第20話 反撃の烽火

ベサリウスがヘレナに自分の心情を告白した―――本来なら報いなければならない大恩を返すべき人物を、自分が辱めている事を。 それはそれで、その心情はよく判ったのですが……


「なあ―――ヘレナさん…あんた吸血鬼ヴァンパイアでしょ、吸血鬼ヴァンパイアですよねえ。 を血肉にして永遠とも言えるときを紡げるって言う―――」 「その通りだが―――それが?」

「それで、その後どうなります?」 「『どうなる』…とは?」

「あんたに喰われた後、は、どうなるんです。」

「(…)“私”に、なる―――ただ、私のお気に入りともなればその者の人格を固定して存続させることも可能となる。」

「―――そいつは、オレが“オレ”のままでいられると。」 「それを今望むなら保障してやろう。」


急に何を思ったかベサリウスはヘレナにある事を聞いてきたのです。 それはヘレナが吸血鬼ヴァンパイアである事―――それに付帯する『血肉とする事』、そしてある条件が重なれば血肉となる以前の自分を保つことが出来る事…を。


するとベサリウスは―――


「だったら一つお願いを聞いちゃもらえませんかね。」 「聞こうか―――」


「この陣からほど近くの村に、竜吉公主様が監禁されている…なあに傍目から見ても普通の村じゃない事は判るでしょうよ。 そして更に目立つように配置をさせてある…だからどうか―――竜吉公主様を、なんならオレの血肉いのちと引き換えでもいい、だから―――…」

「判った……あなたのげんに嘘偽りが無かったら彼の方の救出は為しましょう、けれど―――“それ”と“これ”とは別だ。」

「(え…)なぜ―――」

「あなたの血肉いのちは、然るべき後に必ずや奪いに来よう…ただ、今はそのときではないだけだからだ。」


そこでベサリウスは、なんと敵方であるはずのヘレナに竜吉公主の救出の依頼をしていたのです。 しかもその依頼の報酬も自らの血肉いのちを引き合いに出して。

ただ、ヘレナは公主の救出は受諾はしましたがベサリウスの血肉までは欲しなかったのです。 とは言え……いずれ奪う目的ではいるようですが―――


こうして例の村での攻防がありました、その際には同胞なかまであるノエルは大きく傷つきローリエは犠牲となってしまったわけですが。

ただ、ベサリウスが証言した通り村落にしては物々しい警戒態勢に、外形みためでは肋家な家には厳つい番人が―――だからこそこの肋家に公主が監禁されているものだとし、ノエルの救護とローリエの遺体の処理を後詰の者に任せると、ヘレナ自身が公主の下を訪れたのです。


