第26話-① “脚色”され、“歪曲”させられた『不都合の塊』 ≪『緋鮮の記憶』本篇よりの抜粋≫

―――これよりの記述は、『緋鮮の記憶』の中でも特に盛り上がる展開を見せる“最高潮クライマックス”の段。 そして後世に“読む”者達の為に事情をよく知る者が『脚色』を加えた展開…


         * * * * * * * * *


カルブンクリスが率いる叛乱軍は各地に於いて次々と魔王軍を撃破し、ついには当時『暴君』として知られる魔王ルベリウスのお膝元『魔王城』へと迫るのでありました。

そして眼前にてえ立つのは鉄壁の守備力を誇る『城門』―――まずはここを陥落おとさない事には“話し”にならない…


「堅い、それに中々抜けんとはな。」 「それは当然だろう、魔界の王の居城がすぐに抜けられるとあっては、それはそれで大問題だからな。」

「コーデリア…だったらあんたならどうにか出来るって話しなのか。」 「容易い事、あなた達はただ単に“力”を頼みに突破しようと試みているだけ、それでは抜こうにも抜けませんよ。 けれど私は違う…私の様な『錬金術師』ならば、ね。」


実際的にニルヴァーナ達はその武力でもって城門の突破を図ろうとしていました。 けれどその事を見込んでなのか、魔王軍も然る者―――『魔王軍総参謀』の指揮の下に物理的な攻撃では突破は図れない策が講じられていたのです。 しかし、ならば…と言う事で叛乱軍で講じられた手と言うのが術式展開による城門の突破―――城門はまさに鋼板八重やえ重ねと言う厚さを誇っていましたが、叛乱軍に身を投じていた『錬金術師』コーデリアにより、“土”属性の≪腐食≫によって鋼板も腐り落ちてしまったのです。


こうして城門を攻略してより3日、完全に叛乱軍は足止めをされましたがその間魔王軍の立て直しを始めようとしていた総参謀ベサリウスは―――


「なにィ?攻撃の手が緩んだとお。 ち…あのまま無駄な労力を費やしてくれりゃこちらとしての起死回生はなっただろうに、それに―――この感じ…あの軍中なかには術者がいるな。 折角こっちは竜吉公主を中途退場にまで追い込んだと言うのにこれじゃ元の木阿弥もいい処だ。 なら、ここら辺が引き際か?」


叛乱軍がここまで苦戦を強いられたのは〖昂魔〗は伏魔族出身の『魔王軍総参謀』ベサリウス…この男が魔王軍を掌握していたからでした。 しかもこの男の言にもある様に〖聖霊〗は神仙族の重鎮である竜吉公主ほどの実力者を中途退場まで追い込んだ…現に竜吉公主は最前線の地に顔を出してはおらず後方にての支援活動を強いられていたのです。

それにベサリウスも叛乱軍がこの段階で城門前に迫って来るのは時期的にもまだ後だと思っていた…しかしこの裏をかいた叛乱の主導者により叛乱軍の内部は一層に結束され魔王城攻略の機会は早められたのです。 そしてここを“潮時”と見たのかベサリウスは周囲にも告げずに行方を晦ませようとしていた―――


「(…ん?)誰だ―――」 「『魔王軍総参謀』ベサリウスとお見受けする、“主上リアル・マスター”よりの命でお命を頂きに来た。」


「な…なにィ?(バ…バカな!この脱出経路はこのオレが万が一の時にと備えていた、知らないハズ―――なのに…このオレの前を行くヤツが叛乱軍にいたってのか!)」


魔王軍の“本陣”とも言える魔王城を棄て、野に下って機会を伺おうとしていたベサリウス―――でしたが、その彼の策を読んでいた者により阻まれてしまった。 〖昂魔〗は吸血鬼族ヴァンパイアの出身である『ヘレナ』により、彼は彼女の血肉と成り、成って、果ててしまった……こうして魔王軍の頭脳とも言える総参謀がいなくなった事により『中庭』『大広間』『作戦会議室』にて魔王軍四天王と称される “獅子人ライカーン”の『ハシュマリム』“山羊人バフォメット”の『アドラレメク』“降魔族”の『ザルエラ』“修羅族”の『エクスデス』と死闘を演じたのです。


