故郷の結末

「これが、全てそうか」


 サンエレク城と城門の間に広がる庭園。 月明り一つないそこを照らすアルバのライトが浮かび上がらせたのは、その庭園を埋め尽くさんばかりの盛り土だった。

 墓標も無く、花も無い。 ただ、その下に誰かがいるというのは容易に察することが出来た。


《うん、きっとこの庭園の下には、当時城内にいた人達全ての人が眠っているんだろう》


「目に見える範囲で150程。 実際はその倍はあるか。 しかし、いったい誰が彼らを埋葬したんだ……ん?」


《どうしたんだい?》


 アルバの視線の先、城外へと続く城門の一角に、奇妙な窪みが出来ていた。 均一な壁として周囲に展開していた岩壁のそれとは違う、明らかに後から作られた異質感。


「……岩盤が一か所だけ掘り進められている?」


 引かれるようにしてアルバがその窪みへと向かうと、人間一人がようやく通れる位の横穴が奥へと続いていた。

 その奥を照らした際、何かが僅かにこちらへ光を反射した。

 近寄ってみれば、そこには赤い外套を身にまとい、手には大きな青白い槍を持ち、頭部にはサンエレクの王だけが被ることを許された王冠を身に着けた骸骨が、壁に手をついて、うなだれる様に横たわっていた。


「王冠……まさか……」


《きっと、サンアレク王だね》


「しかもこれは、王家に伝わる呪槍……“雷の槍ドナーランツェ”だ」


《槍? まさか、槍で掘り進んだのかい? この厚い岩壁を?》


「おかしなことではない。 このドナーランツェは、物理的にも魔法的にもあらゆる障害に対抗できる術式が組み込まれている。 道理で行くなら、魔法によって生み出され、強化された岩壁を突破することも、原理的に不可能ではない」


《確かに、見た感じでは、途中までは順調だったようだけどね、途中までは》


「この呪槍はその能力を代償に、使用者の膨大なエーテルを必要とするのだ。 故に、実際使用する際はその能力を攻撃が命中する刹那にのみ発動させるという使い方が定石なのだ」


《なるほど。 だけど、この様子だと岩壁を掘り進めるために、槍を常時使用していたのが伺えるから、王は相当なエーテル力の持ち主だったんだね》


「……いや、そうではない」


 アルバはこの状況を見て、そして、執務室で読んだ手紙、庭園の惨状を見て、このサンエレクで何が起こったのかをようやく理解した。

 

「なるほど、部屋で見た大臣が書き記していたのは、そういう事だったのか」


 アルバは一度横穴から出てから、庭園をライトで照らす。

 一体、どれほどの覚悟だったのだろうか。

 それを決断した王も、城内の者たちも、その決断に至るまで、そして決断してから、いかような心持だったのか、今となっては考えを巡らせることすらも憚られる。


「ここに眠る者たちは、王に自身のエーテルを捧げたのだ」


《それは、どういうこと?》


「生物の身に宿るエーテルは死後、身近な生物に吸収されるというこの世界の理がある。 王は、その者たちに後押しされ、槍の力を行使したのだろう」


《城内の人たちは、王様にエーテルを明け渡すために、自害をしたってこと?》


 アルバはそれには答えず、ただ頷いた。  一切の光が当たらない場所で、ゆっくりと死を迎えるのか。 それとも、現状に僅かでも光明を見出すために決断し、行動を起こすのか。

 選ばれたのは、後者だった。


「一向に掘りぬくことが出来ない焦燥を感じながらも、全を生かすために命を投げうってくれる臣下たち。 その覚悟の行いに対して王が感じていた悔恨の念は、想像することも出来ん。 最後の一人が倒れても、その向こう側を見ることも出来なかったともなれば、猶更だ」


 王は、外界へと出ることは叶わなかった。 一体、どれほどの無念であっただろうか。 臣下たち全ての命を捧げられ、それでもついぞ太陽の光を浴びることが出来なかった。

 これが、岩塊にて封印された、サンエレク城内の――結末か。


《まったくだね。 見た感じ、もう少しで掘りぬけそうだし、本当に残念だったろう》


「……何?」

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