第22話 “命題”

竜人族ドラゴニュートの首都ヴェルドラリオン強襲さる』―――その報は既に叛乱軍の主導者カルブンクリスの下まで届いていました。


「やはりね、そう打って出たか。 ではリリアとホホヅキは手筈通りヴェルドラリオン外縁の衛星都市へと向かい魔王軍を迎撃するように。」

「ああ、任せとけ。」 「今度ばかりは不覚を取らぬよう気を付けます。」

「うん。 それに君達は以前の事がある、今の処は拒絶反応は見られないからいいが、ひとたび不調を覚えたらすぐさま退いてくれ。」


この一報は『韋駄天』の働きによってすぐに知れ渡りました。 それにそれは総参謀の読みとも符合していたのです。


今回の魔王からの指令通りヴェルドラリオンを強襲すれば竜人ドラゴニュート領袖りょうしゅうであるプ・レイズは外部に救援を要請するはず―――しかしそこで救援要請を出させないようにして、首都近郊を所縁ゆかりの深い者に襲わせたら果たしてどう出てくるか…結論として竜人ドラゴニュートからは救援要請は出せずにいましたが―――


「さて、愈々君の出番だ―――とは言っても少々気がかりな事がある。」 「これは盟友の言葉とは思えませんな。 よもや私まで不覚を取るものだと?」

「そう言った懸念はしていない、ただ―――こちらに思うように事が運び過ぎている何もかもが上手く行き過ぎている嫌いがある。」 「何者かが罠を張っていると?」

「そうした可能性は多いにある…だが、その罠の類が何なのかまでは判らない、リリアやホホヅキ―――果てはローリエの件もあるから気を付けてくれ。」


カルブンクリスが懸念していたのは仲間の多くが傷付いてしまった“あの一件”―――それでした。 それが今回、自分が一番信を置いている者にも巡ってきはしないかと気を揉むのでしたが、蓋を開けてみれば何もなかった―――…いや、何もないどころの話しではありませんでした。


         * * * * * * * * * *


ヴェルドラリオンでの一件を収束させ、竜人族ドラゴニュートと言う新たで頼もしい戦力を加えたことは僥倖にして重畳の至りでした。 ただ、手放しで喜べた訳ではなく―――


「なんと…第一軍の指揮官がそんな事を?」

「はい、私の麾下きかにあったときはそんな知略をひけらかさないから、ただ武辺に長けた者としか思っていませんでした。」

「(……。)」 「どうしたのだカルブンクリス。」

「一つ気になるのは、そのホウンセンと言う者は総参謀であるベサリウスとは懇意にしていのだろうか…。」

「可能性は―――低いと…何せああ言った帷幕いばくはかりごとを好む手合いを『頭でっかち』と言っていたくらいでしたから…。」

「(本当か?でもそれにしては……)」

「カルブンクリス殿はどうお考えであると。」

「私には、判らない―――そのベサリウスと言う者にしても、ホウンセンと言う者にしても…ただ、両者が懇意にしていて事前に話し合っていた結果なら判らなくもない。 しかし今の証言ではこの仮説も根本から見直さないとなあ…しかし今はあなた方が無事だと言う事を喜ばなければなりませんでしょう、将来あすの魔界の為に力を併せましょう。」


今回の一件が総参謀と第一軍の指揮官との間で出来上がっていた話しだったらある意味判る―――とカルブンクリスはしました。 神仙の『シャングリラ』に続き竜人の『ヴェルドラリオン』、この2つもの都市の襲撃には何かしらの意味が含まれているに違いはない、そして事実叛乱軍自分達竜人族ドラゴニュート救援の為に駆け付けてしまった……それによって大義は位置づけられました。

現政権に明らかに叛意を抱く者達―――『叛乱軍』の存在性を…この事を果たして民意はどう受け取るのか、それはここ50年と続く悪政・苦役を鑑みてみれば判る事、立ち待ちの内に叛乱軍は支持を集めました、またそれによって現政権に不満を持つ民衆が立ち上がったり『叛乱軍』に加入する者も老若男女問わず増えてきました。

