第21話 『埋伏』の計略

幸いにも―――傷の一つも付いていなかった…まるで、眠っていいるかの、ようだった。 けれど何が原因で“死”に至ったのか―――上半身と下半身を縫い合わせた痕、冒険者間で本来の名とは違う名で呼ばれている【美麗の森の民】―――その名に相応しく、その美貌までは損なわれていない。 けれど―――もう―――息をしていない…愛していた自分の義妹いもうとが、こんな変わり果てた姿になって帰ってこようとは思ってさえもいなかった。 こうなる―――事が…判っていた、判っていたから強く反対したものだった、けれど義妹いもうとは生来から自由奔放な性分―――であるが故に、自由を求め…“冒険”を求め故郷から羽搏はばたいて行った。 その内飽きたら帰って来るだろう―――そうも思っていた、思っていたら…思わぬ形で帰って来た。 半分信じられなかった―――あんなに快活で死ぬような事はまずあり得ない…とされた義妹いもうとが、遺体となって帰って来てしまったのだ。 しかも遺体は見ず知らずの女性―――〖昂魔〗の女生と見られる者が,義妹いもうとがどうして死に至ったかの経緯を説明する為について来たようだった。 そして死の真相に触れるにつけ、一層信じられなくなってしまった。 どうやら義妹いもうとはこの連中にそそのかされでもして現政権に叛旗を翻す片棒を担いだみたいだった…それを聞いた時『騙されているのではないか』と即座にそう思ったのだったが―――


「いえ、あなたの義妹いもうと様である王女様に於かれては、王女様のご意思で私達に賛同してくれました。」


そんな事が、なぜ判る? 義妹いもうとではないお前が、どうしてそんな事が判る―――?


「私も当初は、私の考えに賛同してくれた事は嬉しくありました。 けれどその意思には大変危険が伴う事も承知していました、ですから私の方も細心の注意を払い―――」


「もういい…言い訳は沢山だ、ここから出て行ってくれ。」

「え、いやですが、しかし―――」

「いいから出て行けえ!当分お前達の顔は見たくもない!」


“何”が気に障ったのか、烈火の如くだった。 それにカルブンクリスも交渉を得手としていた為、こう言った精神状況の相手に例え丁寧な説明を尽くしたとしても理解は得られないものと感じ、日を改めて出直す事としましたが―――


「(面会謝絶…困ったものだ、これでは箸にも棒にも掛からない。 私としては一刻でも早く誤解を解き、エルフ王国との関係を築きたいのに―――)」


しかしこの後200年余り、エルフ王国はどこの勢力とも国交を開く事はありませんでした。 そう鎖国状態―――それが何故か200年の後に要請に応じたのかと言うと、そこには所属している母体〖聖霊〗の説得があったからではなかっただろうか…それが時を隔てるとカルブンクリスの政権にはなくてはならない存在にまでなっていた、そこはシェラザードの功績があったからこそなのですが…


         * * * * * * * * * *


閑話休題そんな事はさておいて、本編に戻るとすると―――結果的には、未だ抗争の只中と言う事もあり、また理解が得られなかったとして王女の葬儀の参列は認められませんでした。 その事に肩を落とすカルブンクリス―――しかし彼女が肩を落としていたというのも、自分(達)の不手際もあって国の要人の葬儀に参列する事が適わなかった―――と言うよりは、この先見通せないエルフ王国との蟠りをどうするべきかに頭を痛めていたのです。


「(ある程度の拒絶は想定はしていたが…まさかあれ程とはね、それはまあ置いておくとして当面はどう局面を持っていくかだが―――)」


エルフの王国『エヴァグリム』との関係もそうでしたが、今現在でのこの局面で大事なのは魔王軍との戦局。 神仙の本拠であるシャングリラはどうにか失陥は免れましたが、魔王軍との戦闘で壊滅寸前まで追い込まれてしまった、多くの施設や路や橋などは軒並み損傷され物資の流通も儘ならない…加えて多くの神仙が死傷したのも痛手でした。 けれど、長である女媧が生き残っている―――この事実はカルブンクリスにすれば一筋の光明でもあったのです。 それというのも神仙族の多くは女媧より産み出された…いわば母体である女媧が安全であればまた新たな神仙が産み出されるのです。 それにこれは負傷した神仙にも言えた事でした、今回魔王軍に対抗する為に防衛の軍を率いた二郎真君も今回の戦闘で著しく傷つきましたが、女媧が生き残っている事で回復・再生することが出来たのです。