「相手にとっちゃ不足があり過ぎだが、さっさと抜かせてもらうぜ。」

「うぬぅ、小癪な小娘がヒト族の分際で大言壮語するな!」

「いけねえなあ、他人を上辺だけで判断するってのは、まあ確かに私産まれた時はヒト族ではあったんだけどな―――」

「(ぬ?)なんだその言い方は…ならばではないだと?!」

「察したようだな…だがそんな事は私にゃ関係ない―――」

「ぬぐおっ!?そ―――その太刀筋、まさかお前は!『古廐薙こくてい』の伝承者…」

【清廉の騎士】であるリリアは自身が持つ固有能力ユニークスキル无楯むじゅん≫もあり『盾役』としても活躍していましたが、この魔界でも正統派の剣術でもある『古廐薙こくてい流』の伝承者でもあった…だからここ一番で発揮するのは一介の剣士としてでもあったのです。



「どうやらあなたは斬り応えがありそうです、魔王との一戦前の露払いとしてはまたとない人身御供と言えるでしょう。」

「ぐぬぬぬう~~~このワシをそこまで嬲りおるか!覚悟は出来ているのだろうな…」

「―――フッ…なんとも捻りの無い言葉です、私の“煽り”への返しが それ とは多寡の知れている……」

【神威】であるホホヅキはリリアと親交が深い者、彼女と寝食を共にしこれまでにも行動を共にしてきた…そしてまた“運命”をも、彼女達2人は叛乱軍のさある要人を救出する際、死の一歩手前の重傷を負いましたが鬼人オーガであるニルヴァーナの血を受け入れた事により“半人半鬼”と成ってしまっていたのです。(それが先程リリアが言っていた事にも通じてくる)

それに…半分“鬼”と成ってしまった事により、“ヒト”の身では出来なかった芸当コトも出来るように成っていた―――ホホヅキの元来の職は『巫女』ではありましたが幼馴染みであるリリアの背を見ていく内に自分も次第に刀を振るってみたい―――と言う願望を抱き始め、リリアもその熱意に押されてつい剣術を教えてしまった…しかし、それでも飽き足らなかったホホヅキは他人の目を盗むようにして辻斬りを、他人を斬る事の―――血肉を斬る事の愉悦を覚えてしまったのです。 しかもこの事はリリアの父親にも知られる事となり自分のしでかしてしまった事の重大性に気付いたリリアにより―――彼女達2人は出身国から逃亡をした…そして巡り巡ってニルヴァーナやノエル達と出会い“仲間クラン”を結成したのです。



「“影”に潜み“影”と共に生きる…“人の影”である忍の私を捉える事は永遠に不可能…」

「ぬ…ぬううーーーちょこまかと!正々堂々と姿を現わせい!」

「おやおや気は確かですか?先程私はあなたに判り易いように説明をしてあげたはずなのに…そう『“人の影”』と、そんな私が『姿を現わす』等と……どうやら今の魔王軍は武ではなく芸事を磨いてきたようだ!」

【韋駄天】であるノエルは凄腕の忍―――そして忍本来の姿とは人知れずして敵状を探り内情を詳らかに探り出してくるのが生業なりわい、それに自身の任務を妨げてくる手合いには情け容赦のない冷酷な一面も併せ持っているのです。 それにノエルは叛乱軍に参入する前は『盗賊団の首魁』として忍の腕が錆びつかないようにしていた時期がありました。 しかし、『盗賊』―――その本性はとてもではありませんが他人から褒められるようなものでもなかった。 目的の遂行の為には例え老人・子供と言えど容赦なくその生命を奪って来た―――当時の『ギルド』に於いても『朔の夜に峠に出没する賊』として最重要の危険人物に指定されていた事もあったのです。 そんなノエルの転機―――『盗賊団の首魁』から足を洗おうとしたのは、ニルヴァーナが携えていた『黄金の剣』デュランダルを狙ったからでした。 これまではただの一度も狙った獲物は逃したことがない…しかし『黄金の剣』を狙ったのがノエルの運の尽きでした。 自身が得意とする忍術を駆使し―――ようとも手中に出来ず、逆に鬼人オーガに捕らわれてしまったノエル、彼女も盗賊風情であったなら諦めることなく何度も狙ってきた事でしょう。 しかしノエルは忍―――鬼人オーガに捕らわれた時一瞬にして見透かされた自身の背後関係にノエルは未来あすへの光明を見い出していました。



