後日譚

第28話 後日譚① 新たなる魔王の登極

カルブンクリス達の働きにより無事魔王ルベリウスは討伐されました。 この度の叛乱のお蔭で魔界の民達は大いに救われた事となりました―――が、しかしながら『魔王』が後継を決めないで亡くなるなど前代未聞、ならば結論としてカルブンクリス達が起こした事とは罪に問われる事なのでしょうか。 実はそうではなく、カルブンクリスの蜂起が無ければ出口の見えない混迷の時代は続いていたのでしょう。


―――…


〖神人〗〖昂魔〗〖聖霊〗の長達は今回の叛乱を大きく取り上げ、その功罪を明らかとしたのです。 そう、この『叛乱』には“功”と“罪”とがある。 “功”の部分は言うまでもなく、この魔界を混迷の時代にした『暴君』としての魔王を討伐した事、ですが“罪”とは…それは善きにしろ悪しきにしろこの魔界の王を討った事―――しかも魔王は後継を決めずに亡くなった事に、だったのです。 ならばこの『着地点』はどうしなければならないのか…

その一つの結末として、新たなる『魔王』が登極する事になりました。 熾緋の髪と瞳を持った美しき魔王はこの魔界をこの後どの様に導いて行くのか―――


「お集りの皆さん、私は今回魔王ルベリウスを討ち果たし、新たなる魔王を僭称せんしょうする決意を致しました。 魔王ルベリウスはあなた方魔界の民の暮らしぶりを顧みることなく、そのまつりごとは実に苛烈をきわめ―――…」


さすがは弁舌巧みで知られたと言うべきか、この叛乱によって生命を落とした魔王の事を批判しながらも自分が魔界の王に立った事の正統性を説く新たに立った魔王。 その名を〖昂魔〗の蝕神族はカルブンクリスと言う…

けれど彼女は自分が魔王と成るこうなる事など考えてはいませんでしたし、望んでもいませんでした。 彼女が反旗を翻そう立とうとした動機―――それは、ルベリウスに圧政を省みらせ元の政治姿勢に戻る事…その為に民衆の中にも叛意はあるものと示したかったのですが、しかし結局の処はその声は届かずにいた。 結果的にはルベリウスは亡き者となったわけなのですが、それはそれで大問題、すぐにでも新たなる魔王を立てるのが“三柱みつはしら”の長の急務となったのです。

そこで〖昂魔〗は【大悪魔ディアブロ】の発議により“三柱みつはしら”の長達は集められたのでしたが…


          * * * * * * * * * *


「皆、ワレの発議により集まってくれた事は嬉しく思う…が、やはり女媧は無理だったようだな。」

「配慮感謝いたしますジィルガ、私も神仙の次席とは言え長達が集うこの場に相応しくないのは判ってはおりますが…」

「いやいや公主が出席してくれなければ〖聖霊〗の判断が聞けないからね、それに今女媧は損なった自分達の勢力の立て直しを図っている最中だと聞く、だとしたら〖聖霊〗の判断を仰ぐには公主以外はいないのだよ。」


今回の叛乱により〖聖霊〗の本拠とも言えるシャングリラは魔王軍により徹底的に蹂躙されました、その過程で幾人もの神仙も犠牲になった…その修復の為に女媧は専念せざるを得なくなり、こうした重要な会議ですらも次席である竜吉公主が出席するしかなかったのです。


しかし、その場には……今回の叛乱にはなくてはならなかったこの人物―――


「それ…で、決意は固めたかね我が“愛弟子”よ。」 「(ここで敢えて“愛弟子”とは、皮肉だろうなあ。)確かに私は私の意思で叛旗を翻しはしましたが、私自身が魔王などとは―――」

「『思ってはおらぬ』か…それは詭弁―――だ、な。」 「『詭弁』―――とは、言葉が過ぎはしませんか。」

「詭弁ではないとするなら、ナレがした事とは単なる世間を騒がせたにすぎん、なにもナレがやらなくともナレ以外のがしたことなのだ。」

「ジィルガ…お言葉ですが彼女が立ってくれた事は民達にとってどれだけ救いだった事か…」 「口を、挟まないでくれるかね公主―――その理屈はここにいる誰もが知っている事なのだよ。 ではなぜワレはこの様な言い方しかせぬのか…それもまた、民衆達も待ち望んでいるからだよ。」


