第7話「ソードマスター、死す」

 「それで、彼は煉獄卿ロードフレイムからの決闘を受けたんですか!?」


 「もちろん剣聖王ソードマスターも躊躇いはしたが、かつての盟友海神ポセイドンとの誓いを糧に立ち上がったのだ!」


 「剣聖王ソードマスターカッコ良すぎです!」


 (なんの話でしょう……?)


 (さあ……)


 謎の会話に夢中になりながら歩くサラとパライソの後ろを、トボトボとついていくナナとレイ。先程からずっとこんな調子だ。


 「パライソげんきそうだね」


 「いつもあんな感じだけどな」


そのさらに後ろを、特に不思議がる事もなくついてくるノエルとキャロル。パライソは普段からこんな感じらしい。

サラも時々なんの話か分からないような話を、楽しそうに早口で喋っていたのを思い出す。魔法使いのパライソと、才能がないサラという真反対の二人だが、そういう所は似ているようだ。二人とも魔法が好きなのだろう。

(いや魔法の話かは分からないけど)


 「かくして剣聖王ソードマスターは戦い続け、その命の花を華々しく散らせたのである」


 「剣聖王ソードマスター……すごい人でした……」


 (ソードマスター死んだのかよ)

 よく分からない話だったが、とりあえずソードマスターが死んだ事だけは理解できた。

話し終わると同時に、パライソが立ち止まる。


 「ちょうどついたな」


 「「え」」


 レイとナナも立ち止まって辺りを見回す。

先程までと特に変わらない景色だ。草原は芝生で生い茂っており、太陽がそんな美しい景観を照らしている。

強いて言えばゴーレムが現れた時と同じように、辺りに生き物がいなくなっている事だろうか。


 「ここに何かあるのです?」


 「何も無いように見えるけど」


 ナナとレイが困惑して辺りを見回していると、サラが何かに気づいた。


 「あ、これってもしかして、幻覚結界式ですか?」


 「その通りだ。ノエル、頼む」


 「はーい」


 パライソに指示され、柔らかい返事を返すノエル。彼はそのまましゃがみ込むと、手のひらを地面につけて目を閉じる。


 「幻覚って、まさか……」


 「?」


 レイも何かに気づいて眼前を凝視する。ナナはまだ何もわかっていないようだ。


すると次の瞬間、空間が歪む。


 「わ、わわわ、なんです!?」


 眼前に広がる、何もなかった青い芝生の海。

その全てがガラスのように砕けていく。パキパキと音を立て、崩れる。


 「これは……」


 「わあ〜〜!」


 目を見開いて驚くレイとナナに対し、サラは目を輝かせて驚く。

崩れ去ったガラスのような結界の向こう側。

そのは姿を表した。


 「おっきいです……」


 「何メートルあるんだ……?」


 不規則に立ち並ぶ大木は、小さいものでも10メートルをゆうに超え、大きいものでは100メートルにも及ぶ程だ。

そんな巨大樹達が、直径1キロメートル程の範囲に数百本生えており、壮大な森林を形成している。

広がる大草原の中に忽然と現れたそれは、辺りと和やかなそれと比べ異質な空気を纏っていた。


 「あれって、ツリーハウスってやつです?」


 「あ、ホントだ」


 ナナが指差した先、大樹が枝分かれしている所に、いくつものツリーハウスが見える。上の方は見えにくいが、それらしいものが大樹全てについていた。

ツリーハウス同士を繋ぐ橋のようなものが木々の間に渡っており、大森林の上部は一つの村のようになっている。


 (何のために……?)


疑問はいくつかあるが、とりあえず最初に聞きたい事をノエルに問う。

 

 「この森は、ノエルの幻覚結界式で?」


 「うん、かくしてたんだ」


 レイの問いに笑顔で返すノエル。

ノエルは結界で平原全体を覆う程の実力者なのだから、これくらいで驚く事はなかった。

しかし問題はなぜ隠していたか、だ。


 「どうしてこの森を?」


 「かくしてたりゆう? それはね──」


 「ここが!」


 ノエルとレイの会話に突然割り込んでくるパライソ。先程までと変わらずテンションが高い。


 「この森が、俺の、俺達の拠点であるからだ!」


 「拠点!?」


 同じようにテンションが高いサラ。森全体を見回しながらパライソの話を聞いていた。

パライソが続ける。


 「そうだ……ああ、来たな」


 「来た?……あ」


 言われて大樹を見上げ、そのまま固まるサラ。それを見てレイとナナも大樹を見上げる。

それと同時に、は姿を表した。


 「あ、パライソー!」


 「おかえりー」


 「見回り終わりましたー?」


 大樹上部のあちこちにあるツリーハウスから、ゾロゾロと彼らは飛び出してきた。

ここから見えるだけでも30人程いるだろうか。そのうち、サラ達より小さい子供達数人が、パライソに向けて大きく手を振っている。


 「ああ、俺は帰ってきたぞ!」


 頭の青い炎をより一層燃え上がらせて叫ぶパライソ。


 「いっぱいいるのです」


 「ここに住んでるのかな」


 ナナとレイは驚きながらも落ち着いた様子だ。

それに対してサラは……


 「ど、どうしよ、こんなに誰かいるとか考えて無かった、どうしよ」


 「あはは……」


 やはり慌てているサラにレイは苦笑いをする。

すると後ろからキャロルとノエルが声をかけてきた。


 「おまえコロコロキャラ変わるな……」


 「ダイジョーブだよ、みんなやさしいから」


 そう言いながらノエルは再び地面に手を付け、全員が乗れる程の大きさの結界を床のように作り出す。


 「さあ、のってのって」


 「これに乗ってくんですね」


 「浮かせたりできるの?」


 「ううん」


 レイの問いに首を振って答えるノエル。

すると後ろからパライソがドカドカと乗り込んできた。


 「俺が浮かせる!」


 「なるほど。サラ、おいで」


 「う、うん」


 レイの手招きにおずおずと応じるサラ。人見知りは困りの種ではあるが……


 「困ってるサラもかわいいね」


 「それもういいから」


 呆れている様子のサラ。この反応もいつも通りだ。

サラが乗り込むと、床の結界がふわりと宙に浮く。


 「天空支配者スカイルーラーよ、その業を魅せよ!」


 パライソの掛け声と同時に、結界が緩やかに上昇を開始した。

ナナは不思議そうな声を上げる。


 「呪文です?」


 「いや、言ってるだけだ」


 「ああ……」


 キャロルの回答に呆れながら納得した様子のナナ。

結界は10秒と経たずに60メートル程の高さまで上がりきり、その場にあった一際大きなツリーハウスの前で止まる。

木の根のあたりは木陰なので少し暗いが、上部にはランプのような物があちこちについており、生活するのに問題はなさそうだ。

結界から降りようとすると、先程下から見えていた子供たちが不思議そうにこちらを見ていた。客人は珍しいのだろうか。

そんな事を考えていると、パライソが嬉々として叫ぶ。


 「さあ、入るがいい! 我が拠点、影森庭園シャドウフォレストガーデンへ!」


 「さっきからずっと思ってたけど……」


 「はい……」


 レイとナナが心の中で同時に呟く。


 ((ワードセンスが無い……))

  

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