「最後に残るはそなただけか―――思えば私が目指した魔王軍の頂点四天王を下す事になろうとはな…感慨も一入と言った処だ。」

「“角ナシ《ホーンレス》”…鬼人オーガの出来そこないの癖に見合わぬ野望を持ったことが己の不運と知れい!」

「その言葉…聞き飽きて慣れもしたものだ、私を侮ってその戦意を削ぎたければもう少しばかり気の利いたモノを用意すべきだろうな―――」

最後に、【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】であるニルヴァーナは鬼人族オーガではありましたが、“鬼”であればその角が無ければならない、しかし彼女の頭にはそれが確認されませんでした。 だからこそ付けられた渾名あだな―――『“角ナシホーンレス”』。 当初ニルヴァーナはこの渾名あだなで呼ばれる度に苦渋の混じった顔をしていました、常識的に考えてもと言うのは鬼人族オーガにとっても“恥”であったし、またニルヴァーナの家にとっても“恥”だと言えました。 だとて彼女はその屈辱・恥辱を糧に武の修錬に励み鬼人族オーガに於いても五指に入るくらいの腕前となりました……なりはしましたが、彼女の両親にとっては逆に苦々しかった、自分の娘が反骨を露わにして奮起する姿がとても滑稽に見え、また道化ですらあった。 だから彼女の父親にしてみればなるべく早い内に厄介払いしたかったらしく、ニルヴァーナがスオウから旅立つ際にしても父親自身が使っていた“ナマクラ”を与え、『それでいさおを立てれるものなら立ててみろ』と言わんばかりだった。 けれどニルヴァーナにとっての救いだったのは自身がまだくすぶっていた時にある人物を介して出会った『錬金術師』…実父より与えられた“ナマクラ”が、その『錬金術師』の手を介すると天下の名剣に取って変わった―――それからニルヴァーナの運命は坂道を転がるかのように好転し、その『黄金の剣』の魅力もあってなのか信頼に足り得る仲間とも出会い、そこからはご存知の通り―――この四人四様は片時として離れる事はなく“一つ”の事に対して邁進してきた、そしてその“一つ”の事を示してきたのは彼女達が盟主と仰ぐ叛乱軍の主導者カルブンクリスだったのです。


        * * * * * * * * * *


そして四天王を破った彼女達は、愈々残すところの“あと一人”―――『暴君』ルベリウスを残す…の、み?


「(!)何者だそなたは。」


「控えおろう、この不作法者達が、神聖なる玉座の間の前を騒がすとは何事よ。」


あと残すはルベリウスただ一人―――だけかと思っていれば、玉座のある部屋の前でニルヴァーナ達を待ち構えていたのは妖艶な雰囲気を漂わせる一人の美姫でありました。 それにニルヴァーナ達もこの美姫の噂だけは聞き及んでいた…『絶世』『傾国』『傾城』とも言える美を誇りて魔王を誑しめさせた悪女―――


{なるほどのう―――この女が総ての元凶じゃったか。}

{公主殿、お気持ちは判りますが、もう動かれても大丈夫なのですか。}

{なに、大事ない。 今のの不様な態様も元を糺せばこの女の所為―――}


普段は波の立たない穏やかな湖面を思わせる表情であった方が、どこか引き攣り気味に怒りを禁じ得ている…それに絶対安静だったはずの竜吉公主が魔王城に来ているのは何故?


{フッ…その質問にはこう答えるしかないな。 総てはお前達の盟主であるカルブンクリスの指示だ。}


「な、なんと…我が盟友が―――」 「そーれにしても突飛もない事を考えるよなあ…この2人絶対引き合わせちゃならないって事は私にだって判るぜ。」 「それに、今気付きましたがルベリウスを含めると―――…『魔王軍総参謀』のベサリウスの姿は?」 「ヤツの仕事場である作戦会議室はもぬけの殻でしたからね…それにヤツの悪辣なまでの策略のお蔭で私達の味方がどれだけ取られた事か。」


{(ベサリウス…)お主らは前を急ぎやれ、あの男の始末とこの不埒な女の始末―――その両方を片付けてらも駆け付けようぞ。}


総てはカルブンクリスの手の内だった。 豹変した魔王の影に潜む不逞の女の影、その正体こそこの魔界出身ではない『ラプラスの魔』ニュクスなる者でした。 その事を知っておきながら敢えてカルブンクリスはニルヴァーナ達にも教えておかなかった、しかしこれが好機だとみたカルブンクリスは竜吉公主とウリエルとにその情報を開示し、ここにこうして現れた―――…


