。


 俺は観客に見守られながら進み、本選と同じく一段高い石畳へ上がった。


 反対側から剣士の出で立ちをした者がやってくる。


 歓声が沸く。センラの登場で観客が異常なほど熱狂していた。


「よう、逃げねえで来たことは褒めてやるぞ?」


 そんなことを真っ先に言ってきたのは赤髪の男。特注の服装で華々しい格好をしていて、剣を腰に差している。


 名はセンラ・ルーエン。


 英雄に選ばれ、剣聖と言われている男。


 見た目も良く、実績のある英雄だ。七英雄の中でも知名度は高く、ファンクラブなんてものも存在している。


 こいつはいつも自信を顔に張り付け、爽やかな笑みを浮かべているが、内面が真っ黒なことを知る者は少ない。


「……勝つのは俺だ」


 肩に乗せたままのフェリも張り切っている。


「ふ、はははっ! 無能が誰と戦って、誰に勝つって? ……本気で言ってんのか?」


「ああ。俺が勝たせてもらう」


 同じ言葉を吐いた。何度でも言おう。負けられない戦いなんだ。


「くははっ、笑っちまうよ。英雄に選ばれたからって調子に乗るなんてな。お前は無能だ。何の取り柄もなく、魔力もない。学園で散々分かってたんじゃねえのか?」


「そうだな。俺は魔力もなくて成績は最下位だった。だけど、今はフェリが居る」


「んっ」


 肩に乗っているフェリのアホ毛を撫でると気持ち良さそうに目を細めている。


「はっ、その妖精もどきで勝つってか? 雑魚でお似合いのクソ弱そうな魔物だ。英雄の力で契約したんだろうが、オレ様が殺してやるよ。泣いて許しを請うのもいいが、既に機会は過ぎてんだよなぁ」


