第7話

 帰宅すると、妻が母の隣に立ってたまねぎを刻んでいた。ふたりは仲が良かった。女の子が欲しかったとこぼしたこともあった母だった。それが妻といて満たされるのかもしれない。ニュース番組を視ていた父が、帰って来て早々の孫にせがまれ絡みつかれてアニメ番組にチャンネルを回す。良太と知花は競ってアニメの知識をおじいちゃんに披露する。「そうかそうか」と父も微笑を浮かべて頷いたりする。——ふたりくらいの頃の記憶はないが、父のそういう姿は初めて見る。それは嬉しいものでもあり、また近しいものが私からなくなっていくような思いにもさせた。

 その夜、父とふたりで酒を飲んだ。私は父に川原に行ったときのことを尋ねた。が、父の記憶には残っていないのらしかった。あれは本当にあったことだったんだろうか。テレビ番組の記憶か何かを、自分の体験のようにして憶えてしまっているのではないのか。

 網戸にした窓から雨の音が聞こえはじめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る