「(そう言う事だ…私達も頭の中では判っている、今回は誰が“悪役”で誰が“正義の味方役”なのかは明白だ、そこの処は実際彼女の叛乱に協力をした公主や私達も判っている…それにカルブンクリスに私利私欲がない事も―――ならばこそ、この叛乱の『着地点』をどうすべきか…実際的にこの魔界の王の座位くらいは空位だ、これはこのままにはしておけない、悪い言い方をすれば誰が王の座位くらいに座ったとしても文句は言うまい…ただ、それが相応しいか相応しくないかは別問題だ、ならば誰が座位くらいに就くべきか…恐らく民衆に問うたところで得られる答えは一つだろう。 さてどうするカルブンクリス…)」


今回の叛乱を首謀したカルブンクリス―――本来なら中央政権に弓を引いた者は須らく謀反罪が適用されましたが、ならば今回の叛乱は―――?50年間に亘り民衆達に圧政を課してきた『暴君』を討ち果たしてくれた…そんな英雄を処断する等と言う事は当時の魔界の風潮にはありませんでした。 『暴君』が死んだのなら……もうその答えは用意されている様なものだったのです。

しかしここでジィルガは―――


「ふむ…これだけ言って聞かせても固辞しおるか、ならば仕方がない、あまりこのような手は使いたくはなかったのだが―――な。 ではこうするとしよう、この度魔界の中央政権に対しくわだてた咎人とがびとカルブンクリスよ―――」

「(ちょ…)ジィルガ!彼女を謀反人だなんて―――…」 「公主、その口をつぐみたまえ。」 「ミカエル―――?!」

ナレのした事とは人助けの様に見えて実の処は魔界せかいの社会を大いに騒がせた、ならばその罪の等価は対等なものによって支払わねばなるまい。 よって―――カルブンクリスよ、汝は新たなる魔王に就くのだ、魔王が如何なる激務かを身をもって知るがよい!」

「―――畏まりました…」


かたくなに魔王と成る事を拒んだ弟子に対し、師は厳しいまでの判決を突き付けてきた…それが『新たな魔王と成る事』、それを以て今回自分が為した不祥事を払拭させてみせろ―――と言う事だったのです。


「(はああ~~~)なによ、もう……驚かさないで?」 「フッ、文句ならこやつに直接言うがよい、それにこうでもしなければ飽くまで突っぱねただろうからな。」 「全く―――それにしてもやはり君達は師とその弟子のようだね。」 「あの…ミカエル?それってどう言う―――」 「カルブンクリスとの付き合いはまだ日は浅いけれど、ジィルガの方は付き合い長いからねえ。 それに、先程も言ったように彼女達は『師とその弟子』だ、私の友としてはお弟子さんがどの様に出てくるかは知れた所なのだろう。」 「あーーーのーーーそれ、私って完全に蚊帳の外?先程まで騒いでたのが莫迦みたいじゃない…」

「済みません公主、私も師から鍛えられた以上すんなりとそのお話しにうなずくなど出来ませんので…逆に安易に首を縦に振ろうものなら―――」 「ふ、安心しろ、その時は大逆たいぎゃくの“熨斗のし”を付けておいてやる。」 「ほら、ね?」 「(はーーー…)改めて、同情するわ…なんだかトンデモな師匠を持ったものね、それに『大逆罪』なんて『謀反罪』よりも重いものじゃないの…なんて言うかあなた達の関係てそう言うモノなの?」 「そう言う処はのようだね、公主―――これが女媧なら私の友に乗っかって囃し立てる処だろうけど、ね。」 「はは…それは私も勘弁願いたい、実際師だけでもキリキリ舞いなのに、それが手強い人がもう一人増えたとなると…」 「だあーーーから今回の出席者が公主だって事に安堵顔だったのかなあ~?」 「ああっ、ミカエル様!それ―――言ってはあ~。」 「ふうーーーーーーーーん、ナニソレ私完全にナメられてたって事?カルブンクリスぅ~?」 「あっ…あははははーーー」