だからと言って順風ではありませんでした。 傷付き亡しなった者を復活させるのに何の不利益も被らないものか―――ひとえに、多くの神仙を産み出す事はそれだけ権能チカラを大きく消費させる事でもあるのです。 つまり…今回の防衛戦でどうにか女媧は生き残ったものの―――


「今回の事で私達神仙からの協力は得られないものと思って…」 「本当は、猫の手も借りたいくらいなのですがな。 事情を知った今となっては―――」 「甘えてばかりじゃいられない…まあそれもこれも私達がもうちっとシャンとしてりゃ問題はなかったんだがな。」


「リリア―――それは違うわ、私達上位種が本来眷属であるあなた達を護ってあげなくてはならなかったのよ、それを私の失態で…」 「それはいいとして、ならばあなたはどうするのです。 どこの勢力にも手を貸さないと言うのであれば、今後一切私達とも関わらないつもりなのですか。」 「ホホヅキの言う通りです。 厳しい事を言うようですがあなた様は本来は神仙の重鎮中の重鎮、私達と混ざっての行動は怪しまれるのでは…?」


「(…)一体誰にモノを言っているのかしら?私が神仙?あんなお高く留まった連中と一緒にしないでもらいたいわね、私はこの魔界で最弱種の一つとされているヒト族のアンジェリカなのよ?」 「―――ッハハ!そうだよなあ~?神仙て言ったらいつもお高く留まって、『ここの風呂の水は汚く濁ってる』だの、やれ『ここの定食屋の飯は不味い』だの、やれ『宿の寝具が不良品で寝付けない』だの…挙句にゃ『の趣味に合わん!』て酷評だったもんなあ~?」


「え…は、はあ~~~?わ、私そんな事一度も言ってないわよ?」 「おやおやおかしいですねえ、あなたは確かヒト族のアンジェリカのはず…なのに―――」 「先程のは確か竜吉公主様が仰っていた…と、コーデリアさんが言ってましたけど。」


「(あ…あンのクソ天使ぃ~~!)わ、私が聞いてる竜吉公主様は倹約家でそんな贅沢はしない方ぁ~~……」 「アンジェリカ殿…そんなに必死にならなくとも好いですから。」


引き続き本来の自分を偽ってヴァーミリオン達との関係を密にしていく竜吉公主、しかしその中では自身の評価を著しく損なうモノもあったようなのですが―――現在公表されている〖聖霊〗の立場は、『どこの勢力にも加担せず協力もしない』…つまりと同じ様に中立の立場をしたものだったのです。 ―――となれば、今のアンジェリカ(竜吉公主)の立場とは? これが詰まる処の偽装・偽態、本来とは違うヒト族を装っていれば事を隠せる…と言いたい処なのでしたが、今回のシャングリラ襲撃の件はから漏れたこともあり、当面はアンジェリカは表立っての行動には制約がされていたのです。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方、魔王軍内部では。


「今回あれだけシャングリラを叩ければ、それ以降叛乱軍に手を貸そう―――等と言うバカな考えはしませんでしょうな。」 「ほう、つまり総参謀殿はそれを見越して……」

「(…)まあそれも一つにはありますが、神仙と言えば事実上の〖聖霊〗の代表格トップだ―――そこを激しく叩けば、〖聖霊〗に属する“エルフ”や“ドゥヴェルク”…その他諸々の精霊族への牽制にもなるでしょう、オレもなぜこの時期にシャングリラを叩くのか……判りませんでしたが、この策を考えたヤツ―――ああいやルベリウス様は頭のキレる方のようだ、当面叛乱軍の連中も大人しくしているでしょうなあ。」


今回どうして“三柱みつはしら”の1つでもある〖聖霊〗の神仙族の本拠シャングリラを叩く必要があったのか―――それは以前から噂がなされていた『もしかすると神仙族が密かに叛乱軍を援助している』と言う疑惑がもとでした。 しかもその疑惑は少なからず当たってしまっていた―――竜吉公主と言う神仙の中でもおさの女媧に次ぐ権限の持ち主が、ヒト族と偽って関与をしていた。 ただその事実は事実を知る総参謀によって隠匿されていたのですが、アンジェリカ(竜吉公主)尋問の際ベサリウスと立ち会った者によって上へ露呈してしまった……それでシャングリラへの襲撃へと発展してしまったのですが、その後魔王は神仙への追加処分はしなかった―――?ただ…代表格トップが壊滅的な被害を被ったことで所属する各種属への(いい)牽制にはなっているようでしたが…。


