本    篇

第1話 冒険の始まり

「ぎぃぃいやああ~! にゃにをするんですかあ~!いい加減止めて下さいいい~!!」

「あいつらまあーたやってんのか。 まあよく飽きもしないで―――」

「あっ、丁度いい処に……そこのお前、この女引っ剥がしてくださいよ~!」

「あ゛あ゛?あ゛んだと?いま私の事を『お前』呼ばわりしやがったか、この『ちびすけ』ヤローが。」

「(ぐにゅぅぅ~……)お前も私の事を『ちびすけ』言ってるだろーが!それに私はお前より年うえ……ひぃやああ~~~そこ触るなあああ!!」

「ヘッ、ザマァみろ、私に敬意を表して欲しかったら『お前』なんかじゃなく『リリア』って呼ぶことだなあ? ち・び・す・け。」(ケケケケ)


ひょんな事からその街で最近話題を集め始めた者達に、人が集まり始めた……そしてその話題の中心には、いつも『彼女』―――鬼人オーガ異質ヘテロとしても知られている……


「それより、なあホホヅキ、ニルのヤツはどこへ行ったんだ?」 「なんでも『依頼を受ける為』―――にと、出かけましたが。」

「あーっそ。 それより~なあホホヅキ……?ひ、他人ひとの目もあるって事だから、そろそろ~~……」 「ふっ、好いではありませぬか―――あすこに居座る不貞のやつばらに、私達の仲を見せつけてやりましょうぞ。」


ニルヴァーナ、リリア、ホホヅキの3人が結成している『クラン』の所有物、『クランハウス』にての一コマ。 しかし所有者ともなっているニルヴァーナの姿は見えず、けれどどうやら彼女は『クエスト』を受注する為に出かけていた様なのです。

しかし―――そう、『冒険者』である彼らが『クエストを受注する』為には、お定まりのあの場所……『ギルド』以外に考えられなかった。 なのにニルヴァーナは自分達の為に……と、そうした組織関連のモノではなく、それどころかギルドが発注するモノよりかは難度が高くなる“個人”からのモノ……それに実は、今回ニルヴァーナが求めに行った“個人”の事を良く知る人物がここにも―――そう、今はまだ“居候”でしかない、エルフの女性…


「(……)どうやら戻ってこられたみたいですわね。」


『エヴァグリムの王女』―――『ローリエ』なる者が慕う人物ニルヴァーナが戻って来た……と知れると、それまででていた黒豹人の女性を解放し、すぐに駆け寄っていったのです。


「お戻りなさいませ。 して首尾の方は?」 「ああ、一つ受けてきた。」

「内容をお伺いしても?」 「ああ、『こちら』になる。」

「拝見いたしますわね。 ふむ―――ふむ……なるほど。」


自分の憧憬こがれのみで有無を言わさずついてこられたのには驚かされたものでしたが、それもその関係性が『険悪』とまでされている鬼人オーガとエルフなら尚の事、それでもこの『ローリエ』と言う『エルフの王女』は、また甲斐甲斐かいがいしくもニルヴァーナの補佐をこなしたものだったのです。

それに……


「(ふあ~~ようやく解放してくれましたか、全く……私もああ言ったのは苦手です。)」


ニルヴァーナが取って来た一つのクエスト。 それを巡って鬼人オーガとエルフが何やら話し込んでいる、またそうした珍しい場面を目にしながらも、ノエルもまたこのクランハウスの居候になろうとしていました。

そんな、処に―――


「よう、なあーに柄にもなく感傷に浸ってるんだ?」 「何ですか―――あなた……別にいいじゃないですか。」

「おっ、私の事を『お前』と言わなくなったな?よぉーしよーし、褒めてやろう……」 「気安く触るなッ!全くお前達2人は私を何だと思っ…………てっ??!」 「あなた……今……私のリリアの手に、何をしてくれたの!?」

「ま、まあーーー待て待て、ちょっと引っ掛かれたくらいだからさぁ。」 「“ちょっと”ォ?“引っ掛かれた”ァァ??うぬれ、この不心得者めえぇ~~っ!!」 「なっ―――なんなんですかあ~~こいつはあ!私の頭を許可なく触ろうとするから、この者の手を引っ掻いただけじゃないですかあ~!」


年上である自分の事を『ちびすけ』呼ばわりするヒト族の女性……『リリア』とか言う者が、また何の目的か自分の隣に腰掛けてきた。 そして少しばかりの掛け合いをした時、無造作に自分の頭を撫でようと手を伸ばしてきたからつい条件反射で引っ掻いてしまった。 するとその事を知ったヒト族の巫女が烈火の如く怒り、ノエルもまたいち早くホホヅキからの殺気を察して身構えたものでしたが……そこをなぜかリリアがホホヅキをなだめ、どうにか事態を収めさせようとはしたみたいでしたが、またノエルが弁明のために言った事がホホヅキにしてみれば不愉快だったようで―――


「反省の色さえ見せず、己を正当化しようなどとは不届き千万!!」

「じゃれ合うのもその辺にしておけ。 それよりリリア、ホホヅキ出かけるぞ。」

「ほお、ようやくお声がかかったか―――」 「(……)承知しました。 それよりもお前、戻ってくるまで覚えておきなさいよ。」 「(……)それよりどこへ出かけられるのです。 先程エルフの女性と話し込んでいた件の事でしょうか。」

「その通りだ。」 「では、不肖のこの私めもご同行の許可を願いたくば。」

「止めとけ―――ちびすけ。 私らの足下を“チョロチョロ”と動きまわってくれちゃ足手まといになるからよ!」 「あなたと話しているのではありませんよ、黙ってて下さい。」

「好きにするがよい。 ただし、私が受けてきたのはギルド経由のものではないぞ。」


今度ばかりは我慢がならない―――と、巫女の手が刀の柄にかかろうとした時、ニルヴァーナから抑止させる言葉と、今回受けてきたクエストを遂行する旨の言葉がなされました。 それを受けて『ここぞ!』と言う時にノエルも同行の許可を願い出たのです。 そんなノエルの決意を鼻でせせら笑うリリア、そんな挑発にも乗ることなく固めた意思の如何を問わんとした時『好きにするがよい』と応えてくれた。


「(私はまだ、見初めた人に判ってもらえていない―――忍である私の有用性と言うものを。 ならばこれを機会に是非とも見てもらいたいものだ。 そう……これは単なるクエストの遂行なのではない、忍である私の価値を認めてもらう試験なのだ。)」


しかし、クエストを引き受けてきた者が、異なる事を口にする。


『ただし私が受けてきたのは、ギルド経由のモノではないぞ。』


「(『ギルド経由ではない』―――?だとすると、ギルドの掲示板に貼り出されている様なものとは違うのか。 ならばその発注元は……“個人”?! これは益々腕が鳴る、是か非とも我が技術を見て頂かなくては―――)」


そう、ニルヴァーナが受けてきたのはギルド発注のクエストではありませんでした。

つまりは“個人”が発注をする、ギルド発注のものよりは少しばかり難解なモノ―――しかし、その場にいた5人もの、実に3人までもがある人物の事を失念していました。 そう、その人物こそは、この5人の中でニルヴァーナが今回クエストを受けに出掛けた先の事を知る、唯一の人物だったのです。



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