第14話 正体発覚 =拡大する戦火=

現政権に物申す為に立ち上げられた叛乱軍、その戦意・意気共に栄んで各地に於いて魔王軍苦戦が報じられる中、四方面の一つ南部方面…この方面の攻略を任されていた同志の一人からの連絡が途絶えててしまった。 その同志の一人こそアンジェリカ(竜吉公主)だったのですが…


「なに?公主様からの連絡が?」 「はい…残念ながら戦死されてしまったか、或いは虜囚になったものと。」


考えられなかった…竜吉公主と言えば〖聖霊〗の、それも神仙族の重鎮中の重鎮、一説によれば〖聖霊〗を統括している女媧の次に権限・実力があり発言力も強かった、そんな存在がの不覚を取るなど思いたくもなかったのです。


        * * * * * * * * * *


ですが―――皮肉にもそれは事実だった…自分の虚を衝く策にはまり無様にも囚われてしまったアンジェリカ。

{*この時はまだヒトへの偽態は剥がされていない。}

一般の兵士ではなく一隊(軍)を指揮していた者が虜囚となってしまう…この道理は否応でも判っていました。 しかも悪いことに率いていたのは『叛乱軍』、その軍中の内容を知る為に手厳しい“問い”が交わされる。 人体に“苦痛”を与える責め苦により吐かせようとしたり、或いは“不眠”によって精神を不安定にさせ判断力を弱まらせてみたり、或いは“恥辱”を与えてみたり……手を替え品を替えありとあらゆる“手”を講じて虜囚への尋問は為されたのでしたが、軍の中枢が思っていたよりも虜囚の口は堅かった、そこをれてかすものでしたが参謀であるベサリウスはそうではありませんでした。


「(ヤレヤレ―――おエライさんはどうしてこうも現場の事を判ってくれねえもんですかねぇ。 オレが見立てた処、あの指揮官サン容易な事じゃ口を割らねえ…性別間と言う事もあり辱めを与えたとしてもがるばかりで肝心な事は『我事に関せず』と言った具合だ。 敵としては天晴あっぱれと言わざるを得ないが…そうしたらそうしたで面倒臭ェ役割がオレにも回って来るんですがねえ。

オレもねェ…ヒマじゃないっての。 参謀であるオレが出張ってまで敵サンの一角を崩したのはほんの一部…そこんとこを間違えちゃならねえ、きっと敵サンは味方の一隊の敗走―――それに伴う指揮官捕縛ともなりゃ逆にその士気や気勢に火を着けかねん、それに救出の為の編成も念頭に置いておくべきでしょうなあ。)」


ベサリウスは家柄や血統ちすじだけで軍の中枢(士官や将校)にいる者達とは違い、現場レベルでの考え方が出来ていた本当に有能な数少ない将校の一人でした。 ただ彼は平民の出だからそうした家柄や血統ちすじの者達からは“下”に見られ、こうした面倒臭い事を押し付けられる事も儘にしてあったのです。


けれど―――そう、…今にして思えばここも歴史の岐路ターニングポイントの一つだと言えたのです。


          * * * * * * * * * *


自分よりも身分が上―――つまりは司令官だとか将軍と言った者が、参謀であるベサリウスにも、この度虜囚とした叛乱軍の指揮官への尋問に加われ―――との下知がありました。 そんな指令をベサリウスは『面倒臭い事』と割り切りながらも従わざるを得ない―――そうした不条理を感じながらも虜囚(アンジェリカ)の尋問に顔を出した……


「(―――!!!)お…お前は……」 「(あん?)あんたオレの事を知っているんですかい。」


虜囚(アンジェリカ)の尋問に……それだけで今までどんな苦悶にも耐えていた虜囚の顔色が一変しました。 しかしながら驚いたのはベサリウスの方、何しろこの虜囚とはこれが初対面―――のはずが、なぜかしら向うは自分の事を知っているかのようだった。 しかしその対応は実はベサリウスを窮地へと追い込む“苦肉の策”だとも思えなくもなかったのですが……


