第5話 ギャルはチョロイン

「兄貴、どこで髪切ったの?」



 夕飯時、家族四人で食卓を囲んでいると早速妹から尋ねられる。


「1500円カットだよ」

「の割にはいつもよりもサッパリしてるっていうか、オシャレだね」

「ああ、前のは髪が目に入っていたかったからイメチェンイメチェン」

「あっそ」

 訝し気に覗かれるも適当に嘘をついて誤魔化す。

 それにしてもまぁ嫌われたもんだよなぁ、昔はここまでじゃなかったのに。



 矢張りあのことがバレているのだろうか?



 いや、そうであれば家族に告げ口し路頭に迷わせるのも辞さない人間だからそうじゃないとは思うが、薄々感づいてるのかもしれない。


(まぁいっか)


 聖良乃に口外されなければこの恥部を墓場まで持っていける。


(それにしても何で彼女はこのこと、知っているんだ?)


 謎は深まるばかりだがここで考えても仕方ない、今度聞いてみることにしよう。


 ♦♦♦♦


「ふわぁ~あ」


 明くる朝、いつも通り眠気眼を擦りながら学校に向かう旭。

 鏡を見たらいい感じに仕上がってたし、案外僕ってカッコいいんじゃないか?と上機嫌にもなったがそれで大したことないって思われても虚しいだけなので自惚れないことにした。


(にしても)

 昨日の清瀬沙織の件が気になってしまう。

 どう考えても悪いのは彼女なんだから僕が謝罪をする理由なんてないがそこはヤンキー、逆切れ逆恨み上等かもしれない。


「今日もいい天気だなぁ」

 陽射しはぐんぐん伸びてゆき、今朝は涼しい風も吹いている。

 今年の夏休みはゲーム三昧になりそうだと期待の意気を込めるが昨日交わした主従契約、あれはどうなる?


(休みの日にまで呼び出されて無茶苦茶なことに付き合わせられなければいいけど)

 ノリで頷いたがもうげんなりしている旭。

 彼は行けたら行くタイプの人間なので気が乗らなければ何もしたくい無為徒食の人なのだ。


 そうこうしている内に学校が見えてきた。


 ♦♦♦♦


「んっ」


 教室に向かっていると珍しい通知音が。

 それは彼のスマホの音で、届いたメッセージの内容は、


『昨日清瀬さんと何かあった?』


 と一言。



(あっちゃ~)



 その一文で全てを察した旭はバックレようか迷うが、こちらに非は何もないんだ。


 堂々と立ち向かおう。


 そもそも髪を切ったから別人?と思われるかもしれないし。



 わいわいがやがや



 冷房の効いた教室は柔らかい雰囲気に包まれていて、色とりどりのグループが元気よく馴れ合っていた。


 僕はなるべく目立たないよう教室後方をなぞるように歩き窓際最後ろの主人公席に足を進めるが、


(げっ)


 デジャブ。

 清瀬沙織が僕の机の上に乗っている。


 相変わらず極限まで短いミニスカート越しの肉厚そうな臀部を擦りつけているが今日一日そこで授業を受けるのは僕なんだぞ?

 匂いに耐えながら授業を受ければいいのか?なんて馬鹿な考えを取り止め透明人間の如く近づいた。


「ア・・・」

「ん?」

 流石に背後まで近づき声をかければ嫌でも気付くだろう。

 沙織は旭の存在に気が付くと睨みつけるようにジーッと容姿を見る。


「お前、昨日の夏目旭だよな」


「ハイソデスケド」


 しまった、そういえば去り際に自分のクラスと名前を叫んでいた。

 彼女はゆっくり立ち上がる、連動するようにイカニモなサイドテールが揺らめいた。

 そして躊躇なくスラリと伸びた片腕が僕の首に回され、


(殺される!?)


 暴力による制裁を覚悟する。



 が、



「いやースマンスマン!」



(あれ?)


 沙織は教室の喧騒に背を向けるよう僕を引き寄せると、ケラケラ笑いながら謝ってきた。


「お前ホントにこのクラスの人間だったんだな!疑ったりしてごめんな~」


 真横には可愛い顔があるし、下に落とせば豊満で苦しそうな谷間がたゆんたゆん。しかも僕の胸部に当て擦れられているというオマケつき。


「お前暗すぎて全然いるか分かんなくてよ~そうならそうとちゃんと言ってくれればいいのに~」


 ちゃんと言ったはずだが信用しなかったのはそっちでしょーが!と心でツッコむ。

 しかし誤解が解けたのであればもう何も言うまい。


「てか髪切ったよな?絶対そっちの方がいいって!」


(あれ?)