「竜吉公主様―――で間違いありませんね。」

{そなたは何者じゃ…いかにもが竜吉公主じゃが。}

「私は叛乱軍を主導している、さある方のお付きでヘレナと申し上げます。」

{ヘレナ―――?ではそなたがカルブンクリスの…それよりがここにいる事がよく判ったな。}

「ええ―――まあ…そちらもさある者からの依頼でもありまして……」

{ふうむ…さあるのう、まあそこの処は詮索しても仕方あるまい。 それより手筈は整うておるのか。}


無言で頷くと檻に掛けられた錠前を解き、即座に解放をするヘレナ―――そして久方ぶりに陽の当たる場所に出てみれば…そこは血生臭い惨事の痕なのでした。


{(う…むうぅ~~妾の知らぬ間にこのような凄惨な事が繰り広げられておったとは―――それに…)のうヘレナよ、少しばかりそなたに問おう。}

「何でございましょう。」

{視た処ここは我等が〖聖霊〗の領域内―――もしやするとシャングリラは…}

「その事に関しては陥落は免れた模様です、しかし女媧殿は現政権に抗うとお決めになられた……」

{そうであったか…それもが虜囚の憂き目となる様な失態を演じねば回避出来た話し。 此度の事、深く謝罪致そう。}


現場を視るなりすぐさま状況を判断した竜吉公主、しかもここが自分の拠り所だと判るとその原因が自分にある事を覚ったのです。

しかもシャングリラへと着く道中それまでにあった出来事をヘレナより事細かに聞くに至り、その遺憾の意を表したものだった…


{なんと…リリアやホホヅキ、それにノエル―――更にはローリエが犠牲になってしまうとは…}

「彼女達も“主上リアル・マスター”の下につどい決起するに際しその覚悟はしたと思います、今までは順風ではありましたが相手は魔王軍…ともなると。」

{そうであったな…失言じゃった、して―――が神仙の被害状況はいかようになっておるのじゃ。}


〖聖霊〗は神仙族の長、女媧の下に馳せ参じるまで公主はそれまでの状況を聞き取りました、そこには公主自身がヒト族の冒険者として交流した仲間達の状況もそうではありましたが、やはり一番気にしなければならないのは神仙族じぶんたちの被害状況だった―――過去に於ける自分の失態が元で出るはずの無かった犠牲…


{(う…むむう―――何と言う事じゃ、太上老君や普賢真人だけでなく原始天尊…更には二郎真君までもが!)}


被害は、甚大―――この先将来を嘱望された若い神仙や、神仙族や〖聖霊〗内部において中心的役割を担ってきた大物までも、皆深く傷付き死にまで至った者も…そして生き残った女媧のもとまで辿り着いてみれば。


{おお公主よ、無事であったか!} {申し訳ございません女媧よ…此度はの失態の所為せいで、なくてもよい損害を出させてしもうた。}

{そうか、かえりみてくれるのは嬉しい限りじゃが、はぬしを責めたりはせぬ、ぬしがしたことも〖聖霊〗や神仙―――いてはこの魔界の為にとした事じゃ、誰ぞかぬしの事を責めまいよ。}

{そのお言葉かたじけのうございまする―――それより女媧よ、“これから”をどうするのかなのじゃが…}


無事そうな姿を見るなり歓喜を以て迎えられた、しかも神仙が攻め立てられた原因が自分にあるとしても自分が何故そのような行動をしていたかの理解をしてくれていた。

それに大事なのはまさに“これから”……今回の事で魔王軍とは正面から当たってしまったが故に『叛乱軍』と同一視されても仕方のない話し―――とはしても、今現在神仙に残されている戦力と言えば。


{その事なのじゃがな―――公主よ、が神仙は今後共々手を出さぬ事に決めた。}

{なんと?!いや―――しかし…}

{無論、手を出さぬのは魔王軍にしてもそうじゃが叛乱軍にしても…な。}

{なるほど、『今まで通り』と言う事か―――しかしじゃな女媧よ、その様な理屈が魔王軍に…}

{うぬが居らぬ間に休戦協定は取り付けた、今後一切の手出しをしない代わりに魔王軍も神仙を攻めぬ―――と言うな。 それを、『魔王軍総参謀』ベサリウスなる者から提示てきたのだ。}


{(なんと?あのベサリウスが?! うぬぬ…何を考えておるのじゃ、魔王軍にしてみれば今を以てシャングリラを陥落おとす機会はないじゃろうに、それを自らが放棄するなどと…。)}


その話しは、竜吉公主にしてみれば余りにも不可解な判断であり行動でした。 確かに今、シャングリラを包囲しつつある全軍を用いれば陥落までは容易な事だと思えた…けれど現実としてはそうではなく、休戦協定―――しかも内容を紐解いて見ればこれまで快進撃…勝ち過ぎてきた魔王軍にしてみれば不当な要求だったのです。

“不可解”……その才を愛していたからこそ―――しかもそれは、竜吉公主にしてみれば虜囚にされた時よりも屈辱感を味わわされた様なものだったのです。


とは言え、神仙族の長である女媧がその条件を呑んだ―――それを竜吉公主が従わないわけにもいかず…


いささかの不満はありまするが、女媧がそうしたいのであれば致し方がない……}

{“不満”―――か…確かにシャングリラを蹂躙されてあちら側には不利な条件での休戦を結んだのじゃ、これは『いつでもお前達など叩き潰せる』事を示唆したものであろう。 事実、神仙の総指揮を担った二郎真君も重体にまで陥っておる…らは敗けたのじゃ、間接的にな。 だからと言って抗う術がどこに在ろうか、よいか公主よ―――これは個人としての依頼じゃ…ぬしはこのままヒト族の冒険者の名と姿を借り、かの叛乱軍の主導者の指示を仰げ。}