それでも魔王の手は緩められる事はない―――現在ベサリウス達魔王軍はエイブラムスの駐屯地にいましたが、そこに魔王の使者を名乗る者が現れ…


「何者ですか、あんた―――」 「わたくしは、魔王ルベリウス様のお側に仕える者…本日は魔王様よりの新たな指令をお持ちあそばせました。」

「ふうん―――判った…それで、あんた名前は?」 「(…)わたくしは、生憎“”を持ち合わせてはおりませんの…」

「ふうん……“”を―――ねえ。 ま、端女はしためかなんかでしょうな、それにしても…そんな女なんかに―――よくまあ『指令』等と言う様な重要なモノを任せられる気になったもんだ……」


その使者は女だった―――それも『絶世』や『傾世』と称していいほどの…しかもその女には名などないと言う。 その事にベサリウスは疑義を抱きました、よくもこんな経歴不詳の女に信を置き『指令』と言う重要事項の伝達を任せられるものだと。 とは言え、指令は指令―――上からの指示には従わない訳にもいかず、その不祥な女からの伝達に耳を傾けたのです。


すると……


「(…)は、『ヴェルドラリオン』―――竜人族ドラゴニュートの首都を?またなぜ…」

「さあ…わたくしのような端女はしためごときには判りません、なにせこの身の“春”を売る事くらいしか能がございませんから。」

「判った、オレが納得いかなくとも指令だものな、言う通りにはしますよ。」


「(この男―――中々のキレ者のようだねえ…このわたくしの事を端女はしためだのと言い置きながら少しの油断もしていない。 けれど、それでいいのさ…わたくしは、わたくしの復讐を果たす為ならなんだってやってやる、それが例えこの世界のあらゆるものを利用したとしても―――それにはわたくしの本意を知りながら敢えての敗北を受け入れた、あの男…魔王ルベリウスの治政はわたくしに優るとも劣らない―――そのはずだったのに、自分の地位や業績を投げ打ってまでわたくしの復讐に加担してくれた…! “運命”―――なんて、何て残酷なんだろうかねえ…ルベリウスがわたくしの世界にいてくれたら、わたくしもこんな事をせずに済んだのだろうに…)」


ニュクスは、ベサリウスを一目見た時から油断のならない者だと察しました。 恐らくこの男は気付いている―――今回の『指令』の内容は自分が拠出したのだと…しかし、敢えて受ける…今現在に於いて現政権は―――或いは魔王軍はやる事為す事上手く行っている、いや…この異常性をこの男は感じているのだろう、指示に従っている。 では果たしてその先に待ち受けているものとは?


「(『シャクラディア』に続き『ヴェルドラリオン』―――ねえ…まあその動機も判らんわけじゃない。 竜人はある機会に魔王軍所属の大将軍を務めていた人物の突然の罷免―――そこから始まる竜人族の兵士の大量罷免を被って来た前歴がある、それに…ここ最近じゃ魔王軍の拠点が強襲を受けた時に竜人族の領袖りょうしゅうと配下の兵達の姿を確認したとか、だからが―――にしても…今度の竜人族ドラゴニュートは前回の神仙族とは訳が違う、前回と同じで臨むようなことがあっちゃあ―――それこそ……)至急諸将を集めてくれ、これから策略を授ける。」


今回魔王が竜人族ドラゴニュートの首都を攻める意思を見せたのはベサリウスには理解出来ました。 自分の軍の拠点が何者か―――叛乱軍の手によって落とされた…しかもその現場には竜人族ドラゴニュート領袖りょうしゅううおぼわしき者とその配下の副将軍、そして兵士達…未だ詳しくは報告は上がってはいないものの魔王は早急に報復に臨み始めた。 これがベサリウスが描き出した構図だったのです。