 ニシシと屈託のない笑みを向けてくれる陰キャに優しいギャル。

 旭の恋愛メーターはマイナスぶち抜いて360度回転しっぱなし。


(もしかして清瀬さん、いいのでは?)


 普段は強面なのに実は優しいギャルなんて本当にいるんだ。

 旭の中にむくりと、邪で健全な気持ちが湧いてきた。


「・・・僕は傷つきました」


「え?」


 思わぬ反攻にキョトンとする沙織。

 背後に響く明るい声とこの片隅のギャップがわりかし純粋な彼女の心を曇らせた。


「このままじゃ清瀬さんを許せません」


「おいおいマジで悪かったって、ほら学校だって盗難事件とかあったりするだろ?」

「だからこの席の奴もその被害に遭うんじゃないかって心配したから疑っちまったんだよ」

 軽薄な態度はやや焦り気味になる。


「もういいです、昨日のことは先生に相談させてもらいます」


「せっ・・・!?」


 奥義、先生に言いつける。

 今日日小学生でも使わないような意地汚い手をこのギャルにぶつけてみるが果たして?


「あーもう分かったよ!じゃあどうすればいいんだ!?」


(きたっ!)


 半ばヤケクソ気味に声を荒げる沙織。

 本来なら突き放されてもおかしくない場面だが、今朝の態度を鑑みて勝負に出る。


「・・・なら、僕とも仲良くしてください」


「へ?」


 精一杯恥じらいを持たせ小動物のように呟いてみる。

 傍から見れば媚びすぎ打算的すぎと言われそうだが当事者同士では話が変わってくるのだ。


「このままじゃ悔しいんで僕のこと覚えてもらえるよう、清瀬さんと友達になりたいんです!」


 肩を組んできている彼女にだけ聞こえるよう押し通す。


「・・・」


(駄目か!?)


 こういう時聖良乃であればこんなヤキモキせずにいられるんだろうな。


「別にっ・・・いいケド?」


 パッと沙織の顔色を窺うとこんなの心を読むまでもない。


「///」


(チョロすぎない?)


 勝った!

 そう確信させるようなかんばせ。


「やった!僕友達って全然いなくて、清瀬さんが初めての友達です!」


「あたしが?」


「迷惑かもしれませんが実は前々から目で追っちゃってて・・・」

「いつか仲良くできればなーって」


 下ろし立てニューフェイスの笑顔を気持ち悪いくらいに振りまくと、彼女は面を食らったように呆けた。


「・・・あたしでいいんならいいけどさ」


「はいっ!」


 今までの陰キャ具合はどこに行ったのか、名優も真っ青な演技に自分を同化させ手際よく会話を進める旭。


 もう一度言わせてもらうが彼は行動力だけはある。


 四度告白に失敗した経験は伊達じゃない!


 そして昨日のことにより若干気分が浮ついた彼は沙織の根底を見抜きイケると踏んで実行に移した。


「もしよければ連絡先聞いていいですか?」


「へぇ!?いっ今っ!?」


「もうチャイムなっちゃうし、駄目ですか?」


「別にいいけど」


(いいんだ)


 したり顔を彼女に悟られぬよう隠しながらスマホを弄る旭。



(こいつ・・・手震えてる)

 沙織は旭の指先がフルフルと震えてるのに気付き、勇気をもって告白したんだなとちょっぴり男らしいところに意識が向く。





(チョロスギィwwwwwwww)





 一方の旭は、まさかの棚ぼた展開に笑いを堪えているだけなのであった。



 キーンコーン・・・



「あっ、じゃあ席戻らないとですね」


「おう・・・あのさ、改めて悪かった」


 やっとバスト生き地獄から解放された旭。

 沙織は眉を顰めそっぽを向いたままぽつりと呟いた。


「・・・もう友達だから、気にしてないですよ」


「ん」


「おーいホームルーム始めるぞ~席に着けー」


「じゃな!」


 そして顔も見せず自分の席に戻ってゆく。



 一瞬、頬が染まって見えたのは気のせいだろうか?



(いや気のせいじゃないな)



 確かな手応えを感じた旭は、


(彼女はタイプじゃないからな~まぁどうしてもっていうなら?彼女にしてもいいけど?)


 と鼻の下を伸ばし調子に乗るのであった。





 そんなことが行われていたとは露も知らない教室の連中と、





 そんなことを密かに観察していた神宮寺聖良乃。





 物語まだ始まったばかりだ―――――――――。





 ♦♦♦♦


 今回はここまでです、読んでいただきありがとうございます。

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秘密の主従契約~告白にフラれた僕はクラスメイトの美少女に弱みを握られイチャラブすることを誓います~ 佐伯春 @SAEKIHARU

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