第5話パシリ

昼食休憩。

「みんな!」

 俺は大きな声を出す。


「購買に行ってみんなのパンを買ってこようか。代金はそれぞれ持ってください」

 それにすぐに歓声(かんせい)が上がる。


「おおー、助かるー!藤木―!俺、カレーパン!」

 俺は五十嵐に袋(ふくろ)を出す。


「何?」

「まず、代金を入れて」


「わかったよ。ほら、150円だ」

「はいはい。いる人はみんなも入れてね」

 十何人かの生徒がパンの種類と代金を入れていく。俺はメモを取っていた。


「はい。これで完了だな。じゃあ、すぐに向かうわ」

『よろしく頼む』

 それから教室を出ようとすると、声がかかった。

「慶次」

 それは仁だった。


「なんだ?仁?お前は神崎さんのお手製の弁当があるだろ?」

 神崎夕菜は仁の恋人で、いつも仁に手作り弁当を用意してくれているのだ。


「いや、一人でそんなにパンを運ぶの疲れるだろ俺も手伝うよ」

「なら、早くきてくれ。なくなる前に行こう」

「ああ」

 それで俺と仁は駆け出した。




「助かったよ、仁」

 俺は大量のパンを収容したレジ袋を持ちながら言った。

「なんのこれしき」

 仁は涼しい顔で言う。仁も同じように大量のパンを持っていた。


「まあ、みんなの分買えたからいいよな?」

「そうだな」

 教室の扉を開ける。


「みんな帰ったぞー」

 それにみんなから歓声(かんせい)が上がりレジ袋を差し出す。


「ほらちゃんと自分のものを取れよ」

『了解でーす』


 それぞれ自分のものを分捕って(ぶんどって)彼らは席に戻っていった。

 そして、俺は気づいた。彼女の存在に。

「お邪魔しています。藤木さん」

 そう挨拶(あいさつ)してきたのはストレートのセミロングの美少女で楚々(そそ)とした感じのまさに大和撫子と言ったようなパーフェクトな美少女だった。

「あ、神崎さん、こんにちは。じゃあ、お邪魔虫は去ろうかな?」


 そして、この神崎夕菜は仁の恋人なのだ。俺はさっさと自分の席に戻ろうとしたが、むんずと俺の腕を掴む(つかむ)者がいた。


「何言ってんだ?一緒に食おうぜ!」

 そう言って、仁は美しい立髪(たてがみ)のライオンの笑みを僕に見せた。


「なら、一緒に食べますか」

「おう」


「なら、私も食べていい!?」

 そうやってきたのは是枝。

「お前はお呼びじゃない」


「ぐはっ!藤木はよくてなんで!私はダメなの!」

「お前はいつもの女子のグループに行っとけ」


「ひっどーい!仁そんなに私のことが嫌いなんだ?」

「まあ、そこまで好きじゃないな」


 その時僕は聞いた、神崎さんの本当に幸せそうなクスクスとした笑い声を。


 パンパンと叩いて俺は言った。


「はい、お前らその辺にしとおけ。昼食休憩がなくなってしまう。一緒に食べよう」

 それに仁も是枝もうなずいて、卓を囲んだ。それから楽しいお喋り(おしゃべり)をしながら、時が過ぎていった。

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