第25話 “闇”の衣

緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】達が魔王城の城門を眼前で捉えていた頃、自分の庵で目覚めた存在がいました。


「(……か―――それにしてもこんな時に騒ぎ出してくるとはね、ここ最近は大人しかったと言うのに。 いや、だからこそ―――か…)」


カルブンクリスは、〖昂魔〗の蝕神族出身でした。 けれどこの種属は彼女の-ほかには、―――そうつまりがその種属を形成していたのです。

しかしそれでは彼女以外の一族は…?戦乱や争乱の果て、果てまたは内紛の所為で彼女以外が―――? いえ、そうではなく彼女蝕神族なのです。

それがカルブンクリスが『魔界の異質ヘテロ』と言われる所以だった…何かしらの影響で遺伝子レベルで変異・変質が起こる―――ニルヴァーナの頭に鬼人オーガとしての角がないと言うのは端緒たんちょな例ではありましたが、カルブンクリスの異質ヘテロはその比ではない…。


『蝕神族』―――『神』をも『』らふ一族…存在の存続の為には強き者をらわなければならない―――それが蝕神族の存在意義レゾンデートル

けれど彼女はそんな素振りは一向だになかった、すぐ側近くにいる無類の強者達をらおうともしなかった…本来なら、その本能の赴くままに―――らい尽くしても構わないはずなのに…


けれど彼女はそうしなかった、なぜ?また……?


          * * * * * * * * * *


それは、ある存在との邂逅により―――


その時一匹の蝕神族は非常に《とても》お腹を空かせていました。 目に映る―――肌身に感じる―――総ての者を捕えてい、そうしてそれまでを生き永らえてきた。 そして気が付けばある場所に―――『万』もの『魔』が巣食うとされる宮殿…『万魔殿パンデモニウム』―――それは奇しくも、ここ〖昂魔〗に於けるある者の政務所でありました。


「ふむ…なにやら外が騒がしいと思っていたが―――何用かね、お客人。」


未だ、人格すら定着していない―――言わばらふことのみこそが取り本能と言える一匹の怪物…そんな存在をしても『客人』と言わしめるほどの肝の据わった


        ―――“少女”?     ――――“老獪な男性”?


「ふむ……どうやら他人と言葉を交わすのは初めてと見受けられる。 だが、その様な事は些末な事だ、このワレの呆れるほどに永く紡いできた時間の中にはそうした者と付き合ってきた事もそう少なくは、ない。」


「(言ッテイル事ガ、判ル…何ヲ 言ワントシテイルカ 判ル……何者ダ、オ前、ハ―――)」


「フッ、このワレの事をワレ自らが伝えておらなんだとは…それは大変失礼をした。」


明確な、言葉は発してはいない。 だのに“こちら”の思案している事を的確に捉えられてしまった…それは一匹の蝕神族にしては畏るるに足る出来事でした。


しかし、その“”を聞いて、より一層“おそれ”は増大する―――


ワレの名は『ジィルガ』…それ以外の者は【大悪魔ディアブロ】と、そう呼ぶがね。」


「(【大悪魔ディア……ブロ】!)」


その、“”を聞いて私は即座に彼我ひがを覚った。 その生を5000年も紡ぎ、外見みかけは幼女足りえても永き時を紡いできた貫禄までは隠せない―――外見みかけが幼女であると言うのは、その年頃で不死の属性を修得したから…それから彼女の時間は―――肉体からだの時間は停止ったまま、ただその頭脳だけは確実に時を紡ぎ続け、ありとあらゆる知識を内包させるまでに至った。

死せる賢者リッチー』……飽くなき知の探究に、ついには生きている事を辞めた者が到達する境地、故にこその『知の巨人』としての名声を得ていた。

あの頃の“私”はただらふ事しか頭になくて、感応する総ての者をらひ尽くして来た…その中には『ラプラス』もいたのかもしれない―――けれども、満たされる事のない飢餓満腹感…だから“私”は日夜を問わず彷徨さまよい歩いていた、そして辿り着いたのが――――