「(いや―――違う…この動揺の仕方は“本物”だ。 の芝居をしているようにも感じられない。 だがオレはこの女の事を知らない、こんなにもインパクトのある美貌の女を…忘れるわけがねえ―――)」


整った顔立ち―――アクアマリンの長い髪をなびかせた特徴のあるその出で立ちは、一目見て忘れられるはずはありませんでした。 ―――そんなミステリアスな展開となっても尋問は開始されるのです。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方その頃叛乱軍の本営では―――


「やはりここは公主様を見捨てるわけにはいかない。 今はまだあの方の偽装が剥がされていないからその正体までは判ってはいないが、万が一正体が割れてしまったとしたら〖聖霊〗は『叛乱軍わたしたち』の一部…協力者との認定がなされて征伐の対象にもなり兼ねない。 そこでだ―――ヘレナ、ノエルとローリエ殿と協力しどうか公主救出を成功させて欲しい。」


公主捕縛を危惧したカルブンクリスが次に打ち出した手とは『公主救出』でした。 しかしこれは極秘裏に行わなければならない…そう、味方にも知られずの内に。 もし味方に知られでもしたら軍中に動揺がはしるのは必至なのだろうから…そこで選抜されたのが真祖のヘレナと忍のノエル、そしてエルフの王女のローリエでした。


       * * * * * * * * * *


〖昂魔〗の中でも上位種に当たり独特の魔術を駆使する吸血鬼ヴァンパイアの“真祖”ヘレナ―――その職業柄、変装や間諜、侵入や潜入には定評のある“忍”のノエル、そして“エルフの王女”であるローリエは……


「わたくしもおぉ~~至福の極みですわあ~~♡」 「あの―――…大丈夫です?」 「は、は…の事ですから。」

―――なんです?」 「ええ、ですからいちいち気にしてたらやってられませんて。」(ハハ)


これから自分達はある要人の救出の為に出動しなければならない…と言うのに、エルフの王女が一人の獣人(黒豹人)に抱き付き、その頭を“ぐりぐり”撫で回すなどして離れようとはしなかったのです。 その事にヘレナは絶句するしかなかったのですが、当事者の一人であるノエルにしてみれば日常茶飯事こんなのいつものこと―――“慣れ”と言うか“諦観”と言うか、そんな哀愁を漂わせていたのでした。


         * * * * * * * * * *


閑話休題それはさておき―――虜囚尋問の場では自分を尋問する為に現れた者に愕然としたアンジェリカの姿が…


「(何故―――どうして―――が愛した才が、の前に?)」


公主は以前〖聖霊じぶんたち〗の為に―――そして行く行くは自分の“子飼い”とする為に才ある者を品定めしており、そうした者に匿名での支援をしていたことがありました。 そしてこの当時公主に見初められた“才”こそがベサリウスだったのです。 ただ、彼の士官学校での成績に目を付けた魔王ルベリウスによって横取りされてしまった経緯があり―――これがどう言った因果なのか、公主自身が愛した“才”により公主は敗れ、そして今は虜囚の身に。 そうした出来事が鉄壁だと思われていた虜囚のココロに楔を打ち込んでしまい…


「ク・ク・ク―――そう言う事か…そう言う事であったか……」


当初虜囚であるアンジェリカ某の尋問を担当していた者は、ありとあらゆる手で口を割らせよう情報を引き出そうとした処で、一向に口を開かない虜囚に辟易根を上げそうになっていました。

それが―――ベサリウスが顔を覗かせた途端に口を開き出した……?? いや、そればかりか―――


「見事じゃ…実に。 さすがにが目を掛けただけの事はある。 惜しむらくはの審美眼よ―――のう?そうは思わぬかベサリウス…」

「あんた―――オレの事を?」


その一言は尋問担当者にとっても衝撃的でした。 鳴り物入りで取り立てられた気鋭の参謀殿が、よもや今回虜囚とした叛乱軍の指揮官の一人と―――?? もしかすると参謀殿は叛乱軍と通じているのではないか―――とした反面、アンジェリカ某が指揮していた隊を瓦解させ、そして囚えた…しかし今まで口を開かなかった者の口からは、まるで戸板に水が流れるかのように滑らかに滑り出し…


