第6話

 民喜には息子が一人いた。それがうちのと遊んでいる。「ヒトミ」といって、知花の一つお兄さんだという。

 私と民喜は昔話をしなかった。玄関から出てきた彼の頭が、明るい髪色をしていて少し驚いた。顔つきも知っている彼のそれとは違ったように思う。時間を見ていると思った。ただ、笑うと頬に縦ジワが浮かぶのは変わっていない、そこに沿ってこの状況が再会という言葉になっていった。まあ、むこうはそんな経過を必要としないで、「変わらない」というが。——現在の彼の住居にあがるのは今日が初めてのことだ。彼の実家は私の実家とは学校を挟んで反対方向にあったので、お互い遊びに行くということもあまりなかったが、当時はよく一緒に遊んだものだ。いまある彼の住まいに、言葉になるような印象があったわけでもなかったが、かといって何も思っていないならそういうことを思い起こすことにもならないだろう。

 窓から入る日射しが室内の陰をずいぶん傾けたことに気づいて、「さて」そろそろお暇することにした。

 薄暗くなり始めた道を三人で歩いていると、興奮冷めやらぬ娘がこう言った。——ヒトミくんね、チカをくすぐるの、それでね、おなか痛くなって、やめてっ! って言ったけど、やめてくれないの、でね——

 そのどこに、どうしてこんな寂しい気持ちを寄こすちからがあったのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る