けれど、ベサリウスは―――


「まずは人馬族ケンタウロスのホウンセン、あんたは自身の『魔王軍第一軍』を率いヴェルドラリオンを強襲して頂きたい。」

「なんと自分が?その栄誉は有り難いが…ヴェルドラリオンと言えば大将軍閣下であらせられたプ・レイズ殿の故郷―――果たしてそう易々と…」

「まあ、第一軍直々に―――となると、他への協力を求めてくるでしょうなあ…しかしそれがこちらの狙いだ。 今回の一件で有耶無耶だった“例の件”が明るみになれば、魔王軍オレ達が行動している事にも正当性が出てくる…。」

「(…)承知した―――それで自分達は強襲をかけるだけでいいのだな。」

「ああ…そうさ―――竜人共も叛旗を翻した事が明るみになればそれいい。 それであとの『第二軍』『第三軍』なんだが…」


この時、ヴェルドラリオンの強襲を申し渡されたのは『第一軍』の司令官を任されたホウンセンと言う武将でした。 赤毛の馬体に上半身が筋骨隆々の猛者とも呼べる半人半獣の人馬族ケンタウロス―――画戟方天と言う長柄武器を振り回し、戦場を疾駆すると言う無双の者でした。 それに彼はただ武勇に優れるだけの男ではなかった、考える時には考えを廻らせられる―――今回の竜人族ドラゴニュートの首都を攻略すると言う意味も寸分も違わずにいた、なにしろ彼が所属する『第一軍』は罷免された大将軍の麾下でもあったのですから。


むしろ心配するのはその後に続く『第二軍』と『第三軍』…この2つの軍を率いている司令官は共に鬼人族オーガである『オンラ』と『エンラ』でした。


「あんた達鬼人オーガ竜人ドラゴニュートに含むところがあるんだろう?なら話は簡単だ―――好きなだけ暴れてくれリゃいい…」


「本当か?ふふん―――どうやら総参謀殿は判っていらっしゃるようだ、なあ?兄弟。」 「ああそうさなあ、あんな蜥蜴臭いやつらと一緒にされるとは我慢ならなかったんだ、ゼハハハ!」


「(これで当面は善し―――これで竜人族ドラゴニュートから救援の要請がなされなくとも、前線でが暴れてりゃ向うサンから駆け付けて来るでしょうよ。 しかし重要なのはがどれだけ闘えるかって事だ、精々その活躍ぶり見させて頂きますよ―――)」


          ―――【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】―――


現在の地位『総参謀』に就いてから、その“噂”―――その“”―――聞かなかった日はない。 戦場に映える緋鮮の衣に身を包み、純金製の甲冑一式が通った後には屍山血河が築かれているのだとか。 しかも一部の軍中にはその威容を目にしただけで立ち待ち戦意が挫け、闘わずして鉾を収める話しも聞いていた。

『叛乱軍』とひとえには片付けられてはいるものの、あれはれっきとした軍隊―――他にも【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】と並び称される【清廉の騎士】や、その剣閃は神の域を超えるとされる【神威】、更には諜報や間諜で活躍しているという【韋駄天ストライダー】―――と、一筋縄ではいかないような強者くせもの達が一揃えしていると言う。

それにこれは“策略”だった、ベサリウスが肌身で感じた魔界の異常―――正体不祥の女ごときが魔王の重要な指令を持ち運べる……

ベサリウスが不幸だったのは、本来大恩を返すはずの人物の下に仕える事ではなく、半ば強引に魔王軍に召し抱えられて『総参謀』の地位を約束された事、そのえにしはベサリウスの因縁を捻じ曲げ本来大恩を返すべくの人物を捕縛し虜囚の憂き目に晒した事。 だから彼は策略を廻らせたのです、『埋伏の毒』と言う策略を……


          * * * * * * * * * *


こうして魔王軍のヴェルドラリオン攻略は端を発しました。 まずはホウンセン率いる第一軍が強襲をし、それに続く第二・第三軍がヴェルドラリオン近郊の衛星都市を蹂躙…そうした最中、彼方から鬨の声が上がる―――


「うおぉおお!故あって助太刀する!私の名は【清廉の騎士】―――知らないならこの機会に覚えておけ!」


「私の名は【神威】―――我が愛刀『布都御魂』の錆となりたくなければ退くがよい!」


これ以上の残虐非道はまかりならないと、いずこから駆け付けてきた【清廉の騎士】と【神威】。 しかし第二・第三軍の指揮官であるオンラとエンラにはプ・レイズからの救援要請は出ていないと言う―――それもそのはず、そうしたが無いよう第一軍のホウンセンを擁したのですから。