 嗜虐に満ち溢れた顔をしながら、センラが嗤う。


「フェリのことばかにして、ハルトのこともばかにする。ゆるさない」


 プンプンと怒っているフェリをどうにか宥めつつ、センラの発言に疑問が浮かぶ。


 剣聖の目にはフェリが弱く見えているのだろうか。姿形は妖精だが、『聖霊の聖域』の称号で分かる通り、間違いなく聖霊なのだが。


「――結界を張りますわ。あなたも力を貸してくださいな」


「……」


 遅れて闘技場にやってきた賢者エレオノーラと聖女リシアが審判の横にやってきて、両手を前に出して魔法を展開していく。


 半透明の結界が闘技場を覆う。


 結界だ。英雄の力を使うため、観客に被害が及ばないためのものだろう。


「こちらは準備できましてよ」


 賢者エレオノーラの言葉に審判が頷き、実況者や解説者が居る席へ目配せした。


 意図を受け取った実況者がセレモニーの内容を観客達に伝え、英雄の力たるものを存分に発揮した戦いが行われるとテンション高めに話す。


 それが終わるや審判が俺とセンラを見て、試合開始を告げた。


「――では、試合始めッ!」


 試合開始の合図と共に、俺はフェリの意識を介して精霊を集めた。


 王都周辺の全ての精霊だ。


 俺の眼には空が青く染まっているのが視える。


「おい、無能。先手は譲ってやる。お前の弓矢なんて叩き落としてやるからよ」


 こちらを舐め腐っているセンラは剣を抜かず、そんなことを宣ってきた。


 早めに来られたときの対処も既に準備済みだったのだが、拍子抜けしながら俺は言葉に甘えて弓を構えた。


「……後悔するなよ」


 右手で一本の弓矢を引き抜き、矢に番える。


 弦に弓矢を当てがったまま狙いを定め、限界まで引き絞る。


 同時に、凝固化した精霊達を結界内へ敷き詰めつつ、精霊を弓矢へ纏わりつかせた。


 どうやら、この結界は内側から外側に行くものに反応するようで、精霊達はすんなりと入り込めている。


 もし、結界の中に精霊が入れなかった場合は壊して入らせていたが、手間が省けて良かった。


 先手を譲ると言ったセンラへ、矢尻を向けた俺は左肩を狙う。


 一手目から戦闘不能にさせるつもりだ。これで、センラが持つ魔導具が起動するか分からないが、尚も戦うというなら本気で潰す。


 この一撃はゴブリンキングですら反応出来なかったものより、更に初速が早い。


 検証したが、精霊が弓矢に纏って自動で動くよりも、俺が射るほうが威力も速度も何倍も高いのだ。 


「そんなじっくり狙っても当たらねえよ。雑魚が早くしねえと、最初で最後のチャンスを無くすぞ?」


「……なら射つぞ。出来るのなら、ちゃんと避けるか、弾けよ」


 俺は忠告しつつ、弓矢を離そうとしたとき――。


「こいつ、きらい。しねばいいのに」


 肩に乗っているフェリが、弓矢の棒部分に触れて狙いを僅かに左上へ向けた。


 それは、センラの眉間に照準が合っていた。


「お、おいッ、フェリそれは――」


 慌てて、無理やり軌道を変える。


 一撃死は魔導具が起動しない可能性もある。俺は剣聖を殺したいぐらいの憎しみは持っているが、殺そうとはしていない。


 しかも、公の場で剣聖が死んだら俺が罪に問われる。


 放たれた弓矢は無音で飛び、俺が咄嗟に動かしたおかげもあってセンラの頬を掠めた。


 一筋の線が走り、センラの左頬から血が流れる。


 そして、弓矢は結界に当たり、甲高い音を響かせて唸りを上げた。


 キィイイン、という耳障りな音が響き渡り、弓矢がぶち当たって結界にヒビが走る。


「……あ?」


 センラが頬の違和感に気付き、触れると自身の血が流れていることを認識した。放たれた弓矢と俺を交互に眺め、呆然と立ち尽くしている。


 俺はフェリを軽く叱りつつ、殺すことはダメだと言いつけた。


「むー!」


 怒りが収まらないのか、むくれているフェリ。アホ毛を何度も撫でる。


「リシアッ! もっと魔力を込めなさいッ! 壊されますわよ!?」


「――チッ」


 賢者と聖女が結界に魔力を送っている。


 数秒間、弓矢が結界に突き刺さったまま回転し、ヒビ割れ状態を膨らませていたのだが、結界が徐々に修復されていく。


 弓矢が小さな音を立てて地面に落ちた。


「結界って、そんなに強度がないのか……?」


 俺はぼそりと呟いた。


 一本だけの弓矢でこれだ。


 英雄が二人がかりで創った結界なのだが、俺が思っていたよりも脆いらしい。


 結界魔法は聖女が得意なはずだが、やる気無さそうにしている。その分、賢者が魔力操作をしているようで、冷や汗をかいていた。


「……結界の強度がないですって!? どの口がおっしゃいますの!? わたくしの結界はドラゴンのブレスですら防ぐものですわ! それに、今回は聖女リシアも居ますの! あなたの弓矢の威力がおかしいんですわよッ!」


 賢者が怒っている。結界が脆いわけではないらしい。というか、聞こえていたのか。


 賢者にはあとで謝ろう。


 でも、謁見の間でどういうやり取りがあったのか分かっているはずだからな。ここで手を弛めることはしない。


「なんなんだ、これは。無能がやったのか……?」


 センラが驚愕している。


「ああ、そうだ。舐めてると痛い目をみるぞ?」


 軽口を返す。すぐに舌打ちが返ってきた。


「……許さねえ。てめえ、オレ様を傷つけたな? 無能ごときが許さねえぞッ。輝剣よ、オレ様に力を寄越せ!」


 センラが腰から剣を抜く。光輝く剣だ。


 やっと、やる気になったようで。


 俺も本気を出そう。


「フェリ、全力でやろう」


「ん! あいつ、なぶる」


 フェリには後でちゃんとした教育をしなければと考えつつ、力を貸してもらう。


 筒の中にある弓矢を全てばら蒔き、精霊を付与していく。


 地面に落ちる前に空中に浮き上がり、弓矢が等間隔に並ぶ。


 精霊の視点が脳内に浮かび上がり、約六十個の景色が頭に鮮明に映えている。こめかみが痛くなった。


 おおっという声が観客席から聞こえるが、俺は頭痛に悩ませられながらも左手をセンラへ向け、言霊を紡ごうとする。


 しかし、その前に危機を察した剣聖センラは距離を詰めようとした。弓矢が並んだ光景は先程のこともあって恐怖を感じるのだろう。


 身体強化をして一瞬で間合いに入ろうとする。だが――。


「ひざまずけ」


 フェリの言葉によって、凝縮された魔力の塊がセンラの頭上から襲った。


 フェリとの特訓の成果の一つ。


 物質化した透明な魔力の塊が壁となり、センラを地面へ縫い付ける。


 距離を詰めるために前屈みになっていたセンラは地面に亀裂が走るほどの衝撃を受け、勢いのまま五体投地した。


「――なんだよッ、これはッ!?」


 俺のように魔力を視ることができないセンラにとって、訳が分からない状況だろう。


 地面にへばりついたセンラが怒鳴り声を上げるが、一向に立ち上がれそうにない。


 聖霊のフェリが操る魔力の障壁だ。あらゆるものを凌駕し、跪かせる。


「――貫け」


 そこへ、俺は無情にも半分ほどの弓矢を射出した。


 矢尻が向くと、センラの瞳が恐怖に染まる。


 弓矢が両手両足に刺さろうとして――これで致命傷だ。


 魔導具が発動し、センラは転移される。


 俺の勝利だ。


「っ、がぁぁああッ!?」


 と、勝ちを確信していたら、センラに弓矢が刺さり、血が吹き出した。肉に深く突き刺さった弓矢が文字通り、地面へ縫い付けてしまう。


 観客の数割が目を背け、俺は結果に焦る。


 会場の騒がしかった観客席の声がピタリと止んで、静まり返っていた。


「なんでだ? 魔導具が起動してないぞ……?」


「……殺してやるッ! てめえのこと、絶対に許さねえッ! さっさと、これを退けろッ! ぶっ殺してやるッ!」


 喚いているセンラを無視して、俺は賢者に話しかけた。


「どうして魔導具が反応してないんだ?」


 間違いなく致命傷だ。


 これほどの傷を負う前に、魔導具が発動するはずなのだ。


「センラは持ってませんわよ。無能に負けるわけがないと言って、魔導具の携帯を拒否してましたの」


「まじか……」


 自業自得ではあるが、俺が悪者みたいになっているじゃないか。どうにかしないといけない。


「センラ、あなたの負けでしてよ。弓矢を抜き取るから大人しくしなさいな」


「ふざけんなッ! オレ様はまだ負けてねえッ!」


「足掻くのは結構ですけども、誰がどう見ようと敗北ですこと。審判も勝利宣言をさっさとやりなさいな」


「は、はいっ! ――勝者、弓師ハルト!」


 賢者が魔法で弓矢を引き抜き、苦痛に歪めたセンラを聖女が一瞬で治していた。


 勝利宣言で会場から疎らな拍手が鳴る。皆が喜んでいいものなのか迷っているようだった。


 俺は圧倒的にやりすぎてしまったらしい。


 微妙な空気になっている。実況や解説も困惑しているのか、話を中断しているし、空気がとにかく悪い。


『いやはや! 新たな英雄は素晴らしい力をお持ちだ! 何故、これほどの力を魅せられて熱狂しないのか!? ゴブリンキングを討ち取り、国を救った英雄の力だ。この先の未来は明るいのではないか!?』


