幕間 アンジェリカとコーデリア

自分のお膝元でもあるコンロンの酒場にて、この度やり込められてしまった者がくだを巻いていました。 その者とは、現在ではヒト族の冒険者―――軽装剣士フェンサーとしてやっている、元はここコンロン…いては〖聖霊〗の根拠シャングリラの出身である―――


「(あ゛~~~もぉおおーーー嬉しいやら悔しいやら……この私をやり込めるのは、それだけ眷属の子達の成長ぶりが伺えて嬉しい事は嬉しいんだけどさあ~~~なんて言うかーーーしっくりこないのよねえ~~~)おやじぃーーーもいっぱぁ~い!」(ウイック)

「姉~サン止めときなって―――そんなん自棄ヤケ酒飲むもんじゃねえぞ?」

「うっさいわねえっ!こんなん呑まなきゃやってられるか!ってえの~!!」(ウイッ…ク)


『アンジェリカ』―――と言う存在は、〖聖霊〗の上位種属である神仙族の中でも特に“”のある『竜吉公主』と言うお方の仮の姿でした。 そんな方がある折に『眷属』の一つでもある吸血鬼ヴァンパイアにやり込められてしまった。

{*上位存在達はその愛情をこめて眷属達の事を『子供達』と言う表現もしている。}

その時の状況のアンジェリカに於いても、また吸血鬼ヴァンパイアに於いても話せない事情だったのですが、比重から見てもアンジェリカの方が重要だった……そこを付け込まれ、ついに正体を暴かれてしまった―――そこの処を評価できる部分は評価してあげたい……ともしていたのですが、どうにもしっくりといかない納得が出来ない―――


「(そう言えばあの子…『公爵』エルミナールだったわよねぇ。 なぜ彼女は下界に降臨て来ている私(竜吉公主)の事が判ったんだろう……。)」


確かにそう―――引っ掛かりを感じていたのはでした。

上位存在は『調査』と言う名目で、よく下界に暮らす眷属達の暮らしぶりを見て回る事がありました。 そんな時でも正体が判り難くするような手段は用いているのです。 なのに……暴かれてしまった―――その原因が気になり、思案を巡らせていた時に……


「おや、どうかしたのですかアンジェリカ。」

「(げ)コーデリア……あんたが何で―――」

「見て分かりませんか、今のこの姿は『聖霊』の眷属であるダーク・エルフのモノだからですよ。」


“色白”のエルフとは違い“浅黒”の肌をしているダーク・エルフ。 どちらも『聖霊』に所属しているのだからコンロンに居てもおかしくはない―――のでしたが…


「(全く……ヤな時にヤなヤツと会ったもんだわ。)」


アンジェリカもコーデリアもお互いの正体については知っている―――だからとて、やり込められて気持ちが下がっている時こんなときに顔を付き合せたくはなかったみたいで……


「(うん?些か気落ちしている様だが?)それより先程の質問にお答えしてください。 少しばかり気落ちされているようですが、何かあったのですか。 悩みがおありならお聞きしますよ。」

「ありがとう……それじゃ聞いてくれる? 私ちょっと目を掛けている子達がいてさ―――その子達の前で正体を暴かれちゃったのよ。」


「(……ん?珍しいこともあったものだな。 この方と言えば神仙の中でもかくたる実力をお持ちであると言うのに。)」


この直近にあった出来事を包み隠さず話すアンジェリカ。 するとどうやら彼女の言によれば、彼女ほどの実力者の正体が暴かれたのだと言うのです。


いや―――それにしても、またどうして……?


「あぁあ~~あーーーもう失敗だったなあ……彼女の顔を見知っていたとはいえ、そこは大っぴらにしていい事じゃなかった―――だからそこで手痛い竹箆返し喰らっちゃってね……。」


               ん?


「“彼女”……とは?」

「〖昂魔〗の、吸血鬼ヴァンパイアの『公爵』―――エルミナールよ。」


            ん?    ん??


