第8話「影森庭園」

 「おかえりー」「おーいパライソー」「仕事終わったよ」「見回り行ってきたぜ」「お疲れ様」「もしかして人間?」「ねーねー、誰かいるの?」「お客さん?」「かわいいー」「人間だ」「誰か来るなんて久々だね」「おいお前ら静かにしろー?」


 「わお」


 「い、意外といっぱいですね」


 ツリーハウス同士の間を通るためか、木々の間のあちこちに床が出来ており、そこを30近い数の人がザワザワとうろついている。何人か老人がいるが、大半が子供のようだった。レイとナナが気迫に押されているなか、パライソは聖徳太子のようにそれぞれの問いに回答している。


 「ただいま帰ったぞ! ご苦労だったな、アリエル。リッキーもご苦労! そして今日は客人がいる! 3人、人間と聖霊だ! アルスは客間の用意を! 今夜は宴だ!」


 「はーい」「分かりました」


 それぞれ返事をして彼らはゾロゾロと行動している。アルスと言われた少女はそそくさと奥の方へ走って行った。

レイは少し不安になって後ろを振り返る。

すると案の定……


 「わ、わあ……いっぱいだ……」


 「……大丈夫かお前?」


 「やっぱり……」


 サラはキャロルの影に隠れてその後ろから様子を伺っていた。

これだけ人が居れば仕方ないかもしれない。

 

 「にしても、ここは……」


 「はい」


 レイとナナは、今日何度これをやったか分からないが、とりあえず辺りを見回す。

橋や床が木々の隙間や上下左右に複雑に入り組んでおり、大小様々なツリーハウスがあちこちに点在している。


 「まるで迷路だ」


 「ですね。サラ、降りますよ」


 「う、うん。スー、ハー、スー、ハー、」


 深呼吸して呼吸を整えながらゆっくりと降りてくるサラ。

するとそこへ……


 「いらっしゃい」「よく来たねぇ」


 「ひゃ、ひゃい、よく来まひた!」


 「あはは……お邪魔します」


お爺さんとお婆さん、といった感じの人が声を掛けてきた。

サラの挙動不審な挨拶に、レイは苦笑いをしながら自分も挨拶をする。ナナもペコリと頭を下げていた。

すると後ろからパライソがドカドカと歩いてくる。


 「カール、ピオーネ、クランクラックの調子が悪い。できれば今日中に見てやってくれ」


 「ラッキーちゃんね」「分かったよ」


 老人二人は笑顔で返事を返すと、ノソノソと何処かへ歩いて行った。

パライソがこちらへ振り返って言う。


 「では客間に案内しよう。さあ、ついてこい!」


 呼ばれた方へ歩くレイ達。その後ろをサラが恐る恐るついていく。


その時、ナナが何かに気づいた。


 (子供がいっぱいと、お爺さん、お婆さんが少し……)


 彼らを見回し、心の中で呟く。


 (大人が……いない……?)