「(ふむ…熾緋あかの毛髪に熾緋あかの眸……か、ワレらの内で騒がれておった噂の主が、巡りに廻りてワレの下に来ようとは。 また、数奇な巡り合わせよなあ―――)」


ジィルガもその噂だけは耳に入れていました。 ここ〖昂魔〗の領域で熾緋あかの存在が徘徊はいかいをしていると…そしていつかは対処しなければならないと―――そんな噂の持ち主が、今は偶々自分の処へと来ている?これはまたとない千載一遇の機会と捉えたジィルガは、ある手段を講じました。


「―――いかが…かね?」

「ア゛……あ―――喋 レル? ナニを した?」

「なに、大したことではない。 ワレの持ちうる技能スキルが一つ≪話術師ロア・マスター≫を使い、ワレナレとの間の意思での疎通を円滑にさせたまでだ。」


その時“私”は衝撃を受けた。 今までは断片的に…いやそれですら叶わなかった事例により短慮を発せさせた“私”がっていたから発言者の意図が判らないでいた。 けれど“私”の目の前にいるとんでもなく畏ろしい存在のお蔭で、取り敢えずはその存在だけの意思言っている事疎通出来た判ってきたのだ。


それから“私”は暫くその存在―――ジィルガに厄介になる事になった、それまでの“私”はまるでけだものの様な営みしかしてこなかったが、ジィルガのお蔭もあり礼儀・礼節・作法と言うものを学び、あまつさえ“らしい”身体をも与えられ…そして―――


「ふむ、こうしてみると既に一介の婦女子ではあるな。 それにこれからは『おい』とかでは相応しからぬであろう。 故にワレより名を与えてやろう…『カルブンクリス』―――ナレの情熱的なまでの熾緋あかの色合いをした鉱石『柘榴石ガーネット』の別称だ。」

「私如きの為に名前を与えて下されるとは…感謝の念に堪えません、我が師よ―――」

ナレに教うべき事は総て教授した、ならば次にワレのする事は……言わずとも判っているであろうな。」

「ここ数百年間徹底的に扱かれましたからね、ええよく理解していますとも。 あなた様の教えにはいつも『飽くなき知への探求よくぼう』…それでしたからね。」

「ふ・ふっ―――よくぞ言った我が高弟よ、ならば最早投げ掛ける言葉なぞ要るまい、疾く征け―――そしてナレが知の暴力を発揮させるがよい。」


         * * * * * * * * * *


「(思えば、あの頃は蝕への渇望は噴出せずにいた―――それは私自身がそれで満足をしていたから…飢餓感を感じずに常に満腹感を感じていたから…だとしたらなぜ?なぜ今にして蝕への渇望が!?)」


『蝕への渇望』―――それは、カルブンクリスが蝕神族カルブンクリスだったからこそ感じ得た感情モノ。 いくら強者をらおうとも、満たされる事の無かった満腹感この思い―――しかしそれがジィルガに師事していた時には収まっていたというのに、それがここ最近―――いや、それも最早詭弁、カルブンクリスは本能では感じていたのです。 この時代には自分の腹を満たすには充分すぎるほどの“食材”が有り余っていると。


それは勿論『魔王』も例外ではなく―――…


「(はっ!な…なにを考えているんだ、私は! だ…だか確かに私の内にはあの方を―――『魔王』をらいたいと言う渇望が存在している……それに―――)」



   ソレニ―――アノオンナ ノ ナント オイシソウナ コトカ ……



“味”を知っている―――、自身が敬愛して已まない魔王の側に侍る不祥な女の“味”を……


けれども、彼女のこの渇望について知っている者など仲間内にもいなかった。 それに今この事を知られでもしたらこれまで築き上げてきたものが“ご破算”になる可能性もある―――カルブンクリスはあらゆる可能性について手当たり次第求めました。 それはもう―――……

書物や文書に残されているものは“与太”であろうが“漫画”であろうが“都市伝説的”であろうが、。 それはもう、『藁にもすがる』思いでしたが―――『叛乱軍』の主導的立場にあり、その為の雑務に追われている中でもカルブンクリスの飽くなき探求は終わることはない…その結果、ついに―――


「(で、出来た!? これは…何と言う奇蹟か、私も一縷の希望を託して研究に励んだ成果が、ここにこうしてあると言う―――これを奇蹟と言わずしてなんであろうか!)」


それこそが『指輪』―――彼女自身の、『蝕の渇望』を抑えさせる魔道具。 彼女自身が発見みつけた新種の鉱石に、自身の師の名にあやかって『ジィルコタイト』と言う名称を付けた―――それを加工して自身の“闇”なる部分をその鉱石に吸収させるようにした、傍らにニルヴァーナやリリアがいようとも『蝕の渇望』が発動しないよう…そう、その指輪はカルブンクリスの指より片時も離れたことはないのです。