{その言葉―――待っておりました。 もこのままでは汚名を拭う機会も得られもせず、日々を悶々と過ごしてゆかねばならぬと思うておった所じゃ。 ではこれより早急にわたりを付け、以降は魔王ルベリウスめを討つ事と致しましょうぞ。}


女媧と竜吉公主―――たった二人で〖聖霊〗の…神仙族の行く末を決めたようなモノでありましたが、事実上今までも重要な決定事項などはほぼこの二者間で取り決めていた様なものだった…だから竜吉公主が魔王軍の手に落ちたのを知った時、女媧としては気が気ではなかったのです。

けれども生きて再会できた―――そこでまた決められた重要決定事項として、今後の〖聖霊〗の、神仙族の行く末……対外的には魔王軍に屈した―――と見せかけての叛乱軍への助勢だったのです。


そして竜吉公主は『アンジェリカ』となり―――…


「公主殿無事であったか!」 「いやあーホント、心配したもんだぜ。」 「生きていたのですね…けれど味方が一人でも多くいるのは助かります。」 「ローリエは尊い犠牲となってしまいましたが、どうやら“最悪”だけは回避できたようで…なによりです。」


「皆心配をかけてごめんね―――それとローリエの事は…残念に思うわ…。 だけど彼女の犠牲が犠牲にならない為にも、ルベリウスを討たないと!」


こうしてニルヴァーナ率いる『叛乱軍』と竜吉公主の結びつきは、より密になりました。 ですが蜜となったところで―――


「それより、あなた達を主導していた“あの人”はどうしたの?それと私が居なくなった間の天使の動向は……」

「その事に関してはこちらでお話しいたしましょう…」


自分がヒト族の冒険者として世界の情勢を見て回っていた時に、一緒に行動を共にしていた者―――その者こそは“三柱みつはしら”の1つ〖神人〗、その中の天使族…『地』の四大熾天使【ウリエル】。 けれどウリエル自身も活動がしやすいよう冒険者を名乗っていたのです、その時の名が『コーデリア』…


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ところでウリエル―――ああいやコーデリア殿、ミカエル様はなんと…」

「我等天使も神仙と同様中立を貫いている―――が、しかし魔王ルベリウスはそんな神仙をも敵として視た。 そこはミカエルも憂悶とせざるを得ないのだが、時間は刻一刻と迫ってきている、早急に判断をせねばならないだろう。 だが良い情報も一つある、どうやら魔王軍はシャングリラを陥落させないまでも現在軍を掌握している総参謀により休戦協定が結ばれるそうだ。」

「私の掴んでいる情報では魔王軍はいささか勝ち過ぎているとも…そんな状況下でよく講和に持ち込めたものだなあ。」

「まあ、戦の一つが収束するのは好い事だ…が、私は寧ろその後の神仙の出方に注目を置いている。」

「(…)神仙の出方―――とは?」

「まだ協定内容までは私の下まで届いてはいないが、私の目から見たら今回の戦は神仙族の敗けだ。 ただ、休戦を結んだからとて神仙がその後どう出てくるのか…興味は尽きない。」

「だとするとやはり―――…」

「そこまでの事は、私は言えんよ…ただ、女媧は私の知る上でも最も奸智に長けた御仁だ、ただで転ぶとは思えないが―――ひとつだけ言える事は、ただなにも用意もしないで吉報だけを待ち続ける事こそ愚というものだ。」


“上”に立つ者はそれなりの智謀を兼ね備えていなくてはならない―――それは、ただ清廉潔白であればいい…と言うものではありませんでした。 “上”に立つからこそ他を“謀り”“欺き”“騙す”…だからこそ“三柱みつはしら”の長達は長期の政権を続けられていたのです。

それはそれとして神仙族が魔王軍によって攻め立てられていた時に〖神人〗の天使は何もしていない訳ではありませんでした。 天使族の長である大天使長ミカエルの下、表面上は中立を保ってはいてもその裏では叛乱軍の主導者であるカルブンクリスと互助関係を結んでいた、ただ神仙族の様にならなかったのは竜吉公主の様な失態は明らかとならなかっただけ…そこを考えると竜吉公主が虜囚となったのは痛恨事でもあったのです。

