第25話真の家族とは………
うつら、うつら。
「藤木!」
その三枝先生の声に目が覚める。
「お前、遅刻した上に一時限目から居眠りとはいい度胸だな?ん?それとも何かあったのか?」
この先生は口は悪いが本当はいい先生なのだ。それに俺は答えた。
「ちょっと、妹の勉強を見てやって、石井先生が妹に特別の小テストをやるようでここ3日ずっと妹と勉強をしていました」
それに三枝先生は渋い表情をする。
「あの人はいい人なんだけど、ちょっと度がすぎるよな。よし、いいぞ。藤木お前保健室に行って寝ても・・・・」
「いえ、妹が頑張っているのに、俺だけが寝ているわけにはいきません。ちゃんと授業を聞きます」
「そうか、じゃあ、無理をしないようにな。じゃあ、この積分、解けるやついるか?」
うつら、うつら。
そうは言っても、間断(かんだん)と眠気が襲ってきた。
かくん。
「大丈夫ですか?」
昼食時、俺がこっくりこっくりしていると、清楚(せいそ)な美しい顔をした神崎さんが心配そうに俺を見つめてくる。
そんな神崎さんに俺は笑いかけた。
「大丈夫だよ。ちょっと眠いだけ」
そんな俺に仁は冷笑をかけた。
「妹なんかのために頑張るからそんな目に合うんだ」
「ちょっと仁!」
是枝が声を荒げる。
「そんな言い方ないんじゃない?仁らしくないよ」
それに仁は嘆息して言った。
「あのな。一つ言っておくが異性間の兄弟は難しいんだ。ただでさえ、異性同士は分かり合えないのに、同じ親から生まれただけで、仲良くさせるように強要させられるんだ。そんな関係性はほとんどがうまく行ってなくて当然なんだよ」
それに是枝は口をつぐんだ。
「そう、かもしれないけど・・・・・・」
「いいんだ、是枝」
俺は仁に向かって言う。
「確かに仁のいう通り、異性間の兄弟って難しいよな。俺には多くのことで美亜のことが理解できないし、美亜も俺のことを理解できていない」
それに仁は声を荒げた。
「なら、なぜ!」
「でも、お互いを大切だと思う感情は一致している。お互いが理解できない存在だとわかった上で、それとは別にお互いが大切だと思い、いや、俺が美亜にたくさんのことをしてきたから、それを美亜がうざがらずに素直に受け止めてくれた。
そして、感謝の気持ちを表してくれたんだ。
そうすれば自然と仲良くなれる。
仁も『晩春』を見た時に言っていたじゃないか。ただ、家族なだけじゃあ真の家族になれない。相手に真心を持って愛情をかけなければ真の家族になれないと。
今でもオズのメッセージは日本では理解されてないね。特にアニメや漫画を見ているとよくわかる。友達でも、恋人でも、夫婦でも、親子でも、兄弟でも変わらない。
どれだけ相手のためを思って尽くせるか?そして、それを受け取った人が相手に感謝の気持ちを持てるかどうかで真の家族になれるかどうかが決まってくる。ただ、同じ両親から生まれただけでは、それだけでは真の家族にはなれないね」
それに仁は暗い表情をした。
「そうは言っても、今更瑠璃(るり)に愛情を注いでもあいつは俺のことを受け入れてくれるのか?そんな妹と仲が良い関係なんて想像できない」
「まあ、そうだね。相手が感謝の気持ちを持たなければ仲良くなるなんて無理だ。でも、もし仲良くなりたいのなら最初の一歩は年長者が踏み出すものだと思うな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
窓から残暑を超えた涼しい風が教室を吹き抜けて行った。
「しかし、意外だよね」
「何が?」
放課後、同じ日直になった是枝が掃除しながら話しかけてくる。
「山田。しっかりしていそうなのに、実の妹と仲良くなれないなんて」
俺はちりとりに溜まったゴミをゴミ箱に捨てて、またゴミを箒で集めた。