{こうしてお互い顔を見せるのは初めてじゃな…覚悟は好いかえ。}

「随分とお似合いですのね、竜吉公主―――普段は滅多と相好を崩さないあなた様がこのわたくしに向ける嫉妬とも取れるような表情…あなた様もどうやら―――」

{気は、済んだか…手負いとは言えうぬに後れを取るものと思うな!}


竜の体表を覆う“鱗”の中に、一つ“逆”向きに形成されているのがある。 それを『逆鱗』と呼び、それに障られた竜はご多聞に洩れず激しく怒り狂えると言う。 然してその時の竜吉公主も何が障ったものか―――“かん”か果てまたは“しゃく”か…いずれにしてもその事由は竜吉公主自身でないと計り知れぬのですが。


{落ち着きを、公主殿…怒れる処は判りますが、怒りは我を失わせる―――あなたの供にと付いてきた私は、いわばそうしたあなたを引き留める役を担っているのです。}

「フ・ン―――こちら1人に対し2人がかりなんて…恥ずかしくないのかい。」

{普通の相手なら何も私も手出しをしようとは思わない、だが―――お前は魔王をも狂わせる権能を有している…と、思われなくもない。 それに公主殿は病み上がりなのだ、ただその怒りのみだけで戦場往来を果たした―――そうは思わんか。}

{ウリエルよ、お主は妾を戦力外とでも言いたいのか。}

{おや、違いましたか公主殿。 あの者達によって救い出された時に酷く衰弱なさっていたことを私は聞かされている、まあ、あなたの魔王憎しの感情をくすぶらせたままでは…と、あの者も心配していたのですよ。}

{そうであったか……判った、ならばも大人しくしておろう。 但しウリエル…。}


〖聖霊〗の竜吉公主と〖神人〗のウリエル、この二者は所属している勢力は違わせていてもカルブンクリスが企てた叛乱に勢力間を越えての協力支援をしてきた同士でもありました。 だからこそ聞き分けられる事もある―――この時ウリエルが発した言葉もすんなりと受け入れられたのは、それまで彼女達が育んで来た“絆”があったからこそではなかったでしょうか。


{フッ―――公主殿より許可は得た、これから私が相手しよう。}

「くうぅ…あと少しの処で!」

{残念だが、お前のその願いも―――そしてお前を背後から操っていた者の野望も叶う事はない……≪雷帝の進撃トゥール・アクセラレイター聖雷衝神鎚ヴォルテックス≫}

「ぐうう…ま、まさか天使の力がこれほどとは!」


{ウリエルよ…よくやった。}

「(な)竜吉公主?な…なぜお前が―――」

{気付かなんだかニュクスよ、らは一芝居打ったのじゃ。 魔王をたらし込むほどの実力を有しながらきわまで知られなんだうぬの事をいぶあぶりだすためにが『我を忘れて怒れる』芝居を打ったのじゃよ、そしてそれを止めるウリエル……長かったものよ、ひとえに50年間と言うのはらにしてみやれば光陰のごとしなれど、眷属達にとっては長き時間よ、だが―――うぬは殺すなとさある者により強く釘を差されておってな。 呪うならうぬの為した事を呪うがよい、そして死したほうがまだ幾分かと思う程にな。―――≪結跏趺坐けっかふざ≫}


≪結跏趺坐≫―――とは、〖聖霊〗に古くから伝わる秘技の一つであるとされており、結界を構築したりまた封印を施す際によく用いられるとされている…然してそう、この時竜吉公主がこの場にいたのはニュクスを封じるために神仙族でも“秘中の秘”とされている『封神術』を行使する為だったのです。


          * * * * * * * * * *


そしてさきを進んだニルヴァーナ達は魔王が鎮座していると言う玉座のままで辿り着き。


「む・ん?何者だキサマら…」


「魔王ルベリウスとお見受けする、その首級みしるしを頂戴しに来た!」

「なんだと?!うぬう…それにしてもニュクスは何をしておる!ベサリウスは!?早うきてこの狼藉者共を排除せよ!」

「来やしねえよ…そいつらは、あの憎き総参謀は作戦会議室にはいなかった―――旗色が悪いとみてとっとと尻に帆を撒いて逃げ出したんだろうさ。」

「なに?!ううぬ―――折角余が目に掛けてやったというのに、あの恩知らずめが!」

「それにニュクスなる魔性の女は、この玉座の間の前で私達を待ち受けていたようでしたが…」 「そこへウリエル様と竜吉公主様とが駆けつけて下さって、今頃はあのお二人が相手をしている事でしょう。」

