第4話 チェンジ・ザ・マイセルフ
「てかさ、アンタ誰?」
ギロリと威風堂々凄んでくる。
あれが野獣の眼だ!
ギャルという集団に君臨する孤高のカリスマ、
聖良乃よりもっと幼い顔つきなのにオーラを放つ彼女は獲物である旭に食って掛かる。
「アンタさ、この席の―――このクラスの人間じゃないよね?」
確信漲る声色で責め立てられるともういけません!
僕はいそいそ逃げたくなるが発言の間違いを正すため下準備をする。
『マルコム・ク〇ウは幽霊』
まずは黒板の落書き、アレはウチのクラスのもので間違いない。
次にカバン、これも自分の。
そして・・・というかクラスメイト、これも変わりない。
「盗みとかよくないよ」
彼女は待ってたんだ、僕がカバンに手を伸ばすまで。
旭は別のギャルを見遣るが不審そうな、沙織に同調した感じで頼れそうもない。
「えっと・・・」
「ん?言ってみ?」
「(こわいよぉ)」
聖良乃の評価通り人畜無害な捨て犬は男子どころか女子にすら歯向かう牙を持たず、弁も立たないので心の中でギャァーと叫ぶしかない。
「エト、ボクココノセキデス」
「声がちいせぇよ」
ラブリーな外見とは裏腹にヤンキーな口調は竹元先輩を連想させる。
「 ここっ!!僕の席です!! 」
過呼吸になる前に最後の力を振り絞り腹の底から叫んだ。
「っ」
流石に仰け反る沙織、周りも同じ、しかし―――、
「嘘つけ!アンタみたいなヤツこのクラスにいないぞ!!」
(どうすりゃええねん)
非道いことを言われ僕は今猛烈に傷ついている。
脱力感、ガソリンが空の自動車はエンジンを掛けてもうんともすんともいわないように、腰が抜けそうだ。
(逃げちゃ駄目だ)
しかしまぁ、僕みたいなヤツに限って変な根性はあるわけですよ。
グッ!
一日一回だけ使えるスキル、こらえるで何とか耐え凌ぎ敢然と立ち向かう。
「2年F組の夏目旭!」キッ!
「ハァ?」
清瀬は身をこちらに捩じらせながらまだまだ疑い中。
なのでここは帰ることにした。
「じゃそゆことで」ガシッ!
しっかりカバンの紐を肩に掛け逃走。
「おいっ!!」
彼女はこちらに手を伸ばそうとして、
スカッ
空振り、そのまま体勢を崩し床に落ちそうなところ―――、
キャッチ!!
なんてことをするはずもなく、体育2の健脚で廊下に飛び出て昇降口まで向かう。
出る瞬間教室を一瞥すると沙織は腕立て伏せをしていた。
だから大丈夫だろうと一安心して駆ける駆ける駆ける。
ただ一心不乱に、無我夢中で靴底の痛さを感じながら。
(やっべ、アオハルっぽい)
ダンダダダダンと校舎の固い床を蹴り上げスクランブル。
校門を抜け後ろからの気配がないことを確認しやっと一息、整わない呼吸を無理矢理鎮め両手を両膝に置きゼーハーと残りガスを吐き出した。
(気持ち悪)
震える膝。
久々にエンジン掛けたせいか尋常じゃない疲労感に襲われるも、猛烈な達成感!
ポタポタ舗装道路に水滴を垂らしシャツで顔を拭う。
(・・・明日、学校休もうかな)
旭はもう弱腰に戻り、そんなことを考え始めた。
♦♦♦♦
嗚呼我が世の春。
なんという一日だっただろうか。
旭は自宅に帰りすぐパソコンと睨めっこ。
これはもう日課でこの家の電気代の半分は僕が消費しているほどにのめり込んでいるんだ。
『あさひー??ちょっと買い物行ってきてー??』
デスクチェアに腰を掛けた瞬間一階から母の声。
(めんどくさ)
と思いながら買い物に行ってあげる孝行息子の僕えらい。
「これね」
今時珍しいメモ用紙とお金。
「・・・ねぇ母さん」
「ん?」
その時、何を思ったのか頭の片隅にあった願望?を打ち明けてみる。
「・・・美容室とか、行ってみようかな」
ポロッと淀みなく、然も昔からの予定みたいに。
「いいんじゃない?お金あるでしょ?」
「・・・じゃあいい」
「あーはいはい出してあげるから!いくらぐらいなの!?」
この手に限ると陰でしたり顔をするも幾らと言われフリーズ。
普段行きつけの床屋で同じ値段しか支払ってないから、オシャンティーな場所の料金設定なんて・・・。
『ただいまー』
頭を抱えている時に玄関口から轟く挨拶。
バタバタと騒がしい足音がリビングにやってきて、睨まれた。
「ちっ」
チョコレートみたいなテッカテカで水滴がついた髪をバサバサはためかせながら入ってきたのは我が妹、
瑠璃華系統の容姿で兄よりも高身長イケメン、高一の癖して馬鹿みたいに育ったなぁとスポーツTシャツ内の巨乳を一瞥し母に向き直る。
「ねぇ夕、あんたの行ってる美容院っていくらぐらいだっけ?」
「え?んと6000円くらいかな?」
「(ろくっ!?僕なんてイチゴーだぞ!?)」
格差を感じる兄。
