第17話美亜と買い物2
「ああーあ。あのワンピース欲しかったなー」
美亜はチュルリとラーメンを食べて言った。
「どうせ買う気はなかったんだろ?」
「あー。うん、そうだね。残念ながら今のバイトは家計と学費にほとんど使われているし。バイトをしても、ほとんど家計に取られてお小遣い五千円じゃあ厳しいね(きびしいね)」
俺もラーメンを一口食べる。それで言った。
「友達付き合いとかあるしな」
「そうそう。まあ、みんなも私がビンボーなのは知っているからさ、おごってくれるけど、いつ縁が切れられるかわからないしね」
そして、また、チュルリとラーメンを啜る(すする)。
「いい友達じゃないか」
それに美亜はキツツキの表情をした。
「まあね」
「?」
美亜が見せた、クールとも無表情とも取れる表情に俺は何かよくわからなかった。
「美亜」
「ん?」
美亜はいつものような齧歯類(げっしるい)の笑みを見せる。
「何か困ったことがあれば、ちゃんと俺に言えよ」
それに美亜は悪戯(いたずら)っぽい笑顔を見せた。
「何?お兄ちゃん。私のこと心配してくれるの?」
「当たり前だろ?」
「え?」
美亜はキョトンした表情をする。
「たった一人の妹なんだから?」
それに美亜の顔が真っ赤になった。
「はっは!何言ってんの!?お兄ちゃん!恥ずかしいなー!?」
照れ隠しにバンバンと俺の背中を叩く美亜。それに俺はいう。
「別に恥ずかしくなんてないだろ?好きな人には好きという。当たり前なことだ」
「でも、妹だよ?」
「妹として好きなんだよ。いや、人として好きなんだよ」
それに美亜は縮こまった。
「うー」
そして言う。
「お兄ちゃんのバカ」
「やれやれ」
時計の短針が一時を指していた。
「お客様2084円になります」
「お兄ちゃん、割り勘(わりかん)ね」
俺は2100円を店員に渡した。
「お兄ちゃん!」
「いいから持っておけ」
それでお釣りをもらって、店から出た。
俺は伸びをした。
「次、どこ行く?」
しかし、美亜は浮かない表情をしていた。
「どうした?」
「良かったの?お金払って?だって、お兄ちゃんもお金はないんでしょ?」
「ああ」
俺はこともなげにうなずいた。
「なら!」
「でも、それはお前も一緒だろ?」
それに美亜は黙った。
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、お前も金欠ならありがたく受け取っておけよ」
「お兄ちゃん。ありがと」
何か美亜が顔を俯かせて(うつむかせて)小声で言った。
俺は何か聞き取れなかった。
「なんか言ったか?」
それにブンブンと首を横に高速に美亜は振った。
「なんでもない!なんでもない!それよりもさ!」
「なんだ?」
美亜が不審な挙動をしていたがそれを置いて、美亜は言った。
「お兄ちゃん、今日は仕事じゃなかった?」
「まあ、3時だし、あと1件ぐらいなら・・・・」
「そうか」
それから美亜は所在なさげに視線を彷徨わせた(さまよわせた)。
「何か買いたいものがあるのか?」
「う!いや、そんなことは・・・・・・・・」
「当ててやろうか?」
それに美亜はつんとすました表情をする。
「当てることができる?」
「ずばり、新堂都の新刊だろ?」
「う!正解」
「じゃあ、本屋に行くか」
「でも・・・・・・・」
美亜はもじもじしている。
「お兄ちゃん、フォークナーの本を買うためにお金貯めているんじゃあ。こないだの誕生日だってお父さんたちの負担になるからと言って辞退したし、何度もお世話になるなんて・・・キャ!」
つべこべ言う妹の手を握って俺は本屋に行った。
そして、首を後ろにして美亜を見つめて言う。
「つべこべ言わない。俺はお前の喜ぶ顔を見たいんだ。だから、ありがたく受け取っておけ。それにフォークナーは父さんも読みたいって、言っていたからさ、お父さんが買うかもしれない。だから、そんなに気に悩むな」
それに美亜はまじまじと俺を見つめたが、やがて手を解いた。
「美亜?」
「わかった。買ってもらう」
「そうか。なら、行こうか」
美亜は破顔(はがん)した。
「うん!」
そして、二人してショッピングモールにある本屋に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます