第2話 「魔王軍」との遭遇

今回ニルヴァーナが、“ギルド”……ではない、“個人”経由で受けてきた依頼―――それを巡ってまたひと波乱ありました。

それに、“ギルド”を介さずに“個人”で発注される依頼の殆どは難解極まりないややこしいモノばかりだった―――しかし、を易々とこなして見せて認めてもらう事にこそ価値がある。 そうした事を経てノエルは同行を許可されたものでしたが。


「身支度は整えたな。 ではローリエ殿、私達のいない間の留守をお願いいたします。」


「イヤでございます―――」


「(……)は?」 「イヤで、ございます。」(ニコニコ)

「(え……)いや、『イヤ』とそう言われましてもですな、そなたは一国の『王女』である身。 そうおいそれと危険に身を投じずとも……」 「イヤでございます。」

「(~~)いや……あの、だから―――」「イ・ヤ・で・ご・ざ・い・ま・す。」


「(……)ああ言ったのを、『取り付く島が無い』『箸にも棒にもかからない』と言うのでしょうね。」

「そーれに、ニルのヤツも鬼人オーガだからなあ?確かに腕っぷしは強いが、私ら見たくそんなに賢いワケじゃねえから、逆にエルフにやり込められる姿を視てると面白いったらありゃしない。」(ケケケケ)


初見から自分の事を『エヴァグリム王女』だと言っていた事から、どうしても彼女の事を一目置くようにして見ていた。 しかも次代を約束されているのだから……と、ニルヴァーナの方でも気を回し、この高貴な食客に留守居役を頼み込んだものでしたが、むべもなく『却下』―――しかしそこの処をどうにか判ってもらおうと理屈を述べてみるも、またしてもニコやかな相好を崩さないままに、しかも愛嬌よく迫って来る迫力に―――つい言葉を失ってしまう。


どうやらこの鬼人オーガは、“押し”の一手には弱いようである―――


しかも言い負かされるのは判っていたので、そこで無駄な争いは回避することにし―――ならばどうして自分達に着いて来ようとしていたたのか、その動機を尋ねると……


「わたくし、こう見えましても魔法の心得はありますから。」


「(は~~~「心得がある」―――ねえ……なあノエル、お前はどう見立てている。)」

「(まあ、高貴な身分の者ボンボンかお嬢ちゃんに見られがちな勘違いの類でしょう。 よくある事です。 この『エルフの王女様』も、さぞかしご自分の王城で侍女や官僚達に誉めそやされその気になっているのでしょう。 それより……まだそんなに(仲を)深めてもいないのに私の事を呼び捨てにするなッ―――!)」


確かに、貴族のボンボンや王女と言った連中は、その取り巻きがこぞっておだてるモノだから、自分の事を実力以上だと勘違いさせられてしまう。

リリアやノエルにしてみれば、そう言った者達が『標的』だったこともあり、だからこその意見交換―――情報共有しようと思っていたのに……思わぬ反発を喰らってしまった。 そこの部分はまあ、自分にも不備があったものと思い、敢えてスルーする事にしたのです。


         * * * * * * * * * * *


それよりも―――迂闊だったのは、ニルヴァーナが“ある個人”から受けてきたという依頼の『内容』……それを、リリアやホホヅキ、ノエルの3人は知らなかった。 これは“うっかり”どころの話ではないのですが―――その『目的地』と見られる地点に到着し、早速自分の役立つ処を見てもらおうと……


「では、私が先行をして見てきます。 ですからあなたはここでお待ちを―――」

「うむ、では気を付けよ。」


先行して様子を偵察みて来るだけなのに、この身を案じてくれた―――確かにその言葉は、相手を気遣うものだった、そう聞こえてしまった。

ただ―――その『意味合い』に関しては、少し違っていたのです。

なぜならば……


「おっ―――戻って来たか。 (うん?)どうしたノエル……お前―――」

「(はぁ、はあっ)す―――すみません、取り乱して……あの、それよりあなたが受けてきたという依頼の内容、見せてもらえませんか。」

「ありませんよ?そんなモノ……」

「はあ? いやっ……けれど―――」 「どうしたってんだ?全然内容が見えてこないぞ。 それに、エルフの王女サンよ、まだクリアもしていない依頼書、無くしたとでも?」

「わたくしは意図的に―――無くしたわけではありません。 その依頼書は責任ある立場の者の手で処分するようあらかじめ書かれてありました。」 「『責任ある立場の者』……とは?あなたがそれに該当するとでも?」

「少なくとも―――あなた方達よりは『責任』の所在の重さと言うものを心得ています。」 「あの…一言言わせてもらってもいいですか。 確かにあなたは高貴な身分―――それも『王族』と言う身だ、その所は百歩譲って良しとはしましょう。 けれど『責任の所在の重さと言うものを心得ている』? 私だって立派に成人しているのです、『責任の所在』と言うものは誰に説明されるでもなくこの私自身が判っています!」

「それは重畳の至り、判って頂いて何よりです……ですが。 もしわたくし達が全員死亡し、あなた方のクランハウスが家探しされ、かの依頼書を差し押さえられた時、わたくし達に依頼をしてきた方の身はどうなりますか?! わたくし達のヘマでわたくし達が死ぬだけならまだいい、あなた方はこの魔界の行く末がどうなろうと―――それでも構わない……と、そう言い切れますか。」

「ローリエ殿……その辺にしておきなされ。 それにここまで喋ってしまったのだ、致し方なかろう。 そう言う事だ―――…私が今回“さある人物”より依頼された事とは……」


        ―――『魔王軍偵察部隊を壊滅させよ』―――


「『魔王軍』!!? おいおい―――冗談だろ……?」

「いえ、冗談ではありません。 正確な情報を得、状況を判断できる忍の私が言うのです。 ニルヴァーナ殿、教えて頂きたい。 あなたに依頼をしたという“さある人物”の名とその目的を!」

「それはなりません―――」 「はあ?またなんで……」 「それが、私の依頼主にして我が盟約の友だからだ。」

「なあ~~~るほどなあ。 ククク…お前と付き合ってからこの方、退屈せずに済みそうだ!それに…やるんだろう?徹底的に―――」 「ああ、無論だ。 それで……どうする?ここで引き返すと言うなら止めはせぬ、そなたにはそなたの生き方というものがあるのだろうからな。」


偵察に出ていたノエルが戻って来た時、少しばかり動揺しているのを誰もが見逃しませんでした。 そしてその時、ようやくにして自分達が受けた依頼の内容と言うものを『知らない』と言う事を知った。 しかしその内容を記した依頼書は、エルフの王女の手によって破棄されていたのです。


それにしてもまた、なぜ……? その理由の一つと言うのが『魔王軍偵察部隊』だった。 そう―――『魔王軍』……現政権に所属する機関。 それに抗う事の意味。

そしてエルフの王女は、自分達の依頼主と今回の相手の関係を須らく把握していた―――だからこそ今、その『覚悟』を問われる。


「判りました―――一時いっときの気の迷いどうかお許しになられたい。 では私が得た情報の開示を致します。」


「(『覚悟』など、既に決めてきている。 他人からとやかく言われようとも、私がこの方について行く―――と、そう決めたのだから。)」


ノエルは忍―――自分がこれまで修得してきた技術を、“主君”となってもらう者に見てもらう為に、先行して偵察みてきた事を明かして見せたのです。


「偵察部隊の構成は―――ゴブリンの小隊が2……です。 ですがその装備には『魔王軍』のエンブレムが。」

「ゴブリン―――か……だけ聞くと楽勝の様にも聞こえるが…」 「うむ。 ローリエ殿そなたはどう見る。」

「相手は『魔王軍』、この魔界最強の軍隊なのですよ?そうしたところが偵察部隊―――とは言え、最弱とまで言われている亜人種のゴブリンを配備しているとは考えにくい。 ただ―――わたくしならば……」



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