第11話 胎動し始める意志

正面切って―――からではなく、徐々にその勢いを削いでいく。 何よりニルヴァーナ達は“軍隊”なのではなく、その出自は“冒険者”なのです。

とは言えこれまでにも『偵察部隊の壊滅』や『兵站線の破壊』、更には『拠点の陥落』等、魔王が擁する魔王軍を狙ったモノが多くあった。 それにより魔王は軍の増強を図るに及び、しかしそれはまたニルヴァーナ達の依頼主の想定とは著しく違っている事となり―――…


「(なるほど……この手で軍備の増強を図るとは。 哀しい事だが今のルベリウス様は、かつて私がお慕いし懸想けそうすらしていた方とはほど遠いようだ。

今のルベリウス様は全くの別人―――いや別人格と言って差し支えない。 この私の稚拙な軍略によって、ただ軍備の増強を図るなどまさか選択するはずもない方を選択してしまうなど!!)」


こうも判り易く仕掛けている事をバカ正直に受け止め、一番やってはならない方策の選択をしてしまった―――それは最早カルブンクリス自身が片時に想っていた人物のそれではありませんでした。

そう、カルブンクリスは自分か発注をした依頼により魔王がどう出るか……の出方反応を見たかったのです。 そして知ることにより肩を落とす落胆するしかなかった……本来のルベリウスであれば、徹底的に原因の調査を行い、その上でカルブンクリスまで辿り着き、なぜ行為に及んでしまったのか……の聴取をルベリウス自身で為したものだったのに。

そのハズ……だったのに―――何も考えずに、軍備の増強を図っただけ―――そこには知性、知略の欠片すら見えない……そんな事に早くも気づき始めたのです。


だからこちら側も次の段階へと進むべき……


「ヘレナ、“呪縛”の一階層目の解放を許可する。」 「よろしいので?“主上リアル・マスター”……。」

「ああ―――アレ(魔王軍)は最早私が知っている方の軍ではない。 存分に襲え―――」


この時カルブンクリスは、自分の血を用いて“契約”……と言うよりは、“呪縛”と言う名の制限下での支配に置いていた吸血鬼ヴァンパイア、ヘレナに対して一つの指令を下しました。 それが『魔王軍への強襲』―――ただしこれは“普通”の強襲ではありませんでした。 なぜなら“その過去”に於いてヘレナは二度目となるカルブンクリスの血を受け入れ……はしたものの、また同時にカルブンクリスの血を媒介とした“呪縛”をも受け入れたのです。 これによってヘレナはカルブンクリスの種属である蝕神族に近まり、他者の血によって自らを増強させることが出来た―――けれど“呪縛”……つまりは制約の下にカルブンクリスの支配下に置かれていたのです。

{*つまりこの事が示す事とは、これからいくら他者の血を喰らう事によって“主上”となった者より強くなったとしても、逆らえないと言う事でもある。}


そんなヘレナに下りた指令―――『魔王軍への強襲』が、の強襲であるはずがない。 しかも『“呪縛”の一階層目の解放』を言い渡されていた……

{*余談ではあるが、この時には既に吸血鬼ヴァンパイアの種属としての中心的な役割を担っていた『大公爵』の一族の血をその身に取り込んでいる。}

そして猛威は荒れ狂う……その当時をして魔王軍内でも勇名を馳せさせていた強者達―――…


『魔王軍遊撃部隊隊長』―――人虎族ワータイガーの『トリニダート』

彼は虎の勇猛さと狡知こうちさを兼ね備えた歴戦の猛者として知られている。

『魔王軍夜間強襲部隊隊長』―――赤帽子族レッド・キャップの『ジョロキア』

彼は夜目が効き、鉄の蹄で千里を踏破するほどの脚力の持ち主、しかも戦う相手は死ぬまで手を引かないために、その頭(帽子)は常に赤く染まっているのだとか。

『魔王軍狙撃部隊隊長』―――ダーク・エルフ族の『キャロライナ』

彼女はエルフと同じく森に精通し、狙った獲物はまず外さないと言われている必中の狙撃手でもある。


このそれぞれが、等しくヴァンパイアの歯牙にかけられて逝ったのです。

{*また余談ではあるが、要するに『エルフの王女様~』で取り上げられていたヘレナの特徴が多重人格的に表現されているのは、これに起因するものだと思ってよい。}


そう……が―――があの『強襲』の意味。

魔界の中でも特に武勇を持ち合わせる者達がつどいやすい部署―――それが『魔王軍』……またその中でも特に名声を得ていた者達をその身に取り込ませる事こそ、カルブンクリスがくわだてたはかりごとの『第二段階』だったのです。


