第16話美亜と買い物1
「ふんふん〜」
上機嫌(じょうきげん)に鼻歌でも歌いながら美亜はショッピングモールの中を歩いて行く。彼女の服装は白を基調とした、黒のラインがついている、しかし、チェックに比べてずいぶん線がないワンピースだ。俺は彼女の背中に声をかける。
「どこか行く予定のところはあるのか?」
美亜は立ち止まって、くるりとこちらを振り向いた。
「んー、いくつか回りたいお店があるんだけどね。ちょっと付き合ってよ」
「わかったよ。付き合うさ。最初はどこ行くんだ?」
それにニンマリと美亜は笑った。
「決めていない」
「は?」
でも、こいつ10分ほど歩いていたぞ?どこか最初に行くところ決めてないのか?
「決めずに歩いていたのか?」
それに美亜は唇を左横に寄せた。
「考えていないわけじゃないけどね。ブラブラ歩きながら他の店をチェックしながら目当ての店に行っている」
「そうか」
まあ、こんなにも店が多いしな。4回ほどのほとんどがレディースファッションか小物雑貨の店だし、そりゃあ新しいものをチェックしたい気持ちもわかるな。
俺は美亜の横に並んだ。
「お兄ちゃん?」
「せっかくの休日だ。お前の好きな通りにやっていいぞ。俺はそばでついて行くからな」
それに美亜の目が輝いた。
「わー!ありがとう!お兄ちゃん!」
それで最初に入ったお店で美亜はいろんな服装を見ている。手にとったりして、店員とよくおしゃべりをしている。
俺はやることがないので彼女のそばでブラブラしていた。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「こっちとこっちどっちがいいと思う?」
それは淡い(あわい)アクアブルーのワンピースで生地が薄めで深い青色のイルカが飛んでいるもので、もう一つの方もワンピースで上半身は黒色、下半身は深い深紅の色をグラディエーションをつけてしているワンピースだった。
「そうだな。美亜が着るとすれば」
「うんうん」
「やっぱり、ブルーかな?こっちはアラサー寄りのものだろう」
「うーん。そうだね。私もブルーがいいかなぁ、と思った。じゃあ、店員さんこれはなしで」
「かしこまりました」
25歳ぐらいのスラリとした店員が丁寧(ていねい)にお辞儀(おじぎ)をして、ワンピースを戻して行く。
そして、美亜は言った。
「これ試着していい?」
それに店員が優雅(ゆうが)に微笑む(ほほえむ)。
「もちろんです、お客様」
その店員は知らないであろう。いくら夏物のワンピースをディスカウントで売り出していても、二万円のお金は美亜にはないということを。
美亜が買うとすれば5月28日の自分の誕生日に両親が買ってくれる1着しか買わないのだ。そして、どれだけいいものであっても、5月ごろに売れ出していなければ永遠に買うことはないのだ。
それでも美亜は思うがままに休日になると試着するのだ。多分、この店員は彼女の両親が買ってくれると思っているかもしれないが、うちの両親はそこまでお金はない。
「お兄ちゃーん。試着終わったよー、来てー」
「ああ、すぐ行く」
俺はすぐに美亜の元へ向かった。
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