第2話

 数十分後ようやくいてきたので、自分と同じくぼんやりしている男に話しかけた。そいつは耳の尖った、エルフだった。エルフは誰でもそうだが、彼もまたしかつめらしく、不機嫌そうな顔つきだった。


「すいません、今から迷宮公社へ行きたいんですが――」


 と、言いかけて男が向けた目に異様なものを見出してレオンは沈黙した。彼の左目の中に蟲がいた。見間違いではなくそいつは体を半分出したりまた戻したりしている。


「階段を登って左手の改札を抜け、正面へ進め。松明を持ったミノタウロスの像が見えるだろう。そいつが目印だ」


「その目は病気ですか?」レオンは不躾に尋ねた。もともと眉間に皺が刻まれていたので、この質問で気分を害したかどうかは分からなかった。


「わたしが趣味でこのやくざな蟲を出し入れしてるとでも思ったのか? さては貴公はよほどの田舎から出てきたのだろう。そのまま牧歌的な田園で畑を耕していれば良かったものを」淡々とエルフの男は言った。「もう迷宮病が貴公の魂魄に食い込んだぞ、この駅も迷宮だからな。もっとも今なら症状も軽くて済む、運が良ければだが」


「階段上がって左手の改札の正面、ミノタウロスの像ですね、ありがとう」


「もう行け、余所者アウトランダー


 蟲は既に、男の眼窩に消えていた。

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