        * * * * * * * * * * *


そして『第三段階』への移行―――その事を伝える為に、あのニルヴァーナ達の前に現れたのでした。


「ハァ~イ、皆サマごきげんよう~♡」

「ヘレナ殿か、それにしてもそなた……以前お会いした時よりもまた随分と印象が変わられたな。」

「おやそぉうかぁ~い。 私はいつも―――“私”のなんだけれどもねぇ~♡」


その扇情的な肉体を惜しげもなく揺らし、その場にもし異性がいたなら間違いなく目のやり場に困る―――と言った出で立ち。 しかも色気のある視線を垂れ流し、“性”の如何を問わず魅了されてしまいそうになる雰囲気を漂わせている。 ニルヴァーナも以前にヘレナを見た事はありましたが、その時ですらもここまでの“淫”の気を振りまくほどではなかった……のに?

しかし―――そう……今現在の、この時点でのヘレナの容貌の事を知っていた人物が、この場にたった一人だけいたのです。


「(―――あれは……『公爵』エルミナール?! いや……それだけじゃないわ、『侯爵』『伯爵』『子爵』……そして『大公爵』の存在が、なぜ彼女一人の存在から感じられるの?!ひょっとすると……ここ最近『大公爵』の一族郎党の話しを聞かなくなったと言うのは―――??)」


ここ最近、とある事情によりニルヴァーナ達のクランに所属はしていないものの、直接的に係ろうとしているヒト族のアンジェリカが、現在この時点でのヘレナの容貌に見覚えがあったのです。

それが吸血鬼ヴァンパイアと言う種属の中でも中心的な役割を担っていた『大公爵』なる者の血に連なる者達の存在性を、たった一人の吸血鬼ヴァンパイアから感じるようになっていた……そこでようやく覚ったのです。

他者の血を喰らう事で永き時を紡いできた者達が、たった一人の吸血鬼ヴァンパイアに“喰われた”のだと―――


だとて……


「まあそんな事はどうだっていい、私の“主上リアル・マスター”からの指令だよ。」 「では、その内容とは?」


           ―――だが   しかし―――


依頼主クライアントからの要望を満たす為の次への段階を踏む為、その事を伝えに来た吸血鬼ヴァンパイアヘレナ。 しかしリリア達3人はこの時になるまでヘレナの事は知りませんでしたが、ニルヴァーナだけは盟友であるカルブンクリスの下へ度々訪れていた事もあり、少なからずヘレナの事は知っていたのでしたが……少し以前に感じていた雰囲気とは違わせている事に同一人物なのだろうかとの疑念は付き纏っていたようです。

ともあれ、依頼主クライアントからの“指令”とあれば聞かないわけにも行かない……のでしたが、ここで以外にも『待った』をかけたのは―――


「ちょっと待って、ねえ……あなた一体誰なの?」 「何を言っているのです、先程ニルヴァーナ殿が『ヘレナ』と……」

「そんな事を言っているのじゃないわ。 私はその顔を知っている……あなた、吸血鬼ヴァンパイアの『公爵』エルミナールよね?」


誰も、について何の疑いも持たない。 唯一ニルヴァーナだけはどこか感じてはいたものの大した問題にはしていなかったようでしたが……アンジェリカなにがしが指摘してきた事について当のご本人様は―――


「ふぅ~ンーーーフ・フ・フ・フ……おやおやこいつはとんだ番狂わせだ。 あんた達の中での正体を知っているヤツがいるとはねえ~?」


「(なに?こいつ……悪びれるどころか開き直った?!これは少しまずいことになってしまったわね……)」


『公爵』エルミナールと言えば、知らない者はいない―――そうした名声のある者が何故か今、名を変えて自分達の前にいる―――と言う事実。 しかもそんな者をすぐに指摘してしまったアンジェリカ。 途端に視線は両者に注がれる事となり―――しかも…