なのに―――…この指輪をしていても湧き上って来る『蝕の渇望』。 そこで知る事となったのです、もう猶予はないと。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そしてニルヴァーナ達は―――『城門』を突破し、『中庭』…更には『大会議室』までを占拠するに至った。


そして待ち構えるのは【四天王】―――“獅子人ライカーン”“山羊人バフォメット”“降魔族”“修羅族”と、中々に強敵揃いでしたが…


「これで―――終わりだな…ノエル大丈夫か。」 「(く…)この程度、問題にもなりませんよ。」 「私もには回復の祈祷を扱えますが、ここにきてローリエを失ったのが大きく響く事になろうとは。」

「ホホヅキ―――今ここにいないヤツの事を嘆いても始まらない。」 「リリア―――そんな言い方って!」

「事実は事実だろう!確かに王女サンの回復魔法には助けられてきたさ…これまで何度となくな!けど……」 「(リリア―――)すみません、私が…」 「もう、自分自身を責めるのはよしましょう。 なにより今一番自責の念に駆られているのは私自身なのですから。 それに―――…」

「ああ、これが最後なのではない。 我等が打倒すべき存在はあともう一人残っている。」


ここに来ると最早誰もが傷を負っていない―――と言う様な絵空事はありませんでした。 全員が満身創痍―――ノエルも『問題にもならない』とうそぶいていても且つての古傷が開いていた、こんな時に当代一の回復術の使い手である【美麗の森のローリエ】がいてくれたならと、悔恨の一語しか出てきませんでした。


けれどもこれで魔王の近侍は片付けた、あと残るは『魔王軍総参謀』と『魔王』―――のみ?


「(むっ?)あの女は―――…」


「おや、随分と遅かったようだねえ。 に辿り着くまでに道草でも食ってたとでも言うのかい。」

「お前……どこかで見た顔だな。」

「ああそうだろうさ、なにしろこの魔界せかいがこうなるよう色々駆けずり回っていたからねえ。」

「(…)そう言う事でしたか、私が以前見かけたと記憶しているのは魔王軍総参謀とあなたとが密会をしていた―――と言う事は、『魔王』は…魔王様はに?!」

「どぉーうだろうねえ~?そこはあんた方の足りない脳を寄せ集めて考える事さ。」

「“否定”―――をしませんでしたね。 なれば限りなく“黒”に近しい“灰”と見るべきでしょう。 それになぜこのような事を…この魔界せかいを混乱させて何が望みか!」


残るは2人、『魔王軍総参謀』と『魔王』を討伐うちはたすべく『玉座の間』へと駒を進めましたが、ここで彼女達を阻んだのは一時期噂にのぼったことのある不詳の女。 今までは、その女と接触した事はない、してや会話すらも交わした事のない…故に噂なのだとばかりそう思っていましたが、その女が紡げた言葉によってこの魔界せかいがこんなにも変貌かわってしまったことが知れてしまう―――


「(フ・フ―――それにしても何て心地よい感覚だ…このお嬢ちゃん達誰もがわたくし憎しに燃えている、この雰囲気くうき……ヒリついたこの感覚―――どうやらこのわたくしにも最期の時が近付いたようだねえ。 だ・が―――)見定めさせてもらうとしよう、お嬢ちゃん達……」


それが、“始まり”の合図でした。 その合図をきっかけに【緋鮮の覇王】が、【清廉の騎士】が、【神威】が【韋駄天】が打ち掛かって行く―――そこには当然一切の容赦はありませんでした。 ありませんでした……が―――


「(な……なんだ、こやつ―――)」

「(わ…私達の奥義が効いていない?)」

「(それどころか反撃を喰らってしまうなんて…ッ!)」

「(どうやら、只者ではないようですね。)」


叛乱軍の主戦力であるニルヴァーナ達が束になっても敵わなかった、それ程までにニュクスは強かったのです。 それにニュクスが発動させた≪終わる事のなき永劫に続く地獄インファナル・アフェア≫…その固有能力ユニークスキルこそはニュクスならであり、彼女を【夜の世界を統べし女王】に押し上げるほど強力無比なモノだったのです。