だとて天使族は―――〖神人〗は叛乱軍への援助を惜しみませんでした。 それはこの当時の叛乱軍の組織構造を見ても判った事でしょう、そう…この当時の叛乱軍の構成に『獣人族』『亜人族』『ヒト族』が多くを占めていたのはそうした理由があったからなのです。

それに、カルブンクリスはコーデリアとの話し合いで近々魔王軍と神仙族の講和がある事を知りました。 けれど聞く限りの戦況では神仙族に不利となる条件が提示されるだろう―――と、思っていたのですが、いざ蓋を開けてみると…


「(なんだ?これは……こんな条件を魔王軍が提示してきたのか?! 有り得ない…私が聞く限りでの戦況では魔王軍は勝ち過ぎると聞いてきた―――そうなれば少なくとも神仙族の隷属化、力を失った神仙族はやがて消滅する事となり〖聖霊〗もやがては…そうなってしまえばこの魔界の根幹が揺らいでしまう―――そう思っていたのに…なのに……しかし前向きに考えてみれば魔王軍の指揮を執った『総参謀』の存在だ。 欲しいものだな……人材としては。)」


そこで浮き彫りにされてくる『魔王軍総参謀』の存在―――勝ち過ぎたままでの講和では過ぎた内容を提示するしか外はなく、それが通ってしまえば自分が懸念とした事が実現と成ってしまう……しかし講和された条件を見ていくと、これが勝ち過ぎていた勢力の軍が提示するものなのかと疑わしくなるくらいの不利な条件―――しかしそれが魔王に知られてしまえば更迭以上の処分がある……とも思われていたのですが。


「(やはりおかしい…本来のルベリウス様であれば現政権に痛手を負わせる様な政策を提じただけで異動は免れなかったものを、それを半年以上経ってもお咎めなしだと?一体どうなっていると言うのだ。 だが考え様によってはそれによって神仙族は辛くも存続する生き延びることが出来た…欲しいものだな、この『魔王軍総参謀』ベサリウスと言う人材。 そう言えば報告によるとヘレナが一度だけ彼と会ったと言っていたな…)ヘレナ―――」

「何用でしょう“主上リアル・マスター”。」

「確かお前は以前『魔王軍総参謀』ベサリウスなる者と会ったと言っていたな。」

「はい、それは囚われた竜吉公主様の行方を捜す際、彼の者の配下に扮していた事がありましたので。」

「ほおう…それで彼の人物はどの様だった。」

「対外的には不真面目―――の様に見えてその実は義を徹す男でした。 それに今時の魔王軍には似つかわしくない様な思考の持ち主でしたね。 あと……」

「ほうほう、それで―――?」


カルブンクリスに呼ばれたヘレナはベサリウスに会った時のことをありのままに話しました。 それは当然―――…


「(なんと…)この私以前に既に竜吉公主様が―――」

「彼の者があの地位にいるのも、公主様に促されて士官学校に通った成果でしょう、そこを…魔王ルベリウスも目を付けた―――自身の私財を投じてまで育て上げた人材を横取りされた公主様にとっては腹立たしかったと思いますよ。」

「そ―――そう言えばあの方が急に息巻いてた…とニルも言っていたなあ。 そうかぁ…公主様が目を付けていたとなると、私の配下にするのは難しそうだな。」

「やはりそうお考えでしたか。」

「ん―――?どう言う事だヘレナ。」

「いえ、“主上リアル・マスター”ならば彼ほどの逸材、きっと欲しくなると思いましてね…それについては私に腹案がございます。」

「“腹案”―――」

「“私”とする―――つまり血肉とする喰うのですよ。」

「(!)いや…けれどそれでは―――」

「実は彼自身からも打診はあったのです、自らの血肉いのちと引き換えに竜吉公主様の救助を頼むと。」

「そんな事が……それでなのか!?公主様が無事救出されたと言うのは―――」

「ご明察のままに…それにその時、私は彼からの条件の一部をりました。 今やらなくともいずれ機会は訪れるものと思いましてね。」

「上出来だ!ヘレナ―――公主様には悪い気はするが、今叛乱軍は人材が足らない…直接戦線で活躍できる者は頭数は揃っては来たが、内政面ともなると、ね。」


『軍師』や『参謀』は戦時では軍略の担い手となる一方で平時に於いてはまつりごとの扶助にもなる、それにカルブンクリスはルベリウス政権を打倒した後の事を考えてもいました。