「ホウンセン―――まさかあなたが…」 「自分がこの場に立つ事の意味、分かって頂いて何より。」

「ホウンセン、そこを退け!」 「ク・オシム殿、それが出来ぬ事はあなたなら判っているはず。」

「プ・レイズ様ここはお退がりを…この分からず屋の石頭めには判らせてやらねばなりますまい。」


『第一軍』は魔王軍の中でも主力中の主力、本来その軍団の長や指揮官は軍団の指揮を任されてはいましたが、第一軍はその性格上大将軍の麾下にあったのです。 だからこそ互いの実力を知っている……自分も認める武力ブリキの持ち主がに自分の前にはだかっていると言う事実―――とは言え、このまま為すが為されるままに蹂躙されるのでは竜人族自分達の沽券にも関わるものとそう思い、竜人族ドラゴニュートのNo,2ク・オシムはいきり立つのですが……


「なあ―――ク・オシム殿…自分はこの度『ヴェルドラリオンを強襲せよ』ただその事だけしか聞いてはおらん、魔王様の―――いては総参謀殿より指令は受けたが、。」


「(な…っ?)何を言っている―――『それ以上』とは言っても結果、我等の救援要請は出させないでいるではないか!」

「確かに…(フッ) だが今現在近隣の衛星都市を第二・第三軍が攻めている―――」 「(!)要請を送る―――必要がないと? それに第二・第三軍て……」 「鬼人オーガの兄弟!」


「間もなく―――だろう…今巷で大変噂になっていると言う【緋鮮の】……」


「ほう、この私がここに来る事を事前に察せられていたとは―――それは魔王軍を指揮する総参謀とやらの策略か…それともそこもとの知略モノであるのか。」

「自分はただ―――上からの指令に従ったに過ぎない。 まあ尤も『襲撃する』だったから簡単なモノだったよ。 いずれここで騒ぎを起こせば、―――」

「フッ、総ては承知の上でか……ならば覚悟の方も出来ているのだろうな。」

「悪いが、その様な挑発に乗る様な性分ではないのでな、ただ自分は貰った俸給分の働きしかせん。 此度も総参謀殿からは『ヴェルドラリオンを襲撃する』でいいと言われたからそれに従ったまでだ。 それ以上の働きを望むならその分の俸給を出して然るべき…そうは思わんかな。」

「ではなぜ私の到来まで待った。」

「自分は、知っておきたかったまでだ。 ここ最近巷で噂になっている―――未来の英雄の姿を…な。」


第一軍の指揮官は口ではそう言ったものの本気でヴェルドラリオンを陥落させる意思はないのだ―――とプ・レイズはそう感じました。 何より彼は自分の麾下だった時代に一日で盗賊達のアジトを40も壊滅させてくる程の猛者だったのですから。

しかし、そのげんが真実だったとしたら、この第一軍の指揮官の忠誠が薄れてきている…? それでなくとも『俸給分の働きしかしない』と言うのは皮肉の何者でもないのですが―――


それでもホウンセンが去った後で…


「お久しぶりにございますプ・レイズ様―――間に合って何より。」 「ヴァーミリオン、要請も出していないのに駆け付けてくれた事感謝します。 けれど……」

「ヴェルドラリオン含む近隣一帯が次の目標地点である事は我が盟友も判っていた事…ただ事前に食い止められずにいたのは―――」

「それも、その方の策謀の内なのでしょう…」 「プ・レイズ様―――」

「いいの、別に…利用されても。 それに私にはもう魔王軍のやり方には付いていけない―――そう思ったから私から辞表を提出したのよ。 ただそれでは魔王としての面子も潰れてしまう…だから世間体では私は辞め事になっているはず。」


ニルヴァーナとプ・レイズとは面識がありました。 それもプ・レイズが魔王軍を辞した折、彼女に魔王軍の城塞を失陥させる依頼と協力を申し出た時に。 そこで双方は相手方の実力を測り知ることが出来ました、片や“元”魔王軍の大将軍に就いていた者として…片や鬼人オーガの型破りな強者として。 そして今を以て竜人ドラゴニュートも新たに叛乱軍に参画する事になったのです。



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