そう……今や魔界の構図は『魔王(軍)』vs『民衆』となってしまったのです。


それにこの光景を重く受け止めている人物もいました。 そう―――言うまでもなく…


「(やはりこうなってしまったか…1人1人では弱い民衆も、その意思を結束させ集団となると怖いものだ。 ただルベリウス様はその怖さを知っていたはず―――私がある折にあの方の講義を聞きに行った際にも『斯くも民衆やまたそれに伴った民意は蔑ろにしてはならないものである。』と力説されていたものだ。 そんな方が…何故よりにもよってこんな手を?)」


カルブンクリスがまだ自分の“師”の下で様々な研鑽に励んでいた時、魔王であるルベリウスが〖昂魔〗の都市を訪れて講演会を開くと言う事がありました。 その時、政治にも一部興味を抱きじめていたカルブンクリスがルベリウスの講義を聞いた時、将来の自分の道を決めたのです。 いずれ現政権(魔王)の下に文官として就職し、やがては直接意見が出来る立場に…そしていつの日にか魔王の隣りに侍する“妃”として……。 けれどその願いは50年前に儚く散った、自分の思い描いていた未来とは裏腹な歩み方をしていく魔界せかい―――魔王ルベリウスの治政が少しずつ狂い始めた時からカルブンクリスは魔王に詰問状を宛てました、けれども返答は梨の礫だったなかった―――そこで現在の民意はどうなのかを図るべく街頭演説アジテーション・プロパガンダを行いましたが…皆現政権を恐れてなのか、聞いて聞かぬフリをしている…『このままでは魔界せかいはダメだ』と思った時、拾ってくれる者がいた。 その者こそが当時鳥人族ハルピュイアに扮し世情を調査していた〖神人〗は天使族の長【大天使長ミカエル】その人だったのです。


こうして大きな後ろ盾を得たカルブンクリスはその後様々な協力を取り付けました。 中でも彼女を勇気づけたのはカルブンクリスを最も信頼してくれる仲間達……そして今では竜人族ドラゴニュートの協力を取り付け、剰え民意をも吸収し始めていたのです。


総ては順風満帆―――外部から見たらその様にも見えました…が、カルブンクリスにしてみれば判らないことだらけだった。 しかも“噂”に聞くには、正体も不詳わからないような女をはべらし“肉林”の慾に塗れていると言うような事も。


「(何者なんだ?その―――正体不祥の女とは! 本来だったら私がその定位置に収まるはずだったのに、それなのに……そう言えばその女、いつから存在していたというのだ。)」


ここでようやく魔王が豹変したと思われる原因が明らかになってきたのです。 “”も無き、出自も出生も一切が不明―――それを魔王が良く召し抱えたものだ…と思いましたが、カルブンクリスが魔王城内の情報を精査していた時、その女の実態が明らかになってきたのです。


「(なんだと!?50年前…まるっきりルベリウス様が豹変かわられた時期と符合するじゃないか!それに確定だ…この女がルベリウス様を狂わせたのだ!)」


その存在性が明らかに記録されていた時期とが全く重なる―――これで例の女が魔王をたぶらかしたと言う証拠は掴みました。 そして明るみになったからには、もう―――


「ヘレナ、皆に伝達を―――大事な話しがある…そう言って招集をかけてくれ。」 「畏まりました“主上リアル・マスター”。」


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一念発起したカルブンクリスは、現政権―――魔王に対して全面戦争を仕掛けるでいました。

けれどその計画は頓挫する事になる……それというのも、この英断を自分の主張を尊重してくれる者達に伝え、集まってもらうようにしましたが……


「(……)待て―――そう事をくではない。」


「(!)我が師ジィルガ―――なぜ…」「『ここに』…等と言う様な戯れは言うのではあるまいよなあ、我が子弟よ。」


空間を越えて急遽自分達の本拠地に現れた者―――外見みためでは『幼女』のていを為し…つつも、その声色は老成された男性の声帯。 そのよわいは5000年を紡ぐとされている魔界最古の古老―――『死せる賢者リッチー』にして『大魔導師ロード・マンサー』、〖昂魔〗を代表する悪魔族の長【大悪魔ディアブロ】のジィルガ…。


それにカルブンクリスの“今”があるのは、この魔界せかいでも『知の巨人』として知られているこの人物の教えにあたっていたからでもあるのです。 そんな人物が、本来の職務を放り出してまで子弟の暴走を止めた背景とは?