 「わあ、綺麗です」


 「ホントだね」


 「き、綺麗だけど……」


 ツリーハウスの一つに案内され、洞穴のような入口から中に入る。

その中には、綺麗に整えられた木材が規則的に配列し、応接室のような一室を作り上げていた。

部屋の中央にはこれまた木で作られた円卓状の机、そしてその周りには椅子が8つ程並べられており、壁にはいくつかランタンが吊るされている。

そして……


 「あの、お疲れ様です。ボクはアルスって言います」


 サラ達より一回り小さい子が出迎えてくれた。9歳か10歳くらいだろうか。

アルスと名乗った少女は礼儀正しく綺麗なお辞儀をしている。銀色の髪を短く整え、服装も清楚という言葉がよく似合う。

物静かな子だと思いながらレイは自分も名乗る。


 「どうもありがとう。僕はレイ」


 「ナナです」


 「さ……サラ……だよ」


 キャロルの後ろに隠れながら、サラがおずおずと名乗った。キャロルが呆れて言う。


 「お前年下も無理かよ」


 「いや、こういうのは子供相手のほうが難しいの!」


 人見知り特有の理論を展開しながらサラが小声で反論している中、ナナが何かに気づく。


 「あれ、後ろに誰か隠れてます」


 「あ、ほんとだ」


 アルスの後ろ、木製円卓の陰に誰かがうずくまっていた。隙間からチラチラこちらを除いているが、ナナに気づかれてそれすらもやめてしまった。

それに今気づいたように、アルスが隠れている誰かに声をかける。


 「ほらロメリア、挨拶しなきゃ」


 「い、いや、ちょっと待って……」


 ロメリアと呼ばれた少女は椅子の裏でオロオロして出てこようとしない。ソレをアルスが引っ張って連れ出そうとしている。


 「ご、ごめんなさい、妹が……。この子はロメリアです」


 なかなか出てこない少女にアルスは観念したようだ。

アルスは静かで落ち着いた雰囲気だが、ロメリアはとても臆病そうに見えた。アルスと同じ銀の髪はアルスのそれと違い伸び切っており、前髪で目元が見えにくい。

人前でこうなる少女をレイとナナははよく知っている。


 「サラみたいです」


 「え、そうなの?」


 「確かにあんな感じだね」


 ナナとレイが同調している中、サラ本人には伝わらなかったようだ。

それらを見ていたキャロルがアルス達に後ろから声をかける。


 「無理してなくていいぜロメリア。コイツらは気にしねえよ」


 キャロルの発言にレイはコクコクと笑顔で頷く。戸惑いながらもアルスは申し訳なそうに呟いた。


 「……そう、ありがとうキャロルお姉ちゃん」


 「その言い方やめろ」


 「お客さんもごめんなさい」


 キャロルの指摘を無視してペコリと綺麗にお辞儀するアルス。

するとロメリアは椅子から片目が見えるだけ顔を出して、おずおずと謝った。


 「ご、ごめ……なさい」


 「いえ、出迎えありがとうです」


 笑顔で礼を言うナナ。ナナもレイも誰かさんのおかげで人見知りの扱いには慣れている。

(それにしても、似てる)

レイはアルスとロメリア、二人を見比べて思う。アルスはショート、ロメリアはロングと髪型は違うが、銀髪や顔、身長に体格など、ありとあらゆるところが瓜二つだ。


 「二人は双子かな?」


 「あ、はい、そうですね。ロメリアは妹です」


 アルスがそれぞれ自分たちを手で指しながら答える。

すると双子という事で親近感を抱いたのか、サラが自分から声を出した。


 「わ、私とレイも双子だよ」


 「あ、そうなんですね。やっぱり、似てるって思いました」


 アルスはそう言いながらサラたちの横、そして後ろを見る。

そして何かに気づいたように声を上げた。


 「え、じゃあナナさんとノエルお兄ちゃんも、もしかして」


 「髪色が一緒なだけだわ、なんでオレだけハブられるんだよ」


 「ふふふ」

 

 キャロルが困惑顔でツッコミを入れ、ノエルはそれを聞いて静かに笑っている。確かに白髪、金髪、銀髪が2人ずついる部屋で、一人だけ青髪なのは違和感があった。

そのやり取りを見ていたレイはノエルとキャロル、それにアルス達の関係をなんとなく察した。

 (お兄ちゃんか……僕もサラにお兄ちゃんって言ってほしいな)


 「僕もサラにお兄ちゃんって言ってほしいな」


 「いや漏らすな」


 心の声がだだ漏れのレイにサラが冷静にツッコむ。レイのシスコンぶりはいつもの事だが、初対面の人がいる前でくらいはやめてほしい。


 「じゃあ、立ったままなのもあれですし、皆さん座ってください」


 「うん」


 「失礼しますです」


 アルスが木製円卓を指しながら催促する。レイとナナは遠慮なく近くの椅子に座り込んだ。サラはかすれ声で「お邪魔します」と言いながらそれに続く。

それを待って、アルスは声を張り上げた。


 「それでは皆さん、影森庭園ガーデンへようこそ」

 

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