第4話戦国時代
2時限目
今回は日本史の授業だ。戦国時代をどう考えるか?というディベート式の授業で、机を後ろに置いて、椅子を円陣にして語り合った。
「さて」
円陣の中央の中田先生が立って話しかける。
「今まで学んできた戦国時代なわけだが、お前らはどう思う?ちなみに言うまでもないがこのディベートはテストの点数に反映される。全国模試の結果に出ないが、学園の成績表に反映(はんえい)されるからな。
発言すると一回につき20点、一回の授業の時4回発言したら100点加点されるから、お前らもなんでもいいのでどんどん発言するように」
「はい!」
俺たちは気合を入れて言った。
「まず、戦国時代についてはどう思う?」
スッとまず、是枝さんが手をあげた。
「是枝に発言権を与えて良いか?」
それに、周りから異議なし、と言う答えが返ってきた。
「まず、戦国時代について話しますけど、これは平安時代の当地の悪さがもろに悪く響いたと言うことが挙げられ(あげられ)ます。当時の貴族たちが、仏教思想で人を殺してはいけない、と言う教えを守り、ホッブスのリヴァイアサン的国家権力の暴力を持たなかったのが問題であると思います。
それが武士の台頭(たいとう)を生み、源氏、平氏のような武士の台頭を許し、北条家も長くは続かず、果てには応仁の乱が起きて、国内では完全に内戦状態に置かれました。
日本人は戦国時代というと色々と空想を巡らす(めぐらす)ようですが、いわゆる内戦国家、破綻(はたん)国家なのです。戦国時代の中期ごろになると大名たちも、自身の領地を守るような家訓を第一に掲げて、織田信長がいなかったら、本当に日本国という国は誕生しなかったでしょう。
偶然にも織田信長という日本列島を一国に戻すという戦国武将が現れなかったら、日本はおそらく欧米列強の植民地であった可能性が高い。そして他の国家と同様に泥沼(どろぬま)の内戦に陥った(おちいった)可能性が高いでしょう。
我々はこの戦国時代を、各武将の強さとして見るのではなく、我々が産んだ失敗として、批判的に戦国時代が生まれた可能性を検討しなければならないと思います」
そう、大物政治家のように落ち着きのある表情で、しかし、クレーバーな意見を是枝さんはいった。
「はい」
仁が手をあげた。
「山田に発言権を与えて良いか?」
それに、みんな異議なし、との声を出す。
「是枝さんの発言にはおおむね賛成する。しかし、貴族が武力を持って日本が安定的な国家だとすると、逆にそれが欧米列強に植民地にされていたと思う。
源平合戦、元寇、南北朝、応仁の乱を得て日本は相当な軍事力を地方の津々浦々(つつうらうら)まで手に入れた。ルイス・フロイスも日本は植民地にできないと言っていたのは、内戦によって否応(いやおう)がなく軍事力の底上げによって逆に植民地化を防いだと思う。
イスラム教を主軸にして平和国家を気づいた中東や、そもそも文明化がそんなに図られなかったので、平和だったアフリカの国々、ネイティブアメリカンに比べれば、むしろ紛争があったからこそ、日本は植民地にならなかっと思う」
「はい」
すかさず、是枝さんが手をあげる。
「発言を認めよう」
今度は中田先生の強権により、発言を許可された。良い議論の応酬(おうしゅう)がつくと判断した場合は教師が独自に発言権を認める場合もある。
「そうは山田さんは言いましたけど、実際にイギリスはインドの民族紛争をけしかけて植民地化としたことも考えると、戦争によって高度な文明化が起きたから植民地にならなかったというのは早計(そうけい)だと思います」
「はい」
「発言を認める」
今度は仁に発言が認められた。
仁はスマホでチェックしている。この学校では授業のスマホの所持は禁じられていない。授業中、知識をウィキから得た情報で授業がより活発になるというのがこの学校の主張だ。
「しかし、インドが植民地化されたのは18世期の中頃だ。インドが発見されてからすぐに植民地にされたわけではない」
おそらく、スマホでインドに関する情報を見たのだろう。
「だから、基本的にまずなんとしても軍事力の発展がないといけない。そこに偶然織田信長が天下統一をし始め、それが始まった頃、フロイスがやってきて、この国では植民地ができないと報告したのだ。
確かに内戦状態になると敵国からつけ込まれる要因にもなるが、しかし、その内戦状態からの軍事力の強化から、信長天下をほぼ統一したことにより、植民地にはされなかった。
秀吉の死後、ちょっと不安な面があったが徳川幕府が無事、日本を安定とした国へと成長させた。
これをこうすれば全て良くなる、悪くなる、という考え方がダメで、現実はいろんな事象(じしょう)が総合的に複雑に影響し合い、偶然(ぐうぜん)良くなっていた、悪くなったと考える方が自然だ。確かに信長がいなければ日本は植民地になったと思うが、だがしかし、いろんな作用があり、しかもそれが偶然に良い方向に向かったから、日本は欧米の植民地にされることはなかったと考える方が自然。
だから、古代や中世では偶然によって良い方向に向かった、向かわなかったと考える方がいいと思う。偶然にも内戦が続き、偶然にも有能な武将が現れ日本を統一した、あまりにもあり得なさそうなストーリーでしか、欧米の植民地化を防ぐことは難しいだろう。
近代になってから理詰めも結構だが、どうにもあり得ないストーリー性を、特に第二次世界大戦後までの歴史においてはそれを理解することも重要だと思う」
「はい」
また、是枝さんが手をあげる。
「発言を認めよう」
「いままでの山田さんの話が真実だとして、それなら私たちが歴史を学ぶ意味というのは何かしら?全て偶然によって決まるのならば、わざわざ歴史を学ぶ意味なんてあるとは思えないわ」
「はい」
俺が割り込むように手をあげる。それに田中先生が言った。
「藤木に発言権を与えても良いか」
異議なし、というクラスのみんなの了承を得た。
「是枝さんの意見には賛成しますが、それでも歴史を学ぶ意味はあると思います。端的(たんてき)に言って、我々の今までいる地位や置かれている状況、リソースなどを歴史を通じて学べると思います。だから、かなり偶然的な要素が歴史にはあると認めますが、それでは全ての努力が無意味だったか?といえば否でしょう?
多くの歴史上の人物が為そう(なそう)としたこと、成した(なした)結果の影響を考えることで、歴史上の人物もかなりの努力はしてきたのだから、全て偶然だから努力はしない、勉強はしないというのはあり得ないことです。今まで先人が辿った(たどった)道を確認するというのが大切なことでしょう」
キーンコーンカーンコーン
「予鈴がなったな。じゃあ、授業はこれまで。最後に議論に参加してくれた三人に拍手を」
パチパチパチパチ。
万雷(ばんらい)の拍手が僕らを迎えた。
そして休憩時。自然と仁の周りに人が集まる。
「山田、お前って本当にすげえな」
「そう言ってくれてありがとうな、五十嵐(いがらし)」
「皐月(さつき)も頭がいいわね」
それに是枝はネズミのように笑う。
「へへ、ありがとう。みっちゃん」
「しかし・・・・・・」
予鈴がなった。机を移動させるのに少し時間がかかったからだ。
最後に山田が締める。
「みんな聞いてくれてありがとう」
「いやいや、お前らの話はめっちゃためになって面白いよ」
「次の授業もがんばろうね」
「ああ」
それで席について先生が入ってきた。
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