と、この様な事が実際的に交わされたかどうかは判りませんが、現実としてカルブンクリスは新たなる魔王に就任したわけであり―――


「なんて言うか、さ、今回はあなた達師弟に一杯喰わされた感じだけど、私としては精一杯の後見バック・アップはしてあげるわ。」 「ありがとうございます、公主。 私もまだまだ至らない点が多くありますからその際には大いに頼らせて頂きますよ。」 「私は間接的に係って来たから公主ほどでもないけど、公主と同じく君を後押ししてあげるよ。」 「ありがとうございますミカエル様…でもあなた様との出会いが無ければニルヴァーナ達の様な善き仲間に巡り合えなかったでしょう。」 「ワレからは一つ言って聞かせておくことがある、〖聖霊〗や〖神人〗からの協力を取り付けたかもしれんが、安易に〖昂魔〗を当てにするでないぞ、ナレの先代であるルベリウスは自らの力により難事を解決してきたのだからな、だから…早々に泣きついてきおったらそのデカいけつを蹴り飛ばしてやるからな。」 「はい……肝に銘じておきましゅ。」


「(うはあ~この2人の関係て“厳しい”てもんじゃないわ、それにしても、もう少し優しい言葉をかけれないものかなあ。)」 「(ふふっ、で彼女達の平常運転だからね、それに厳しくしておかないと甘やかしてしまうモノだしね。)」


         * * * * * * * * * *


こうして“三柱みつはしら”の長(代理含む)達からの要請を請けたカルブンクリスは新たなる魔王に就任しました。 そして就任時の所信表明の演説を聞いた仲間達は……


「はは、なあーんだかカルブンクリスさんが遠い所に行っちまったって感じだなあ。」 「そうですね、私達があの人からの依頼によって動いていた時が妙に懐かしく思えます。」

「―――ニルヴァーナ?」 「いや…私としてはなんだか嬉しくてなあ~盟友も愈々腹を括ったと言うべきか…」 「何かお前、過保護すぎるんじゃないのか、それに―――あの人ならきっとやれるさ。」 「そうですね、ルベリウスが混迷させた世を変える為に。」


4人とも感慨一入ひとしおと言った処か、元々は知らない他人同士な彼女達でしたが、不思議なえにしによって結ばれた…そのそれぞれが褒められた過去を持ち合わせてはいませんでしたが、やはりそれぞれの境遇なり思惑もあり一つとなったものでしたが、各々の力を併せて創り出した現状いまは彼女達の為した偉業でもあったのです。



そして―――



「それより、そなた達はこれからどうすると言うのだ。」 「私はですね、既にカルブンクリスからお話しを頂いていまして…」 「ほお~?お前がまたカルブンクリスさんの事を“様”つけなんて、どう言った心境の変化だあ~?」 「うるさいですね、余計な詮索と言うモノです。 とは言え、あの方からは私の忍としての腕を買って下されて私の技能スキルに見合った“ジョブ”を提示て貰ったのです。」 「ほおーお前の忍としての技能スキルねえ…一体何だ?」 「『ギルドマスター』です、ほら私はこう見えて情報を扱う事に関しては長けていますからね、あの人はそこの処もよく視て下さっていた…と言う事でしょう。 それに―――少し厚かましいとは思ったのですが、私にはあと4人の妹弟がいましてね、その就職口も斡旋して頂いたのです。」 「ホント、厚かましいわね…」 「(あはは~)ホ、ホホヅキ~?」 「何ですかリリア、厚かましいと言ったのはノエルからではありませんか、それに私達にも内緒でこそこそと魔王様に打診を図っていたなんて―――」 「まあ、とは言ってもお声を掛けて頂いたのはあの方からなんですけれどね。」 「(ん~?んーーー)そう言えばさあニルはあの人と割と長い付き合いだよな、は無かったのか?」

「『あった』と言うべきかな、だが私から辞退させて頂いた。」 「へえー何でそりゃまた、勿体の無い…」 「ではリリア、お前なら『大将軍になってくれ』と言われて承諾するか?」 「(へ?)ダイ ショウ  グン?て……!? いや、無理無理、無理だって!そ、そりゃ以前だったら尻尾振ってたかもだよ?だけど…その職の定位置竜人ドラゴニュートあの人エリアじゃんかあ~~~そりゃ知らない他人ならどうも思わないけど―――」 「知っちゃい…ましたもんね、私達。」 「ふっ、そこがリリアの好い所、どーうです?見直しましたか!?」 「(ホホヅキが自慢げるのはワケ分かりませんが…)しかし、大将軍その地位』ですか、身内に甘々ですね。」 「んーーーまあ、私としてもそうした慾はない―――とまでは言わないでおこう、元々魔王軍編入は私の夢でもあったわけだったしな。 だが―――物には順序と言うものがあるだろう?一兵卒未満の者が魔王からの鳴り物入りで『今日からこの者が君達の上官である。』と言われてみろ、配下たちが素直に私の命令を聞くと思うか?」 「(…)ないな―――それは絶対。」 「私の“主君”ではありますが、普通に『ない』―――ですね。」 「ありませんね。 それどころか『何言ってやがんだこの馬の骨は』でしょうか。」