「ふふふ―――いや、しかしと褒め讃えねばなるまい。 お前はの期待以上の働きを為した、とて敗れるのは口惜くやしいがを敗ったのががその“才”を愛した者であるとは…。 皮肉であるとしか言う外はないがお前に敗れたのなら納得じゃよ。」


それこそはまさしく公主の赤心(本心)、ですがこの独白によりベサリウスの方でも次第に気付かされてきたのです。


「(こいつ―――さっきから何の事を…? オレを? いや…!?

そう言えば―――待てよ…確かオレが悪さばかりしてとっ捕まった折に、オレを釈放する代わりに士官学校で学べと―――そしてその間の費用の一切合財を肩代わりをしてくれた『あしながさん』がいたが……?!)」


しかし、この2人のやり取りを見ていた第三者(尋問担当官)が不思議に思わない訳がない。 片や魔王軍の窮地を救った鬼才の参謀―――片や現政権に異を唱える叛乱軍の指揮官の一人…それに急に口を開き始めた指揮官の口調が上品じみて……いる?


「貴様―――まさかは≪偽態≫≪偽装≫の類か!?」

「ふっふっふっ―――気付かれてしもうたか…それも仕方あるまい。 先程までのぬるい責めではこの口を開くまいと決めておったのじゃが、ベサリウスが出張ってしまっては…な。」


そこでようやく担当者も偽態・偽装に気付き、その者に掛けられていた術を剥がしにかかったのです、すると……思わぬ正体が。


「(!!)あ、あ…り、竜吉公主様!!」


「(この方が…そう言えば士官学校にいた時にお姿を幾度となく目にしたことはあるが……)」


「いかにも―――が竜吉公主。 〖聖霊〗は神仙族にその人ありと謳われた存在よ。 どうした…ベサリウスよ、お前はもっと誇るべきぞ。 このに縄目を付けた恥辱―――いや、このの期待以上の才を発揮してくれたのじゃからな。」


その言葉は、将官ではなくても一人の個人に対しては賞賛に値していると言わざるを得ませんでした。 が…どうしてか素直に喜べない―――クソみたいな人生を送っていた自分のことを認め、支援をしてくれたここまで引き上げてくれた人を自分は屈服させてしまっている恩を仇で返してしまっている―――?!

その事はベサリウス自身が望んだ事ではありませんでした。 なぜなら彼は魔王軍参謀に取り立てられる以前、不慮の死を遂げてしまった異性の友人の仇を討ち、投獄された経験があったのですから。


そう―――つまり彼は義を徹す男…それなのに今回ばかりは恩を仇で返してしまっている??? その事は大いにわだかまりとなって彼のココロに押し留まり、その日の尋問はそこで中断してしまったのです。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ただ―――そこからは一向に進展しませんでした。 いくら上から催促せっつかれても『昨日の酒が抜けない』だとか、『飼っている猫が死んでしまった』だとか…そんな適当な理由を付けて公主への尋問をさせなかったのです。 それに一応公主は観念しており、この身にはこれまでにもない苦痛を味わわせられるだろうと覚悟していたのです。 なのに……あれから―――自分が竜吉公主だと発覚したにも拘らず、厳しい責め苦はもとよりそうした話しの一つも聞かない…これはもしかすると放置されたのでは? と、別の危惧が発生したものだったのです。


          * * * * * * * * * *


一方―――救出組は…


「公主様が囚われている場所は大方の見当がつきました。 が…予想以上に警備が厳重ですね。」

「けれど…公主様は現在アンジェリカと乗るヒト族の冒険者に偽態をしているはず。 それにその仕様も発覚し難いモノになっているはず…ですが?」

「(…)そうした、希望的観測は最早しない方がいいでしょうね。 ここはもう公主様の偽態が何らかの手法で剥がされたと見るべき……」(なでくりなでくり♡)

