第5話 僕の家のリビング

カチャッ。通話は途切れた。


 突然の電話で、僕の〝夢〟の話しを信じて下さい、と言ったところで、役所の人がまともに取り合ってくれるはずがない。美和が提案してくれた作戦は失敗に終わった。


 子機を投げ置き、ソファーに横になった。

 目を閉じれば、ヘリコプターの音が頭の中を駆け巡る。リポーターの悲痛な声がこだまする。今朝、夢で見た映像が鮮明に蘇ってくる。


「どうするつもり?」


 ローテーブルの横に腰かける美和の声に、僕は投げ捨てるように、


「どうするも何も信じてもらえないんだ。今回ばかりはどうにもできないよ」

「でも、信じてもらう。どんなことをしても。そうでしょ?」

「だけど……夢の話なんて誰が信じるっていうんだよ」

「私は」強い口調に引き付けられる。「信じた」


 真直ぐな眼差し。

 夢のことを話した時、見つめ返してきた目がここにある。



 最初に〝予知夢〟といわれるものを見たのは2カ月くらい前だった。


 柔道部に入部して日が浅い頃、練習試合に行くためマイクロバスで移動していた。その時、大型トラックが横転する事故があった。積み荷が散乱し道が封鎖され、2時間近く足止めされた。

 その状況を夢で見ていた。夢は鮮明に脳裏に残っていて、現実となった。でも、それは何かの偶然、といったくらいにしか思っていなかった。だが、その後も鮮明に残る夢は続いた。


 だから――僕は知っていたんだ。


 夕食を食べている時、ふいに母ちゃんが、もうすぐお父さんの3回忌だね、と呟き、手にしている味噌汁をこぼし、軽い火傷をすることを。

 柔道部の練習の時、投げられた武人が受け身をしそこねて、脱臼してしまうことを。


 そして、あの日の朝だって、夢は脳裏に焼きついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る