第2話

「ベイビー・マイ・スコーン」2


 スクラップ工場に咲くタンポポの上をモンシロチョウが飛び交っているー。


 大きな荷物を持ったモモがニコニコしながら近づいてきた。

 店先でタバコを吸いながら僕はそれを見ている。

 近づいてくるモモの目は青く腫れている。

 …腫れている。

 慌ててモモに駆け寄った。

「どうした⁉」

「ごめん…出てきちゃった」

僕はモモの荷物を持って家の中へと案内した。いつもスコーンを作っている台所へモモを連れていき、タオルを絞って目に当てた。

 だいたい想像がつくから何も聞かなかった。

 モモにチェリオのメロン味を渡して僕は店に戻った。


 ホットモットで弁当を買ってモモと食べた。

 母親は店の客たちとゴルフコンペで栃木に行っている。

「急にごめんね…」

「荷物はそれだけか?」

「…うん」

「他にもあるんだったら俺が取りに行ってあげるよ」

「いいの…これだけでいい」

「明日スコーン作ってくれるかい?」

モモは深く頷いた。


 これからモモとここで暮らすー。

 心配事が多すぎる。

 心配事が多すぎると言うだけで、心配はしていないからどうでも良かった。ただ、モモの目の腫れが心配であった。


「おじさん、こないだのお菓子無いの?」

「こないだのお菓子って?」

「お姉さんがくれたやつ」

「君、なんで僕がおじさんでモモがお姉さんなの?たいして歳は変わらないんだよ」

「スコーンの事かなぁ…美味しかった?」

「うん、お母さんがまた食べたいって!」

「嬉しいね!」

モモは笑顔になった。

「売ってみるか?」

「いいの?」

「いいよ」

僕達は店を早めに閉めて商店街へ材料の買い出しに行った。なんだか、商店街を買い物しながら歩いていると夫婦みたいであった。


 金も無いし、夢もない、やりたいことも無いし、自分を夢カメラに写してみる。

 チーン!ゼロ円!

 だな…モモは一時だけ僕の所にいるだけだ。頼られるのは嬉しいけど、生意気に切なくなる。

「こら!サボってないで生地をこねて!」

「あ!ごめん」

モモに叱られた。

 明日、スコーンを売ってみるから夜のうちに仕込みをしている。

「小判はコートニーを探してるの?」

「ホールはよく聴いてるよ」

「あたしはレッチリが好き」

「レッチリも良いよね」

「…」

「ちなみにね…コートニーがいたとしたらね…加藤コートニーになると、ただのハーフになるよ…そしたらワケわからなくなっちゃう」

「あ!確かに!加藤ラヴもおかしいね!」

「うん…しかも。カートはコートニーだったけど、俺は小判だからね…全然カートコバーンじゃないし」

二人で笑いながら仕込みをした。


 気合いを入れすぎて朝の六時に店を開店させた。

「早すぎない?駄菓子屋が朝の六時にオープンなんて」

モモはまだ寝間着である。

「モモのスコーンを早く売りたくてさ!」

「だって誰も歩いてないじゃん」

新聞配達をしている同級の久保が通りかかった。

「コバ何やってんの?」

「おお、久保!これ買え」

「何これ?」

「スコーンだよ」

久保はその場で食べた。

「お!美味い!」

「だろ?」

モモはカーテンにくるまって様子を見ている。

「もう一個買うよ」

「ありがとう!」

久保はスーパーカブで走り去った。

「モモ売れたよ!」

「かなり強引に売ったね」

「でも、喜んでくれたよ」

「私も着替えてくるね」

僕はモモの手をつかんでキスをした。モモははにかんで僕にもう一度キスをしてくれた。


 雀と共に労働者の出勤時間になった。

 駅に向かう同級達は皆スコーンを買ってくれた。ちょうど駅までに歩きながら食べれると喜んでくれたよ。タカシも買ってくれた。

 昼からは子供達が親達を連れてきてくれた。スコーンはあっという間に売り切れた。


「凄いね!売り切れちゃったね」

モモは喜んでいる。

「…」

「どうした?」

「明日も作っていい?」

「え!」

「だめ?」

「いや!逆だよ!凄く嬉しいよ!」


 僕達は毎日スコーンを売っている。


 その日は朝方から豪雨だったけど、僕達は晴れやかだった。ビニール傘をさして二人で出掛けた。

 市役所は荒川沿いにある。


おわり

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ベイビー・マイ・スコーン 門前払 勝無 @kaburemono

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