第15話トランプ

その夜。今度は美亜と一緒にトランプをしていた。内容はババ抜き。

 そして、俺がババ持ちで2枚。美亜は一枚。美亜は俺の二つのカードを交互に見ている。


「さ、どうぞ」

 俺はカードを持ち上げた。それに美亜も釣られて動く。

「おお」


「何、驚いているんだ?ただ単に引けばいいじゃないか?」

「でも、ここで雌雄(しゆう)を決する戦いが・・・・・・・」

「起きない」


 それにぷくっと美亜は頬(ほお)を膨らます(ふくらます)。そして、また泥棒(どろぼう)のように挙動不審(きょどうふしん)な動きをしたかと思うと・・・・・・・


「えい!」

 ピッとババを引いた。

「アンギャー!」

 美亜は断末魔(だんまつま)の悲鳴を上げると布団に突っ伏した(つっぷした)。


「・・・美亜・・・・」

「・・・・・・・・・」

 死して屍拾うものなし(ししてかばねひろうものなし)。


 ふと、俺は仁と神崎さんのことを考えた。

 二人が今何をしているかと思うと、ムラムラして、ワナワナするようなことではなかったが、ただそばにいて欲しい人が他の人のもとにいるのだと思うと、空虚(くうきょ)な寂寥感(せきりょうかん)が胸を満たした。


 神崎さん・・・・・・・

 俺はどうすればいいんだ?この思いを神崎さんにぶつければいいのか?しかし、それではみんな困ってしまう。それがわかっているからこそやりきれない。


 スサっと美亜が起き上がった。

「まだよ。まだ、まだ。勝負は終わってないんだからね!」


「いいぞ。かかってこい!」

「ムー!」

 そして、美亜は高速でカードをシャッフルして行った。


 コンコン。

 その時、扉にノックの音が聞こえた。


「はい」

 開けるとそこにはお父さんがいた。お父さんは一言だけ言った。

「遊びに夢中になる気持ちはわかるがあんまりはしゃぎするなよ。ここの壁は狭いんだ(せまいんだ)。ご近所に響く」

「はい」


 俺は頭を下げる。そして言った。

「お父さんも一回やりませんか?」

 お父さんはちょっと思案(しあん)していたが、頷いた。


「そうだな。やらせてもらおうか」

「ちょっと待ってくださいね。俺と美亜の勝負が終わったら、三人でババ抜きをしましょう。いいよな?美亜?」

 それに美亜はグッドポーズをした。


「よーし、次こそはババを引かせて私が勝つんだから。あのメイコミックのようにやっぱり強いのは兄ではなく妹」

「ほほう、いいだろう。受けてたつ」

「ふふ、全くお前らは」

 こうして夜が更けて(ふけて)行った。



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