 聞き慣れた声が拡散された。


 実況者や解説者のものではない。


 ルーベルト家の当主、侯爵様の声だ。


 立ち上がって身ぶり手振りを交え、俺の凄さを語っている。ティリアが声を拡散する魔法を使っているようで、俺は侯爵様に気を遣わせてしまったらしい。


 侯爵様の力強い演説みたいな語りに賛同する者も現れ、俺を讃える声がちらほらと出てくる。


 俺は軽くお辞儀をしつつ、背筋を伸ばして畏まった。


「あ、どうもどうも。実況を担当させて頂いたものですぅ。あの、英雄のハルト様とセンラ様にコメントいただきたいのですが、よろしいですか?」


 小綺麗なお姉さんがいつの間にかやってきて、魔導具を片手に持っている。


 この人がテンション高めな実況者なのか。あまり外見からはそんな感じがしなかった。今も下手に出ているから大人しい口振りである。


「……はい、どうぞ」


「あ、この魔導具が声を拾うのでよろしくお願いしますね」


 お茶目なウィンクをして、質問される。


「えっと、わかりました」


『ではでは! 弓師ハルト様、勝利おめでとうございます! いやー、見事な戦いでしたね! 何をしてたのかさっぱりでしたけども! 肩に乗っているのは妖精さんですか?』


『いえ、英雄の力で契約した聖霊です』


『可愛いですね!』


『ん!』


『この子が弓矢を操ってたりしたんですか?』


『そうですね。魔法の一種のようなもので――』


 とか、何とか質問を返す。声が反響して聞こえ、会場全体に行き渡っているようだった。


 俺への質問を粗方終わるとセンラのほうにも行くようで、魔導具が音を拾う。


『剣聖センラ様! 今回は惜しくも敗北してしまいましたが、新しい英雄のハルト様へどうぞ一言お願いしますっ!』


『オレ様は、オレ様は負けてねえぞッ……!』


『え?』


 質問ではない答えが音を拾い、実況者が戸惑っている。


『……卑怯だろ。二体一だぞッ!? なあ!?』


『あ――センラ様!?』


 センラが魔導具を奪い取り、叫んだ。


『――あいつは無能だッ。無能なんだよ! オレ様が弱いなんてことは有り得ねえッ! 負けるはずがねえだろう!? こいつはズルをした! オレ様が一人で戦っているのに、無能なこいつは二人がかりで来やがったんだ!』


 会場にも言葉が伝わっており、ひそひそと観客達が話している。


 フェリは俺の契約した聖霊だ。先程の実況者からの質問にもそう答えている。


 だから、英雄の力を使った試合なのだから当然なのでは? というものが大半だった。中には剣聖を擁護するものもあったが、声は小さい。


 俺の『聖霊の聖域』という称号の通り、聖霊を使役している。不正などしていない。


 試合前には英雄の力を使ったものだと説明はあったし、主に何でも有りな試合だったのだ。


「……おい、センラ、お前の敗けだぞ。認めろよ」


 俺の掛けた言葉すら魔導具は拾うようで、声が拡散した。


『――違う、違う、違う、違う、違う! オレ様は剣聖だぞ!? 神にも選ばれた至高の存在だ! 無能に負けるなんて合ってはならねえッ!』


「そうかよ。勝ち負けに拘りはないから勝手にしろ。ただ、約束は守れよ。お前は負けたんだ。二人を妾にするなんて許さないからな」


『……うるせえッ。ごちゃごちゃと、うるせえんだよッ! オレ様は負けない。負けちゃならねえんだ。そうだ、お前が死ねばいい。そう思わないか? そうだ、そうに違いねえ。お前は無能で、オレ様は天才だ。無能なんだ、死んでもいいだろ? オレ様が殺してやるよ。殺せばいいんだッ。ははは、そうだ、殺して、殺して、殺して、殺して――』


