第4話 茜の過去

今から約1年前、私は高校1年生だった。

 瞬とはクラスが同じで席が隣だった。彼はクラスの中心にいるような人で、反対に私は隅で読書している芋女。真反対な2人が話すことは無いだろうと思っていた。

 

 「それ、面白いよね。」

 放課後、夕日が差し込む教室に2人だけ。

 日直の仕事を終えた後、瞬は話しかけてくれた。

 「これ読んだの?」

  恋愛モノのシリーズだから意外だった。

 

 「読んだよ。男で恋愛モノって変だろ?」

 少し頬を赤らめながらそっぽ向いている瞬が可愛いかったのを今でも覚えている。

 

 「ううん、変じゃないよ。瞬くんは本を読まないタイプに見えたから意外だっただけ。」

 小さな嘘をついた。

 

「ははっ、俺、どんなイメージなの?」

 頬を掻きながら瞬は目尻を下げて笑った。

 「明日、教えてあげるね。」

 

 少しのイジワルをした。これで明日も話せる。

 私の想いは届かなくていい。たまに話して、笑ってくれたらそれでいい。そう思っていたから、瞬の次の言葉にはびっくりした。

 

 「なぁ、これから一緒に帰んない?今日だけじゃなくてずっと俺の隣に居ない?」

 

 「えっ、、、それって、どう言う意っ」

 最後は言葉にならなかった。

 瞬の声が耳元で聞こえる。瞬の茶色がかった髪が私の頬を掠める。

 「こーゆー意味なんですけどね。ダメですか?」

 勿論、意味は分かっている。

 

 「どーゆー意味ですか?言ってくれないと分からないです。」

 

 瞬は私をそっと引き離すと、真っ赤な顔をして目を見て言ってくれた。

 

 「好きです。彼女になってくれる?って意味だったんだけど……」

 

 「はい。彼女になりたいです!」

放課後。夕日の差し込む教室で、瞬の、好きな人の彼女になった瞬間。

 

  私にはこの瞬間が全てだった。今もなおこの時を超える幸せは他にない。

 過ぎた幸せが戻ってくることはない……。

 

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