「何だと?『ウリエル』に『竜吉公主』―――おのれ忌々しい…それに竜吉公主と言う事は〖聖霊〗か! ええい…こう言う事になるなら徹底的に〖聖霊〗のシャングリラを叩いておくべきであったわ!」

「後悔した処でもう遅い、それに我等は私情によってこの度立ったわけではない!まだ気付かぬのかルベリウス……私達を立たせたのは民衆達がそうさせたのだ―――!」


『暴君』は荒ぶる…この世の総てが自分であり、自分がこの世の総てだ―――と言った曲解がそうさせたからなのか、反徒達に刃を手向けられたとしても何一つ省みる事をしなかった、そしてつい口から吐いて出る言葉…なにもニルヴァーナ達も政権に対して抗うつもりなど毛頭もなかった、なのに主導者により現状を見させられた。 地方では犯罪が横行しその取り締まりも苛烈を究めていた―――ある事案で空腹の余りにお供え物に手を出した幼児おさなごですらも極刑に処せられていた…確かに法に照らし合わせてみればその解釈は正しい―――と言う事にはなるが、ならば果たしてその事例は全くと言っていいほど正しかったのだろうか? ただ、“正義”を執行する天使ですらも『それは間違いだ』と言う指摘があった…そう―――確かに法の中では正しいかも知れないが、ならばその法を執行する機関―――政府側に落ち度はなかったものか。 ないのだとしたらなぜお腹を空かせた幼児が出るものなのか…

ならばこそ、誰かが立たねばならない―――そうしてカルブンクリスはニルヴァーナ達と共に叛旗を翻したのです。



无衒むげん;清流無明剣≫ ≪一閃:流仙月華≫ ≪六道の“いち”:天道≫

     ≪ファイナル・ストライク;オンスロート・カプリッツィオ≫



四人による同時での強力な“技”を受けて、魔王の体躯は地に沈みました…沈みました―――が…


「やったな!ニル、これで私達は大業の一つを成し遂げられたんだ。」 「ええ、これは誇るべき事、晴れて皆が幸せに平穏に暮らせる世が戻るのです。」


「「……。」」


「どうした?ノエル、何を警戒して―――」 「それにニルヴァーナ、あなたまでも…」


        * * * * * * * * * * 


{今頃はあの者達もルベリウスを討伐たおしておることじゃろう。}

「ふっふっふ、めでたい人達だねぇ…」

{うぬ!公主様の術を以てしても未だ封じられぬとは。}

{心配をするでないウリエルよ、それだけ権能ちからが戻ってはおらぬと言う話しよ。 それで?何が言いたいニュクスよ。}

「『魔王』てのは、そんじょそこいらの魔族とはちょいとワケが違う…あなた様方も忘れたのかい、『魔王』はその肉体がほろびはしても存在意義レゾンデートル…つまり“意識イデア”までもほろぼさないとにはならないのさ!」

{そんな情報を一体どこで…まさか本人からか!}

「フフフ…だ、よ天使様―――」

{うぬの技能スキルの凶悪さは判った、魔界こちらの“秘中の秘”とされる情報であっても、うぬにかかれば雑作もないと言う事よな。}

「ふふふっ…わたくしはザアンネンだよ、竜吉公主にウリエル。 わたくしは公主のこの術に抗うすべを知らない、だから行く行くはこのまま封じられるんだろうさ。 だがねようく覚えときな、こうした封印なんぞは経年劣化で朽ちる時が来る…そして封印が解けた時どう言った世の中になっているか、愉しみだねえ! 心してて置く事だね神仙様に天使様、あんた達が施した封印が解けた時、わたくしは世情がどうなっていようが必ずや“闇”から這い出て来よう…そうなる時を心待ちにしておくんだね。」