「それよりどうして止めたのですか―――師よ。」 「それよりワレが与えておいた命題は解けたのか。」

「“命題”―――ですか……けれど、それとこれと関係がありますか?」 「直接的には、“ない”。 ……が、間接的になら“ある”。 だからワレが聞きに来たのだよ、優秀にして愚かなる子弟であるナレに、な。」

「わ、私が?愚かなどと……」「そう言い切れる自信があるかね?今のナレに。」


いつもながら厳しい問責の仕方をしてくる人だ…そうカルブンクリスは思いました。 けれど事実を掌握した今なら押し通せる自信がある―――そう思い。


「(…)今あなたが此処に来られているのは、私の決起の動機を知ったから―――でしょうか。」 「判っているのなら話しは早い。 そう言う事だ…その動機では不純―――で、あるが故に、その動機が知れてしまえば立ち処にナレの立場は危きとなろうぞ。」

「ご忠告をどうも―――ですが、私が掴んだ事実…」「(フッ)まさかナレは、あの男が女如きの淫猥の術の前に籠絡おとされると思っているのか。」

「(え…)それはどう言う―――?」 「あの男は、女なんぞにさらさら興味はないぞ?まあもっともその原因を造ったのはワレでもあるのだからな。」

「は?師匠自らが?また、どうして……」 「あの男を魔王に推挙したのはワレだ、そして魔界の王として君臨するにはあらゆる事物に耐え抜かねばならん。 無論、色恋沙汰等をして女自らの野望、欲望を達する者もいる…故にこそ、そのような誘惑や勧誘に屈せぬよう耐性を付けさせ世に送り出していたのだ。 だからこそ、今汝ナレが動機とした事は軽々しいのだ、それを基に叛旗を翻した処で失敗するのは目に視えておる。」


そこで語られた新たなる真実―――魔王ルベリウスは素性の判らぬ女の手によって籠絡おとされたわけではなかった…?

カルブンクリスは自分以外の女性が魔王の隣りに侍っていると言う事実を基に本格的に反旗を翻すつもりでいました。 それがそうではない―――とすれば、益々判らなくなっ…

「(どう言う事だ?ルベリウス様は正体不祥の女にたぶらかされているわけではない…? だとするとどうして―――)」

また…判らなくなってしまった。 どうして敬愛し畏敬する魔王が豹変してしまったのか、それに魔界の民衆が悪政・苦役に喘いでいるのは事実ではあるわけだし、けれどだったとしたらどうしてこんなになってしまっているのか…。

カルブンクリスは今、堂々巡りの迷宮都市ラビリントスに迷い込んでいる様なものでした。 そんな子弟をみるにつけ、師は―――


「(い奴よ…こやつ根本的な処を見失っておるとは。 だがその事が判らねば、立たせてやりたくとも立たせてやれぬ―――しかし、このままでは不憫と言うものか…どれ、ミカエルの奴にでも含ませておいてやるとするか。)」


どうやらジィルガは、ルベリウスが今日に至ったまでの事を知っているようでした。 けれどもそんな事を決起しようとしている子弟に話してやって何になるだろう、“こたえ”と言うモノは自らが導き出すもの―――その手法やり方を自分は教授したつもりではあるのですが…旧知の友から『甘い』と言われても致し方の無い事、何しろ簡単な事に嵌り込み悩みに悩みぬいている子弟の姿を『可愛い』と思ってしまうのも、また師の特権なのだから。


