第23話バテる妹
放課後、直行で家に帰り、美亜にも連絡をし、今日は二人でみっちり勉強であることを伝え、家に買った俺は手洗いをして、着替えてちゃぶ台を引っ張って勉強の支度をした。
程なく美亜は帰ってきた。
「お兄ちゃーん。帰ってるー?」
子供部屋の扉が開く。
それに美亜は満足ぎみにうなずいた。
「帰ってるね。じゃ、着替えます」
「その前に手洗いしとけ」
「そうかもね。じゃ、やりまーす」
それから手洗いをして、子供部屋で美亜が着替え出して、着替えをしている際には俺はそっとその場を離れ程なく美亜の声が聞こえ部屋に再入場した。
美亜自身、俺に着替えを見られても平気そうだったが、俺は一応美亜が着替える時は出るようにしている。しかし、美亜は俺が着替えを始めると大抵のことでは出ない。なので、俺もだいたいでやっている。
「じゃ、始めるか。まず、昨日の復習からするか?」
それに美亜は文々と首を横に振る。
「いい、いい!昨日お兄ちゃんが作ってくれたノートを見たから大丈夫!」
「じゃあ、古代ローマを始めるぞ。まず、ローマは共和制ローマだが、最初は王権制だったが、いろいろあり共和制に落ち着いた。それを歴史書として書いたのはリウィウスの『ローマ建国史』これは余裕があったら覚えておくように。重要なのは最初のローマは王権制であったこと、それが共和制に移り、帝国に移ったということを覚えるのが重要だから」
それに美亜はふんふんとうなずいた。
「ちゃっちゃっと行くぞ。さて、共和政ローマだが一つの試練が待っていた。ポエニ戦争だ。これはカルタゴと争った戦いで、2回にわたって大きな戦いになった。ノートを見てくれ。それがポエニ戦争が始まる前のローマの領土」
それに美亜はコクコクとうなずいた。
「それで第一回ポエニ戦争はローマの勝利に終わった。カルタゴは貿易国家で軍事力を貿易から出た収入で傭兵を雇いローマと戦った。ローマ側は国民が軍人として参戦した。これは覚えておくように。そして、第二次ポエニ戦争は・・・・・・・・」
「と、まあ、カエサルは、独裁制を恐れた共和制勢力によって暗殺された。それで・・・・・・」
チラッと美亜の方を見る。もう精魂尽きた(せいこんつきた)のか屍になっていった。
「一旦休憩にするか」
それに美亜は返事をせずに、グデーと床に寝そべる。相当疲れているようだった。
今の時刻は9時。5時からちょこちょこ休憩をとっていたし、夕食休憩もあったがぶっ通しで勉強をしてピークを迎えたのだろう。
「美亜、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
かなりへばっているな。俺は子供部屋から出た。
そして、リビングと、子供部屋の中間の通路のサイド側にある調理室に向かった。
「あら?」
「お母さん」
そこにはお母さんがいた。
「勉強の方は順調?」
「あと一息なんだが、美亜がへばっているね」
それには母は肩を竦めた(すくめた)。
「仕方ないわね、あの子」
それでお湯を沸かして、ノンカフェインレスコ―ヒーを作るとお母さんが銀杏の表情をした。
「あら?お夜食?」
「ああ、まだ、シュークリームあったよね?」
「ええ。あの子に伝えておいて、体には気をつけてね、って」
「わかった」
そういうとお母さんは出ていった。
俺はシュークリームとコーヒーをトレイの上に置き子供部屋に戻ってきた。
まだ、美亜はへばっている。
そんな美亜に俺はそっとコーヒーとシュークリームを差し出した。美亜が半分目を開ける。
「お兄ちゃん・・・・・・」
「コーヒーとシュークリームを持ってきてやったぞ。コーヒーはノンカフェインだからな、どうぞ、召し上がってくれ」
「うん・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・・・・・」
「あと、お母さんが体に気をつけて頑張って、と言っていた」
「・・・・・・うん・・・・・」
それから、ノロノロと美亜は夜食を食べた。
ちょっとひどいことしたかな?
美亜は普段、勉強しない子だ。その美亜にみっちり勉強をたたき込むことは彼女自身望んでいても、ちょっと酷(こく)だった気がする。
俺は座り直して美亜に言った。
「なあ、美亜」
「・・・・・・・・・・・・」
「この勉強が終わったら、何か奢ろうか?僕の手持ちならなんかしてあげれると思うよ。何かしたいことがあれば言ってごらん?」
それに美亜は即答をする。
「寝たい」
「美亜?」
あまりに予想外の答えに俺はたじろいだ。
「美味しい物を食って一日中寝たい。というか、すぐにでも寝たい」
そういうと美亜は鼻を詰まらせた。俺は美亜の手に俺の両手を置く。
「美亜」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ごめんよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あと少し、あと少しだから、あと1日と4時間頑張ろう」
わーん、わーん。
美亜は堰(せき)を切ったかのように泣き出した。
俺はそれを見てどうしようもなくやるせなさを感じた。
勉強をすることは悪いことではない。でも、どうしてもそれに耐えれない人がいる。そういう人は別に勉強をしなくてもいいと思うが、しかし、石井先生はここが勉強を教える最後の機会だから、1年の時にしっかり勉強をするように習慣づけようとしていることはわかるし、それに勉強をすることは自分の存在を有益(ゆうえき)にするということはわかる。
だが、わかっているが故に石井先生の考え方は悪くないと思うが、だからこそ、美亜の苦しみを考えると不憫(ふびん)でならなかった。
楽に楽しいことだけを追いかけて自分の人生が豊かになればどれだけいいだろう。しかし、世の中はそうなっていないし、快楽だけが良いという社会になればそれはそれで問題だ。
だけど、だからと言ってとにかく努力をしろということはできない。本当に努力が嫌いな人もいるのだから、そういう人に向かってダメなやつ、というレッテルを貼るということも違和感を覚える。本当に俺たちができるということは苦しんでいる人に共感や同情、優しさを表すことではないか?本当にそれが一体その人にとって何にもならないとしても、そういう心持を持ち励ます(はげます)ということが大切だと思う。
その中で大切なのは励ます(はげます)側がどれだけ本気になれるかということだ。本当に苦しんでいる人達に本気で励ますということは楽じゃない。だからこそ、視野を大きくするための勉強が必要なわけだし、基本勉強は苦しいものだから、それを続けたら忍耐強さも獲得できる。だから、勉強は大切なのだが、いくら有益なものであっても、それができないものもいる。それを切り捨てるのはおかしい。
ちょっと同じ話がループしたな。ともかく、俺は美亜が不憫(ふびん)でならなかった。俺の力で美亜を楽に幸福にできればよかったのだが、それは美亜のためにならない。
美亜自身、友達との関係を気にしているようだし、この勉強も美亜が不得意だからこそ、やり続けて忍耐力を獲得(かくとく)することに大きな意義がある。
だからこそ、俺は最後まで付き合うしかなかった。
「ご馳走様」
美亜は夜食を完食した。俺はコップをトレイに置いて台所に置き、子供部屋に入った。
「じゃ、後半前行くぞ。ローマ帝国は詳しく言えばかなりの量があるがかなり端折る(はしょる)からな。ついてきてくれ」
「ういー」
美亜は腐った(くさった)柿(かき)の声を出した。
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