今の魔界の状況を創り出した元凶もとであるニュクスは未だ封じられてはいませんでした、が、それはまだ竜吉公主が本来の権能を取り戻していないから。 そしてその後不気味な“予言”とも取れる言葉を遺してニュクスは異空間へと封じられていったのです。 しかしそう…今の時点でニルヴァーナ達が成したのは魔王の肉体のほろびのみ、この世界の頂点に立つにはあらゆる力の付与がなされていたのです。 そしてそれは魔王の『意識体イデア』にしてもそう…


確かにニルヴァーナ達は渾身を込めての“技”を放ちました。 そしてそれら総てを受けて地に沈む魔王の体躯…ならば『魔王討伐』は完遂した事となるのですが……リリアとホホヅキはこの戦いが終わった―――とする反面、ノエルとニルヴァーナは。


「どうした?ノエル、何を警戒して―――」 「それにニルヴァーナ、あなたまでも…」


ノエルは忍―――故に“残心”を怠らなかった、忍はある意味標的をこともあるから“万が一”の事が起きてはならない…自分が止めを刺したでも、“万が一”が起きて復活してしまう危険性を考慮したのです、そしてそれはニルヴァーナでも…とは言えニルヴァーナはそうした技術を持っていないため“残心”の事は判らないでいたのですが、彼の自身感じてはいたのです、『果たして自分達で討ち果たせたのだろうか』と…。


すると―――


「(…)どうやら無事、肉体の破壊までは済ませたみたいだね。」


「カルブンクリス―――?なぜそなたが…」


なぜか、、この場に自分達の盟主も―――しかしながら、いたならばまだしも耳を疑う様な事実が盟主の口から洩れてきたのです。


「聞いていた通りだったようだ。 『魔王』は、肉体を滅ぼすだけでは、ほろびはしない…その存在意義レゾンデートル…“意識イデア”までも同時にほろぼさないと―――ね。」


「カルブンクリスさん、あんた…何故そんな事を。」 「いえ、それよりそんな重要な事を私達に告げずに?」


「言えば果たして君達はこの大業を成し得てくれただろうか、重要な情報を伝えなかった私にも非はある、けれど肉体の滅亡を踏まえずに存在意義レゾンデートルの滅亡は有り得ないんだ。 君達の私への不信感は心得ている、私への批難も後で甘んじて受けよう。 だが―――今ここに私がいると言う事実、それはこれから私もこの最終戦に参戦する!」


「よせ―――そなたが敵うはずが……」 「そうですよ、あなたは本来後方に収まって私達を“駒”の様に手配して動かせるのを得意としていたはず…現場でもこの私達でさえ苦戦した相手を、どうしてあなたが!」


「確かに…私は今まで後方に収まって君達の戦果を待ち侘びている事しかしなかった…いや、出来なかったんだ。 何故だと思う?」


「まさかカルブンクリスさん…あんた、『魔王』をたおすのは自分の役割だって言いたいのか?」


「そうだともリリア―――私もただ君達の戦果を待ち侘びていただけじゃない、この時の為に色々準備をしてきたさ。」


―――を?!」 「なんだ?ニル…お前、何か知っているのか。」

「ああ知っている、盟友は『錬金術師』ゆえに様々な発明をしている、その内の一つがだ!」 「『指輪』?指輪…ではありませんか。」 「あの『指輪』に一体何が―――」


「私の種属は蝕神族だ、そう“神”をも“”うとされる…そしてこの身には『魔王』の“意識体イデア”をも蝕らい尽くせる権能がある! ニル、君の≪焦熱イグニート≫を解放し、あの“意識体イデア”を炎で包むんだ!」


こうして―――【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】が放った“技”により、『魔王』の“意識体イデア”は炎に包まれ、抵抗が無くなったに等しくなった処でカルブンクリスの≪“闇”の衣≫が満を持して発動―――見事『魔王』の“意識体イデア”をらい尽くした事によって、これまで人々を苦しめてきた『暴君』は討伐されたのです。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


カルブンクリスの集めた英雄達の働きにより、混迷と化したこの時代にも終わりが来ました、これからは魔界に暮らす民達の誰もが快活に笑い、差別が行われず、何にも束縛されない自由な行動が出来るようになるでしょう。


そしてこの物語の締め括りは―――…



『英雄達は数多の困難を切り抜け、終には諸悪の根源を断ち切り、世を低迷とさせた悪しき魔王の時代は終わりを告げました。 そして魔王を討伐した英雄達は、混迷から世を解き放ち、魔界せかいを正常に戻したのでした。』




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