ちょこっと休日

第9話 Heyシリと呼んだら怒られた

とある休日

博文の部屋


 フウリが家に住み着いてから、やって来た休日。得に用事もなく、家でゆっくりとしようと考えていたのだが、同居人達はそうもいかない。


「ご~しゅ~じ~ん~、暇です~。お出かけしましょうよ~」


「あ"あ"ぁぁぁぁ~~」


「とは言ってもなぁ。俺はゆっくりとゲームしたいの、インドア派なの」


 そう、世の中の人間は二つに分けられる。

 それは、休日に外に出るのは勿体ないと考える人間と、そうでない人間だ。

 たまの休み、だからこそ家にいたい。

 たまの休み、だからこそ家にいるのなんて嫌だ。

 相反する考え方だが俺は断然、前者。バイトもない用事もないといったら、家でゴロゴロしたい!

 ということで、テレビの下に置いてあったとある物を引っ張り出す。


「にゃん? なんですかそれ? ゲーム機にして古いみたいですけど……」


「いわゆるレトロゲームってやつだ。これが面白いんだよなー」


「のじゃあ"あ"ぁぁぁぁ~~」


 新しいゲームも良いけれど、古いゲームだって面白い。最近のゲームは遊びやすいが、チャレンジ精神はやや足りないものが多い。だからこそ、たまにアホみたいに難しいゲームが遊びたくなるのだ。


「ん、というかお前知らないの? 俺のスマホなら知っててもいい気もするけど……」


「そ、そこはほら! 何でも知ってたら、その……新しさがないじゃないですか!」


 ああ、なるほど。確かにうん、何でも知られてたら顔を合わせて喋れないわ。男の劣情は知らないで欲しいわ。


「う"んむ"うぅぅぅぅ~~」


「つーかフウリうるせぇぞ!? 扇風機の前で遊ぶな!」


 さっきから扇風機の前で声を出して遊んでいたフウリが、くるっとこちらを向く。

 土を落とした影響か、その着物は新品のように綺麗になっており、眩しいくらいに美少女だ。

 まさに両手に花ってか、ははは。


「はぁ、われはもうここから離れんのじゃ……なんと、気持ち良い風か……」


 さすがは元風鈴、風が好きらしい。奏でるのはダミ声とかいう不協和音だけど。


「俺達はゲームするから少し静かにしてろよな? 隣から壁ドンされても知らないからなー」


 1DKの部屋だからこそ、個室なんて用意出来ない。美少女二人と、同じ屋根どころか同じ部屋だが……付喪神にむふふなイベントは起こらない。

 だって着替えもしなければ、お風呂も入らない。風鈴磨きとスマホの汚れを取れば終わりだもん。


(……でもま、これくらいの方が気持ち的には落ち着いていいか。なんかこいつらがエロいことやっても、ムードが足りなさそうだし。うん)


「ご主人ご主人! 私もやりたいです! 一緒にゲームをやりましょう!」


 目を輝かせながら、前のめりで尻尾をふりふりとさせるスマ子。そして目の前で揺れるのは、ほどよい大きさの胸。

 前言撤回、目に悪いわこの子。無邪気って罪だ。


「……よーし、なら俺の新しいスマホを出せ。攻略を見ながらお前と遊ぶために必要となるからなぁ! さあ、早く出せ!!」


「にゃ、にゃんですと!? でも確かに一理あります……うう、でもでも! あやつをご主人に渡すわけには……!」


「あーあ、残念だなぁ! 俺もスマ子と遊びたいんだがなぁ!(チラッチラッ)」


 世の中には2台持ちなんて腐るほどいる。別に新しいスマホを持ったからって捨てるわけではないのだが、スマ子は一台持ちに謎のこだわりを見せている。


「……や、やっぱり出来ません! 魔性のスマホをご主人に渡すなんて、出来ません!」


「くそっ、ダメか! なんとかして場所さえ分かれば……って、ん?」


 そういえば、アキュホンには言語アシスト機能が搭載されていたはず。グー○ルみたいに尋ねれば、もしやこいつも……?


「……仕方ない、こうなりゃ最終手段だ! 俺の新しいスマホを意地でも持ってこさせてやる!」


「むむ、博文の目が本気じゃ! 何か仕掛けて来るぞ、スマ子!!」


「ええ、その情報で私に何をしろと!?」


「いくぞ、スマ子! 俺の絶対命令アブソリュートオーダーを受けてみろぉぉ!!」


 他人の言葉でもたまに反応するから、少し不便だったが今は感謝したい。何故なら、スマ子ならば絶対に逆らえない魔法の言葉となるからだ……!


「Heyシリ、俺の前に持ってこい!!」


「……!?」


 絶対命令アブソリュートオーダーにより、体を固まらせるスマ子。

 ははは、そりゃそうだろう。無茶振りは基本的にはぐらかされてしまう機能だが、何も無茶なことは言っていない。

 つまり、俺の言葉は絶対! 持ってくるしか選択肢は、ない!


「……お、お……!!」


(……俺の勝ちだ、スマ子……!!)


 心の内で、悪い顔で勝ち誇る。なんだ、最初からこうしていれば──




「女の子にお尻を出せって、何を言っているんですかぁぁぁぁ!?!?」


『バチコォォォォン!!』


 ──違う、そうじゃない。

 Hey、尻を俺の前につき出せじゃねえよ。


 会心の一撃により、車田博文は力尽きた。


「……いい、一撃だったぜ……スマ子……(ガクッ)」


「ってああ!? ご主人、しっかりしてください、ご主人~~!!」


「あ"あ"ぁぁぁぁ~~」




 ──この後、俺が目を覚ましたら皆で楽しくゲームを遊んだ。

 新しいスマホは、まだ行方不明のままだ。

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ある日、機種変更した古いスマホが女の子になったら ソシオ @Warazimusi

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