「何で?」
「お兄ちゃん美容院行きたいって―――」
「 絶対ウチの店に来ないで 」
本気で軽蔑するような眼差しが血を分けた兄妹に向けられる。
黄色い瞳は断固として反対の意思を示すかのように燃え滾っている。
釘を刺したと忠告した夕はテニスラケットが入った袋をその場に置き、洗面所に足を運ぶ。
「あの子ホントっ、あんたのこと嫌いよね~」
「(おいババアもう少し言い方があるだろう)」
しかしまぁ今に始まったことじゃないしもう慣れたのでこちらも気にしない。
「でもその前髪!確かにちゃんとしないとこれからの時期蒸れるでしょ??」
「しかもそんな陰気臭くして、彼女できないよぉ??」
「余計なお世話、買い物行くから」
小言を聞いたら母はテーブルの財布からプラス諭吉を差し出してくれた。
「買い物行く前にちゃちゃっと済ませてきなさい!今の時間なら空きあるかもしれないし」
「いいの?」
「買ってきて欲しい物も明日の朝用だから遅くなっても大丈夫、えっと確か・・・」
母はスマホで何かを検索すると、住所をスマホに送ってくれる。
「家出たら電話してみて、くれぐれも他のことに使わないように!」
「へぇへぇ」
反抗期の妹を無視する母と兄。
すまないと思う気持ちはあるがこれも僕が変わるためなんだ、許しておくれ。
旭は軽やかな足取りで商店街に向かった。
♦♦♦♦
「今日はどうしますか~」
夕方、豆腐屋の喇叭と総菜屋の呼び込み、自転車の車輪がシャカシャカ回る音、往来の雑踏・・・に似つかわしくない原宿系の美容院に訪れた初心者。
幸いすぐに予約が取れ席に案内されたが、デビューしたばかりで右も左も分からない。
「(おっぱいでっか)」
担当してくれるお姉さんの胸元に注視しながら思考停止する。
本日四度目くらいに胸のことを考えているがスケベなのではない、目立つから印象に残り思想に耽るのだ、ここまでも貧乳の女性もいたが悉く脳裏に明滅するは巨乳の乳房。
「お客様??」
僕はハッと正気に戻りフィルターの役割もなしているこの前髪を取っ払おうか逡巡する。
「えっと・・・」
「?」
お姉さんは首を傾げとりあえず髪を触ってくるが、昂る。
「そしたら先に髪だけ洗っちゃいましょうか」
「アオネガイシマス」
様々なイケメン髪型を巡らすがどれも似合いそうになく彼女を困らせてしまった。
「じゃあ洗いますね~痒いところあったら言ってくださーい」
顔に布を被せられ全神経が彼女の手先に集中、リアルASMRを受け眠気が襲ってきた。
温かいシャワーと誰かに頭を洗われる特別感、シャンプーがもこもこ広がりじゃじゃっと頭皮を揉まれる夢見心地。
(たまらん)
床屋のおっちゃんの非じゃないテク(補正有り)で癒されたあと髪をギュッと絞られバスタオルで乾かされる。
「さっぱりしましたね~ではこちらへー」
もう一度席に戻り落ち着いたところで、
「あの、お姉さんのオススメで・・・カッコいいのならなんでも」
と頼んでみる。
「もちろんです!」
それを彼女は嫌な顔一つせずに答え、僕の要望に応えてくれる。
(うぉぉぉぉぉ!!!)
そして睡魔と必死に格闘した結果・・・、
「はいどうですか!」
「うわっ」
「え!?」
「ア違うんです!!」
あまりにもサッパリしたものだから一瞬鏡に別人が映ってるのかと思い悲鳴を上げたのだ。
「すっごい、いい感じです」
「よかったです!お客様学生さんですよね?あまり髪セットとかしないタイプなのかなーって思ったので朝でも時間かからないような感じにしました!」
「おぉ・・・」
よく分からないが良くなったんだろう。
そして再びシャワーでさっぱりしお試しワックスをつけてもらったところでお時間終了、あっという間の一時間だった。
「ホントお兄さんカッコよくなりましたよ!」
「えっ」ドキッ
会計の際お姉さんに余計な一言を貰ってしまう。
「またお願いしますね~」
「はっはい・・・」
「・・・」ドキドキ
(・・・すきっっ!!)
こうして初めての美容院は何とも呆気なく終わってしまった。
もしかしたら自分は陰キャではないのではと疑問を抱きつつスーパーに向かう。
明日のことなんてすっかり忘れて・・・。
♦♦♦♦
今回はここまでです、読んでいただきありがとうございます。
ほぼ毎日更新でやろうと思いますので、明日もお楽しみに。
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作者Twitter https://twitter.com/S4EK1HARU
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