「そんなあんたは誰なんだい?〖昂魔〗の奥まった地に所領を持つ“私”の事を『知っている』…って言うは―――」


「(くっ……ここで振って来るとは―――嗚呼失敗だわ……すぐにこの子達の前で指摘してしまっていい事じゃなかった。 お蔭で視線が私に集中してしまってる…。)」


ヘレナが、下位の者達の血ばかりを喰らっていただけなら、アンジェリカの問いただしによって身の上は明かされた処となった事でしょう……が、ヘレナがカルブンクリスからの洗礼を受けた事により、下位の者達の血では満足できない身体にされてしまった。 それにヘレナはエルミナールの事が気に入ったようであり、その容貌・性格・身のこなしからその口調まで自分のモノとしていたのです。

そんな自分(ヘレナ)の事を、すぐに指摘できてしまった―――そこで逆に追い詰められてしまったのはアンジェリカの方でした。


「フフッ……ウフフフフフーーー言わない……いや、言ないのかい? ―――竜吉公主様。」


「(ん―――な??!)」

「(って、おいおい……)」

「(確かその“”は―――)」

「(〖聖霊〗の“おさ”である女媧に次ぐ実力のある方とされている……?)」


ついに、明かされてしまった“身の上”―――しかもそうなったのも元は自分の失策・失言の所為。 いや、それよりも―――…


「アンジェリカ……いや、公主様? 何故にあなた様程の方が“下界”等に……」

「(……)ごめんなさい、その事は言えないわ。 でもあなた達を驚かせる為だけに下りてきているとは思わないで。 それより……あなたの目的は何なの。」

「(……)私は―――私の“主上リアル・マスター”である方からの下命により動いているに過ぎない。 そんな“主上リアル・マスター”の忠実にして従順な従僕である“私”に疑いを掛けてくるだなんて……あなた様の方こそ何をお考えになられているんだぁい?。」


竜吉公主自身が姿形すがたかたち、“”も変え下界へと降臨おりて来ている目的など知れた事。 だからとてを明らかにしていい事ではない―――この頃に於いては魔界の王が為している事に“三柱みつはしら”のおさ達までもが疑義を抱き始め、おさ達の判断の下〖神人〗や〖聖霊〗の派閥に於いての“調査”が為されていた処だったのです。

しかしその事自体が問題―――下位の種属達ならまだしも、今代こんだいの魔王であるルベリウスをその座に推奨した上位種属が、今代こんだいの魔王に対し疑義の目を向ける……それだけで現政権は、その派閥に対して圧力をかける事も出来てしまうのです。 だからこそ眷属の子達がつどっているこの場で、目的(調査)の事を明らかとするわけにはいかなかったのです。

けれどその事によってアンジェリカ(竜吉公主)は苦悩の選択を迫られていたのです。


「(……)ま―――答えてくれないでいいなら言えないでいるなら応えて貰わなくても構わないよ言わなくても構わないよ。 、だからと言ってこの場に留まる事を私は良しとはしない。 いくらあなた様が上位存在だからとて、私の“主上リアル・マスター”と同様のお考えであるとは思えないからねえ?」

「(……)判ったわ―――」


するとヘレナの方からはあまり深くは突っ込んでは来なかった……とは言え、こちらも深入りは出来なくなってしまった―――いわゆる『釘を差された』かたちとなってしまったのです。


        * * * * * * * * * * *


こうしてアンジェリカがニルヴァーナ達のクランハウスから出て行った―――処で。


「ヘレナ、少しあの方に対して厳しすぎるのではないか。」 「ニルヴァーナ―――あんたもお気楽だねえ。 もしかしたら私の“主上リアル・マスター”が推し進めている事があの方の知る処となり、その上で現政権の耳に届いてしまったらどうすると言うんだい。」

「(う゛…)それはーーーそんな事はーーー」 「(……)しかしそれは、有り得ない話しではないでしょうね。」 「ノエル……」

「私もヘレナ殿から指摘をされるまで、彼女が公主様だと言う事に気付けませんでした。 それに彼女には多くを協力してもらい私達の手の内を知り過ぎてしまっている―――もしヘレナ殿の懸念の通りなら、〖聖霊〗の上位種属である神仙族の更に上……責任ある立場の方が現政権に逆らう等考えられる事ではありません。 あなた達もそうは思いませんか。」

