第6話友情

 放課後。

 僕はすぐ仁のところに行く。


「仁、放課後は暇(ひま)?」

 それに仁はかぶりを振るう。


「いや、全然。アルバイトもしなくちゃいけないし、夕菜とのデートをしなくちゃいけないしで慶次と遊ぶことは当面できそうにない」


「そうか。いや実はさ、俺も両親が共働きで家族のために料理作らないといけないからさ、そんなに遊ぶ時間はなかったんだけど、少しお茶する時間があったから誘ってみただけ」

 しかし、唐突(とうとつ)に仁は言った。


「10分」

「え?」


「10分ぐらいならいいぞ。まだバイトまで少し時間があるから」

 それに俺は微笑んで、仁の背中を叩いた。


「じゃ、行くぞ仁。さっさと学校前のファミレスに入ろうや」

「おう」

 それで二人して走り出した。




「で、どうよ?神崎さんとはうまくやれているのか?」


 アイスコーヒーを注文した僕らは席に座るなりこう切り出した。ちなみに秋なのにアイスなのは、まだ暑かったことと、素早く飲めるアイスコーヒーの方が良かったことだ。

 仁はコーヒーをチュルチュル飲んで行った。


「俺の主観の中ではうまく行っている」

「その主観は主観の中に客観的視点もあると言う理解でいいか?」


「ああ」

「お前こそ、どうなんだ?」


「何が?」

「彼女、作らないのか?」

 それに胸がズキリと刺さる。


「そうだな、いい人がいたらな」

「そうか」

 仁はなんのてらいもなく頷いた。


「なあ」

「なんだ?」


「仁のところ母子家庭だよな?」

「ああ、俺の他に妹が一人いる」


「俺は両親フリーターで家事やらバイトやらで忙しいんだよ」


「フリーター?慶次はスマホ持っているよな?クレジットカード持ってないと通信料払えないだろ?」


「あれ、ネットのクレジットカード持っているからさ、俺でも払えるようになったんだよ」


「ああ、そういえばそうだよな。いや、俺のところは母親が正社員だから、なんでかな?と思ったんだ。続けて」


「手短に言うと俺に将来恋人ができるか不安なんだ。生活のことでいっぱいいっぱいで、とても恋人を見つけ出そうとする時間がないと言うか、そう言う漠然(ばくぜん)とした不安があるんだ」


「そうか」

 俺はアイスコーヒーをチュルリと飲んだ。

「それは俺にもわからん」


「だろうな。誰だってわからないからそう言うハウツー本が売れるわけだよ」


「そうだな。しかし・・・・」

「うん?」

 仁が体を前のめりにして横目でこちらを伺い(うかがい)込んだ。


「なあ、今週の土曜日空いているか?」

「ああ、バイトの予定はないけど?」


「それならちょうどいい。今週の土曜日にインディペンドフィルムで小津安二郎特集があるんだけど、『東京物語』と『晩春』二人で見に行かないか?」


「確かに空いているけど」

 チュルリとアイスコーヒを飲む。

「上映時間は?」


「10時からと、14時からの二つ」

 それに僕は頷いた。


「それなら感想を言い合えるな」

「大丈夫か?」


「うん。土曜日の夕食は僕が作ることになっているけど、仁からの頼みだ。両親を説得するよ。ありがとうな、仁。誘ってくれて」

 それに仁は被り(かぶり)を振った。


「いいや、こちらこそ。そろそろバイトの時間だな」

「もうか!?10分はあっという間だな」


 仁は席を経つと背を向けてさろうとした瞬間振り向いた。

「?なんだ?」


「いや、お前の相談。確かにお前に恋人ができるかどうかわからないが、俺はいつまでもお前の親友だよ」

 それに思わず口元が緩む(ゆるむ)。


「へへ、こいつ」

 そして、合図することもなく俺たちは拳をコツンとあわした。

「お前と同じクラスになれ良かったよ、仁」

「ああ、俺もだ」


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