「ならば相手は余程手強いと見るべきでしょう。 そこでヘレナ、あなたの≪シャドウ・サーヴァント≫を使って周辺状況の調査をお願いできませんか。」

「判りました―――救出する為の経路と脱出する為の経路の確保ですね。」


「そしてローリエ、あなたはお留守番を゛。」 (ムチュムチュ♡)「えええ~~~~どしてえ~?」

「どうしたもこうしたも゛!チーム組まされてから最中ずっと私に纏わりつかれたら邪魔で仕方がないんですよ゛! しかも今回は公主様の救出です、もし万が一私達がしくじりでもしたらどうなるか判ってるんで・す・か!(離レロオ~!)」

「あああぁ―――ッそんなあぁぁ~~~なぜどしてそんな事を言うのお~?私ノエルちゃあ~ン♡」

「一言言っておきますけど、私あなたの“モノ《私物》”になった覚えはないですからね゛ッ!!」


ノエルの情報収集能力によって公主が囚らわれている場所は大方の目途めどがつきました。 何故ならその場所だけが他の場所と比べて、警備が厳重だったのですから。 だからその部分を勘案してみると余程の重要人物がその場所にいるに違いはない―――ただ判った処で波風立たせずに救出するのは難しい…だからヘレナに頼んだのです。


ヘレナはこの世界に唯一存在するヴァンパイアの真祖でした。 そしてこれまでに闘争で負かしてきた相手の血を喰らい力を増強つけてきた存在でした。 そう例えそれが同種同族である他のヴァンパイアの真祖―――通称『爵位持ち』と呼ばれていた者達や、各種属に於いて“その人あり”と謳われていた猛者の数々を、その血を喰らったついでに“契約”と称して自らのサーヴァント《従者》に仕立てていたのです。

そしてそこで選出されたのは、夜目でも目が効き千里の距離も踏破するジョロキア某や、勇猛と狡知こうちさを兼ね備えたトリニダート某、射撃うてば百発百中のキャロライナ某……と一時代を築き上げてきた人物ばかりだったのです。

しかし今は表立って目立つ事は避けるべきであり、今回選出された者達もヘレナからの命に従うしかないのです。


         * * * * * * * * * *


公主の正体が発覚し、それは同時に参謀ベサリウスの知れる処となりました。 が、知ってしまった当人であるベサリウスは、自分が知ってしまった事実を正直に報告してよいものか、相当迷いました。

こうした逡巡が適当な理由を付けての『引き伸ばし』ともなるのでしたが……さすかにはそうはいかなかったか―――そう…あの場では唯一の第三者である『審問担当者』……彼は一応、ベサリウスの配下ではありましたが、アンジェリカ某が実は竜吉公主だった―――という事実は彼にとってはどうでもよかったのです。 ただ、職業上知ってしまった事実は上に報告あけないといけない……が、上司であるベサリウスがそれを許すはずがない―――けれど秘密にしたければしたい程―――発覚てしまうと言うのは世の摂理というモノか…


公主の正体が暴露あばかれてしまった時を待たずして、わずか数日の後―――〖聖霊〗の統括を担う神仙族の都シャングリラを、突然大軍が襲撃った…


「報告―――! 我等がシャングリラが急襲されているとの由にございます!!」

「なんと?!達が襲撃われておるとな?? 一体どこの痴れ者の仕業じゃ。」

「翻っている旗は魔王様直属の魔王軍のモノにございます!!」


非常事態―――当時〖聖霊〗は神仙族の長である女媧の名の下に魔王と一定の距離を置いた…いわゆる“中立”の立場を取っていました。 なのに、中立の〖聖霊〗の神仙族に対し、魔王軍が敵対行動を取っているとは?


しかしその要因は遠からずともすぐに分かってしまうのでした。



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