「うーーーん、そう言われればそう思えるんだけど……なあ?」 「ええ、逆に私はそうは思えません。」

「私の見解とは違うと?ではホホヅキ、あなたの見解を聞かせてもらいましょう。」

「私は、そうだとは思いません―――とは言っても根拠はありませんが……ならば一つ、公主様ともあろうお方が、私達の事を探る為に私達と行動を共にしていたというのならば、なぜ味方であるはずの魔王軍を損耗させる様な真似を?」 「(う~~ん……)忍である私から一言言わせてもらえば、『敵を欺くならまず味方から』と言うのがあります、だから……」 「私は―――さ、そんな複雑な事じゃないと思うぞ。 まあそう思うのも理屈なんかじゃないんだけどな……けど―――」


「(フフフ…おやおや、可愛いったら♡ 思いの外あの方の事を明かした後は、あの方の事を疑うばかりと思ってたけれど…議論は白熱、こりゃちょっとやそっとじゃ熱は冷めないようだね♡)」


『牽制』―――互いの身の上を明かし合った事で主導権イニシアチブを握ろうとした争いは、一応ヘレナに軍配が上がりました。 それに竜吉公主もあの場で目的の事をおおやけにする事は躊躇ためらわれたから一時退き下がったまでの話し……と、それはそれで公平な条件のもとではなかったのです。

とは言え、実はヘレナは竜吉公主が何の目的で下界に降臨て来ているのかは察していたのです。 そう、察していたからこそ公主の『目的』を訊く事が鎌をかける事が出来ていた―――ならばヘレナはその情報のソースをどこから取り入れていたのでしょうか。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


なぜ、ヘレナがアンジェリカの正体を暴き、彼女が下界に於いての活動をしている目的を知る事が出来ていたか―――そこにはやはりそれなりの事情があったのです。


ヘレナがニルヴァーナ達の下に、彼女達の依頼主クライアントでもあるカルブンクリスの意向を伝える―――その数日前、この数日後に起きたニルヴァーナのクランハウスでの出来事の再現があったのです。


「その顔に見覚えがあるな―――」 「(!)な、何なんだいお前サンは―――」


いきなり、見知らぬダーク・エルフのソーサラーより、自分の顔に見覚えがある……と言われたヘレナ。 しかし彼女にはいくら思い返しても心当たりがありませんでした。 しかし―――この時にはやはり……そう、この数日後にある『牽制』―――正体の暴き合いで明らかとされたヴァンパイアの『公爵』エルミナールのものだっのです。


         * * * * * * * * * *


『公爵』エルミナールは元々、〖昂魔〗の奥まった地に所領を持ち、そこで悠悠自適な暮らしを営んでいた貴族でした。 それに滅多と自分の屋敷からは外出ない……“引き篭もり”体質だっただけに、その容姿は外部に晒す事など滅多となかった……なのに、彼女の顔に見覚えがあると言う―――このダーク・エルフのソーサラーとは一体何者……?

とは言えエルミナールも、外出する機会がワケではない―――数少ない友人の誕生会や結婚式に出席する事もあるし、招待状が送られて来れば貴族同士の食事会(晩餐会など)や舞踏会にも出席する事もある……しかしながら今、自分の目の前にいるダーク・エルフはどう見ても貴族には見え―――ない??


「そうだ―――思い出したぞ。 その顔、吸血鬼族ヴァンパイアの『公爵』エルミナールのモノだな!?」 「な―――なんなんだい!いきなり……失敬な!!」

「失敬―――とは、また随分な言い様だな。 だが、そうか……お前は知らんのだな?“ミミックなりすまし”。」


「(“主上リアル・マスター”のお言い付け通り、『大公爵』の一族郎党を襲い、その能力を……その知識を自分のモノとすること取り込む事は出来た。 その中でも特にお美しい『公爵』様の容貌を借り、以前の私とは違わせているというのに……)」


ハッキリした事を述べるのならば、ヘレナとエルミナールの容貌の差異へだたりは特に大きく開いていると言えました。 しかし所詮は“借り物”……まさか、滅多と他人に晒してこなかった容姿だから―――と、油断していた嫌いは確かにあったかもしれませんが、目の前の貴族でもないダーク・エルフはエルミナールの容貌このかおを知っていた……?