「仕方ないよ。男の子はガキだから、女子と仲良くする必要性を感じないんだよ。ましてや妹となれば雑に扱ってしまうんだよ」
「ふーん」
パサパサ。
「はい。掃除はこれで完了にしときましょう」
「オーケー」
そして、ゴミ箱に捨てて、俺たちは掃除用具をしまい、席を元どおりにしていく。
「藤木はどうだったの?藤木も男の子だったんでしょ?妹のことを雑に扱わなかったの?」
「俺は親に恵まれていたからな。そんなことはならなかった。でも、幼い頃は妹に暴力を振るったこともあった。でも、父さんがそれを激しく叱責(しっせき)をして俺に罰を与えた。それから、いろいろあった俺は妹と仲良くなった。確かに普通の状態じゃあ兄と妹は分かり合えないね。俺のケースが特殊だ」
「へー。藤木にそんな過去があっただなんて」
ガタ、ゴト。
ただ、黙々と机と椅子の音が教室に響き渡った。
「当時は・・・・・・・」
「うん」
「妹こんなに仲良くなるなんて想像しなかった。と言うかこいつだけは絶対俺と縁を切れるだろうと思っていた。だから、仁の気持ちはわかるよ。普通異性の兄弟は仲良くなれないな」
「でも、今は妹とさんとは仲がいいんだね?」
「まあね」
ゴト。
「はい。これで最後だな。是枝一緒に手伝ってくれてありがとうな」
それに是枝は微笑んだ。
「どういたしまして」
学校から出ると夕方の秋空が眼前に広がっていた。
「もう、秋だな」
風がこれまで違っていて青い。ようやく下旬になって秋っぽくなってきた。
「ま、でもすぐに冬になると思うけど」
しかし、俺は束の間の秋の空を楽しんだ。是枝はバイトが早いから早足で別れた。
ひとつあくびをして、歩き出す。
「ま、今日のところはゆっくりしよう」
そう言って歩いているうちに校門のところに人影を発見した。それはよく知っている人だった。
その人がこちらにトテトテと走っていく。
「お兄ちゃん!」
「よう、どうだった?美亜?テストの方は」
それに美亜はテスト用紙を満面の笑みで見せてくれた。
「80点!すごくよく取れたなぁ!」
「えへへへ。石井先生私たちがまともに勉強をしないだろうと思って、超簡単な問題作ったんだよ。おかげで助かった」
「へー、石井先生はなんて」
「この努力の10分の1の力を授業中だしてくれ、と言われた」
「はっはっは。そりゃあ、その通りだ」
それに美亜は頬を膨らませ両腕を縦にブンブン振った。
「もう!お兄ちゃん!」
「ははは!」
笑いをやめて、俺は美亜にいう。
「それで何か奢ろうか?宿題追加の危機を回避したわけだしな」
それに美亜は猫の表情をした。
「私!クレープ食べたい!新しいクレープ屋さんができたんだよ。いこうよう、お兄ちゃん」
「そうだな行くか。あ、ごめん。今月はお金使いすぎてもう金がないんだ」
それにぷくっと美亜は頬を膨らませた。
「もう、お兄ちゃん」
「ごめん、ごめん」
拝んで謝る。
美亜はしょうがないなぁ、と言う表情をした。
「やれやれ、ダメダメだね、お兄ちゃん。でも、今回は私が奢ってあげるよ」
「え?」
俺はまじまじと美亜の顔を見た。
「お前が俺に奢ってくれるって本当か?」
「嘘、ついてどうすんの?」
「まあ、そうだが・・・・・」
それはかなり意外な言葉だった。いつも俺が美亜を助けるものばかりと思っていたので、そう言われるのはかなり意外だった。
美亜は俺の袖を引っ張る。
「ねえ、早く行こう。お兄ちゃん」
「そうだな、いくか」
ま、たまにはこう言うのも悪くない。
それで二人で並んでゆったりと歩いた。涼しげな秋風が俺たちを優しく包み込んでくれた。
完
ある兄妹 サマエル3151 @nacht459
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