しかし―――ニュクスにしてみれば彼女自身の眼前に収めさせた光景は、彼女の願望には程遠く……


「(こ、これは―――なんて事だい…今まであの男の軍隊を退けさせてきた実力を持つ者達が、このわたくしの…権能で?)」


ニルヴァーナ達も手加減をした覚えはない、50年前から魔界せかいを変調させた張本人を前に、そんな事が出来るはずもない―――なのに、今彼女達は地面を舐めている…ニュクスにしてみれば、それはもう、期待外れもいいところでした。


「(…く!)ふざけんじゃないよ!人を散々期待させといて蓋を開けてみりゃこのわたくしにすら敵わないってかい! あんた達なら…わたくしの願いを―――わたくしの為に死んで逝った眷属あの子達の無念…そそいでくれると思ったのに!」


「(何を…言っているのだ…一体。)」

「(私達に勝っときながら“涙”―――?)」

「(それに、あの女の為に散って逝った生命があると?)」

「(ならば私達の体たらくとは―――)」


彼女は―――ニュクスはまごう事なき自分達の…そして魔界にとっての“敵”でした。 その敵が、敵対している自分達を下しておきながら悔し涙を流している。 しかもその涙の意味とは、これまで期待させておいたものが『期待通り』にならなったからこその―――“涙”…


あと“一歩”―――あと“一歩”と言う処で強力な者の前にひざまづいてしまう自分達、もうここで―――終わり…なのかと思ったその時。


「(な―――カルブンクリス?)」

「(い、いつの間に―――)」

「(一体いつから…それに、竜吉公主様やウリエル様までも。)」

「(わ、私達では実力ちから不足―――そう思われていた?)」


つくばっている自分達をかばうかのようにニュクスの前に立ち塞がった者こそ、現在の魔王の政治姿勢に異を唱え叛乱を主導したカルブンクリスその人と、〖聖霊〗の竜吉公主に〖神人〗のウリエルでした。

しかし、カルブンクリスは率先して戦場に出る手合いではない、これまではニルヴァーナ達を自分の手駒の様に動かせるために後方にて指示してきた…のに、ならばなぜ―――


「(な―――なんだ、この女は…このわたくしよりも、いやよりもドス黒い情念…“闇”を抱えているなんて!?)」


ニュクスが発動させた固有能力ユニークスキル終わる事のなき永劫に続く地獄インファナル・アフェア≫を見ても判る様に、その権能の発動源ともなっているのは“闇”の属性でした。 それに奇しくもニュクスを敗った存在も“闇”の属性―――けれど今、ニュクスは本来の世界ではなく異世界である魔界にいる…つまり、ニュクスを敗った存在はニュクスよりも“闇”属性が濃かった事が判るのです。


それにしても―――カルブンクリスが『“闇”の属性』?


と直接対面するのはこれが初めてとなるね。」 「(…)ああ―――そうだね…。」

「私も、の事を調べていく内に色々な事が判って来た。 ルベリウス様の側に常に仕え、よこしまな考えをそそのかしている―――そうだろう。」


この、発言を聞いてニルヴァーナは“ハッ!”としました。 いつもは自分達を『君』だとか『君達』としか言わなかった者が、その女に対してだけは『お前』と呼んだ―――些細な違いかもしれませんが、そこにはそれだけカルブンクリスの“憎悪にくしみ”の感情が受けて取れた…


「フッ、随分な言われ様だねえ。 だが確かに、あんたの言うような事はしてきたさ、だけどね、。」

「なんだと!?そんっ―――…」

「―――と、わたくしが言ったら、あんたはどうするんだろうねえ。」


“問答”が始まった。 “問”いはあっても“答”え無き問答が―――それにカルブンクリスには、その“答”えまで導くだけの材料が足りていない。 だから―――


「(な…なんっ、なのだ?は―――!)」

「(あの人から滲み出る…“闇”―――)」

「(あ…あれは、触手?みたいなものが何本も―――!)」

「(わ…私達が信じてついて来た人が、よもや―――得体の知れぬ者だったなんて!)」


“ぬるり”“ぬらり”とカルブンクリスよりにじみ出てきた得体の知れない漆黒の物体は、やがてうねりを伴って何本もの“手”らしきモノを形成するに至りました。 しかも特筆すべきはその、“手”らしきモノ…『触手』の周りの空間は削り取られていた…?!


