第3話 後はよろしくお願いします

後日、図書館で新聞を調べていくと、幼児虐待で21歳のシングルマザー逮捕、という記事があり、地元紙には詳しく書かれていた。


 若い母親は子供をほったらかしにして遊び歩いていたようだ。毎日様子を見に帰り、飲み物と食べ物を置いてきたというが、この1週間くらいはいろいろあって帰れなかったと語っている。


 ふざけるな――僕は知っている。母親がこの後、何週間も家に帰らなかったことを。そして、あの子がどうなってしまったかを。


 記事を読み進めていく。


 命に別状はない。その文字にホッと胸をなで下ろす。衰弱し、栄養失調と脱水症状があったようだが、なんとか間に合ったようだ。


 さらに記事を読み進めていくと、お姉さんの困り顔が浮かんできた――ごめん。


 発見者は隣に住む女子大生とあるだけで、僕たちに関する記事はなかった。きっと、彼女は、病院や警察でもいろいろ聞かれたりして大変だったと思う。それでも、あの頼みを聞いてくれたのだろう。



 救急車に押し込む時、


「ごめんなさい。今、救急隊の人に話したとおりでお願いします」


 そう耳打ちしていた。


 それを聞いてくれたのか、それとも、どう説明していいか分からず話せなかったのか。重要なことを彼女に話してはいない。何故、僕たちがあそこにいたか。そして、あの部屋の状況を知っていたのか。


 くっきりと脳裏に刻まれている映像が浮かんでくる。


 テレビのリポーターがマイクを片手に歩いている。スーパーの横を通り、グリーンのアパートに向かっている。


「ここが、3歳になって間もない子供が置き去りにされ、亡くなっていたアパートです」

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