第13話 陥穽 =公主捕縛=

カルブンクリス主導のもとで現政権に抗う叛乱軍は蜂起たちあがりました。 その(軍)中に正体は〖聖霊〗や〖神人〗の重鎮の顔は存在したのですが、実は彼の者達はその正体をつまびらかにしていたわけではなく……


「アンジェリカ殿―――コーデリア殿、いささか手のかかる子供達ではありますが…」

「いいのよ、まあ確かに〖聖霊〗としては表立って叛らう事は出来ないしね。 それに魔王ルベリウスのやり様は女媧も思う処があったから…」

「それは我が〖神人〗でも同じ事。 この世界を支えねばならない“三柱みつはしら”の内、実に二つまでもが現政権に背いては秩序の維持にも関わる……と、“火”の熾天使も言っていてな。 だが私は現状を無視していては秩序を維持するのも難しいと思っている、故にこそ私は個人の見解でそなたらに協力をしてやるつもりだ。 それに関しては“火”の熾天使も黙認している次第でな。」


このアンジェリカ某とコーデリア某こそ前述の〖聖霊〗と〖神人〗の重鎮である竜吉公主とウリエルでした。 それに彼女達の発言にもある様に〖聖霊〗と〖神人〗の最上層部も現政権には思う処がある…一方で世界の根幹にも関わる勢力が現政権に対して背信行為を見せるのもどうかと思い、敢えて恭順な態度を示しているとしたのです。


         * * * * * * * * * *


こうしてカルブンクリスの下に集った勢力ものたちは各地で叛乱を起こしました。 それにやはり現政権に対して疑問を持っていた者達はそう少なくはなく、各地にて魔界の正規軍である魔王軍を撃破し各地に点在する魔王軍の支部拠点を失陥させようと気運は高まるのですが―――


「(ふうむ…現政権に対する不満と将来に対する不安とで我等の同志は集まり結束を固くしたのは判るのだが……)それにしても脆い―――」

「(ん?)どうされた【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】殿。」

「いや、なに―――かつては魔界の精強で知られた強者ばかりを集めた魔王軍、故に苦戦を強いられるのは織り込み済みだったはず。 なのに…これはどう言う事だ?あまりにも脆すぎる。」

「ハッハッハ―――何を申されるかと思えば。 それもこれも我等の結束の固さの表れではありませんかな。」

「(…)そう言う見方もある―――が…」


こちら北部方面を担当したニルヴァーナは、副官の獣人族から『一気にこの勢いで(北部方面)支部拠点を失陥させてしまえば』―――との意見を貰ったのでしたが、彼女自身かつては魔王軍に就職を望んでいた身でもあり、だからこそ魔王軍がで瓦解するのはおかしいと思い、もう少し他方面の戦況を鑑みてからでも遅くはないと判断したのです。


そして一方のこちら―――西部方面を担当したリリアも。


「迂闊な行動を取るんじゃないよ、向こうさんの動きには何か……」

「それはどう言った事で?」

「考えてもみな、魔王軍てのは私ら以上に猛者で知られてる奴らを多く採用している。 それに採用されてるのは武に通じている奴らばかりじゃない、主に“作戦”を練る担当である軍酒祭謀や軍師、或いは参謀と言った面々も補充されてるだろうさ。 そこんところを考えると今回の作戦の案を練った奴は相当キレる悪賢いと見ていいだろうね。」


ニルヴァーナはオーガとは言え所詮は一般出身―――でしたがリリアはとある地方にある領主に仕え、武術を指南している家柄の出身…つまりリリアの出生は武官だったのです。 だからこそニルヴァーナよりは多少士官の内容に詳しかったと言えたのです。

確かに両者の判断は消極的の様に見られましたが、これが後になってこの判断が正しかったと証明されたのです。 ではどのようにしてその証明が為されたのか―――それは…


         * * * * * * * * * *


「(ほほう―――あのヤラレ様を見て深追いしてつられてこないとは…どうやら向うサン側にもよっぽど腕のいい軍師辺りがついているのか…はたまたは経験豊富な将でもいるのか……)フフン―――けどこちらとしちゃあ都合が良いってもんでね。 今回の策は第一段階で釣られてくれりゃこちらの負担も軽く済んだんですが…仕方ありませんなあ。 ならばの用意を―――」