「ほ・ほーーーそれは珍しい事もあったものですなあ。」(キョド)

「(ん~~~?)別に―――珍しい事じゃないわよ。 あれはいつの頃だったかしら……私達〖聖霊〗に属するエルフ族の王国エヴァグリム主催の晩餐会でね、彼女は自分達一族の代表として出席していたから顔は見た事はあったのよ。」


「(なんと……この方とあの『公爵』にそんな繋がりが?? これは少々困った《まずい》事になってきたものだな……。)」


コーデリアも実は、アンジェリカとエルミナールが直接会っていた事までは把握できていませんでした。 そこを―――エルミナールの一族郎党をその身に取り込んだヘレナにある種の教唆をしてしまったのです。


そう―――自分の他に、既に動き始めている方の存在を……


           だから―――こそ…


「(ん~~~??)どうしたと言うのコーディ…あんた完全に何かやってしまったって顔『しまった』って判るくらいの顔をしているけど―――」

「い?いやあ~~はははハハハハーーー気、気の所為ではあ~?」(キョドキョド)

「(ん・ん゛・ん゛~~~???)あんた―――何か隠して知ってんな?」

「はははははーーーな、なぁにを仰られているやら~~」(キョドキョドキョドキョド)

「なあーーーコーディ君、今白状しゲロっちまえば、気が楽になるぜえ?」(怒)


明らかに不審な表情(目が活きの好い魚みたいに泳いでいる)に挙動(急にソワソワしたりしている)をしていた為、怪しまれたのも無理のない話しなのですが、コーデリアの本来の性格というものが愚直なまでに正直(バカ正直とも言う)なもので、嘘が吐き通せない―――隠せない性分だったわけで……だからすぐに発覚バレてしまったワケで……


「お前かあ~!お前がやってくれたんかあ~~!!ぬぁーぜ(私がやっている事を)バラしてくれやがってからにぃ~~!!」(怒MAX)

「ハハ…あのぉ~アンジェ?興奮しすぎて言語化おかしくなってますがーーー」(←焼け石に水)

「コォ~ディ?ちょお~っと私と一緒にきてくれるかなあーーー」

「あのぉ……拒否しても?」

「言っとくけど拒否権てないからねッ!」(プンスコ)


       * * * * * * * * * * *


そのまた一方で―――長らく(とは言っても2ヶ月ちょい)自分の公務により王国へと帰っていた方が、再び所属しているクランハウスに戻って来た頃―――なぜか荒れちゃっていました。 しかもその原因もどうやら……