現実として魔王ルベリウスは魔界の人民に塗炭の苦しみを味わわせている、ならば少しでも人民の負担を軽減する為に誰かが立たねばならない―――しかしカルブンクリスは豹変する以前の魔王ルベリウスをよく知っていました。 今までのどの政権よりも人民たちに寄り添った治政、その手腕にカルブンクリスは憧憬あこがれを抱いていました、畏敬すら抱いていました、慕ってさえいました、そしていずれは彼の下で優秀な官吏として働き、やがては妃となるのを夢見てさえいた…けれどそれは最早適わぬ夢―――儚く散ってしまったのです。

それに現政権を倒すと言うのなら新たな政権は誰が握るのか……それは自分の手で魔王を討つ―――自分でしかないと思ったのです。


そして決起をした―――現政権に対し叛旗を翻すと言う行為は、生半なまなかな決意でないと出来ない、自分が“反旗を翻す立つ”と言う事は多くの犠牲を払う事になるだろう―――事実としてエルフの王国の王女の死は、王女と言う個人の死では収まり切らない事を意味してもいました。

そう……あのいたましい死は、ただ犠牲と言う名の下では収まらなかった―――ローリエの死は、その仲間であるニルヴァーナやカルブンクリスの間では『仲間の死』で収集は出来るけれど、エヴァグリムという国家単位では『王女』と言う王族の死…彼女達がどんなにか直向ひたむきに隠そうがその死は公になるのは必定―――


「おおおぉ…ローリエ!何と言う姿に―――…」

「セシル王陛下に於いては、ご親族の死に際し真に……」

「私の義妹いもうとを死なせたのは誰か!事情の如何によっては私は許さんぞ!」

「それに関しては私共も大変遺憾を感じております、ですが―――その…王女の死は直接的には現政権下の軍に…」

「魔王様の……?だからあれ程言っておいたのだ、私の言う事も聞かずにエヴァグリムから飛び出して行きおって…それに、あなたは先程『直接的に』と言われたが、ならばあなた方は何なのだ?私の義妹いもうとたぶらかし、危険な地へと誘ったのではないか、だとするなら我が義妹いもうとを殺したのはお前達と言う事になるな!」


何も、言えなかった……言う事が出来なかった、否定はしたくとも王女の遺体と言う事実を証明するモノがあるのだから。 だからエヴァグリムに弔問に訪れたカルブンクリスは応えませんでした。 王女の死と言う経緯で叛乱軍こちらが責められるのはあらかじめ判っていた事だった、その事…王族の死に感情的になってしまう当時のエルフ国王『セシル』―――こちらが『申し訳ない』としている以上反論はしてはならない、こちらにも非がある事が判っていたから無闇に反論した処で相手を逆上させてしまう事だってあり得るのです。 だからこの時カルブンクリスは受け身に徹しました、しかしそんな態度をとってもこの後しばらくしてもエルフ王国との関係性は善くはならなかった―――新たに魔王に就いたカルブンクリスが議論を重ねたくても、エルフ王国からは拒絶の姿勢で臨まれてしまったのです。

{*ここで余談としては、『エルフの王女様~』で描かれたのはこの当時よりは姿勢の軟化が見られた時だと判る。 しかしそうだとしても義妹いもうとを失ったセシル王としては、我が娘であるシェラザードも同じ目に遭わせるのは不当だと感じ、ローリエの事を知られたらまた同じ道を歩みかねない…だから自身が娘の監視役になるなどしてストーカー紛いの行為に出たのも、うなずけるのではあるが…シェラザード当人にしてみればその事が鬱陶うっとうしくて、実の父親であるセシルにも内緒で冒険者になる為の修錬を積んでいたのである。}



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