ベサリウスの真価とは、一見何でもないような策を発動させておいて、その策が看破されるのが前提―――その裏側に潜ませた“本命”で敵に大損害を負わせるだったのです。 そしてこの第一段階の発動によって『敵中に策あり』と思わされたニルヴァーナとリリアが率いる隊はその場に留まざるを得ませんでした。

そう―――が狙い目…現在魔王軍は叛乱軍から四方面(東・西・南・北)同時の攻勢を受けている―――これに乗じで四方面同時に相手にする事こそ愚にもつかない話し…ならば、簡易に看破みやぶられる軽めの策を発動させておいて、これを深読みをして攻勢を中止てくれたら儲けた話し…それが2つともなると諸手を挙げて歓迎しなければならない。 そして事実としてそうなってしまっていた、これで“四方面同時”と言う緊急事態は避けられた…自分達は残りの二方面(東・南)を相手にすればいい、それにこの二方面も―――


「(よし…決めた!)オレ達の狙い目は一つ―――南部方面だ!」


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


魔王軍参謀であるベサリウスが発動させた計略により、動きを中止させざるを得なくなってしまったニルヴァーナ(北部)とリリア(西部)―――その隙にベサリウスは大計本命を発動させたのです。

その狙い目標的とされたのが南部方面―――しかもこの南部方面を担当していたのは、奇しくも…と言うか、皮肉…と言うべきか―――


「なんですって?こちら(南部)方面に魔王軍本隊が救援に駆け付けようとしている?」

「はい―――しかし思い来た事をするものです。 魔王軍本隊と言えば総勢5万は下らないと言われています。 それがまさか1万5千足らずの叛乱軍討伐の為に 全軍 で動いているなど……」


「(何を考えているの?今の軍部は…それは確かにそれだけの規模を出動させれば寡勢である私達の隊なんてひとたまりもない―――そこは判るにしても軍を出動させるのに一体どれだけの費用・物資がかかると思っているの!? そんな事も判らなくなってしまっているとは…ルベリウスあなた程の者がこうまで豹変かわってしてしまうなんて……。)」


そう、この本部方面を担当していた者こそアンジェリカ(竜吉公主)だったのです。 しかも彼女とベサリウスとはある因縁がついて回っていた…それにこの当時、両者ともその事(ベサリウスは公主が自分の支援者『あしながさん』であった事、公主もベサリウスが南部方面鎮圧のために自らが指揮している事)を知らなかった……そうとも知らずにアンジェリカは―――


「しかし、判ったわ―――我等鎮圧のために全軍を出動させた事の愚、それを判らしめさせるまで!」


言うまでもなくアンジェリカ―――竜吉公主は【“水”の神仙】の異名があるほど操水の術にかけては右に出る者がいませんでした。 だから策には策を―――土中に水分を多く含めさせ『底なし沼』となるよう罠を設置したのです。 それも巧妙に、一見しただけでは平坦な平地にしか見えないように偽装を施して。 これで魔王軍本隊(総勢約5万)がこの地を通過するなら、本体総勢5万は憐れ底なし沼の中…そして無駄な事に経費を費やしてしまった事に後悔と反省を促せさせ、行く行くは交渉の場で優位に運べば重畳―――とここまでが公主が描いていた内容なのでしたが。


しかし―――待てど暮らせど…“週”や“月”がどれだけ経とうとも魔王軍本隊はその軍影や旗影が確認された場所より動く事はなかったのです。 それにはさすがに公主も『これはおかしい』―――と思い始め、改めて斥候を放って魔王軍本隊の陣容を探らせてみると…


「(なに?)陣中では種や苗を植えてその成長ぶりを比べたり……」

「は、はい。 それ以前我らが知ったる厳しい軍の綱紀はどこへやら、中には互いに相撲を取ったり賭け事に興じている有様でして…」


その内容を報告されて驚いたのには、公主も知っていた正規軍の堕落ぶり。 魔王軍はその精強さはもとより、その規律の厳しさに於いても知られている処だった、なのに食用植物の種や苗を植えてその成長ぶりに一喜一憂したりだとか、相撲や賭け事と言う遊興に興じているなどと―――落ちるところまで落ちたものだと呆れはしたのです。