「『私はどうする』?もういい…考えるのは止めだ―――このままを…」


            ―――しかし―――


「そこまでにしておき給え。」


―――いつからそこにいたのか判らない存在が一人…けれど妙なのは。


「(何だ…あの存在は!)」

「(可愛い少女の様に視えるけれど…)」

「(声が渋い小父おじさん?)」

「(な、なんと珍奇な―――)」


一見して少女に視えるのに、声は皺枯しゃがれた老年男性の―――けれどその声のお蔭か、カルブンクリスが…


「師―――しょう…」


「(『師匠』?そう言えば我が盟友は私と交流を始めた頃、盟友自身の師の事を伝えたことがあったが―――それまさかこの御仁…)そなた、〖昂魔〗は不死族の【大悪魔ディアブロ】ジィルガ殿に相違ないか。」

「ほう、紹介もせずにワレの事を言い当てるとは…だがナレだけはワレの不肖の弟子より聞き及んでいたとみられるな。 それよりも疾く前に進むがよい―――ナレらにはまだすべきことがあるのだろう、ああそれとそこでへたり込んでいる奴も忘れていくなよ。」


突如として湧いて出てきた少女の身形をした者こそ、【大悪魔ディアブロ】のジィルガに他ならなかった。 それは判るにしてもではなぜジィルガはこの場に? しかしその質問すら許させずにジイルガは、ニルヴァーナにカルブンクリスを伴って『前に』―――魔王が居座る玉座の間まで進むように促せたのです。 それも…四の五の言わさせない雰囲気を纏って。


         * * * * * * * * * *


では―――ジィルガはニルヴァーナやカルブンクリス達が去った後で何をしたのでしょうか。


「さて、異界よりのお客人―――少し話しを、いいかね?」 「(…)わたくしを、『ラプラス』と知って尚?何が目的なんだい。」

ナレ魔界ここへと来た動機―――それによっては手を貸してやらぬこともやぶさかではない。」 「フッ…まるであの男と似たような事を言うもんだねえ。」

「『あの男』―――とは、ルベリウスの事か。 フッ…やはりあ奴はナレに操られるような玉ではなかったと言うようだな。」 「ああ、関心さえするよ。 ただ、わたくしとしては沽券プライドはずたずたさね。 少なくともわたくしか支配していた地域の民衆は皆、わたくしの≪魅了≫によりわたくしに操作されていた。 まあ悪い面もあったろうが、わたくしが操作していた間は平和そのものと言えたもんだよ。 だけど、そこをに狙われた―――はわたくしが元来いた世界だけでは飽き足らず、他の世界に目を付けた…が、この世界―――『魔界』って事さ。」

「傍迷惑な話しだ…だが、同情してやる余地は残されておるようだな。 それで―――?」 「あの男―――ルベリウスって奴にもわたくしの事情を話したよ、そしたら奴さんなんて言ったと思う?」

「この状況を鑑みるに至っては聞きたくもない答えのようだな。」 「だろうねえ―――わたくしだって当事者の立場になけりゃ、あの熾緋あか髪のお嬢ちゃんみたく怒ってただろうね。」

「だ、が―――ナレナレ自身の事情を話さず逆に焚き付けおった…何故だね?」 「あんな化け物はに次いで2人目だ―――わたくしも、わたくしの支配地域では最強だと息巻いていたが…なんだかどうでもよくなってきてねえ、このままあの化け物に喰われちまえば、一層いっそ楽になれるんだろうかねえ…って。」

「なるほどな、概ね把握した。(それにしても溜っていたのであろうなあ…単なるあおりによってたがが外れかけるなど―――)」


ジィルガにはある懸念がありました。 その懸念とは―――カルブンクリスの本性は、封じ込めていたわけではない事…日常普段の生活に支障を来たす事のないよう彼女自身で抑制させていただけだと言う事。 けれどそれがその当時出来る事の限界―――【大悪魔ディアブロ】であり『死せる賢者リッチー』のジィルガですらも手を焼く案件、それこそがカルブンクリスの持つ固有能力ユニークスキル≪“闇”の衣≫の実態だったのです。




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