第8話 妹との日常

「ういー。お兄ちゃんの晩ご飯美味しかった!」

「それはどうもありがとう」

 美亜の言葉に僕は微笑む。

「じゃあ、後片付けは俺がやるよ。美亜はお風呂に入りなさい」

 そう言ってきたのは痩せていてハゲだが、温厚そうな中年の男性。俺と美亜の父親だ。

「美津子。君は洗濯物を畳んでおいで」

 そう話しかけたのは自分の妻にだった。つまり、俺たちの母親だ。

 その母さんはコクリと頷いて言った。

「ちょっと『アルファ』見てから、洗濯物を畳むわ」

「はは、美津子は本当に映画の虫だな」


 そういうと、母さんは腕を組んで半眼(はんがん)で父さんを見た。

「哲学オタクに言われたくないわ」


「まあ、そうだな。じゃあ、洗い物は俺がやっておくから」

「うん、お願い」


 僕は食器をお父さんのほうに持っていった。ちょっと美亜の方を見る。美亜はヘッドホンで音楽を聴いていた。

 ふとお母さんと目があった。二人して微笑んだ(ほほえんだ)。


「本当だらしない子ね」

「でも、可愛くもあります」

 それにお母さんも微笑む。


「そうね」

 お母さんは言葉だけでは刺々しさ(とげとげしさ)のように見えるが、その内実(ないじつ)、家族を思う優しさが滲み(にじみ)出ていた。


 俺は、風呂場の近くの洗面台に行って、歯磨きをした。し終わった頃、美亜が俺のいる脱衣所に着て服を脱ぎ始めた。俺はさっさと、脱衣所から出て、子供部屋に向かう。


 子供部屋は一面ピンクの模様(もよう)にコーディネートされている。


 これは美亜が中学生の時に部屋をピンクに模様替えをしたいの!と言ってきて、俺も美亜と同じ子供部屋に住んでいるから、俺に同意を求めてきたのだが、俺は一言、いいよ、と言ってそれで部屋はピンクの模様替えになっていた。


 基本はピンクだが、蝶々(ちょうちょう)模様や花の白い模様があって、かなりファンシーな部屋だ。


 部屋は基本、リビングと一緒で、6畳一間の部屋に陳列する二つ本棚。多くは少女漫画、や中古のCDなど。その

一つの本棚の裏のペースに文芸書などが置かれている。


 みんなもお気づきの通り、ほとんどが美亜の私物で、文芸書などは美亜もよく本を読み、その本もあるが純文学の本はほとんど俺のものだ。


 もちろん6畳一間で本棚が2つぐらいあるからほとんどそこで食われていて、あとはちゃぶ台が置かれていて。俺は鞄を片隅にやると、今日の勉強の復習をした。


 じーっと復習をしていると、ドアが開いて美亜が入ってきた。

「お先〜」

「ああ、じゃあ入ろうか。その前にこの数学の公式だけやるか」


 そう言って俺はまた教科書とノートに睨め(にらめ)っこする。その時声が聞こえた。


「ええ〜!?お兄ちゃん勉強しているのー!?」

「そうだが、何か悪いか?」


「だって、就職科って赤点とっても退学にならないんでしょ?勉強なんかする意味ないじゃない!?」


「こいつは・・・・・・・・・」

 時々いるのだ。退学にならないから勉強を全くしないやつ。この学校も生徒の自主性を尊重しているので、そこまで勉強をしろ、と言わないので、本当に勉強をしない奴がいるのだ。


 美亜もそのうちの一員だったのか。道理で勉強の仕方を教わろうとしなかったわけだ。


「ま、お前もいうことも事実だ。無理に勉強をする必要はない」

 それに美亜の目が輝く。

「でしょ〜?」


「でも、勉強をするなとは禁じられていないし、むしろ推奨(すいしょう)されている。それに俺は勉強がしたいからしているんだ。社会人になってからも勉強は続けるよ」

 それに対して美亜は宇宙人を見るような目でこちらを見てきた。


「マジー!お兄ちゃん」

「本気のホンマモンのマジだ」


 美亜は首を横にふる。

「信じられない」


「お前が信じなくてもいいよ。俺は勉強してから風呂に入るから」

「あ、どうぞご自由に」


 そして、数学の公式を解いて、風呂からでて自分の部屋に戻る。美亜は布団を広げて少女漫画を広げてくつろいでいた。


「美亜」

 美亜が振り向く。


「また、バトルフィールドしようか?」

 それに美亜がコクコクと頷く(うなずく)。


「今度は本気出してよね!お兄ちゃん!」

「はいはい」


 俺はゴーストを外し、ゴーレムを入れ、相手の状態異常耐性を下げるタタリをサマエルと交換した。

「じゃ、いくよ」

 美亜は腕をまくっていった。


「おうよ」

 結果・・・・・・・

 布団に顔をうずくませる美亜。


「美亜・・・・・」

「・・・・・・・・」


「そんなに気にすることはないじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・」


「たかがゲームだし」

 それに美亜の頭がガバッと跳ね起きた。

「ゲームゥ?たかがゲームと言ったよね。私の最強パーティーが潰されて(つぶされて)私がどんなに心苦しいかお兄ちゃんにはわかる!?」

「いや、全然」

 また、美亜は布団に突っ伏した(つっぷした)。


「美亜、遊びはおしまいだ。俺は読書をする」

 それに美亜は顔をあげた。

「何読むの?」

「ミルの『自由論』」

 また美亜は信じられないそうに首を横に振った。


「そんな難しいものを!」

「いいだろ?別に、お前が困るわけじゃないんだから」

 それに美亜はブスッとする。


「そりゃ私が困るわけじゃないけどさ」

「うん」

 美亜の様子からして本気で怒っているわけじゃなさそうだ。美亜は口を窄めて(すぼめて)言う。


「今日、もうこれ以上お兄ちゃんと遊べないじゃん」

「あ」

「・・・・・・・・」

 自然と俺は美亜の頭を撫でた(なでた)。


「な、何!?いきなり撫でないでよね!?」

「はは、ごめん、ごめん」

 美亜は俺の手を払い除ける(はらいのける)。


「もう、バカ兄なんだから」

「美亜」

 いきなりシリアスな様子で俺が言うのを美亜はちょっと驚いた様子で俺を見た。


「何?」

「明日も遊んでやるから、心配するな」

 それに美亜もうなずいた。


「約束、だからね?」

「ああ、約束する」

 俺たちは指切りして俺たちは指切りして、それぞれ自分のことをした。



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