「(フ。)私も今はこのような身形みなりをしているが、には会った事がある。 孤高にして最強と謳われる種属―――吸血鬼族ヴァンパイアの『大公爵』エルムドアの血に連なる者達の事は……な。 だが何故だ…? 『大公爵』(エルムドア)を含む『侯爵』(エル)、『伯爵』(エルメロイ)、『子爵』(エル)、『男爵』(エル)……そして『公爵』(エルミナール)までもがお前の内から感じられてくるなどと……」


そう―――このダーク・エルフは気付いてしまった……『大公爵』の血に連なる者達を“喰らって”しまった者の事を。 しかしまたどうして?

一般庶民の出なら高貴な身分の姿など目にしたことが無いと言うのに……なのになぜ―――『彼らには会った事がある』とそんな事が言えたのか??


そんな疑問渦巻く中、宙から一片の“羽”が―――舞い降りた…


「(そん―――な……まさか!)天使……様?」

「話してもらおうか、事情を―――事と次第によっては力を貸してやることもやぶさかではない…。」


突如として、宙から“ふわりふわり”と舞い降りた一枚の羽―――ハルピュイアや鳥系統の魔獣のモノではない、聖らかにして神秘的な羽の有り様にヘレナは立ち処に気付いたのです。

それが天使族―――“三柱みつはしら”の一つがを調べる為に、既に下界へと降臨おりて来ている事を知るのでしたが……


「(既に……〖神人〗の天使様たちは動かれていたんだ、を調べる為に。 けどその目的が“主上リアル・マスター”のモノとは違うのかもしれない……だからここは慎重に―――)」


「(フ)どうやら私の事を信用して貰えていないようだな。 だが安心するがいい、私が今調べているのはお前達に叛意があるかどうかを調査する為ではない。」


「(―――見透かされた?!一瞬で……けれど“主上リアル・マスター”が疑義を持たれている事を調査する為ではないと言うのならば―――)判りました天使様。 あなた様になら私が帯びている使命をお話ししてもよろしいでしょう。 私は私の“主上リアル・マスター”……申し訳ございませんが私の“主上リアル・マスター”の事まで明かすことは出来ませんが―――その方のお考えにより、現体制への“物言い”をつけようとしている……その為の“同志”集めをしている次第なのでございます。」

「ふむ―――なるほどな、しかと聞き届けたぞ。 ならば私も動ける範囲でお前達に力を貸してやろう。 まあもっとも…表立っては出来ないがな。」


「(―――ようやくその本心を聞き出す事が出来たか…だがまあ世が世だ、大っぴらに口外する等はばかれようと言うもの。 それにしても中々気骨のある者もいたようだな。 現体制に対し意見をしようとしているなど―――……うん?待てよ??そう言えば確か、以前門前の街『マナカクリム』に現体制の異状性を説く為『街頭演説アジテーション・プロパガンダ』を行った者がいたそうだが……まさかその一派の者なのか?)」


ダーク・エルフのソーサラーの姿に変じていた者は、自分も見知っていた吸血鬼族ヴァンパイアの貴族の容姿を借りている者から、ありのままの本音を聞き出していました。 そして思いを馳せさせるのと同時に、以前マナカクリムに於いて自分の考えを喧伝けんでんしていた“ある人物”に行き当たったのです。


こうして今―――何が起きつつあるか確認する事は出来たのですが、その別れ際に……


「あの…その前にお名前を―――ダーク・エルフの……」 「“”は、明かせん―――だかな。 だが興味深い《おもしろい》話しを聴かせてもらったせめてもの謝礼だ……受け取るがよい。」


立ち去り際にそのダーク・エルフの周りを“砂”が纏わりつき始めた……その初めはゆっくりと―――ながらも次第に纏わりついていたモノは速度を増し始め、終には実像を隠すまでになっていた。 そうした中でも薄らながらも“形”と“数”だけは視認できた……。 “砂”は土の属性―――そして翼の数は3対6枚……


「(まさ―――か…ウリ……)」


すると、完全に砂が掻き消えてしまうまでの刹那の間に……


「そう言えば私以外にも積極的に動いている方がいたな―――まあ呉々も…」


          ……“水回り”には用心―――する事だな……




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