第48話 過去の罪①

 ティルジン王にはカドラの表情と同じ表情を過去に見ていた。思い出したくないほどに、ティルジン王の中には悲しみと恐怖と怒りが溢れていった。ティルジン王は幼いころから母であるヨアにべったりだった。ヨアはいつも笑顔で、国の人々からもとても愛されるほど、優しい人だった。しかし父のスペディアはティルジン王のことを常に白い目で見続けた。

「お前は王子なのに何故そう、ヘラヘラしている?」スペディアがティルジン王に何かを言う時はいつもティルジン王を貶すようなことしか言わなかった。ある日ヨアの様子がおかしくなった。夜になり、ヨアとスペディアは部屋にこもり、何かを話しているようだった。ティルジン王は使いに寝るように促されたが、気になり寝ることはできなかった。すると急に怒鳴るような声が聞こえてきた。驚いたティルジン王はいてもたってもいられず、2人のいる部屋に向かった。ティルジン王が廊下を歩いている途中、怒鳴り声は聞こえなくなった。2人がいるであろう部屋のドアを開けてみると、スペディアは覗いているティルジン王に気が付き、いつもとは違う目をしてティルジン王のことを見つめた。何も言わず、ただどう言い訳をしようかと迷っているようだった。ティルジン王はスペディアを無視し、ヨアを探した。だがヨアの姿は見当たらず、疑問に思ったティルジン王は

「母上は?」と聞いた。スペディアは何も言わなかった。どうすることもできないと思ったのか、スペディアは部屋から出て行った。

「父上?」スペディアを追いかけようかとしたとき、足が濡れたような気がした。足元を見ると、赤い液体が少しづつ広がっていた。

「・・・」ティルジン王は息を飲んだ。液体をたどって見ていくと、目を開いたままで肌が白く染まったヨアが倒れていた。生きることを忘れたように目には光一つ入っていなかった。

「なん、で?・・・」ティルジン王は悲しさと苦しさと怒りで頭の中がぐるぐると回っていた。するとどこからか兵士や、使いが大勢部屋に入り込み、ティルジン王を部屋から連れ出した。その日からスペディアはティルジン王を奴隷を見るような目で見るようになった。その度にティルジン王は怒りと復讐心に襲われた。ティルジン王はスペディアに何故ヨアを殺したのか何度聞いても、

「私の事情だ。お前には関係ない」としか答えなかった。そしていつしか

「父を殺してやる。全員私の言うことだけ聞かせて私だけの世界を作ってやる」と思うようになってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る