「なあ~~んですってえぇ~~~!私が留守してるいない間にそんなおもろかしい事があったなんてえええーーー!」

「(おもろかしい?)あ~~~と言うよりですな、ローリエ殿??」

「ニルヴァーナ達!どぉーしてわたくしにお知らせくれなかったのですかあ~!」

「(え)ああとは言えですな、お知らせしたところで間に合わないとは思うのですが……」

「いや、ニル―――そんな事よりノエルがヤヴァイことになってんぞ―――」

「あなたの愛玩ペット、あなたの胸の谷間で窒息してしまうわよ。」

「あらーーーあらあらマアマア大変!ねえ私の仔猫ちゃん??」

~~~~~~~~~~~。ハラ ヒレ ホレ ハレ


この当時の『エヴァグリム王女』ローリエが荒れていた原因はただ一つ。 それがここ最近で起こったこのクランハウス内での出来事(ヘレナと竜吉公主の正体の暴き合い)。

こんな、面白くて可笑しい出来事が、自分が帰国していた時に起きようとは! そんな口惜しさからいつも愛玩かわいがっているノエルを強めに抱きしめてしまい、その豊満な胸の谷間で圧――――殺? いや、窒息して伸びてしまったのです。

{*後日ノエルの証言によれば、『幅広い河の向こう側で、既に亡くなった父上や兄上が手を拱いているのが見えた』のだとか…}


―――と、ここで今話は終わりではなく、こんなほのぼのとした(ほのぼの?)クランハウスに、突如“嵐”が……


「ちょっと失礼するわね゛っ!!」

「アン―――公主様??が、なぜにまたこちらに…」 「ええ~~~っ?!アンジェリカさんが竜吉公主様だったのですか?!」

「ちょっとニルヴァーナ、あなたねえーーーまあ今はいいわ…それよりもっ!今回の元凶は総て所為せいなのよ゛っ!!」

「ダーク・エルフのおねいさん……じゃないか?」 「そちらの方がどうされたと言うのですか。」 「その怒り様に『今回の元凶』とはばからない事から察するに、あなた様のお知り合いだと?」

「ええそうよ―――その通りよ。 そしてこいつはコーデリアって名乗っているんだけれど、その正体はウリエルなのよ゛っ゛!!」


            「「「「「は?」」」」」


「(えええ~~~)アンジェ―――それはあんまりではありませんか!」

「なぁーにが『あんまり』よっ!あんたがヘレナって言う吸血鬼ヴァンパイアに教唆したりしなけりゃ私の事がバレずにすんだんでしょうが!!」

「(う゛)そこはーーー敢えての否定まではしませんが……それにしてもあなた様の方から私の正体を明かすなどと…」


いきなりクランハウス内に詰めかけてくるなり、怒り調子で“すまき”にしていたダーク・エルフの正体を明かしにかかった、しかも自分の正体がバレてしまった経緯もつけ添えて。 するとここでその碧の眸を“キラキラ”と輝かせたエルフの王女様が―――


「ン・まああ~~~このクランハウスに期せずして上位存在のお二人がご来訪するなんて!それも竜吉公主様とウリエル様だなんてッッ!! あらあらいけませんわ、わたくしったらお二人にお茶も出さずに~~~」(ムギュムギュ)

「おーーーい王女さんよ、あんたまた何やってんのか気付いてるか?」

「……はい?」


~~~~~~~~~~~~!!ぐる゛じい゛~~はなせえ゛~~~」(じたばた)


「どうやら王族とは、己の慾望を抑えきれぬ者のようですね。」


興奮に次ぐ興奮のあまり、抱いていたノエルをまたもきつく抱きしめ、そしてまたも窒息の憂き目に合されてしまうノエル……こうした経緯もあり、しばらくローリエはノエルを抱く事をおあづけされたようなのですが……


「いいですかっ、今後一切あなたは私の許可なく私を抱っこする事を禁じます! いいですね……」

「ノエルぅ~~~それは後生あんまりよぉ?後生あんまりだわあぁーーー」

「いや、しかしだなあーーーお前、お前の許可なく……って、じゃないのな?」

「ローリエの毛繕い技術グルーミング・テクニックはそれは見事なモノですから、それを引き替えに抱かせてあげているのですよ。 そうでなければ断固拒否そうするのですがねえ……」


その本心から述べてしまえば、危険と引き換えに抱かれる事など御免こうむりたかったようなのですが、ノエルも獣人である以上毛繕いグルーミング(髪をかしてもらう等)は重要な項目のようで、ローリエはその腕が一流だった……そこをノエルは評価し、今回のような事があっても中々全面禁止にはならなかったようなのです。


それはそれとして―――


「まあお二方ほどの方が我がクランハウスにお越しになられたのもまた何かの縁、それはそれでよしとしませんか。 それでわざわざ相方の正体を明かす為だけにお越しになられたのではないのでしょう。」

「そうね―――それだけが目的じゃないからなんだけど……今、私達がこうして降臨おりてきて活動していると言うのは、大っぴらには話せない―――けれどこれだけは判って。 私達はあなた達を応援・支援してあげるわ……それも蔭ながらに。」

「そこの処は了承してほしい、私もだが立場と言うモノもあるのでな。」

「そうでしたか……判りました。 中々手のかかる子供達でしょうが―――」


アンジェリカがコーデリアを伴い、再びニルヴァーナ達のクランハウスを訪れた理由がそこで語られました。 そこには判ってしまった以上正体を隠してまで付き合ってなどいられないと思ったから。 とは言え下位存在ならばまだ判るにしても、上位存在の2人が直接動いていると言う事は、今代の魔王に知られてはならない……そうしたおもんばかりがそこにあったのです。



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