「(ホホヅキさあ~ん、言葉薄い包み紙オブラートで包もうよぉ~。)」 「(私もこの人達と一緒にやってきて判った事と言えば、彼女結構な毒舌家どくはきなんですよねえ~私の“主君”であるニルヴァーナ様が固まっちゃって…)」


彼女達4人それぞれの去就が…するとノエルはいち早く“その後”の事を考えていたようで、しかも新たな政権を樹立させるカルブンクリスもと言うべきか、ノエルを冒険者組合ギルドの長へと就かせて彼らの動静に目を光らせると共に、ノエルの一族の者達の就職口も面倒を見ていたのです。(因みに、ノエルの一つ下の妹『サリバン』は新魔王陛下の『侍従メイド長』を仰せつかり、その一つ下の弟『セバスチャン』は新魔王陛下の『執事バトラー』、その一つ下の弟『オルブライト』は魔王城の『番兵センチネル』を授かり、一番下の弟『レガート』は新たなる忍の棟梁に収まったという)

それに、そう、新魔王は『情報』を重く見ていた、政権内や官邸での『機密』としての情報の管理や保護の仕方、まつりごとり行う側としては一般市民に知られてはならない情報も沢山あるし、知らなくてもいい情報も相応にしてある…それに優秀な忍であるノエルを仲間に引き入れ彼女の事をよく見ていく内に旧政権を打倒した暁にはノエルを『ギルドマスター』にとの思いはあったと思われるのです。 それにノエルとしてもこれは機会だとも思っていました、自分一人が里から出て出稼ぎ状態にある中、里に残して来た幼き妹弟達…現在では幾分か成長しそれなりに働けるようになったので『妹弟達の面倒を見てくれるのならば』との交換条件で『ギルドマスター』就任を快く引き受けたのです。


そしてニルヴァーナは、一番の贔屓目と言った処か…いきなり元盟主から魔王軍最高位を打診されてきた―――ニルヴァーナもその事自体は嬉しかったのですが、元々彼女は魔王軍に志願はしていたもののその志願は叶わず、時折町をふらついていた折に声を掛けられたのが『吟遊詩人』であるミカ(その正体はミカエル)だったのです。 そこからニルヴァーナの運命は加速的に坂道を転がる様に好転しました、家の厄介払いとでも言うようになまくらの鋼の剣を与えられ―――それがあれよあれよと言う間に『黄金の剣デュランダル』や『黄金の鎧一式』を手に入れ、後世の物語に残る様な活躍を幾つもしてきた、けれど始まりあれば終わり―――自分達が起こした叛乱も鎮まり平和な世の中が戻ったところでどうしようかと悩んでいた時に、盟友から頂いた身に余るほどの光栄―――それはもう、『身に余るほど』でしたから丁重にお断りをしましたが、ならばこれからニルヴァーナは……


「私は、一度スオウに帰って身の振り方を考えようと思う、もし何も思いつかなかったら…その時はノエル、一人の冒険者として迎えてくれないか。」 「勿論ですとも!私の“主君”であるあなた様からの直の要請、断りでもしたら私の忍としての矜持はお仕舞いです!」

「はは…まあそうリキまずとも―――それよりお前達はどうするのだ。」


取り敢えずは生まれ故郷である鬼人オーガの郷『スオウ』へと戻る、そしてそこで将来の身の振り方について考える、そして何も考えつかなかったら一人の冒険者として生計を立てる―――と、まあ魔界を正常に戻す為の活躍をした英雄にしてみればなんとも慾の無い将来設計だったのですが―――ここでニルヴァーナはリリアとホホヅキにこれからの身の振り方を聞いてきたのです。


「私達か―――…そうだ、な。」



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