第3話『チート魔法使い青野』

(1)中年流の寒さ対策

「……っむ!んん~~~」


朝である今日は学園都市の豪華や屋敷のベッドで目覚めた。こっちにもベッドがあるし、個室も用意されてるのだが如何せん魔法部屋の方が使い慣れていて、何より温かい、エアコンと床暖房がないんだよなここ。


だからか私のパーティーメンバーもなんとイオちゃんも魔法部屋の方で休んでいるのだ、まぁ向こうは気温も一定だし朝にシャワールーム使えるしな。


っという訳でこの豪華な屋敷を使う人が誰もいない、それはあんまりだ、だってベーネちゃんが毎日掃除してるのに。

そこでここ数日は私がこの屋敷のベッドで寝起きをしている。


近頃は朝も冷えて来たので大変だよ、中年は寒さに弱い。


「………よしっやるか」

朝も早いがベーネちゃんがもう少ししたら来る、故に私は身だしなみを整えたり歯磨きしたりと色々としなければならない。


中年のだらしない姿とか朝から見せる訳にはいかないのだ。

ベーネちゃんも近頃は掃除メイドが板についてきたのかテキパキと働いてくれている、やはり若いから適応が早い。


そんな彼女にちょっとしたサプライズをとか考えている私だ。



◇◇◇◇◇◇



朝の学園都市、朝靄が掛かった様な空には少しぼやけた太陽が地平線の向こうから僅かに顔を出していた。


そんな時間なのでまだまだ動きはじめる人は少なく、静かな時間が流れていた。

そんな街道を歩く者がいる。

「フフ~~ンフフフ~~~ン」


鼻唄を歌っているらしきモルトベーネがスキップをしながら青野が借りている屋敷に向かっていた。

その姿はどこぞの銀髪メイドと同じで胸の谷間が見えたりスカートが短かったりする。


(最初は寒そうだし嫌だったんですけど、このメイド服、何かの結界魔法が付与されてるのか常に周囲の温度が適温で維持されてるんですよね~~お陰で朝もヌクヌクで~す)


それは青野の仕業だった、スケベな青野は露出が多いエロい服装の女子が大好きだ。しかしその格好をして風邪をひくなんてのは嫌なのだ。

だから周囲の気温を操作する結界魔法を露出が多い衣類には付与している。


オシャレは我慢なんて言葉は嫌いな青野だ、もちろん基本はユーリやリエリの衣類だけだ、しかしシアやイオリアも幾つかの私服には付与して貰っている。寒いのは誰でも嫌なのだ。


(それに掃除の休み時間には甘いお菓子の差し入れもあったりしますし、バイトととしては嬉しい限りです~~)


上機嫌メイドは街道を進む、その背中に声をかける者がいた。

「ちょっとそこの貴女?」

「え?わっ私ですか?」


そこにいたのは金髪の女子、学園の生徒である。

「あの、私に何か?」

「ええっ確認なんだけど、貴女あの外から来た魔法使いが使ってる屋敷の掃除をしてるって生徒よね?」


女子生徒の視線がモルトベーネの胸の谷間が見えるメイド服や短いスカートをいったりきたり、モルトベーネは顔を赤くしてうつむいてしまう、流石に露骨ろこつな視線には免役なんてない。


「はっはい、私は今アオノさんが住んでいる屋敷の掃除をしてます」

「ならそのアオノって魔法使いにも面識はあるのね?」

「………はい」


モルトベーネの言葉に女子生徒は途端に笑顔になり、肩から下げたカバンから1つの箱を取り出した。


手の平に乗るサイズの箱である。


「貴女、この前喫茶店で起きた事件は知ってる?」

「事件?あっそれって……」

喫茶店と言うワードを聞いてモルトベーネが思い至ったのはアオノとエーグルとイオリアのいざこざである。


女子生徒はその通りだと頷く。

「知ってるみたいね、なら話は早いわ。それはエーグル先生に渡された物なのよ、何でも先日の事を謝罪する為に、その魔法使いに渡してくれって」


女子生徒の考えをモルトベーネは何となく理解した。


「はっはぁ……まさかそれを私が?」

「そうっ!エーグル先生が成績にいろをつけてくれるって言われたから二つ返事でオーケーしちゃったけど~~居住区遠いし面倒じゃない?」


「…………………わっわかりました、それは私が」

「ありがとう!はいっこれ。それじゃあバイバイ~~~!」

モルトベーネの返事が終わる前にお礼を言うのと同時に箱を押し付ける女子生徒。


そして音速でどっかに走っていった。

「ハッハハハ………変わった人ですね」

モルトベーネは笑みを引きつらせながら名も知らない女子生徒の背中を見ていた。


「………って!はッ早く屋敷に行かなきゃあ!」


そして屋敷についた彼女は青野に朝の挨拶をする。

「おはようございます!アオノさん!」

「おはようございます、元気ですねベーネさん」

「はいっ!このメイド服、恥ずかしいけど着てると寒くないから良いんですよね」


(……本当は露出をなくしてその機能を残せるけど、絶対に言わないでおこうっと)


中年の煩悩にまみれた笑顔を向けられるモルトベーネ、普通ならキモオヤジ死ねとなりそうなシチュエーションなのだが彼女は特に気にせずに掃除を開始する。


頭の中にあるのは朝掃除の終わりにまたお菓子とか貰えるかもという期待のみ。

苦学生の懐具合は常に冬なのである。





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