第4話 また夢を見た

学校が夏休みになると午前が部活で、夕方の2時間は今までどおりコンビニでのバイトとなった。ただ、土日は部活がないので、午前中をバイトにあてている。


 バイト帰りに店長自慢の試作品(コンビニといっても個人商店なので、差別化をテーマに、店長は新商品の開発にはりきっている)であるお惣菜をもらったので、家に立ち寄ることなく、道を挟んだ前の家へと向かった。


「おう、カズか」


 扉が開かれ、ニコニコ笑顔が迎えてくれた。


 どうやら美和の祖父である朔じいしかいないようだ。そういえば、おばさんと弟の拓は、おじさんの単身赴任先である福岡に泊まりで遊びに行くと言っていた。

 美和は部活があるから行かないとは言っていたが……部活に行っているとなれば夕方まで帰ってこない。それは、バイトに行く前に自転車がないのを目にしていたのだから分かっていた。


 だが、どうしても聞いてもらいたいことがある。気ばかりが焦り、分かっていながら立ち寄っていた。


 まだ時間はある。明日の夕方までは――そうやって、自分を納得させることで、不安を紛らわすしかない。そうしなければ、脳裏にくっきりと残る映像に押し潰されてしまう。


 出直してくると告げようとすると、


「もうすぐ帰ってくるから一緒に食べるか」


 どうやら明日、試合があるようで、今日は午前中だけで帰ってくるようだ。誘われるままに、家へと上がらせてもらう。


「待っている間、久しぶりに将棋でもするか」


 昔は一緒によく指したりしていたが、今はそんな気分ではない。だが、ほころぶ顔を目にすると断ることはできず、結局、美和が帰ってきてからも、なかなか切り上げられないまま時間だけが過ぎていった。


 将棋が終わり、昼食が済んだ頃には14時近くになっていた。


 ここで話すわけにもいかず、うちへと誘うと美和は、はあ、と怪訝な表情を浮かべたが、急かすようにして、強引にひっぱりだした。

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