        * * * * * * * * * *


だから―――ジィルガは自分の子弟が今こんな悩みで藻掻いていると言う主旨を話し。


「(はあ~あ…ヤレヤレ全く、彼女も自分のお弟子さんには甘いよねえ。 それに天使族こちらも大詰めの協議をしなくちゃならないのに―――)」


とは言っても、結局旧知の友(悪友)の相談を聞いてカルブンクリスの庵へとやってきているのですが―――


「ちはあ~☆(…て言うよりナニ?この暗い雰囲気)」


「おお―――ミカエ…いやミカ殿、実は相談に乗って頂きたいのだが…」


庵の扉を開けるとのっけからの暗い雰囲気くうき…これは一体何事かと聞いてみたら―――


「はああ~?反旗を翻す動機を失ってしまったあ? また…なんで?」 「そんなの私らが判るわけないじゃないか、現に私らを纏めるヤツがあんなんじゃ…なあ?」 「しかも、動機を失った理由も話してもくれず―――これでは空中分解も時間の問題ね。」 「それとあとカルブンクリス様は現政権と本格的に対峙しようとしていた形跡がみられますね。」


「(あーーーなるほど…そこへジィルガが現れて中止を求められたと。 だとしたら本格的に対峙していた“動機”にこそ原因がありそうだなあ。)判った。 取り敢えずは『判らない』事が、ね。」

「(…?)それは何の“問答”なのでしょう?」 「まあ、私が今ここにきているのもと大きく関わりがあるみたいでね、どれ……私が聞いてみよう。」


ここ一番と言う時に叛乱軍の中枢が機能しなくなってしまっていた、おまけに自分の旧知の友の弟子は仲間内にもその“動機”とやらを知られたくなかったみたいだ……だからここは第三者でもある自分が聞いてみる事にしたのです。


「やあ、随分と酷い顔をしているみたいだね、何があったのか…話してもらえるかな。」 「ミカ―――ミカエル様…私は大義を以て現政権に叛旗を翻したつもりでした、ですが本当の処は単なる浅ましい女の嫉妬だったのです。 今回ルベリウス様の経緯を洗って行く内に、あの方が豹変した時期と同時に正体不祥の女があの方の側に侍るようになった事を知ったのです…。 あの位置は―――ルベリウス様の隣りに侍するのは“妃”の役目…それは私の夢でもありました。 けれど結局ルベリウス様は私ではなく他の女―――それも正体も不詳の女を選ぶとは!それを知った時私は激情に駆られ、現政権と本格的に対峙しようとしました…」

「―――が、そこをジィルガに諌められたと。 確かに今の動機を聞く限りでは不純の何者でもないね、ジィルガもその事を察し君の暴走を止めに入ったものだと感心すらするよ。 で…どうするつもりなんだい、今現在叛乱軍の下に集まってくれた同胞なかま達は半ば君の意思に賛同してくれた者達ばかりだ、しかし君本来の“動機”が不純だと知ったら―――」

「私は―――判らない!我が師は『ルベリウスは娼婦如きの淫らの術で籠絡されるような男ではない』と仰ってくれた…けれど正体不祥の女を侍らせているのを知った時、それ以外の原因が見つからなかった…だとしたら!どうしてルベリウス様は豹変されてしまったのですか?!」


「(あーーーーーそう言う事か……そう言えば上に立つ者や英雄の類などが失道する経緯は概ね“色恋沙汰ハニー・トラップ”が主だものなあ…だから、ジィルガがルベリウスを魔王位に推挙する際、自主規制察してください)やらかしたと言ってたからなあーーーその結果、まったくそっち《色欲》方面には興味持たなくなったとか…とは言え、どう説明したら~~)」


自分が、師や盟友の外に信を置く人物が悩みを聞いてくれると言う事に、カルブンクリスは総てを話しました。 それは勿論、今回踏みとどまった全面的抗争の“動機”についても。 そして色々聞いて回って行く内に大凡おおよその事が見え始めた―――どうやら自分の旧知の友の判断は間違ってはいなかった…もしこの“動機”が、知られなくとも―――未来・後世に於いて発覚しない保証はどこにもない、今の時点では高潔な矜持で叛旗を翻したとはしても“動機”が明るみになった時この叛乱劇は単なる“痴情”によるもつれだった―――とされかねないのです。