「ちょっと、落ち着きなさいな!」


 賢者が間に入って、ぶつぶつと呟く剣聖を正気に戻そうとする。


「セ、センラ様……? だ、大丈夫ですか?」


 実況者も平静ではないセンラに引きつつ、声をかけている。


「もう、お開きですわ。あなたは退場しなさいな。センラはわたくしがどうにかしますわ。リシアも手伝いなさい!」


 賢者は俺がこの場に居ないほうが良いと判断した。俺もそう思う。


「面倒。用事が出来た」


 聖女リシアが俺よりも先に背中を見せながら帰っていく。


 センラの表情が今までにないくらい歪んでいるのだが、回復魔法で何とかならないのだろうか。唯一の使い手たる聖女が去っていったのだが。


「ハルトのことばかにしたのがわるいんだ。ベーっだ!」


「こらっ、フェリ。今、そういうのやったらダメだって」


 わざわざセンラの目の前に羽を動かして浮かんでいって、舌を出したフェリをそそくさと回収する。


 ピクりと眉を動かしたセンラだったが、俺はフェリを両手で抱き抱えたまま闘技場から降りて背中を向けた。


 微妙な結末になったが、俺が勝つという当初の目的は達した。あとは任せるしかない。


「……オレ様は! 負けてねえ! 死ねや、無能ッ!」


 会場の出口へ繋がる道に入ろうとしたとき、後ろから剣聖の叫び声が聞こえる。


 精霊を介した眼にはセンラが剣を振りかぶり、俺に突っ込んでいた。


「――フェリ、後ろに障壁を展開してくれ」


「んッ、んー!」


 フェリが両手を突き出して、壁を創り出す。


 振り向いたときには、鼻先には光輝く剣が迫っていた。


 複雑な緑色の線が走った魔方陣が形成され、即座にフェリとセンラの間に障壁が現れる。


 無透明の壁とは違う障壁だ。初めて視たが、俺の眼に映るセンラの剣にも白色の魔方陣が描かれていた。


 剣が障壁とぶつかり合い、魔力の渦が辺りを包む。拮抗しているように映るが、僅かにフェリのほうが優勢か。


 センラは英雄の力を全力で行使していた。


 俺を本気で殺そうとしていることは目を見れば解る。そこにあるのは狂気だった。


「羽虫が邪魔なんだよッ! 退けや、ゴミ虫ぃッ!」


「……俺に不意打ちは効かないぞ。もう、止めとけよ」


 この衆人環視の中、不意打ちするのは如何なものだろう。後々のことも考えられないぐらいセンラは敗北したことを根に持っている。


 その姿は見苦しくて、哀れだ。


 どうして、そこまで思い詰めるのだろうか。


 お前は俺にこれ以上の酷いことをしていたじゃないか。たった一回、負けただけだぞ。


「――うるせえんだよッ! お前が死ねばいいだけだろうが!」


 センラは俺の言葉にも耳を傾けず、殺すことだけを考えている。


「フェリ。殺さない程度に加減して、吹き飛ばして気絶させられるか?」


「ん、がんばる」


 剣聖の暴走は止めようにもない。気絶させて落ち着かせるしかないだろう。


 フェリが力を込めると障壁が呼応し、センラの剣を押し返す。


 がら空きとなったセンラの腹に、フェリは片手を当てて呟いた。


「――ふきとべ」


 暴風がフェリの手から発生し、センラを吹き飛ばす。


 とてつもない勢いで反対側の壁まで飛ばし、センラは壁に追突した。


 轟音が響き、壁にめり込んだセンラ。数拍ほどそこで留まると、地面にボトリという鈍い音を立てて転がった。


 会場中が困惑しているのだが、国王とかが適当なことでも言って体裁を整えてくれることを祈るしかあるまい。


 何とも言えない気持ちで俺は会場を後にして、英雄の力をお披露目するセレモニーが幕を閉じた。





 後日、王都内で話題になっている一つの記事が拡散された。


 そこには、剣聖センラがセレモニーで行った出来事から始まり、同時に剣聖本人とルーエン家にまつわる悪行の数々が晒されていた。


 侯爵様も一枚噛んでいるらしく、赤裸々に内情が露呈している。罵詈雑言も含まれ、剣聖の名は地に落ちるところまできていた。

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□虚弱の英雄・無能のハルト。 @Ze-oOo-Mu

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