第3話 ヨスト帯東十五番地区 アイヴ棟二十二階層

 階段が思ったより長かった。一~二階分だろうと思っていたら十階分くらいはあった。こんなのを毎日通って通勤するんじゃ、そりゃ吐きたくもなるだろう。改札までの道も長い。そもそも駅自体がでかい。迷宮化が相当に進んでいる。無事にミノタウロス像が見えたが、それも思っていたよりでかく、上体を目いっぱい反らして見上げなければならないほどだった。その像もまた、さらに巨大な建物の内部に存在している。正確に言うなら駅と公社を含むこの一区画がまるごと一個の建造物に入っている、というか一体化している。レオンの故郷ではあり得ない巨大さ、まさに異世界さながらだった。


 周囲は当然迷宮守りっぽい人たちが増え始めた。つまり社会の底辺といわれるような貧乏な労働者だ。背広の勤め人とは違って汗や泥や血や酒の臭いが漂っている。しかし今から自分もそうなると分かっているので、レオンに否やはなく彼らに混じって公社に向かった。


 登録は極めて簡単だった――そりゃそうで常にこの業界は人手不足だからだ。名前と出身地を書き、あとは勝手にやって頂戴って具合だ。迷宮守りとなってまずレオンは、下宿屋に向かうことにした。公社の受付はものすごく長い髪の小柄な女性で、恐らくドヴェルだろう。ドヴェルの男は髭を、女は髪を滅茶苦茶長く伸ばすのが当たり前だという話だ。その受付は白い髪が覆いのように全身を包んでいた。一番安い下宿屋を訪ねると、彼女は簡単な地図を書いてくれた。

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