その勇者、イケ女につき。②

「ユナっ!?」



 そうキョーカ様が叫んで名前を読んだ人物――。

 ユーニアス=ド=メガワ様だ。

 みんながユナ様と呼ぶユーニアス様は、この世界の大国ウィリディス帝国が誇る最強の聖騎士様で、勇者召喚を決めた世界会議の折に派遣されてきた。

 なんでも『臥竜のユナ』の二つ名を持つほどに強いらしい。

 その由来は、普段は糸目の瞳が真に力を発揮した時だけ開かれるからんだけど、ユナ様っていつも目を細めて笑っているからそんなイメージないんだよね。

 ユナ様は一陣の風のように駆け、ワインレッドの短髪を乱す。そして、悪魔に向かってジャンプすると、その手にした剣を悪魔の身体に叩き付けた。

 悪魔は、ユナ様の一撃を受けて真っ二つ。

 あっという間に灰塵に帰した。



「ス、スゴい……」



 そのせいで、思わず感想を口にしちゃった。だって、ユナ様の攻撃はホントにスゴいんだよ?

 悪魔を一撃でバーンって倒せるなんて、チビで力もないボクにはできっこないんだもん。

 そう考えると憧れちゃうなぁ……。



「さすがね、ユナ」



 キョーカ様も同じことを思っていたらしく、自分のことのように喜んでユナ様に向かっていく。

 ユナ様も、キョーカ様の姿を見初めて、手にした剣を鞘に収めていた。

 そういえば、さっきからため口なのはなんでだろう?

 ボクは気になって、互いの身を気遣うお二方に話しかけた。



「あの。お二人はどういう関係なんですか?」

「そういえば、ヨシム君には説明してませんでしたね。私とユナは幼馴染みなんです」

「そうだったんですかっ!?」



 意外だ。

 よその国の人間なはずなのに、お二人がそんな間柄だったなんて……。



「まあ、ウチが最初は冒険者になろうとして、この国を飛び出して行ったから関係がないように見えるのは仕方ないかな」

「ホントよ。アナタったら、孤児院を出る日が近づくまで、将来のことなにも考えてなかったのに。それがいきなり冒険者になるって言うんですもの――びっくりしたわ」

「そんなこともあったかな」

「あげくウィリディスの聖騎士として、いつのまにか叙勲されてれるし。まったく、驚きの連続よ」

「そのあたりのことは、結果であって過程じゃないかな。私としては、冒険者を続けたかったんだけど」

「どうせ断れなかったんでしょ?」



 と仲の良さを見せつけるお二人。

 いいな、うらやましいな。ボクには、親友と呼べるような存在はいないから、逆にお二人の関係に憧れてしまう。

 しかも、グレージアの大神官とウィリディスの聖騎士だよ?

 どっちもこの若さでスゴいことだし、才能溢れてるんだなって思っちゃう。だから、ボクは羨望せんぼうのまなざしを向けざるえなかった。

 刹那、ユナ様が急に剣の柄に手を掛ける。



「ユナ……?」



 それに応じて、キョーカ様が反応を見せる。

 何があったのだろう?

 悪魔は倒したはずなのに、ユナ様は何かを警戒なさっている。

 そんな姿を見て、ボクも考えたくもない最悪を考えちゃった。



「二人とも気をつけて。まだ終わってないみたいかな」

「え? じゃ、じゃあ……」




 ユナ様の予感は的中。

 次の瞬間には、人ひとりが立てるほどの大きさの魔方陣から悪魔がゆっくりとせり出すように現れた。




「嘘でしょっ!?」



 あまりの事態にキョーカ様が叫ぶ。

 無理もない……。

 だって、魔方陣はあちこちに出現しては、悪魔を召喚してしまっていたんだもん。

 それも複数体。

 もう勇者様を異世界から召喚するどころか、先に悪魔が召喚されたって話になっちゃった。



「ウィリディス騎士団全軍! 私の後に続いて悪魔を殲滅かなっ‼」



 しかし、ユナ様は諦めていなかった。

 たちまち異常を感じ取ってやってきた騎士のみなさんに指示を出して、すぐさま応戦し始めたんだもの。

 ユナ様が騎士を伴って、悪魔の一団へと疾駆する姿はまさに戦場の女神。

 たちまち鋼がぶつかる音があちこちで聞こえてきて、ここが戦場になったことを知らせてきた。



「さあ、おふたりとも。いまのうちにお逃げになってください!」



 そんな中、ウィリディスの騎士さんが声を掛けてきた。

 だけど、キョーカ様は逃げる気なんて毛頭ない。自ら「待ってください」と制して、逃げることを拒んだんだ。



「儀式は続けます。どうにかして魔族を抑えこんでくれませんか」

「そんなの無茶です! 第一、乱戦になっていてその辺に神官や魔導師がいては巻き込まれてしまいます」

「……儀式を……儀式を続けなければ、勇者を召喚する機会は二度とないと思って下さい!」



 そう言って、キョーカ様が必死の説得を試みる。

 その姿は、本当にこの世界を救いたいんだという心にあふれていた。それだけに、ボクも感化されないわけにもいかず、思わず「自分には何ができるんだろう」って考えちゃった。

 拳を握りしめ、自分のできそうなことを考え込む。

 そのうち、ボクはひとつの答えにたどり着いた。それは、他の人には真似できないボクにしかできないことで、同時にとても勇気がいることだった。



「……どれぐらいなんですか?」

「ヨシム君?」

「あと、どれぐらいで魔方陣は完成するんですか?」



 と、焦るキョーカ様に尋ねる。

 キョーカ様は、ボクの質問にアゴ先を摘まんで少しの間だけ考え込んでいた。しかし、答えはすぐに出たらしく、



「現在いる人間の魔力をかき集めても3時間。私が参加しても、ようやく半分になるってところですかね」



 とおっしゃられた。

 それを聞いて、ボクはある決断を伝えることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る