「事情は判ったわ―――だけど私が仕掛けた策は“待ち”が基本的な姿勢、だからこれは我慢比べよ。」


しかしそこを公主は“裏”の“裏”を読んでこちらがれるようにワザとそんな態様を取っているのかもしれない―――とし、飽くまでもの待機の姿勢を崩さなかったのです。


         * * * * * * * * * *


それを―――その様子を、今回は予備役に甘んじていた


「ノエルか、どうしたのだ。」 「はい、実はウリエル様にお伝えした方が良いと―――」

「ふむ、事情はどことなく判ったが、何を伝えようと?」


今回の叛乱で叛乱軍の本拠地となっているバハルスにコーデリア(ウリエル)は鎮座していました。

{*つまりこれは、四方面のいずれかに支障をきたした場合、予備として素早く動くため―――だったのだが、よもやこの事が早くも功を奏する事になろうとは…}

そのウリエルのもとに忍であるノエルが馳せ参じて言うのには。


「ウリエル様も現在公主様が攻略されている方面の事は存じているかと思います。」 「うむ、それに対してルベリウス様は本隊全軍の出動を決定したと言われているが…それにしてもどうしたと言うのだ。」

「(…)その事なのですが、非常に残念なことながら本当のようです。 私の方でも虚報なのではと思いましたが、実際この眼で南部方面を攻略されている公主様の隊になどと…」

「それは本当か?いくらなんでもバカ正直すぎやしないか……」 「ええ、当初私の方もそう思いましたが、それが偵察みていく内に少しおかしな面が見えてきて―――」

「なんだと?おかしな面?」


それが、食用植物の栽培のくだりだとか―――遊興に興じて堕落だらけきっていると言うくだりだとか―――そうした事にウリエルも一種の違和感を抱き始めていたのです。 そうしたら案の定。


「はい、それが本隊駐留の陣より僅か後方2km離れた地点に“こんもり”とした、人工的に出来た小山というか丘のようなモノがいくつか確認されたのです。」

「(本陣の後方にそんなモノが?)それは益々以ますますもっておかしい…ノエル、その他に詳しい事は判らなかったのか。」

「生憎…申し訳ございませんが、私自身もその辺りを詳しく調べようとした処、どうにも本陣よりも警備が厳しくて―――」


本来なら厳重な警戒や警備をしておかなくてはならない本陣よりも、陣外の…それも後方に出来ているという不自然なまでの小山や丘の様な“盛り土”、そこに警備が集中しているのだと言うのです。

その事に今現在恐るべき策が進行中であることをウリエルは気付かされる事となるのですが……


        * * * * * * * * * *


しかしながら、惜しむらくはその“気付き”は些か遅かった……


ある日の事、魔王軍本隊が痺れを切らして動くのはいつか―――と、待ち侘びていた存在の、それも思ってもみなかったような方向後方から突如鬨の声が上がった…


「(なに―――?!)まさか…後方からの奇襲? しかしどうして……」

「報告―――! 後方より魔王軍別働隊が我等の一隊を襲撃、その近くには坑道と見られる穴が見受けられます!」


「(なんと!!?魔王軍本隊総勢5万もの大軍を囮として使い、相手の意表を衝くものとは―――このとした事が抜かってしまったわ。)口惜しいけれどここは撤退よ!こうも混乱させられては収拾するのも難しい…だから一度立て直す為に撤退しましょう!

(それにしても…今の魔王軍にこうまで頭のキレる悪知恵の働く者がいたとは。 出来る事ならこちら側に…このの傍らにして助言を与うる役目を担ってほしかったものよ。)」


撤退する騎上で公主は自身を苦しめた者を評価しながらも苦々しく思っていました。 それと言うのもこうなる以前に公主自身が目を掛けてある者を支援していたことがあったのですから。 しかしその支援していた者を魔王に横取りされ、非常に悔しい思いをしたことがあるのに…


         それなのに―――…   まさか―――…


公主も撤退していたわけではありませんでした。 不意を衝かれて率いていた隊が混乱する中、撤退の判断をした―――そこは間違いではありませんでした。 それに撤退する道中伏兵にも十分気を配っていた、そうした公主の警戒の更に上を行く道―――隊を率いる将を囚えるのに四方を取り囲むのは下策中の下策、もしそうしたなら必死の抵抗をされてしまい将の捕縛はもとより自軍の将兵の損害も考慮に入れなければならない。 ならば将兵の損耗も少なく、また将も簡単に捕縛するには―――? それは一方を手薄にするか空けておけばよい…そうすれば将の警戒も薄まり、囚えるのも容易になる……そして事実、撤退する公主騎乗の馬の脚がに取られた―――



              あっ―――???



気が付いた時には騎乗していた馬もろとも真っ逆さま―――公主は捕獲用に掘られていたあなちてしまったのです。



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