第3話 運命の舵輪は廻る

 第一主力艦隊第三分隊は、本隊より200海里先行し、ジョンストン環礁から敵艦隊をおびき出した上、さらに環礁内の砲台を破壊する任を帯びていた。本隊の空母戦力による支援も受けられるものの、基本的には小艦隊でジョンストン環礁の無力化を行わなければならないというのは変わらなかった。


 愁としては、何という無茶を押し付けるんだ、という思いが強かった。


 「第四分隊より艦隊司令部、これより戦闘行動に入る。回線秘匿するので、留意されたし」

 「艦隊司令部、了解。これより通信封止を実行する」


 ツー、ツーという音が流れる。

 電波通信が終了し、通信封止に入る。現在、第三分隊はジョンストン環礁から400キロ西方に位置していた。ハワイの艦隊司令部に集結しているアメリカの抵抗政府の艦隊も出撃したという報告が入っている。

 北と西から出撃した艦隊は、ジョンストン環礁で集結することになっている。分散しているために、各個撃破される可能性があるものの、それは綿密な偵察によって防ぐことになっている。


 「旗艦より副旗艦、各艦第一戦闘配置」

 「副旗艦より旗艦、すでに第一戦闘配置済み」


 副旗艦「鈴蘭」から、その報告が入る。

 「鈴蘭」の艦長は愁とは違いれっきとした軍大学卒の艦長で、実地での戦闘も重ねている歴戦の艦長である。名前は春崎龍史(はるざき-りょうじ)といい、総合戦果は戦艦撃沈数9、共同撃破6、撃破確実14など、魔女級に次ぐ実力者である。

 ついでにいうと、愁の総合戦果は戦艦撃沈数22、共同撃破0、撃破確実6という、かなり偏ったものとなっている。「魔女」の称号持ちでも、愁程の戦果持ちは少ない。


 「魔女様はどうするつもりで、今回の無茶な命令は?」

 「どうもこうもしない。事前に説明したとおり、僕が敵艦隊をまず誘引し、その誘引した敵艦隊に、第四分隊の総力で八百長してジョンストン環礁から引き離す。そして、その間に僕がジョンストン環礁の砲台を無力化する」

 「どうも納得いかねえな」


 戦艦隊の三番艦「普蘭」艦長である女川惣(めかわ-そう)がそう話しかける。というよりも、疑問をぶつけてくる。


 「かりに俺たちが誘引に成功した敵艦隊を八百長したとしても、全艦隊が乗っかってくることはないだろう? それなのに、単艦突入か? 無茶がすぎるんじゃねえか、魔女様とはいえ」

 「承知しているよ、そんなことは。安心してもらっていい、それに関しては対応を考え済みだ。ある程度砲台を叩いたところで、空襲を仕掛ける」


 女川艦長は未だに不満そうに、言葉を紡ぐ。


 「空襲したとして、艦隊が出撃する確証は? ヘマな話、出撃しないほうが被害を減らせると思うが…」

 「女川艦長、今回の作戦の目標となっているジョンストン環礁の広さを知っているか?」


 困惑する声。


 「その声を聞くに、確認していないな。簡単に言うと、全艦を集結させられるほどの広さはない。つまり…」

 「別の海上要塞が、存在すると」

 「その通り。おそらく、6~10程度の海上要塞に分散している。これらの艦隊は釣り上げる必要はない。つまり、本来の一から二割程度の艦隊を釣り上げるだけでいい。

 そして、この程度の艦隊に200機前後の空襲を仕掛ければ、出撃した方がまし、というわけだ。この時点である程度砲台が無効化されていれば、なおさらの話」


 了解、と言う声。


 「全艦に告ぐ。これよりジョンストン環礁へのミサイル攻撃を開始する」


 ジョンストン環礁に対してミサイルを打ち込む準備を始める。

 この時点で、第三分隊は戦艦4隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦6隻からなっている。

 ミサイルを有しているのは戦艦4隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦6隻。基本的に重巡洋艦は砲撃戦の主力として扱われており、設計を簡易化した結果、配線の都合上、さらにその近接するような砲撃戦を行うという性質からミサイルを配置されるのは見送られた。


 蘭級戦艦とも呼ばれる「見蘭」級戦艦(ネームシップはイタリアの「ミラン」から取られた。あくまでも「見蘭」は当て字)は、40,6cm50口径連装砲4基、12,7cm65口径連装高角砲12基、356mm大直径ミサイル発射口10基、他近接防御火器多数を有し、現在運用中の戦艦のなかでは「アデレード」級戦艦についで大口径の砲塔(アデレード級は46,0cm45口径三連装砲三基)を有しており、太平洋地域においては屈指の有力艦となっている。

 この有力艦の10基が四隻、さらに軽巡洋艦の4基が2隻、駆逐艦の4基が6隻で合計72発のミサイルが一撃で放たれる。


 これらのミサイルを放つ先は、当然だがジョンストン環礁である。


 敵艦隊の現在地は正確には不明であるがために、これらのミサイルはジョンストン環礁へと放たざるを得ない。敵艦隊からもしきりに斥候機が放たれているため、あえて現在地を教えるためにミサイルを捨てざるを得ないのは悲しきことである。

 というのも、敵艦隊の所有している戦闘機や偵察機の航続距離から考えると、ギリギリながら未だに本隊は偵察の目には止まらない。しかし、第二段、三段と放たれれば、本隊も偵察の目に止まる。


 したがって、本隊から目を離させるためにも、いまから派手に動かなければならない。72発ものミサイルを、しかもジョンストン環礁という弱小(とはいえども、かなりの大型拠点。日本列島や沖縄などの島嶼を除けば最大級の拠点)の拠点へ、敵艦隊のウロウロしているところのなかで撃ち込むというのは、大艦隊で余裕があるものがするというふうに考えられる、常識的に考えれば。

 したがって、第二段の偵察はミサイルが飛んできた方向へと集中的に向けられる。


 それによって、ジョンストン環礁にいる敵艦隊の目をこちらに惹きつけるのが目的だった。ただし、ミサイルを放つ前に見つかったら意味がないので、徹底的に上空で偵察機狩りを行っている。


 「ミサイル発射準備完了」

 「各艦順次発射」


 即答で、各艦順次発射を命じる。

 これが、後の世まで語り継がれる、「ジョンストン環礁奪回作戦」の開始だった。

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