とは言え、面倒臭い事を押し付けられたものだと“恨み節”炸裂なのですが―――…


「(まあ、今はその事はいい…色々言いたい事はあるけれど、どうにかして説得し直さないとね。)ねえ、カルブンクリス―――ジィルガは何か他の事について言わなかった?」

「え?そう言えば―――『与えていた“命題”は解けたのか』とか…」

「ふうんーーー(“命題”…)その“命題”って何なのか、教えてもらえるかな。」 「は、あ……構いませんが―――」


カルブンクリスがジィルガに師事し、行く行くは得たその学識を魔界せかいに役立てる為に独立ひとりだちをしようとした決意のその日、カルブンクリスにはジィルガから与えられた“命題”と言うものがありました。


その“命題”とは―――


「『もしこの魔界せかいが昏迷に導かれし折、ナレならどうするか』―――ですか。」

「ほう、その答えに君はどう返したと。」 「『その根底、原因を探り正しきを導き出す』―――と。」

「ふうむ…それで?今回は正しきを導き出せたと―――」 「それが……判らない、私が正しきと思っていた“こたえ”が、そうではないと判ってしまった……だとするならこれからどうすればいいと?!」

「その“迷い”の部分は、君自身がルベリウスが“色恋沙汰ハニー・トラップ”には脆弱だとしたからだよね、けれどその前提が君の師によって挫かれてしまった…なら、答えは至極簡単じゃないか。」 「(え…)簡単―――?どこが…一体?!」

「だってルベリウスは、その正体不祥の女とやらにたぶらかされているのではないのだろう?だとしたら、“こたえ”は一つ―――見せつけたいんだよ…誰かに、自分の世界がそんな下らない策略の下に屈するものではない事を、彼自身を徹して見せつけてやりたいのさ。」

「(お…ぉおおお!)そ、そう言う事だったのか!さすがはルベリウス様―――と言いたいけれど、それを為されてしまってはご自身の業績に泥を塗るのでは…」

「だから、次代の者に託すのさ―――自分に取って代わる『魔王』にね。 いいかねカルブンクリス、よく聞き給え…今回彼の本意が明らかにされた事で判ってきた事がある、それは世代交代だ―――この事を知らない他の者達から見れば、君達叛乱軍のしている事とは現政権の転覆だ、だが見方を変えさえすれば……」

「わ―――私が……『魔王』に?!そ、そんな大逸れた……」

「けれど今、その神輿は担がれてしまったんだよ、ここはもうその神輿に担がれてはどうだね。 それに…ルベリウスもその事を望んでいる―――彼の治政は1200年と中々に長期政権だ、“内乱”“内紛”もなく穏やかにして平穏無事にここまでやれてきた。 民衆の不安や不満を事前に察し、どうしたら民衆が幸福になれるものかを考えた末の結果だ。」

「ええ、その事は私が一番よく分かっております。 だからこの魔界せかいでも『知の巨人』として知られるジィルガに師事し、その時に得た学識を素にルベリウス様の下に士官するつもりでいましたから。」

「まあ、妥当な“将来の夢”だねえ…そしてそれは平和な世の中だからこそ成立する。 そう……―――」

「ミカエル様?一体何を―――」

「長期に、安定した平和な世の中…それってね、対外的に見てみれば『大した事』、けれど統治側としてみれば果たしてどうなんだろうね。」

「(『統治側』…)『統治側』とはどういう事ですか。」

「彼が魔王位に就いてこれまで、一つの“内乱”“内紛”さえ起こっていない―――これってね、穿った見方をすれば退屈そのものなんだよ。 こんな話しがある―――安定した長期政権を確立させた王の中に、と言う慾に駆られた者もいたみたいだよ。」

「(…)つまりルベリウス様はこの機会を狙っていたと?」

「さあ…そこまでは、ボクには判らない事だけどね。」


しかし、これで判って来た事があった。 自分がこの際“立つ”と言う意味―――対外的には現在の政権に対し不平不満があり、それを是正させるために立ち上がった…今の処はそれでいい、けれど自分達の叛乱が成功したとして“その後”は?果たして魔王ルベリウスの政権はこのままでいられるのだろうか―――そして“はた”として気付く、もし自分達の叛乱が成功した暁にはルベリウスは魔王ではいられなくなると、ならば次のこの魔界せかいの王は誰が―――? それは自分が……だからようやく気付いたのです、カルブンクリス自らが叛旗を翻した《立った》事の意味と言うものが。



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